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腹が立たない間抜け 2




「……?」

「ロジーネ様は、魔法の知識を深くもち、聡明で鋭い感性の持ち主だと今、思いました、ですからロジーネ様が主催者だったから私はここに伺ったのです」


 私の答えになっていない答えにロジーネは真顔になって、手を口ものとに当てて考えるようなしぐさをしつつ、口を開く。


「それでは順序がおかしいですよ?」

「些細なことでは?」

「些細……些細ですか……まあ、些細ですね、フィーネ。貴方は、ここに来た、その理由が後から見つかっただけですから」


 フィーネの言いたいことを理解してロジーネは口に出しつつ、苦笑する。フィーネも自分が可笑しなことを言っているのを自虐的に笑った。


「しかし、驚きました。フィーネ、まったく表舞台に顔を出さない伯爵令嬢がこんな方だったとは……それに、私のことをそれほど褒めてくれる人など、珍しい。やはり嬉しいものですね」

「そうなのですか?少し話をしただけでも目標のある立派な方だという印象を受けましたが」


 すこし、照れつつも笑みを浮かべるロジーネは今までの冷たい印象とは裏腹に、幼く見える笑顔を見せた。


「……こんな集まりを開いておいてなんですが、私は……魔法が、まったくと言っていいほど使えません」

「それは……また、どうして」

「才能とでも言えばいいのでしょうか、練習が実を結んだことは一度としてないのです。その分魔法についての知識は増大になりましたが」


 フィーネは話題に食いついてきたが、ロジーネは分かりやすくそれでいてあたりさわりがないようなことしか言わなかった。この話を他の令嬢にもしたときに、一から十まで説明しても大概が理解できないか、わかったふりをするだけで、相談にならなかった。


 だから、ロジーネはフィーネにも同じように、一言で説明を終えた。


 しかし、フィーネは腑に落ちないという顔をして、まっすぐにロジーネの瞳を見た。


「才能とは言いますが、まったく使えないというのは何か要因があると思います、ロジーネ様。例えば、私もまったく使えませんが、ロジーネ様の言った通りに、家系的な理由がある、それは貴方もよくご存じですよね」

「……フィーネは、難しい話は苦手ではないですか?」

「物に寄りますけど、話していただけるのなら、真剣に聞かせてもらいます」


 ロジーネはフィーネの返答を聞いて、もしかしてこの子なら……、と微かな希望を持った。彼女の家系、本人も意欲のある少女、まったく期待していなかったことがあり得るのではないかと思い、話し始めた。


 その希望は、庶子が我が物顔で、家をのっとっているという噂のタールベルク伯爵家の令嬢をわざわざ交流会に誘った理由でもあった。


「基礎的な魔法の知識は、知っていますよね。大前提として、魔法は人が発する魔力を精霊が受け取って初めて、現実に力を持つ魔法になります」

「ええ、常識ですね」

「魔法を使うには、魔力は必須、しかし魔力は生まれ持った力であり、本人の努力で変えられるものではない」


 貴族が絶大な力を持つのは、そのおかげであり、それは大方、母親の魔力に依存し、血の継承として引き継がれていく、当たり前のことをロジーネは確認としてフィーネに話す。


「私の場合は母も魔力に恵まれていて、血族に、魔力欠乏の症状があるものも居ないので魔力には問題がありません。そうなると、魔力を魔法に変換してくれる精霊の問題がある可能性が次に浮かびますよね?」


 懇切丁寧に話すロジーネに、フィーネはそんなに丁寧に話をしなくたって、分かるのにと少し面白く思いながら、笑みを浮かべて頷く。


「ですから、アメルハウザー公爵家の元へとおもむき、診てもらったことがあります。とくに次期当主と目されているアメルハウザー公爵令嬢は優秀な方でして、その方にも、私の家系についている精霊はきちんと私のそばで待っているとお墨付きをいただきました」


 ……アメルハウザー公爵家は調和師と対をなす、精霊術に関して重要な役割をなしている家系だわ。精話師といって、精霊の存在を唯一、認識することができる特別な家系。


 その方からそう言われるという事は、たしかにそこには問題がないと考えても良いぐらい信ぴょう性の高い事だ。


 であれば他に原因として考えられるのは……。


 フィーネはロジーネの話からどんどんと思考をして、原因を考える。フィーネの知っている限りではあと一つしか、その選択肢はないように思えた。


「アメルハウザー公爵家の家系については知っていますか?この国の建国から存在する尊い家系なのですけど……」


 そのフィーネが思いついた原因のことを才能とロジーネが言った理由をフィーネは理解ができた。しかし、実際にそのことで困っている人がいるのだな、と、どこか、現実味のない心地だった。


 だって、必要がなくなったから、その力は失われたのだと思ったし、身近に困っている人もいなかった。それは実際はフィーネが引きこもっていたから知らなかっただけなのだが。


「……」


 しかし、ロジーネはフィーネのことを幼児か何かだと勘違いしているのかと、アメルハウザー公爵家の話をしようとしているロジーネにたいして思いつつ、彼女は少し心配性なのだなと勝手に結論付けた。


 もちろん、ロジーネはフィーネのことをそんな風に思ってはいなかったが、普通の令嬢だとは思っていた。普通に、流行のドレスの話題で盛り上がり、かっこいい貴公子さまを夢みて、かと思えば、暗いうわさ話を嬉々として話す彼女たちと同じ人間相手に話をしているつもりだった。


 しかし、フィーネはそんな、女性貴族社会で生きるために必要な事にまったく時間を割かずに、ただひたすらに勉学だけに振り切った学者にでもなるのかというような日常を送っている、突飛な少女であった。


 けれどもその普通の令嬢との差異をまったく理解していないフィーネ本人は、ぐるぐると思考を巡らせて、今までのことを思い出していた。





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