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けじめ 3





 カミルとマリアンネの救出をしてからのフィーネは怒涛の勢いで仕事をした。それはもう、いつ眠っているのかわからないほどに。しかしながら、用心深い現国王であるヨーゼフは王宮に幽閉状態であるため、ハンスさえ、封じ込めればそれほど苦労することなく事を進めることができた。


 その間に、カミルは魂を体になじませて、マリアンネは傷を癒した。


 基本的に二人は、安全なディースブルク辺境伯邸のフィーネの別館で過ごし、ディースブルク辺境伯と交流しフィーネの計画の概要について、教え込まれながら過ごした。


 十分な根回しと、計画にある程度の賛同者が集まると、フィーネは計画通りに、テザーリア教団の大司教や、ロジーネとの繋がりによって一助となってくれるキースリング侯爵などと合流しつつ、因縁のデビュタントの日に、王宮内にいたハンス、それから王都のタールベルクの館にいたベティーナ、ビアンカの事を兵士に捕らえさせた。


 そんな混乱の中で開かれたデビュタントでカミルはフィーネの用意したスピーチを偉そうに読み上げて、前のフィーネの記憶でハンスとベティーナがいた場所で、カミルと、聖女として、そして調和師として、両方の役割を担ったマリアンネとの婚約を発表させた。


 アルノーやディースブルク辺境伯には、より印象的なものにするために、ハンスを斬首させるのはどうかと、提案されたが、それはスルーして終始和やかな雰囲気のままデビュタントとなる舞踏会が行われた。


 フィーネ自身も何食わぬ顔で参加し、アルノーとの婚約を国王となったカミルの前で宣言した。


 そんな一連の流れには沢山の思惑が隠れており、かってに国王にされたカミルと、言われたまま王妃となることが決定したマリアンネは、あっちこっちへと忙しく働くフィーネの仕事が落ち着いてきたのを見計らって、いい加減事の次第を説明してくれと、お願いしたのだった。


 そういうわけで招集されたフィーネは、王宮の一番良い位置にある、良く日の当たるバルコニーで激務の間の休息の時として、お茶をごちそうになりながら、ゆっくりと過ごしていた。


 少しだけ眠たいような心地もする昼下がり、花壇に囲まれた美しい場所で、可愛い二人を眺めた。


 ちんまりしている二人は、お茶を入れてもらって、お菓子を出してもらって、ニコニコ笑っている。


 あんまりに可愛くて、フィーネはカミルとマリアンネをくっつけて正解だったと改めて思う。


「ちょっと、フィーネ。君ってばなんでそんな達観したみたいな顔してるの?」

「そうだよ、お姉ちゃん、今日こそはいろいろ全部説明してもらうよ!」


 急に二人そろって、ジトっとフィーネのことを見てきて、息もぴったり。これまた微笑ましく思う。


「ああー!またその顔っ、私たちを子ども扱いして!!」

「そうだそうだっ、僕ら君より年の功があるんだぞっ」

「おい。あまり騒ぐな。フィーネだって疲れている、たまには休ませてやってもいいだろう」

「アルノーはフィーネに甘すぎ!」

「そうだよ、アルノー。お姉ちゃん以外には、全然優しくないのに」


 二人の会話に、フィーネについてきていたアルノーが入って、さらに微笑ましい事態になる。それにさらにフィーネがウフフと笑みを深めていると、一つだけあった空席に、一つ瞬きする間にぱっとローザリンデが現れるのだった。


「あ、精霊王様、遅かったね」

「久しぶり、やり直し前以来ですね、精霊王様」

「……そうね、お前たち二人の顔を並んで見るのは、どうあっても奇妙な心地だこと」

「えへへ、うん。私も、本物のカミルと側にいられるの、すっごく不思議」

「っ、なんだそれ。僕が幽霊みたいに言わないでよ」


 軽く二人と会話をして、丸テーブルの席がすべて埋まる。フィーネは空席があることを理解していたし、大方彼女が来るのだろうということもわかっていたので、さして驚きもしなかったが、アルノーはフィーネの隣で目を丸くして、それから常識外れの出来事に頭を抱えた。


 今回のお茶会の出席者はそろった。フィーネは改めてこちらを見るローザリンデをまっすぐ見返す。


「さて、ではそろそろ聞きましょうか。お前がやった確変と方法を」

「ええ……なにもやらずに大口をたたくのは、嫌だったからこうして事後に説明できる日がきて嬉しいわ」


 フィーネは強気に笑みを浮かべた。何もしていないうちから説明するより、成し遂げてから説明する方がよっぽど気楽だ。


 そしてそれができたのは、黙ってフィーネに協力してくれたアルノーや、フィーネの行動を支援してくれた多くの協力者、それからカミルとマリアンネあってこそだ。


 真剣に向けられる四人分の視線にフィーネは、ティーカップを置いて、一人一人を見返す。


「……まずは、ありがとう。黙って口を出さずにいてくれたこと、私のいうことを呑んでくれたこと、お礼を言うわ」

「?……それって僕らも?」

「私たち、ただお城で世話焼かれてただけだよね」


 顔を見合わせる二人に、フィーネは、そんな風に思ってくれていたのかと今の生活が苦になっていないようでよかったと安堵しつつ説明する。


「二人はただ、真面目に公務をやっている姿があれば、私の計画の助けになってくれたからいいのよ」

「そーなの?フィーネは難しいこと考えてるから、僕わかんないや」

「ねね、そうだよね。私はカミルといられるだけで幸せだもん。んへへ」

「はぁ……子供たちは口を挟まないことね。説明が面倒だわ」


 年の功があるんだと主張するやり直しを経験している二人のことを、圧倒的に上回っている経験値の差でローザリンデは子ども扱いして静かにさせる。

 

 それから、茶番をやめろとばかりにフィーネのことを見てくる。確かに、二人に一から説明していたら数時間かかってしまうだろう。そんなに待ってくれるとは思えない。


 それに、ローザリンデにも恩がある。そもそも一番、重要な事をしてくれた人だ、結果を見せて、ありがとうと伝えるのは重要だ。







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