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腹が立たない間抜け 4




 噴水付近ではベティーナを中心に、美しくカラフルなドレスを纏った令嬢たちが噂話に花を咲かせている。


「私は…………あの子たちの花園に永遠に身を置くのなら、この身を引き裂かれて死んでも構わないんです」

「え?」


 視線を鋭くして、フィーネに対して、最初に毒を吐いたように、そう言った彼女は微笑んで続ける。


「あの称賛と賛美の裏には、それ以上の汚水を煮詰めたような醜悪な感情がある。だから、あの毒々しい花たちの仲間に入るのは、その醜悪な感情に身を焼かれて生きるしかない。私はどうしてもそれが、嫌なんです」

「……」


 フィーネにはロジーネの言ったことに実感がなかったが、彼女がそういうのならそうなのだろうと思い、こくんと相槌をうつ。


「初めにいったでしょう?間抜けを見ていると、腹が立つのです」

「ええ」

「ですから、私は魔術師を目指している。いいえ魔術師を目指していた、けれど意図せずとも、今日あなたがここに来たことによって、その現実逃避は終わりのようです、フィーネ。ありがとう。貴方はあの花園の子たちとは違うようですね、見ていても腹が立たない」

「……」

「私たちお友達になれませんか?」


 フィーネは、言われた言葉の意味をよく反芻して理解した。しかし、それはそれとして、それまで彼女の言ったロジックの方がなんだか気持ちが悪くって、自分だけが彼女たちと違って間抜けではないから、ロジーネとお友達になれるのは、嫌な違和感があった。


 ……彼女は、先程も自分の要求が通らなかった時でも穏やかだった。でも彼女たちに対して、今は、とても攻撃的な言葉を使っている。


 私にも最初に言い方のきつい事をそういえば言ってた、ロジーネ様は、もしかすると、元来そういうきつい人?いいえ、単にそうであったのなら、ただ嫌味なことを言うだけになるはずである。

  

 それになにより、私にはきつい言い方だったけれども、言われたのは助言だった。


 ……。


「……」

「フィーネ?」

「……ロジーネ様は汚いものがお嫌いですか?」


 なんと聞いたらいいかわからなかったが、フィーネはそういった。ロジーネはキョトンとして「綺麗好きかどうかという意味?」と聞き返す。違う、そうではない、フィーネが言いたいことはもっと抽象的な話だった。


 友達になれないかという質問に嬉々として、イエスと答えるだけで、これからは十二分に動きやすくなるというのに、フィーネは、その妙な違和感ばっかりが気になって言葉を続けた。


「いいえ、ロジーネ様は、もしかして他人が不利益を被ることや、それに伴う黒く汚い感情が嫌いなのではないかと」

「……嫌いですね。だって、そういう感情は総じて人を傷つけます」

「ロジーネ様は、少し毒舌のようですけれど、私のような関係の浅い人間にアドバイスをしてくれるような方です。けれども思慮深いが故に、強い言い方だけが相手に伝わって、アドバイスが届かない事が多くあったのではないのかと、予想を立てました」


 フィーネは目を細めて笑って、急にペラペラと話し出した自分に驚いているロジーネを見据えてつづけた。


「たしかに、大勢の人間が閉鎖的な社会で関わる場合には、建設的な意見が通らずに、逆に簡素であるが、それゆえ意図の分かりやすい意見が採用されることが多くあるそうです」

「は、はい」

「ですから、彼女たち、ロジーネ様の言う花園のお花たちは、花壇に群れているからきっと誰もが理解できる話題でなければ、間抜けになってしまうのです」


 だから、きっとフィーネのように一人でいることしかできない人間が、そうではないように見えるのだ。


「その中から、じっくり選んだ一人を引き抜いて、そばに置いてみても良いかもしれません、ああ、でも無理矢理引き抜かないでね、ふふ」


 フィーネの頭の中には花壇で根を張っている彼女たちがロジーネの手によって、ズポッと引っこ抜かれている様を想像して面白くなっていた。いつかかしこまることも忘れて、続ける。


「それに、ロジーネ様、夢を語る理由が現実逃避の為なんて悲しいと思う。私は、やりたいと目指すから価値があるのだと思うのよ」


 強要されて差し迫ってやらなければならない事は夢とは言わない、それは、目的というのだ。


 言いたいことをすべて言って、一息つくと、ロジーネが唖然としているのがわかって、フィーネは思考を停止した。




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