人間らしい裏切り 8
「……あれで逃げてるつもりって……貴族の女の子って、おっとりしててかわいいよね。って、あ、貴族じゃないのか、あの子」
「なんだと?」
「あれ、アルノー様知らないの?有名な話じゃん、このタールベルク伯爵家はエルザ様の実子に当たる子が何故か娘として登録されてないんだ~」
自慢げに話す、フォルクハルトにアルノーは無表情のまま話を聞いた。
「それで代わりにあの地味な子が貴族として登録されてるんだって、なんでだろ?なんか、ビアンカっていう妾がいてそれでどうこうって、兄さん方が言ってたような……?」
フィーネにさほど興味がなくなったのか、フォルクハルトは今度は、魔物の死体の解体をし始める。それにアルノーはすこし考えてから答えた。
「……なにもおかしなことないだろう、あの子は貴族だ。それも、とても優秀な力を持ったな」
「そ~なの?ま、もういいや、俺には関係なさそうだし」
「……君はいつもそうして気分で動く。今回のことは始末書を書いてもらうぞ。それに、あの子に今度手を出してみろ、その手で剣を二度と握れないようにしてやる」
「は~い。簡単に負ける気はないけどぉ」
「黙れ。上官の言う事を聞けない部下など、簡単に首にできる。無職になって愛しのローザリンデに見限られる事にならないように、せいぜい働けフォルク」
アルノーに凄まれて、面倒くささから、フォルクハルトは切り捨ててやろうかと少しだけ考えたが、この男にだけはそうはいかない。なにしろ、騎士団一の強さを誇り白魔法を使えるアルノーに対して、黒魔法使いのフォルクハルトは分が悪い。
本当はほかの上司同様に亡き者にしてしまいたかったが、無職になればローザリンデに呆れられてしまうことも、事実だった。
なので仕方なく大きなグリズリーの体を風の魔法を使って屋外に出し、この屋敷の住人が運び出しやすいように、適度な大きさに切り分ける。
「はぁ……しかし、フォルク。君は本当にやらかしてくれた。見たかあの軽蔑しきったフィーネの瞳を」
「さ~、よくわかんない。ローザ以外の人間なんて五割り増しどうでもいいから」
「十数年ぶりにコンタクトがあったと思って再開を楽しみにしていたのに……最悪だ。本当に。また、彼女が引きこもったらどうしてくれる」
「知らないよ~、ていうかアルノー様そんな良く喋るタイプだったっけ?」
「ああ、しかし、フィーネは王妃になるのだから、それでも問題ないのだろうが、心配だ」
「アルノー様、俺の話聞いてた?あの子、庶子だっていいふらしてるのハンス王太子殿下なんだけど」
「……何故そんなことを?」
「それは……あの子に聞いたらぁ?そのことでアルノー様に連絡をとったのかも、知らないし」
そんな風に言いながら、フォルクハルトは勢いをつけて、未だにえっちらおっちらと正門へ続く道を走っているフィーネをひっつかまえて、瞬時に、アルノーの元へと戻って来た。
「っ、??っ」
驚きから声も出せずに、背後から首にうでを巻き付けられて必死に抵抗しているフィーネは軽蔑を通り越して、ただただ無感情に向かい合わせられたアルノーを見上げる。それと同時にアルノーはフォルクハルトをまた殴り飛ばした。
そしていよいよ心労の限界を迎えて、気を失ったフィーネを抱きかかえて、屋敷の中へと入っていった。