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初恋 6




 何故、距離を置かれているかというと、彼女は窓から中を見るだけの身長が足りないにも関わらず、どうしても親の顔を見たいのか、そちらに行きたいのかわからないが、大人のパーティー会場をのぞこうと窓枠に手をかけて、躍起になっていた。


 普通は、このくらいの年頃なら親に執着しなくとも、子供同士で楽しむことができるはずだし、それができないと精神年齢の幼い子供として、周りから距離を置かれる。


 幼くとも貴族であり人の上に立つ人間が甘えてばかりではいけない、多くの貴族の子供がそう言われて育てられる。親に会いたいというわがままは許されない。その貴族としての立ち居振る舞いを全く無視した子供っぽい行動に、彼女に関わろうとする子供はいなかった。


 それをじっと見てアルノーも、壁を挟んで至近距離に親はいるのに、こんなに寂しがりでは、日常生活でも大変だろうと、どこか冷めた気持ちで最初は彼女を見ていた。しかし次第にその意味もない必死さが、どこか可哀想に思えてきて、その子のそばへと寄った。


「……どれほど背伸びしても身長は伸びないぞ」


 背後から声を掛けると、彼女はピタッと動きを止めて、ゆっくりと振り返る。その顔は、先程の金髪の令嬢とは違いどこか不安げでおどおどしているような、気弱な夕日の瞳を持った少女だった。


 ……この子がフィーネか。小さいな。


 窓ものぞけない幼い令嬢は、同年代でもやや大柄なアルノーと比べると、半分くらいの大きさしかないのだった。そんな彼女は一生懸命に、上を向いて、あまり好意的ではない表情をしているアルノーのことを見上げる。


 その瞳には、涙が堪っていて、あ、まずいと思った。こんなパーティーの席でなりふり構わずに、自分の親に会いに行こうとするようなお子様である。もしかしたら、アルノーのことを怖がって泣きわめいたり、もしくは癇癪を起こすかもしれない。


 そうなっては面倒だと考えたのもつかの間、フィーネは、アルノーの手を取って、懇願するように言う。


「その、ええと、それはわかっています。でも、どうしても心配なのです。お母さまが見えませんか、私とよく似ている人なのですよ」

「!……ここからでは主催者席は見えないな」

「……そうですか……そうなのですね」


 存外、きちんとしゃべりだした少女にアルノーは若干面喰いながらも手を離して、離れて行く少女のことが気になった。もちろん調和師の家系であることも起因しているが、その力を得るための本命は彼女の母親だ。それにこんなに小さくては、力を使うなど到底無理だろう。


「君の母上には何か心配するような問題があるのか?」

「お母さまは、体が弱いのです。今日も無理をなさっている様子で……」

「だから、あちらの状況を確認しようとしていたのか」

「ええ」


 頷き、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。言葉使いも子供にしては綺麗で、どこか大人びた印象のある子なのに、やっていたことは必死に背伸びをして、窓をのぞき込んでいたというギャップがなんとも年相応で可愛らしく思えた。


 先程の金髪の令嬢が来ていたドレスとは違い、落ち着いた色のドレスを着ているのも早く大人になろうと背伸びをしているからなのかと考えを巡らせた。


「ここからでは君の母上は確認できないようだから、君もあちらに行って皆の会話に参加してきたらどうだ?ここにいてもつまらないだろう」


 一人だけ違った行動をとっている彼女を諭すようにそう言うと、フィーネは、ニコッと笑みを浮かべて、ゆるゆると頭を振った。


「いいえ、私はいいの。母が心配というのもあるけど、あの子の邪魔になってしまうから」


 大人びた表情でそう言う彼女の瞳の先には、先程の金髪の令嬢がおり、皆に囲まれてまるで姫君のように美しい笑みを浮かべている。


「主役は君だ、邪魔になるなんてことないだろ」


 当たり前にそう返すアルノーに、フィーネは、やっぱりにっこりとほほ笑みを浮かべてフルフルと頭を振るのだった。


「それに、私には、花がないもの。つまらないわ」


 自らのことをそんな風に形容して、フィーネは力なく笑顔を見せるのだった。





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