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真実の記憶 2



 マリアンネの近況をローザリンデに見せられたフィーネは、しばらくの間放心状態だった。今朝には、ディースブルクからの迎えの馬車がやってきていて、それに乗り込んでフィーネはディースブルク辺境伯邸の屋敷に戻った。


 そして到着するころには、仕事をいれられて、アルノーはすでに屋敷をたった後だった。


 冷静になって考えてみれば、彼女が非道な目に合っているというのは、先日のローザリンデの話で理解できるはずだ。テザーリア教団は、王族の下部組織になっているらしいというのはわかり切った事である。


 そして、今のタイミングでの国王陛下が病にかかり表舞台に出られなくなるという事態。先日は、ローザリンデは当たり前のように言っていたが、彼女は魔物化させた人間の事を話すときに、ヨーゼフ国王の名前を出してた。


 彼女がきっとヨーゼフをすでに魔物化させているのには間違いはない。ヨーゼフはまだそれほど歳もとっていないし目立った病気があるとも聞いていなかった、その彼が心労がたたって急に公務ができなくなるのは確かにおかしい。


 しかし、それもローザリンデが関わっているのであれば簡単だ。カミルもヨーゼフと同じように、病にかかっていると、公にはその情報が流されて数年後に死亡したという情報が出たのだ。


 だからきっと今回もそのパターンで間違いはない、そして、マリアンネのあの夢も事実のはずだ。調和師の家系をつぶしておいても、王族はその血筋を手放したくはなかった。だから、彼女を保険として教団にとっておいたのだろう。


 しかし、いざとなった時、マリアンネはその役目を何故だか放棄したらしい。そしてそのせいであんな目に合っている。


 その役目を拒否しているからこそのあの暴力、あの問答。


 ローザリンデはマリアンネは正当な血筋ではないと言っていたが、転変を元に戻す力はあるのだと思う。そのうえで彼女は力を使わない、それが、どうしてかはわからない。


 仮説を立てるとするならば、ローザリンデとマリアンネは面識があるように思えた。だから、ローザリンデの目的に協力してそうしている、と考えるのは筋が通る。


 フィーネのところに来たときもベティーナよりも自分を選んでほしいと言っていた。それがローザリンデの言っていた王族を殺して別の王を立てるという方法に賛同している故だからだったから、と後付けではあるが、そう考えれば、理解ができるのだった。


 それ以外の事も、忙しくディースブルクの屋敷でフィーネは過ごしながら、正解がわからないままずっと考え続けていた。どうするべきなのかを。


 お気に入りのウィンドウベンチに腰かけて、懇々と思考を積み重ねた。


 元気がないことや落ち込んでいることを悟られないようにしながら、生活を送った。


 けれども、焦燥感が募って仕方がないのだった。フィーネにあの記憶を見せたローザリンデの意図はわからない。けれどもフィーネは、自分のせいだと言われると、そうだとしか思えない気がして、どうしようもなくなった。


 前の記憶で自分も苦しんだ場所にあの小さな少女がいる。彼女がいったい何をしたというのか。


 フィーネと血が近くて、ベティーナのように他人を脅かすようなことは何もしていない。それどころか立派な聖職者だ。


 そんな彼女が、どうしてあんな目に合う必要があるというのか。痛いだろう、苦しいだろう、逃げ出したいだろう。それなのに逃げられずにあそこに長く捕らえられているのは、フィーネがローザリンデに賛同して、王族を排除させないから、彼女の苦悩が増えていっているというのだろうか。


 窓の外には、黒い影になっている木の葉の隙間からキラキラと輝く星が見えた。


 夜も遅い時間なので側仕えたちは、部屋にはいない。今この部屋にいるのはフィーネだけだ。


 ……それに、ああ、駄目ね。どう考えても、駄目な気がするのよ。


 思考が偏ると、すべてがその結論に至るための道筋を作っていて、それが正しい事だと思い込みたくなってくる。


 それほどまでにマリアンネが暴力を受け続けている光景は、衝撃的で、今すぐにでも行動を起こさなければいけない様な気がしてきているのだ。


 しかし、考えなければならない。フィーネは、フィーネにはやりたいことがあったはずだ。それにどうしてもやはり、ベティーナが死ぬことを許容するのだけは、……とても、耐えられそうにないというか。


 うまく言葉にできない。


 やるせない気持ちのまま、立ち上がって部屋の明かりを落とした。それから、少し目をつむって慣れさせてから、ベットサイドにいつも置いている母の形見のガラスケースをもって、空を見上げながらウィンドウベンチに座る。


 座面においてあるクッションの一つを背において体を預けた。


 ……お母さま。……お母さま……私はどうしたらいい……。


 知らない事だらけだった。ローザリンデに聞いたことはどれもフィーネの、自分自身という存在を覆すようなことばかりで、足元がぐらつく。


 これでもフィーネは一度決めたことには、とことんまっすぐに向き合う性格だと自分の事を思っていたし、それほど、思い悩まずとも答えを出して突き進むことができていた。


 しかし、今はどうだろう。


 急がなければマリアンネがまたひどい目に遭うというのに、身内を心配して、それを行動に移せずにいるし。


 カミルを救うと大口を叩いておいて、それが正しい事ではないような気がしてきていた。






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