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本当の家族 2




 突然のカミルの行動に、フィーネはとめどない疑問がわいてしまって、どうしようもなかった、もし食事ができるのだとしたら、今まで食事の場で彼にふるまわなかったことについては怒っていないだろうかと。


 しかし、そんな、フィーネの質問に面食らって、『な、なれたら、なんだっての』と若干引き気味に返すカミルに、あ、しまったと、反応を見てからフィーネはカミルに妙なことを聞いてしまったと思い直した。


 それから少し恥ずかしくなりながら、すすすっと布団で顔を隠していう。


「いえ、その。ベストを脱いだところを初めて見たから。貴方って不思議な存在じゃない?だから、その形のまま存在していて肌とか見えていないところには何もないのか、それとも内臓や見えない部分もちゃんとあって、入浴や食事もできるのかと気になって、へ、変なこと聞いちゃったわ!忘れてっ」

『……なるほど、まぁ、確かに気になるか』


 フィーネの素直な供述に、カミルは納得して、それもそうだなと思う。しかし、普通はそこに人の形をしたものがいれば大体、内臓があると思うのが普通だと思うのだが、フィーネはそれすらない張りぼてだと思っていたらしい。


 疑い深いのか何なのかよくわからなかったが、その考察も間違ってはいない。


 なんせ、カミルには考えた姿になることができるという、代償はあれど万能な力が備わっている、だから、この姿でなくとも例えば無機物であってもしゃべることができるし、動くことが出来る。


 つまりは、声帯を使って声を出していないし、眼球を使って世界を見ていない。だから、内臓がなくたって問題もない、しかし、あってもし何かを食べたとしても消滅するだけで代謝はしない。


 それは、内臓が存在しないのと同じともとれるだろう。そういった事と同時に、服を着ているのだからその下にある肌までは物体の質感さえあればいいのだから空洞になっていてもおかしくないと考えても不思議ではない。


『脱げるし、食べれるし、その他もろもろなんでも、人ができることは出来ると思うよ、僕』

「お、思うってやったことないの?」

『ないね。別に人として暮らしたいわけじゃないし』

「そう……」


 なんだか、人らしく思えたからそう聞いたのに、カミルから帰ってきた返答はまる突き放すようでフィーネとの違いを深く知っただけになってしまい寂しくなった。


『でもなー、びっくりした。前の君は僕のこと、すっかり子供扱いしてるのに、脱げるのー?なんて、聞かれたから』


 茶化すようにそういうカミルに、フィーネは、パチパチと瞬きをして、布団から顔を出して、隣で横になっているカミルの事を見た。


「子供扱いというか……子供でしょう?貴方」


 まったく、疑いようもなくそう言うフィーネに、カミルは、彼女を決してそういう目で見ているわけではないが、なんだか眼中にないと言われているようでカチンときた。そして、混乱させては可哀想だと思っていたから使っていなかったもう少し大人になった姿に精神体を作り変えた。


「っ、……な、ど、どういう、ことっ」

『子供じゃ……』


 フィーネは向かい合って横になっていた、自分より小さくてあどけなさの残るカミルがいなくなって、急に成人した男性のような風貌になった、カミルを凝視した。彼は優し気で、少し陰のありそうな笑みを浮かべる男性になっていて、フィーネは自分でも驚くくらい血の気が引いた。


 体が飛び跳ねそうなほど、驚いたのに、緊張してしまってピクリとも体が動かない。これは、今までと同じ、気さくに話をしていたカミルだと頭では理解できているのに、ベットに、こんな間近に、二人というのは、いや、というより、恐ろしくて、そう、怖かった。


 ……あ、だめ。まずい、なにか、だめ。


 ヒッ、と喉が引き絞られて変な呼吸音がでた。


 彼が、ハンスによく似た金髪を持っているからか、それとももうすでに、年上の男性という物が苦手になってしまったのか、自分には定かではなかったが、きっかけとして考えられるのは、前の記憶を手に入れたことが大きいのではないかと思う。


 記憶を手に入れてから、フィーネはベティーナに会ってはいるが、ハンスには一度も会っていない。きっと彼と普通に好意的に接するのはもう無理ではないかと思うのだ。それほどに、いま、この状況でも恐ろしくて、体が震える。


『!……大人の姿にもなれるから、子ども扱いしないでよねっ』


 言いながらカミルはすぐに、元の姿に戻る。そうしながら白魔法を使うと完全に怖がっていたフィーネの感情がいくらかマシになって、彼女も取り繕うような笑顔を浮かべて、自分の不調を隠した。


「わ、わかった。そうする、だから……」


 カミルには、その言葉の続きが察せられて、うんとうなずきながら、フィーネに手を伸ばす。できるだけ子供らしく無邪気な笑顔を浮かべて。


『だいじょーぶ。もう、大人になんてなんないよ』

「……ありがとう」


 フィーネの手は冷えていて、カミルは、自分の考え無しを恥じた。前のフィーネでは無いにしたって前のフィーネ記憶を持っているのだ、彼女は。


 ……だから、年上の男性が苦手になるのも不思議じゃない。それにアルノーの事も好意的に捉えられないのもこういう所が起因してるのかも。


 握った手の体温を移して、フィーネのまだ脅えが残っている瞳を見つめて、カミルは言う。


『温かくなると眠りやすいでしょ?こうしていれば眠くなるかも!ねね、さっきの話の続きをしようよ。どんなことを思い出したのか教えてよ』


 子供っぽくを意識すると、話し方まで母親や姉にお話をねだる子供のようになってしまう。それは、カミルにとって少し屈辱的ではあったが、それでフィーネが安心してくれるのであれば、そんなことは些細な問題であった。





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