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人間らしい裏切り 11





「……しかしな、フィーネ。君の状態を理解はしている、それでも君は、元の地位を望むのだろう、であれば俺は協力できない。あえてはっきりと言わせてもらうが、それほど俺も懐の広い男じゃない」


 ……やっぱり、そうよ。こうして優しくしても、私がにっちもさっちもいかないこの状況でできるだけ好条件で私を使いたいのだわ。


 元の地位を言うのは、王妃の地位という事だろう。それを無条件で支援するほど、甘くはないと。


 では、譲歩策としてはどれが正解だろう。もしその地位につけたら何かしらの配慮をアルノーの領地に?それとも、フィーネの力を公にして、そのあっせんをアルノーにだけ任せて、仲介で利を取らせる?


 ……どちらにせよ、アルノー様が調和師の力以外に何が欲しいのかが問題ね。名声なのか、お金なのか、それとも娯楽?それは私は詳しくない、でも、知らないからできないとは言えないだろう。


「元の地位を手に入れて、その報酬としてもちろん内々に貴方の要望に応えることは出来ると思うわ」

「! ……ずるいな。それに、心外だ」


 フィーネの探るようなセリフに、アルノーは、すこし傷ついたような顔をして、それでも自分が凄んだらまた怖がられてしまうと思って、大人の色々な感情を含んだ笑みを浮かべた。


 ……内々というのがだめ?では、何か功績をでっちあげて、彼を称賛させるような状態であればいいの?


「じゃあ、公に貴方のことを認めさせるのがお望みかしら」

「”王妃の地位”に戻ることを、君は望んでいるのだろう。だったら、そうされても嬉しくはない」

「じゃあ、口利きをしましょう、貴方の事お父さまや、国王陛下に直接紹介をかけるわ」

「……」


 すぐに、次は、人望や贅沢な遊びを知っている人の名前を挙げて、やや早口にアルノーにフィーネは言った。


 その言葉にアルノーは流石に眉間にしわを寄せて黙り込んだ。


 ……これも違うの?じゃあ、いったい何なの?もしかして、私の血筋が欲しい……とか。


 一番嫌な選択肢が思い浮かんで、ひくっと頬を引きつらせた。


 だってそれは、くしくも前のフィーネが、ハンスやベティーナにやられたことと同じことなのだ。


 凌辱され、価値は自分の産む子供だと言われて、奪われ、なにも望めない、今までやってきた領地の経営も、信頼を置いていた側仕えも、母の形見も何もかもを奪われて、生きるという事さえ奪われて、その果てに終わる人生。


 王妃になりたいわけではないのだ。もう、それは、確かに支えであったけれども、それほど、妹が望むのであれば譲ってもいい、幸い、ハンスには執着がないのだ、しかしその二人の幸せの上には、フィーネの不幸が必要なのが問題なのだ。


 だから、望むしかない、元通りの地位を、そしてそれ以外の選択肢なんてあるように思えなかった。


「治ったぞ。傷が開きやすいから、あまり動かさない事だな」


 言いつつ、アルノーは立ち上がって離れていく。その服の裾をフィーネは仕方なくつかんだ。くんと引かれて、アルノーは優しく立ち止まって彼女に振り向いた。





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