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崇高な愛 9




「……頭ごなしに、色付きの魔法を使うのはやめろって言いたいんじゃないの」


 抱き寄せた耳元にフィーネは心底優しい声で言う。カミルは少しだけくすぐったいと思いながらも、フィーネのことを抱き返した。


「歯止めが気ななくならないように、節度をもって使うようにしてほしい、とても危険な力だと思うから」

『……前のフィーネにも言われた。でも、その時のフィーネは納得してくれたよ。僕が見境なく人に呪いをかけたり、他人を操ったりするようになっても』


 カミルはあえて、前のフィーネが快く納得したような言い回しをしたが、実際には、そうすることでしか、カミルのことを認めてあげることができない前のフィーネが無力さを飲み込んで下した苦渋の結果だった。


 しかしそんなことまでフィーネには伝わらないにしても、その時の前のフィーネはきっと、カミルの正体を知っていたのだろうと、漠然と思った。


 今のフィーネは人として、そんなことをしてはいけないという事しかできない、けれどもカミルは人ではないと自称しているし、その正体を知った時にはその言い分は通用しなくなる。


 だから、それを知ったフィーネは認めることにしたのだ。


 でも知らない今だからこそ言えることだって確かにあると思ってフィーネは口を開いた。


「……それは、貴方が人ではないから、って事なんだと思うわ。でも私は貴方を人として、接したいと思ってる。だから今は貴方の魔法を怒る理由をそれで納得してくれない?」

『……』


 ……そうでないというのなら正体を教えて、なんて言ってしまったら、カミルにも欠落人間扱いされてしまうのかしら。


 けれども、それほど、カミルはフィーネの目に危うく映った。幼く、未成熟で、そして破滅的、けれども力がある。まるで、子供の精神が大男に乗り移ってしまったような、そんな危うさなのだ。


 力を持っているのに、教示や、守るべきものがない。それは、一歩間違えれば自分より力のない者に価値を見出せない、酷く悲しい存在になってしまう。


 普通の人であれば、こんな小さいうちから色付きの魔法を操るには相当な努力が必要になってくる。そしてその途中で、それがどういう事象を生み出すのか師匠や教師に教えを受けることになる。だから、普通はこんな風にはならない。


 なぜこんなにも危うく感じるのかは、彼がそんな過程をすっ飛ばして力を手に入れた人外ゆえの危うさなのか、それともそんな師すらおらず才能を開花させるだけの力の持ち主だったのか、は判別がつかない。


『僕は……人にはなれないよ。もう、終わってる』

「それでも、お願い。今の私には貴方しかいないの」


 カミルに同情してほしくて、フィーネはわざとそんなことを言う。


 彼が襟足だけ伸ばして小鳥の尾のように小さく結んでいる髪を指先でからめて、カミルの体に少し体重をかけた。


 しばらくの沈黙の後に、カミルは『仕方ないなぁ』とフィーネを許してやるように言ったのだった。


 それに、フィーネは嬉しく思いつつカミルと目線を合わせて、笑みを作った。


「ずるい事言ってごめんね」

『??』

「さて、準備を始めましょうか」


 カミルが理解していなくてもフィーネはそのまま話を切り替えた。


 ……カミルは私を手段を選んでいるって、言ったけれど、私だってそんなに綺麗じゃない。思ってもいない事をたまにだったらいうし、自分を守るために見て見ぬふりだってする、それに今だって、自分の罪悪感を紛らわすために理解されない謝罪までした。


 私は、ずるくて醜くて、それなのに、カミルには普通の人らしくあってほしいなんて、傲慢だわ。


 踵を返して流し目で鏡を見た。そこにはやはり、愚鈍で不出来な女が移っていた。




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