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初恋 3




 一日が終わり、夕食までフィーネはアルノーやフォルクハルトに観光案内のようなことをして、明日、明後日には、王都に戻る二人にできる限りの接待をして日々の業務での疲れをとれるよう配慮していた。


 そんな彼女を見て、カミルはテキパキと屋敷を回しているフィーネのことを心配しつつも、仕事や勉強が趣味のような彼女のはつらつとした仕事ぶりは見ていて活力をもらうような心地であった。


 彼女の対応に、騎士の二人も満足しているようで、打ち解けた態度で接し、戦いの心得なんかを話しつつ夜の時間まで楽しそうに過ごしていた。


 そんな時間を終えて、客室に戻るアルノーの後ろにカミルはついていき、彼の真意を探ろうと考えていた。


 ……フィーネとアルノーの間には、なんかすっごい感情の差があるんだよね。精霊騎士とあって魔法も得意みたいだから簡単に感情も読めないし。


 普段から魔力を湯水のように使って、フィーネの感情を読んでいるカミルだったが、それは彼女がまったく魔法を使えないがゆえに出来る所業である。


 調和師には特定の精霊が付かない、つまり彼女を守ろうとする精霊がいないから簡単に読むことが出来る。しかし魔法を使える相手には、簡単には白魔法を使うことができない。


 それにフィーネには、カミルはフィーネにしか見えないし、声も聞こえないと言っているが、カミルは自分の意思で誰の前にでも、姿を現すことができる。


 なのでここらでアルノーがどういうつもりなのか確認をしておくのは大切だと思ったのだ。なんせ彼とはきっと、こんなイレギュラーな事態でもなければ実際に会えないはずだ。


 ハンスやベティーナに気づかれずに動くには派手な行動はとれない。そうするといざ行動を起こす時まで、アルノーを探ることができなくなってしまう。


 部屋に入り、ジャケットを脱いで、先程までフィーネにお酌をされて楽しんでいた、この地域で良くとれる果実のお酒がテーブルに用意されているのをアルノーが見つけ、その気難しそうな顔を緩めて少し笑う。


「マメだな、フィーネは」


 そうつぶやいて、お酒のボトルに添えられているカードを手に取った。そこにはフィーネの字で何やら文章が書かれている。


 大方、フィーネが若い令嬢ということで、早い時間に、晩酌を切り上げた配慮へのお礼などでも書かれているのだと思う。たしかに、マメだね、とカミルも同意しながらテーブルに腰かけて、お酒のボトルを開けるアルノーのそばへと歩みを進めた。


 アルノーは機嫌よさげに、ポケットに入れていた箱を取り出す。

  

 それは今日フィーネから渡された魔物の牙の入った小さな箱であり、それをとても大切なものでも扱うように開いて、お酒を入れたグラスを傾けながら、魔石を指先で弄ぶ。


 キラキラと夕日を水面に移したかのように光るその魔石を愛おしそうに見つめて、それから暫くして、途端に少し怖い顔をしてはあ、っと大きくため息をついた。


「……」


 苦しげな表情をして無言で固まる。カミルは、魔法を強めて考えを読もうと試みるが、やはり靄がかかっているようでうまく読み取ることができない。


 ……話はしたいけど、説明が面倒なんだよね……。


 フィーネとは前の記憶を思い出した直後に接触することができたので、あまり抵抗なく、今の状態のカミルのことを受け入れてくれたが、流石に、この相手では、不気味に思われて話を聞いてもらえないかもしれない。そんな考えが浮かんだが、この男は精霊騎士なのだ。


 そうなればもちろん転変が起こった人間の処刑も業務に含まれているだろう。そういう現場を知っている人間なら、理解をしてくれるかもしれないそう思い直して、カミルは、ぱっとアルノーの前に姿を現し、その深緑の瞳を見据えた。


「っ!……なんだ貴様」

『……』


 突然の事に、やはり驚いた様子で目をむいて、アルノーはその驚きからか、手にしていた小さな魔石をカツンとテーブルに落としてしまう。それはころころと転がって、テーブルから柔らかなカーペットの上へと落ちるはずだったのだが、カミルは軽く指を振って、アルノーの手元へとその魔石を戻してやった。


「……人ではないな、君」

 

 そんな些細な魔法だけで、すぐにカミルの存在の異常さが理解できたのかアルノーは視線を鋭くさせて、地を這うような声で言う。


「……」


 それから考えるようなしぐさをして、魔石を手に取り、魔石だけは大切らしくきちんと箱に戻してから、はあっと小さくため息をつく。


「フォルクと似たような類か?なぜこうも最近は転変が多いんだまったく」

『あれ、ご名答。よくわかったね』

「それ以外ありえないからな。それに、生憎、そういう者に多くかかわる仕事柄だ」


 カミルはやっぱりねと納得した。しかし、フォルクハルトも、変な雰囲気の人間だと思っていたが、自分と同じくそうだったとは驚きだ。


「……それで?君のようなものはあまり他人の目に触れるべきではないだろう、何か用事でもあるのか」


 それもその通り、フォルクハルトのような者もいるとは初めて知ったが、カミルのように転変しても処刑を避けることができて、生きながらえている者は、大体、屋敷の奥深くでひっそりと過ごすものだ。現に、カミルの体だってそうしているし、だからこそフィーネと出会うことができたのだ。





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