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謝罪 5



 マリアンネが帰路についたあと、フィーネは部屋に戻って、昨日の夜のうちに清書した魔物の教団襲撃についての対策案をテーブルに置いて眺めながら、考えを巡らせた。


 魔物の襲撃については、マリアンネの情報によって、その意味やそれを起こしているらしい精霊王の考えを深く知ることができた。


 精霊王という存在については大方、見当がついているのだが、重要なのはその問題ではない。


 重要視すべきはその意図だ。教団は、この国の土着信仰である精霊信仰で捧げられている祈りという名の魔力を、空の魔力を貯められる素材に貯めさせてお布施としている。それらの行き先はもちろん、テザーリア教団の本流筋のある隣国である。


 その国に、教団を使って平民にもある少ない魔力を魔力を貯められる素材に込めさせて、本来精霊のための魔力を王族が隣国に売り払っている。


 その事実が、精霊王……というか精霊自体を怒らせている要因になってくるらしい。


 そうなれば解決策としてその意思を尊重し、魔力を横流しして売るような行為を自重するのみで、問題は解決する。


 教団が悪いのではなく魔力が外国へと流れていくことに対する事を重点に置いて、精霊王の存在は出さず、精霊自体の総意として魔物が存在するのではないかという考察を交えながら書いてあるのがこの提案書だ。


 王族としても、魔力を売り払う行為については多少なりとも問題がある行為だと理解しているはずであるので、それを今の土着信仰と建国の物語を交えてフィーネなりに誰も悪役にしない説得力のある提案書をかけたと思う。


 王族の周りにいる貴族や、意見の言える者がきちんと目を通して、対策を理解出来る人間がいればこの問題は、解決するはずであるし、魔物の襲撃というセンシティブな事件に対して、耳障りの良い回答になるように、決してテザーリア教団を取り入れた王族に非があると勘違いされないように心がけて書いた。


 ……これで、この問題が収まるのなら、ヨーゼフ陛下は倒れないと考えるのが自然ね。それに、私も精霊という存在について少し考えを改めないといけないわ。


 フィーネが学んできた精霊という存在は、力はあっても人間のように理論立ててものを考えたり、なにかを操って自分の意思を伝えるような存在ではないと思ってた。


 しかし実際は精霊王という、精霊の中でも元締めのような存在がいて、その総意でか、将又、他の精霊を付き従えてか意思を持って動いている。


 そしてその精霊王は実在する人物の事を指しているらしい。


 ……ローザリンデ・アメルハウザー。公爵家の跡取り令嬢。アメルハウザー公爵家といえば、ロジーネ様も言ってた通り、精話師の家系であり、とくにローザリンデ様はその力が強く貴族の中でも一目置かれている存在……だったかしら。


 ロジーネから名前を聞く前でも、フィーネがその存在を知っているほどには影響力のある人物であり、調和師と対をなして精霊に関する問題を解消する力を持つ一族。


 その力は精霊の存在を知覚し、人にその状態や状況を伝える存在と言われている。この知識に間違いはないと思うし、魔物を操るなんて力は聞いたこともない。そんな事ができるのか、という点も割と疑問だがこうして意図のある襲撃が起きている以上は、できるのだろうとフィーネは踏んでいた。


 それと同時にフィーネのやり直しにも、その精霊王ことローザリンデが絡んでいることはカミルの発言からして、確定と言っていいだろう。


 前の記憶の中でそんな人物と面識があった記憶もないが、持ち越している記憶を選別できるようなので、それほど大きな矛盾とも考えられない。


 ……会いに行って、その目的を確認したい。私がやり直せた理由をカミルは教えてくれなかった。それをやった本人なら話をしてくれるかもしれない。


 記憶を手に入れた当初は、切羽詰まっていてフィーネがそのことを気にしている暇はなかったが、未来とは違った選択肢を手に入れた今だからこそ、そのことについて考えるべきであるとも思っていた。


 物事には必ず何らかの意図や、思惑があったりする。それを無視して不思議なこともあるものだと楽観視して楽天的にとらえるのはフィーネは得意ではない。


 それに、フィーネのやり直しと、魔物の襲撃どちらも起こしているのが彼女なのであれば、一貫した彼女の理念が見えてくるかもしれない。


 ……憶測にすぎないけれど、一人の人間がやっている事なのだもの、何かしらのつながりはあるはずよね。


 そう結論付けて、フィーネは、午後の予定に取り掛かろうかと、視線を上げる。すると、銀の一対の花瓶の向こう側に、いつものベストが見えて、顔を上げるとカミルがいた。


『……』


 不満そうに沈黙する彼に、フィーネはきっと自分の正体がばれて、ふてくされているのだろうと思った、しかし、勝手に知ってしまった手前、フランクに接するのもはばかられて、少し気まずく思いながら彼を見た。


「……カミル」

『なに』

「怒ってる?」

『なにに対して?僕は別に何とも思ってないし』


 そう言う彼は間違いなく怒っているように見えるし、カミルはいつだって、自分の正体について話さなかった。それにもうすでに人として生きることをあきらめているとも言っていた。


 それについてはフィーネは今まで何も言ってこなかった。彼が生きたいと言わない以上、救いたいというのはフィーネの自己満足でしかなく嫌がられることがわかっていたので、言っていなかった。


 しかし、マリアンネの望みを聞いて、それを隠し通すことはフィーネにはできなかった。


「私が貴方を救いたいと思っていることたいして」

『……怒ってない。ただ、僕の意思はどうなるの』

「……」

『僕の考えを無視してまでそうするの?』


 フィーネに問いかけるカミルの声は、少し心細いようなそんなニュアンスがあって、決してそんなつもりもないのにカミルを自ら突き放しているようなそんな心地になった。


『……ねえ、フィーネ。君のその提案書を出して、それが通らなかったら君はベティーナを見限る。そうでしょ?』


 突然話題を変えられてフィーネは少し疑問に思いながら、カミルの意思を探ろうとした。しかし、少し寄せられた眉間の皺と、複雑そうな表情以外は何も分からない。


 けれどもよく見てみると、なにかいつもより、存在がぼやけているというか、靄がかかっているように見える。


 不思議に思いながら、フィーネは目をこすって再度カミルをじっと見た。


 けれども先程と変わらずに、やはり見づらい。透けているとかではなく霞みかかっているというのがやはり正しいような気がする。





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