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新しい居場所 6




 フィーネの方はそれがわかっているらしく微笑んでいて、急にやってきた訳ありの彼女もそれがあって、ディースブルクを頼ったのだろうと予測ができた。


「しかし、風のうわさで聞いたのだが、タールベルクといえば魔物の襲撃事件の解決に導いた優秀な当主が統治しているのだろう?……君もその手ほどきを受けているのかな、フィーネ」

「……お父さまですか……そうですね。……しかしあの政策は、原案に対する曲解がある……と私は思っています」


 フィーネが、少し表情を曇らせて言う。ローベルトはその反応に短く剃り上げたひげを擦って、意外そうな反応を返した。


「それはまた、何故かね」

「たしかに、タールベルクの名前が原案として公表されているのは事実ですが、実際に王族が公開した論文には、途中途中での原案とは違った攻撃的な結論に至らしめる為の文言がいつくも追加されていました、それらは、私にとっては違和感を感じざるおえません」

「ふむ。しかしな、あの結論に至るもの自然な考察と過去を引用した証拠ともいえるような説得力のある書き物であったが……」

「……そうですね。私ごときが口を出すのもおこがましいことかもしれません」

「いや、なにか思う所があるのだろうな。我々も、王族とは志を同じとするわけでもない、君が今ここにいるようにな。君の感想を聞かせてほしい」


 そう言うローベルトの瞳は、興味とそれから、このフィーネに対するどれほどの人物なのか試すような好戦的な視線が、貴族らしい笑みの中に含まれていてヴィリーはあんな視線を向けられるフィーネが少し可哀想だった。


 彼女は女の子でそういった国の政策とか政治的事情に詳しくないはずなのに、あんなビジネス相手に向けられるような目をされたら怖くなってしまうだろう。女の子とは刺繍をしたりパーティーをしたりして、可愛いものや流行のものを好むのだ。


 だからこんな堅苦しい話はつまらないはずだと、思って不憫なフィーネに同情した。


 せっかくエリーゼが今日はお祝いだといったのに、仕事の話なんてされて彼女の機嫌も悪くなるに違いない。しかし、フィーネはヴィリーのそんな心配や同情をまったく、感じさせない変わらない笑みで「素人考えで恐縮ですが」と前置きしてからローベルトに視線を向ける。


「確かに発表された解決案だけ見れば、納得できます。しかし、ローベルト様のおっしゃったようにあの提案書にはその結論に至るまでにはかならず、その考察に至るための証拠が開示されています。しかしながら、実際に行われる政策の精霊信仰を弾圧すれば精霊の力が弱まるかどうかという点においての明確な証拠がないのではないかと思うのです」

「……一理あるな。たしかに、精霊の総意であのような事態になっているのであれば、それが精霊にとって問題があることであるという理論は理解ができる。だからといって、精霊を淘汰すればよいというのは、暴論だ」

「おわかりいただけますか。……国王陛下の出されたものに異を唱えるのは不敬であると叱られるかと思っていたのですが」

「いいや、良い着眼点だ。……しかし、君はよい感性をもっている。……父親には似なかったようだ」

「!……ち、父に会った事がおありで」

「それはもちろん、国王陛下の付き人のように遊戯に身を投じている姿は記憶に新しい」

「……」


 どういう会話なのかヴィリーにはまったく理解ができなかったが、なんだかフィーネが気まずそうだということはわかった。


「あのような生活を送っていても、あれだけ有能な戦略家のような論文が書けるのだから、才能とはすばらしいなフィーネよ」

「…………きっとこれからも目覚ましい活躍をみせてくださいますわ」

「ははっ、愉快だな」


 なぜか機嫌のよくなった父に、一方でヴィリーと同じくまったく話の分からなかった母の機嫌が悪くなっていくのをヴィリーはひしひしと感じていた。


 ……お母さまは、分からない話も仕事の話も好きじゃないんだ。喧嘩になるかも。


 あれだけ、フィーネの味方らしかったエリーゼの機嫌が急降下したので情勢が変わるのではないかと、少しフィーネの事を好きになりそうだったヴィリーはどっちの側につこうかと一瞬迷ったが、しかし、側仕えのディーター言葉を思い出してそうだ、僕はフィーネ姉さまの味方じゃないぞ!と思い直した。


「時間のある時に、私の執務室に来なさい、意見を聞いたいことがいくつかある」

「……私でよろしければ明日にでもお伺いします」


 そう言って二人で仕事の予定まで入れてしまう。エリーゼが、怒りだすのもあとほんの少しといったところでフィーネは急にエリーゼへと話を振った。


「あの、迷惑でなければエリーゼ様の別館にもお伺いさせてもらうことは可能でしょうか……」


 申し訳なさそうに言ったフィーネに、エリーゼが急に話を振られて少し驚いた後、間髪入れずにフィーネは続ける。


「まだ、この領地に来たばかりで、どのように必要なものをそろえているのかぜひ同性のエリーゼ様に教えて頂きたいのです」

「そ、そうなの?……そうよね!いいわよいつでもいらして、一緒にお茶もしましょう」

「はい、ぜひ。そう言ってもらえてうれしいです」


 フィーネの言葉に顔をほころばせるエリーゼをみて、ヴィリーは感嘆の息を漏らした。意図的にか、そうではないのかわからなかったが、爆発寸前の母を何とか切り抜けたのだ。


 ……フィーネ姉さまはすごい人なのかもしれない。


 素直に称賛してはいけないのだと思っていても、やっぱり言われたこと見たことを素直に吸収する子供であり、こんな人が、ディーターの言ったような酷い事をするなんて思えなかった。


 それに母のような少々ヒステリックな人を御せるなんてスーパー能力だなとフィーネの評価を改めた。


 フィーネとしては、沸点の低すぎるベティーナとビアンカに比べれば自分に対する敵意も少ないし、怒りに到達するまでの溜めが長いので気を使って対処するのは比較的簡単だった。


 それに、何を言っても怒りだしてしまう彼女たちとは違ってフィーネに好意を持ってくれている。それだけで対応の幅がぐんと広がる。この晩餐会の目的としては上々の出来だとフィーネは自分を褒めつつ、こんな突然転がり込んだ女を迎え入れてくれるディースブルク夫妻の懐の深さには頭が上がらない。


 しかし、エリーゼに対してはアルノーにも感じる、少しよくわからない近すぎる距離感を感じて不安も同時に募らせていた。






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