愛情の形 2
「……な、なんだか夢を見ていたような気分です。フィーネ、貴方一体、なにを……?」
「私も初めてだったのだけど、こうすれば力が使えると……昔に言われたことを思い出して、ごめんなさい説明もせずに動いて……何か変化はありますか?」
「え?ええ、そうですね。なんだか体が軽いような、座りがよい感覚がフワフワと続いていて……」
言いながらロジーネは、本当にこれで調和師の力の恩恵を受けられたのかと不安になりつつ、そうであるなら、と魔力を込めた。こうして、自らの背後にいるはずの精霊に魔力を与えるために放出するのは何度目かもわからない。
代々、キースリングの家系は、土の魔法から派生する植物を操る魔法が得意である、それは美しく咲きほこらせることはもちろんのこと、森の中ではツタを操り相手の動きを止めたり、木々でバリケードを作ったりと様々なことが可能だ。
その中でも、もっとも簡単な植物を成長させる魔法を令嬢たちの集まっている噴水を囲んでいる花壇に向けた。
こうして魔力を流したとしてもいつもは、まったく反応もなくがっかりするだけなのに、今だけは違う。美しく光が飛び出て、キラキラと意志を持ったようにガゼボを出て、まるで小さな精霊が舞っているかのように飛んでいき、一帯に光の幕を作って降り注ぐ。
「きゃあ、なあにこれ」
「すてきっ魔法の光だわ!」
花壇が噴水を取り囲むように半円状に広がっているため、令嬢たちにも光が降り注いで、彼女たちは驚きから口々に声を上げた。
それと同時に、花壇に植えられたバラが花開いているものはさらに美しく咲き乱れ、つぼみは植物にはありえない速度で開花していく。その様はまさしく、世界の理を書き換える魔法の力であり、力強く咲き乱れるその様は圧巻のものだった。
「……お見事。とても美しい魔法を持っているね、ロジーネ様。まるで祝福……こんなに素晴らしい魔法、私は初めてみたわ」
ほかの令嬢同様に、とても眩しいものでも見るようにその光景をみるフィーネは、心から称賛していた。
それを聞いてロジーネは、フィーネの力がなければ、あっても使えなかった力でありフィーネのおかげであるのに、まったくそれを感じさせない彼女の言葉に驚いた。
自分のおかげだという事を主張すれば、きっと、彼女にとって徳があるはずなのにそれをしない。その行為は間抜けだとは思ったが、腹が立たなかった。何故そう思うのかロジーネは答えを簡単に見つけることが出来た。
……そうね。私が彼女に報いてあげればよいのです。そうすれば、彼女の今の奇怪な状況も打破することができるでしょう。
それに、私自身、間抜けに腹が立つのは、きっと自分がどうにもできない歯がゆさからだったわ、それを他人に当たったりして、まだまだですね。
考えている合間にも新たな話題の種を見つけた令嬢たちは、皆でこちらのガゼボに移動してくる。フィーネと二人きりで話せるのはこれきりになるだろう。
そう考えてすぐにロジーネは席を立った。それから、フィーネのそばへといき、笑みを浮かべる。
「……私は貴方も美しいと思います」
その、精神性がとても、もちろん、夕日の水面のような瞳も、控えめな性格も。
「?」
また、あの美しい瞳を見たくて頬に手を添えて、フィーネのことを上に向かせた。言葉の意図がわからないフィーネは、すこし首をかしげて、ロジーネのことを見上げた。
「いつでも私を頼ってください、必ず報います。それが私にとって間抜けを許せる方法だと今しがた気が付いたので」
「そ、そうなの? それはよいことね」
「ええ、ではまた」
「……また」
フィーネはそう軽く言うロジーネに返事を返して、結局、頼ってよいということ以外は、どういったことを彼女が言いたかったのか理解でき無かった。けれども、ロジーネのその決意がこもった瞳に、魔法が使えることによって自信が付いたのかなと勝手に解釈した。
自己肯定感というものは素晴らしいな、なんて、見当違いのことを考えて、それから令嬢たちにあれこれともてはやされながら、質問されているロジーネのことを見た。
彼女は称賛に酔う間もなくさらなる魔法の精進のために、比較的早くにこの交流会のお開きを宣言した。
結局、フィーネはロジーネとそれ以降話をすることは出来ずに、ベティーナとともに帰路に就いた。
馬車の中でぶつぶつと文句を言われて、それから、最後に今回の主催者に話題をかっさらわれたことによって機嫌が最悪だったベティーナは、ヒステリーを起こしフィーネを馬車からけりだした。
そしてフィーネは一人で歩いて館に帰ることになったが、その間に調和師の魔法について様々な考えを巡らせることができたので、よしとすることにした。