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謝罪 4




 朝いちばん、異様に軽薄なカミルがいつもより元気よくフィーネに話しかけてきて、不自然に思った事がまず一つ。


 二つ目は、先日の冷静だけど目的意識のきちんとある女の子というイメージで強いまなざしを持っていると思っていたマリアンネが暗い瞳をしていたこと。


 さらに三つ目、カミルは以前から、マリアンネの事を知っている様子だった。


 以上の事柄から、フィーネは、二人の間に、昨日マリアンネが部屋に戻ってから、眠るまでの間に何かがあったのだと推察するのは、割と筋の通った話だった。それにマリアンネが部屋に戻ってから、カミルに彼女の事を聞こうと声を掛けたが応答はなかった。


 つまりはその空白の時間に、二人は何かしらのやり取りをしていて、カミルが空元気でフィーネに接してくるような、悲しい事でもあったのだろう。


 さしあたっては、カミルに話を聞くよりも、どちらかといえばガードが薄い、マリアンネの方から話を聞きたかった。


 しかし、今朝から続くベティーナのわがままに合わせながらマリアンネと二人きりになるというのは無理難題であり、あっという間に、大教会へと戻る馬車準備も整い、大司教とマリアンネの出発は秒読みだった。


 あとから手紙でやり取りするのは手間だ。せっかく目の前にいるのだから、なにか一言だけでもかわしたい。そう考えながらフィーネはお別れの挨拶を真昼の強い日差しに照らされながら懇々と話をした。


 魔物の襲撃にも負けずに頑張ってほしい事、来年になったらデビュタントを迎えること、その際には教団の大教会へと足を運ばせてもらう事。


 それらを要領を得ないようにわざと難しい言葉を使って長々と言葉を紡ぎつづけて、ようやくベティーナが用事があるからとエントランスから、屋敷の中へと引っ込んだ。


 それでも、圧倒的な語彙力と知識量で話を広げまくりペラペラと喋り続けるフィーネに、流石に大司教も察して、陽光にあてられて少し眩暈がすると馬車の中に入っていった。


 昨日のように、物言わぬ人形のように沈黙していたマリアンネは、お見送りする気のないフィーネの行動に、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。やはりよく見てみれば、少しだけ昨日より気弱そうに見える。


「お姉ちゃん?」


 か細い声でそう言いながらフィーネを見上げる姿に、やっぱり昨日より明らかに元気がない。


 口喧嘩をしたとか、気に入らない事があった程度ならいいのだが、昨日あれだけ家族のように接してほしいと頼まれたし、フィーネはそれによる恩恵を受けることもできた。ここは踏み込んでしかるべきだろうとフィーネは、少しかがんでマリアンネと視線を合わせた。


「カミルと何かあった?」

「……どうしてわかったの」

「なんとなくよ。元気がなさそうに見えたから」

「私、よくなに考えているか分からないって言われるのに……すごい」

「ふふっ、多分似た者同士だからでしょうね」


 フィーネも最近よくそう言われる、おもにカミルに、と考えながら、なにかあったのは事実なのだと、知って励まそうか、もしくは別のなにか提案をしようかと思考を巡らせた。


「……」


 しかし、フィーネは二人の事情にはまったく詳しくない。知らない事の方が多いだろう。とくに、精霊王のことを二人共が知っていて、その人が色々なことがらに絡んでいる可能性が高い。しかしフィーネは、それらの事をまったく知らないし見当違いの事を言ってしまうかもしれない。


 それが悪いわけではない。間違ったら、当てられるまで話をして、言ってくれるようであれば聞いて、考えればいいけれども今は時間がない。


 今すぐにフィーネがマリアンネに言えることとは何だろう。そう考えた時にすぐに思いついた一番最初の答えをフィーネは口にした。


「自分ではどうしようもない事だったら、頼って。力になれるように努力をするわ」


 ポンと肩に触れて、笑顔を見せる。


「私は貴方のお姉ちゃんになったのだもの」


 そう言ったフィーネの意図を、マリアンネはなんとなく理解ができた。


 昨日、家族として認めるという概念だけを求めたマリアンネの事をフィーネは受け入れた。その行為自体に意味があって、家族らしさなどまるで分らない二人であったが、フィーネは中身を伴わせようとしてくれている。


 お互いに親戚同士で、姉妹のように仲が良かったから、ほんとの姉妹のように思うのではなく、姉妹になりたいから仲良くしようと持ち掛けてきたマリアンネの強引な関係性を成り立たせようとしてくれている。


 それを感じた時に、マリアンネはフィーネが自分にないものを持っているのだと理解した。


 ……さすが、お姉ちゃん……なんて。


「カミルを助けて。カミルは……カミルの名前は、カミル・ディ・エーデルシュタイン」

「……!」

「またね、お姉ちゃん」


 フィーネにとってそれはヒントではなく、答えだった。手をひらっと振って馬車に乗り込んでいくマリアンネは、フィーネのことを後目で見て、ふと目をそらした。


 どんな反応をするのか、期待外れの反応をされるんじゃないか、そんな気持ちから、マリアンネはフィーネの答えを聞かずにこのまま立ち去ろうと思ったのに、馬車の扉を閉めるときに背後から「もとよりそのつもりよ」と普段通りのフィーネの声がして、じわっと心が熱くなった。どうにかなるかもしれない。


 自分では彼の死に付いていくことが精いっぱいだったのにフィーネがそういうと、なんとかなりそうな気がして、その念願叶った時のために、できるだけ、痛い目にあわされないように反抗しようと心に決めるのだった。





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