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愛情の形 6




「カミル? 昼にはいなかったみたいだけど、どこかに行ってたの?」

『……いたよ。いた、ずっといた』

「……そう。それは……」


 そういう出てこれない彼の制約みたいなものがあるのか、もしくは単純に出てこなかっただけなのかフィーネには判断がつかなくて、続く言葉を紡ぐことができずにいると、カミルは、仏頂面を極めて口を開く。


『君が悪いとは言わないけどさ。君も悪いよ。わかる?』

 

 何がとは言わない彼の言葉に、カミルが消えてからあった事を一通り思い出して、それから、フィーネも何か改善策を考えなければと思っているベティーナの事だろうなと思う。


 そして確かに、その、フィーネを悪いとは言わないけれども、フィーネも悪いという言い方は的を得ているような気がして、フィーネは今まで考えてたことを上手く彼に説明できるような気はしなかったけれども話そうと口をひらく。


「そうね。わかるよ。でも、簡単には行かないと思うのよ。ベティーナは無意識に行っている非道で心のバランスをとっているし、それについて知っていても私は、嘘の善意でも可愛い妹のことになると、簡単に拒絶するだけして後はほっぽりだすなんてこともできないと思ってるの」

『……なんか君、面倒くさいこと考えてる?僕から見ると、筋の通らない虐めをしてるのに、それでも君が愛してるもんだから、調子に乗って君を食い物にしてるだけに見える』

「……そうとも言えるわね」


 簡単に言えばそうなのだが、フィーネの中ではそれだけではなく、とその感情を説明するにはまたたくさんの言葉が必要になるのだが、カミルが話したいのはこんなことではない、というのも理解ができて、フィーネは口を閉ざした。


『言いたいのはそれだけ。いーよもう、僕は君の考えてることも白魔法で多少わかるけど、それだけじゃ繊細な心のニュアンスまでわからないし……君は案外、頑固だから考えを変えるのは無理だって前の君から、学んだし』

「頑固……そうかしら?自覚はないんだけど」

『頑固だよ。頭が固い。君は面倒くさい。でも僕は嫌いじゃないけど』


 仏頂面のままカミルはそう言いつつ、フィーネの足の上から降りて、掛け布団をのけてフィーネの両足に巻かれている包帯に手を触れた。


「ありがとう、なにしてるの?」

『何してると思う?』

「……包帯を解いてる」


 質問を質問で返されて、フィーネは素直にカミルの行動をそのまま口に出した。


 綺麗に消毒して、生傷が露出しないように両足のかかとを覆っている包帯をカミルは丁寧に外す。とってから、カミルは胡坐をかいてベットに座り直して、フィーネの足を自らの胡坐の上に乗せた。


 その行動にフィーネは、胡坐をかくなんて粗野なこともするのねと感想をもった。


 しかし、そんな思考も生傷にそのままカミルが触ったことによって、書き換えられて、少し身を固くした。


「な、なにしてるの?」


 先ほどとまったく同じ質問をしたフィーネに、カミルは無言で答えずに、纏う光を強くして、フィーネに触れている手に魔力を纏う。カミルの青い瞳が白っぽく発光していることから、白魔法を使っていることが理解できたが、すぐに傷が治るようなことは無く、触れられている部分にカミルの指先が染みて、ジンと痛い。


「……っ、」

『暫く痛いけど、我慢してよね。君が悪いんだ』


 白魔法は傷を癒すこともできる。それは知っていたが目にしたのは初めてで、カミルの言ったように痛みもあったがフィーネはその魔法に見入った。


 カミルとしてはこうして痛みがあることできちんと自分を傷つける相手には、抵抗した方がよいと覚えてほしかったのだが、そんな意図はまったく理解することなく、その人体の損傷を治す神秘の力に見入るフィーネをみて、無理かとすぐに諦めた。


 それに、そんなに手元を見られるとどうにも緊張してしまう。仕方がないので彼女には別のことを考えていてもらおうと話題を振る。


『とりあえず今後の予定は? 考えてあるの?』

「……予定ね。ええと、そうね、多分近いうちに領地の本邸に戻ることになりそうだわ」

『そうなの? こんなに王都に居る期間って短いものだったっけ』

「今年は特別ね。最近は魔物が活発化しているから、領地を開けておくのは得策ではないとのことよ。他の貴族も今年は早めに切り上げる人が多いみたい」


 貴族同士の交流や、流行りの事にはうといフィーネも、そういった政治的、材料になりそうな情報だけはいち早く手に入れており、今後の流れを読むのも得意だったが、しかしここ最近の魔物の動きについては、過去に類を見ない被害を出している。


 そのことも気がかりだし、早くに本邸に戻るのは賛成だった。


『ふぅん、じゃあ、せっかく恩をうれた、ロジーネとも暫く協力できないのか』

「……それはもともと、今回以外は、直接会う方向は避けるべきだと思っていたから大丈夫。手紙で情報を聞いたり、色々手はあるわ。でもここから、どのようにして、後ろ盾を手に入れるかはまだ道筋が思い浮かばないわ、カードが足りないというのも事実」

『それなら、何か自分で動いた方がいいんじゃない? 今回みたいに、ベティーナの機嫌を損ねても僕が懲らしめてあげるよ』


 短絡的に言ったカミルに対して、それではフィーネの思惑がばれて、後々首が回らなくなるほどハンスの方に根回しされる可能性や、最悪、刺客が送られてくる可能性があるので、控えたい行動だった。


 しかし、それ以外でとなると、上手く協力者を探す方法が思い浮かばなかった。


「……もう少し考えさせて。きっと手段はあると思うの。前の記憶だってあるのだし」

『あ、そういえば、一応は君を助けようとしていた人がいたって記憶は君の中にはあるの?』

「え?」


 思いもよらない情報に前の記憶を思い返してみるが、基本的にはハンスやベティーナの事ばかり……というか、何故フィーネが死に至ったのかという事に必要な記憶以外は存在していないように思う。


 フィーネに救われたから助けるのだと言ってくれているカミルの記憶もないのだし、実際に前のフィーネを助けようとした人が記憶に含まれていないとなると、その可能性が正しいような気がした。


 フィーネの反応を見て、カミルは彼女の足を治しつつ、少し口をとがらせて言う。


『あの人も意地悪だよねぇ、フィーネの事気にしてくるくせに』


 そして、何やら記憶に関連しているらしき人に苦言を呈した。


 しかし、その人について聞いてもきっと、前の記憶を知ることになった理由を教えてくれないように、あしらわれることは明白だったので、フィーネはそのカミルが言い出した、フィーネを助けようとしてくれている人の方へと興味を向ける。


「……ねえカミル、その私を助けようとした人については貴方、教えてくれる?」

『う~ん。話しちゃ駄目なんて言われてないから話をすることは出来るよ?』

「じゃあ!」

『でもなーどーしよっかなー?』


 期待して身を乗り出すフィーネに、カミルは少し悪い笑みを浮かべてフィーネの足をするりと摩った。





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