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謝罪 2




 教団を入れるのに反対していた、バルシュミューデ侯爵家の跡取りを神への捧げものとしてその中に入れるなど、とんだ非道ではあったが、とにかくそういった理由があってマリアンネは聖女などという窮屈な檻に閉じ込められた、この国に存在する二人目の調和師なのだった。


 調和師は、フィーネに自覚は無いが、魔物の転変を治す力がある。


 それは、精感を弄れるなんてものの非にならない需要な能力だ。しかし公にして国中すべての人間に施せるほど力を扱える人間はいない。だから秘密裏にその血族のなかで脈々と事実が受け継がれてきた。


 しかし、いざ、その力が必要になった時、マリアンネはその力を使うことを拒絶した。


 マリアンネと出会ったのは、その後だ。王族の言う事を聞くように様々なことをされるマリアンネをカミルは面白半分で見に行くことにした。


 当時から、色々と歪んでいたマリアンネだが、カミルがフィーネと出会ったことで彼女の事を口にすると、マリアンネはフィーネを姉にするのだと言ってきかなくなった。


 それから、色々と厄介事を城で起こして、ベティーナとひと悶着おこしたり、やりたい放題だったマリアンネも、フィーネが死を迎えたのと同時に精霊王によって記憶を残してフィーネのやり直しについてくることになったのだった。


 ……念願、叶って、結局マリーは何を得たのかな。


 正直、出会った時から、マリアンネはなにを考えているのかよくわからない。フィーネも同じようによくわからないが、彼女は心を読めば考えすぎているのだとわかる。しかし、マリアンネはいろいろな感情が混在していて、意味が分からないのだ。


 見ていて頭の痛くなるような、そんな感情の濁流にカミルは耐え切れずに、彼女を見るのをやめるのだった。


 しかし、考えを読もうとしたことはあっても、こうしてきちんと落ち着いて話をしたことは無かった気がする。


 なんせ、マリアンネは前の初対面の時から、王宮に反逆の罪として捕らえられていた。もちろん、何かしらの制裁を受けた傷を常に負っていたし、こんななりして凶暴で脱走するわ、暴れるわで拘束されて、発狂していることもしばしばあった。


 フィーネも王宮に幽閉されていたけど、大人しい方だったので、カミルとマリアンネと囚われている人が他にいたので、手間で考えればカミル、フィーネ、マリアンネの順番で厄介の度合いが上がっていったであろうと思う。


 そもそもカミルは別に、捕らえられているわけでもなかったが、幽閉という意味では同じだった。


 だから、こうして中身だけの姿になって、存在の許されないカミルは、ふらふらと王宮のどこへでも足を運んで、二人の調和師と面識を持っていたのだった。


 ……精霊王様が、調和師はなぜか悲運ばかりだと言っていたけど、それって割と本当なんだよね。なんでだろ。


 調和師二人の共通点は、頑固なところだろうかと、考えてみるが、今はそんなことは置いておいて、自由になった昔馴染みと、深夜の重たい雰囲気に合わせて語らってみようかと口を開く。


『……どう、久しぶりの自由は。楽しんでんの?』

「なにそれ。私、あとほんの少しの自由しかないんだけど、楽しんでいるって言ったら、脱獄するの手伝ってくれる?」

『そうしてほしいかって聞いたら、いらないって前の君が言ったんじゃん』

「えへへ、そうだった」


 普通にこうして合間に笑っているだけなら可愛らしいのに、突然箍が外れたように笑うのは何故なのだろうと、カミルはボンヤリ思った。


「……楽しいっていうか。普通。日常生活なんてどうでもいい。私は今日、お姉ちゃんに会うためにやり直してるだけだし……あー、でもそれも達成しちゃった。聞いてた?私たちの会話、滑稽だったでしょ」


 家族ってなんだろうと二人で首をかしげながら、テザーリア教団の襲撃について説得力のある説明を二人で考えていたあの会話だろうか。たしかに、少しおかしくはあったが、それは、二人の背景を知っている、カミルからすると滑稽なんかではなくただ悲しかった。


「お姉ちゃん……お姉ちゃん。私の、お姉ちゃん。カミルあの人って不思議だった。ずっと私、会いたかったの」


 しんみりとそんなことを言うマリアンネにカミルは、気になっていたことを口に出す。


『ねえ、マリー。君はさなんでそんなにフィーネに執着するの?それに普通じゃないよ。君はフィーネが君の事拒絶したら、フィーネを刺すつもりだったでしょ?前に言ってたよね、フィーネを殺してでも認めさせるって』


 マリアンネが部屋に来た時、まさか本当にそんなことはしないだろうと思っていたが、フィーネと話をしているときに、腹部に手を忍ばせるように動かしたのをカミルは見ていた。


 そこにナイフを隠すのがマリアンネの常套手段だとわかっていたから姿を消してずっと、警戒もしていた。


 責めるような口調で言うカミルにマリアンネは、考えた。


 執着してみようと決めた初めの理由と、それから、そのあと見つけた理由のどちらを言おうか迷ったけれども、この際両方言ってしまおうかと思う。


 この際、というか、もう今ぐらいしか普通にカミルと話をできる機会はないと思えたので、今までわざわざ口にしてこなかったことを言う事にした。


「……はじめは、ただ、おかしいと思った。小さなころの母や父の記憶があるのに、それらをすべて奪われて私が役目を果たさなきゃいけない理由が思いつかなかった、だから反抗してた」

『待って! 何の話!』

「理由を全部、言おうとすると最初から説明するのが手っ取り早いから、私の話の最初から」

『……君たちって話の展開が自己中心的すぎるよ。まぁ別にいいけどっ』


 カミルは、フィーネとマリアンネの事を重ねてそんな風に言った。けれどもどこから話始めるのだとしても、聞いたことを教えてくれるのならそれでいいかと思い、続きを促すようにマリアンネを見た。


 彼女は、ただ仰向けになったまま続ける。


「王様のために力を使わなかったのはそういう理由。そのあと捕らえられて、生きていくということが力を使うということに直結するのなら、そんな生は欲しくなかった」

『……君は、あの時点で死にたかったって事?』

「……でもカミルに出会って、お姉ちゃんのことを聞いた。全部、全部なくなった私に最後に残されたものだから、これが希望で、唯一で、それにきっと家族を思い出させてくれるから」


 カミルの質問にマリアンネは答えずにそのまま続けた。それを指摘することなくカミルは別の事を聞いた。


『フィーネと会ってみて……どうだった?』

「温かくて、フワフワしていて、同時に少し、抜けている性格をしていると思った」

『それはわかる』

「でも……なんか特別に感じられたのは、不思議だった。……本当は、きっと、私が支えにしていたって、フィーネは何の変哲もない他人に違いないことぐらいは想定していたのに、特別に思えて嬉しくて変になりそう」

『んへんへ、笑うのやめてよ。気持ち悪い』

「酷いよ。いいじゃんあれくらい」


 また、おかしくハイテンションに笑いださないか心配になってカミルはそんな風に茶化したが、マリアンネの話をここまで聞けて良かったと思う。それに彼女が望んだ事が期待外れではなかったことに安堵できた。


 二人は会えてよかったと、思えてカミルはやっとマリアンネも、先ほど言ったおかしいという思いから解放されて、力を使い自分の生のために生きられるのだと寂しい気持ちはありながらも嬉しく思う。


『でも、良かったね。これで君もやり直せたことになるかな。たまになら僕も会いに行くよ』

「……話は終わってないし、何か勘違いしていると思うけれど私は、調和師の力を使ったりしないから」

『どうして? そのための目標じゃないの?』

「根本的に違うよ」


 声を固くして言うマリアンネの気持ちはカミルにはわからなかった。けれど、怒った風でもなくマリアンネは否定しつつも起き上がって、ベットの上に淵に腰かけているカミルの頬を両手で包み込んだ。


 そして、その少年らしいまやわい唇に触れる。





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