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『欠落令嬢は愛を知る』~妹に王妃の座も人生も奪われましたが、やり直しで女嫌いの騎士様に何故か溺愛されました~  作者: ぽんぽこ狸


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真実の記憶 7




 フィーネはその可能性について、考えたことは無かったし、人間はどうのとローザリンデが言っていたので、きっと人間には等しく皆、効くのだと思っていた。しかしまあ、魅了の力と言ったのはローザリンデだ。


 フォルクハルトはローザリンデを男女の愛情として愛しているように見えたし、異性間でだけ発現する力という可能性はゼロではない。


「私は、貴方の力の恩恵を受ける前から、貴方のお友達になりたいと言っていたこと覚えていますか?」

「……あ、た、たしかに、そうでした」

「では、今の私が貴方に助力することは、筋が通っていて、魅了の力とやらが関与している可能性は低いと思います」


 ロジーネは、きりっとした表情を崩して、優し気に微笑んだ。


「なにやら思いつめているように見受けられましたけれど、私は、フィーネの言う通り、誰の血も流れないまま良い方向へと向かっていくのが一番良いと思います」

「……で、でも、それは私のわがままでしかなくて」

「我を通すのは、悪い事ですか?」


 ……悪い事、で、ある場合もある、と思うのよ。


 そうフィーネは苦し紛れに思った、けれども押し黙ってしまって口には出せずにいた。珍しく言い淀む彼女の姿に、ロジーネは最近は、いとも簡単に使えるようになった魔法を彼女に見せる。


 窓際のプランターに咲いている小さなお花に、魔法をかけて、つぼみを開かせ、花をよりみずみずしく咲かせる。フィーネはそれに驚いて、しかし表情を綻ばせてその花を見つめる、そんな彼女にロジーネは語りかけた。


「あの日のあなたも、孤独で貴方の我を通すべきだと望んでくれる人はいなかったと思います。けれどもそれを突き通してくれたおかげで、私はフィーネと出会うことができました。貴方の望んだことで救われる人間が、かならずどこかにいることを忘れてはいけません」

「……そう、思いますか」

「ええ、フィーネの願いは優しいものですから。それに合理的ですしね。でも少しだけ、理論的すぎると思うこともありますよ」


 深刻な顔をするフィーネにロジーネはくすくす笑いながら、手紙の内容を思い出した。


 いつの事だったか忘れてしまったが、手紙での雑談で気になることを書いたときに、論文を交えた説明が便箋十枚になって返ってきたときの事を思い出す。


「もう少しフィーネはフィーネの思う事を信じてみても良いのではないでしょうか、貴方は、とても、聡明な人ですから」

 

 ……そんなこと。……ない、わ。私は、今の状況すら一人で脱することができない愚鈍な人間なのに。


 誰かの時間や労力を奪ってしか存在できない人間なのに、ロジーネにそんな風に言われると、自分を否定するのは、彼女の言葉を否定するも同意義のように感じて、自分を責める思考を緩めるしかなかった。


「貴方は、どうしたいのですか?答えは今、出さなくてもいいと思います。また、ゆっくり考えて手紙を送ってください。二人で考えましょう?きっとフィーネだけではできない事でも、考える人間が増えれば妙案が上がってくるかもしれません」

「そう……ですね」


 それもその通りで、頼ってはいけないという気持ちばかりが先行して、フィーネは自分だけでなんとかできる方法を、ありもしないと分かっていたのに探し続けていた。


 これでは、一歩も前に進まないのだって当然で、堂々巡りを繰り返すのだって当たり前の事だったと今更気が付いた。


「ずっと思い悩んでいたんです。私、どうしたらいいのか……」

「私でよければ今までどおり相談相手にも話相手にもなります。……頼れる人には頼って貴方だけが抱え込まずに、教えてください。きっといい結果になりますから」

「……ありがとう、ロジーネ様」


 ……頼れる相手……。


 そう言われて、もちろん目の前にいる彼女にそんな意図があったわけではないと思うが、ふと、フィーネの頭の中に浮かんだのは、アルノーの事だった。


 フィーネには守りたいと思う相手は何人かいるが、自分が頼る相手として考えられるのは、彼のことぐらいで、もちろん、魅了にかけられているせいでフィーネのお願いにさからえないだけなのだと思うのだが、もし、そうでなかったら?


 もしかしたら、この堪らない焦燥感と心細さを受け止めてくれるかも……なんて都合の良い”もしも”を考えた。


「……それで、その魅了の力とやらを詳しく教えてください、フィーネ。魔法の類なんでしょう?」


 しんみりした雰囲気から一変、くるっと表情を変えてロジーネは知識欲に瞳をらんらんと輝かせてフィーネに問いかけてきた。


 彼女は、魔術師という魔法の最高峰を目指している。まったく見知らぬ魔術に興味を持つのはごく自然であり、それを稀有な調和師の血筋を持っているフィーネから聞けるなど、またとない僥倖これを逃す手はない。


 そんな、ロジーネのわくわくした気持ちがフィーネにも伝わってきてフィーネは思わず、ふふっと声を出して笑うのだった。


「ええ、いくらでも話します。まずは、その魔法にかかったらしき方の奇行から話そうかしら」

「あら、どんな話が聞けるのか楽しみです」


 それから二人は追加で飲み物を注文して日が傾くまで、魔術について語らった。フィーネの魅了の話からはじまり、ロジーネの師に当たる人が使う魔術、その構造について考察しながら本が読みたくなり本屋に向かい、街を歩き回った。


 足が痛くなるまで、くたくたになるまで動いて話して、いつの間にか日が暮れるころになり急いで帰宅するロジーネとまた手紙を送る約束をしてフィーネは別れた。


 ここ最近の鬱屈とした気持ちは少しだけマシになって、これから会うアルノーとも少しは、向き合ってみようという心づもりをして屋敷へと戻るのだった。






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