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本当の家族 4




 黒魔法は相手を操る魔法や、呪いをかけるなんてこともできるが、他人の記憶に入り込むこともできるのだ。記憶……というか意識に介在するというのが正しいらしい。


 精霊騎士や、魔術師が連絡を取り合う手段もこれを取り入れており、離れていても詳細な情報をやり取りしたり、任務の命令を下すことができる。


 だから、黒魔法をフィーネに使わせてくれれば、カミルは簡単に知っている情報を共有できる。しかし、そんな甘言に乗るような精神は、フィーネは持ち合わせておらず、カミルがどれほど、フィーネにとって信頼を置いていてフィーネのために動いて助けてくれる存在であっても、人ではない事は忘れてはいけない。


 黒魔法はその性質上使われてしまえば、どんな作用をもたらしているのかわかりづらい、だから、フィーネの事を手段を問わず救いたいカミルが何かできてしまう隙を与えるべきではないという判断でフィーネはそれを許可してはいなかった。


『頑固だよねぇ、本当に。僕は君に害があることなんてしないのに』

「……それは、知ってるわ」


 椅子に座っている、フィーネの肩にカミルは手をおいて、背後から少し体重を預けた。


 かまってほしいのかしら、なんてフィーネは思いつつ、可愛らしいしぐさにふふっと声を出して笑った。


 ……そうよ。それに、カミルは確かに害があることはしないけれど、害がないとカミルが思うことはすると思うのよ。でも、そんな考えを持っているのに、カミルは私が許可しない限りはそれをしない。


 勝手にできるだけの力が彼にはあるのをフィーネも理解をしていた。けれども、そうしない事がフィーネが彼を信用できる材料でもあった。


「カミルのことは信じてる。私、貴方が好きよ」

『なぁに、突然あらたまって』

「なんとなく」


 言葉にして伝えることは時には必要なことだ。やると決めてから時間が経ってしまっているが、カミルを救いたいという目的だってフィーネの中にはきちんと存在している。


 カミルは『ふぅん』なんて返して、フィーネの髪をくるくると指に巻き付けて弄ぶ。そんな照れ隠しのしぐさを可愛く思いつつもフィーネは、改めて返事を書く手紙を読み返す。


 手紙の送り主はロジーネだ。あれ以来、マメに手紙のやり取りをしていて、最近は、他の貴族たちには遅れてしまったけれど魔術師の見習いとして王都に住まいを移し、正式な魔術師を目指すための訓練を受けているそうだ。


 完璧に約束された侯爵の地位を捨てて王都にやってきたロジーネに、周りの見習い魔術師の風当たりは強いが、友達とこうしてやり取りをすることによって、日々を頑張るための活力にしていると、記載されていて、フィーネも何とか明るい話題をひねり出して考えながら、実際彼女に会いに行けるのはいつになることやらと少し気の遠い気持ちになった。



 ベティーナと共にフィーネは、テザーリア教団の大司教を屋敷に迎えた。本拠地にしている王都の大教会には距離があることや、あまり移動になれていない為、この屋敷に一泊して明日に帰路につく予定であったため屋敷は大忙しに、おもてなしの準備をしたのだった。


 しかし、そんな采配もフィーネは慣れたものであり、王都にある別邸の方ではハンスを毎年迎えるために多くの準備をこなす彼女だからこその仕事の早さだった。


 ベティーナは一切手を出さずにいたことにフィーネは、地位を乗っ取られる立場ながらも可愛い妹のことが心配になったが、それはさておき、大司教はそれはもう普通の人であり、フィーネの見立てからして、とても仕事のできる、話の分かる人という印象だった。


 どんな質問をしても、のらりくらりという言葉がぴったりくる返答でかわし、さらには、時折ベティーナを見ながら、物騒なことも起こっているが今後も頼むという旨の事を口にして、その些細な声掛け一つで彼女の自己重要感も満たして機嫌をたもち、良く言えば順調な、悪く言えば、何の情報もないお茶会になった。


 ただ一つ、大司教が連れてきた、聖女と呼ばれた少女を除けば。


 その少女は、純白のドレスを身にまとったカミルと同じ年頃の少女であり、名前はマリアンネというらしい。しかし、フィーネが驚いたのはその風貌である。


 ……完全に、私と血縁よね。


 ミルクティーのような茶髪に、夕焼けの瞳。これは代々、調和師の家系である、バルシュミューデの女性に現れる特徴だ。顔つきはフィーネとは似ても似つかないつんとした雰囲気のある少女だったが、彼女もただフィーネの事を見つめるだけで、お茶会の最中に言葉を発することは無かった。


 しかし、彼女が、というか調和師の家系が教団に取り込まれていると考えると、なんだか嫌なことになっているように思えた。バルシュミューデ侯爵家が途絶えたのは後継ぎの不在が原因だったはず。


 ……それなのに、その血族、それもきちんと血筋を継承しているように見える彼女が教団にいるとなると……。


 王族の手によって取りつぶされたと考えるのが正しいのかもしれない。


 では、それはなぜか、その理由に教団が絡んでいると考えるのも自然なことだろう。


 今日のお茶会で得られた情報を纏めて、考えうる限りのことを考察してみるが、やはり確信には至らない。


 マリアンネはそこに居たというだけで、なんの話をするでもなかった。それはつまりどういうことなのか、なにをしに彼女はついてきたのか。


『食えないおじさんだったね~』

「……そうね」


 そう、大司教もフィーネが王族との関係について、探りを入れるとすぐに察知して、神の教えがどうだとか、この国の精霊とも深いかかわりが、と話を逸らすのがうまかった。それも多くの情報を得られなかった要因だろう。


「でもあの子。なにをしにここまで来たと思う?正直、関係の強化だけなら、大司教様だけで十分でしょう?」

『……君を見に来たんだと思うよ』


 フィーネがカミルにマリアンネの話をすると、少し嫌そうな顔をして、そう言った。フィーネがその話を詳しく聞きたいと、言う前に、部屋の扉がノックされることなく勝手に開かれる。


「姉さま!遊びに来たわよっ」





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