参加
7月4日 12:00。
とある高校の昼休み。
この日全ての生徒の話題は先日送られてきたダイレクトメールで持ち切りだった。
「ねぇこないだ変なメール来たんだけどー。」
「え!うちにもきたんだけど!」
「あれでしょ。ふゅーちゃーがーど委員会!」
「お前1億貰ったらどうする?」
「一生遊んで暮らすよ!バイトなんてやってらんないでしょー!」
様々な奇声、喚声が飛び交っている。
「ねぇ栞、こないだメールきた?」
黒髪のショートカットが幼さを際立たせる少女にも、
周囲と同じ問い掛けがされる。
「茜にもきたの?迷惑メールにしては気味悪いね。」
少し茶色がかった肩まで伸びる長髪を鬱陶しそうに掻き揚げ、
栞からの返答に懐疑そうに答える。
「家の両親にも届いてるよ。迷惑メールにしては出来すぎてるよね。」
茜は眉間に皺を寄せると、
長年愛用してる銀縁の眼鏡の弦が弱っているせいで鼻頭の方までずり落ちる。
それを右の人差し指で直しながら続ける。
「調べてみたけど、ふゅーちゃーがーど委員会なんて一個も出てこないんだよね。流石に怪しすぎるよね。」
「けど1億円は捨てがたいね。1億もあればいい大学に行けそうだよ。」
「それよりあんたはもっと勉強しな。いくつ赤点取ってんのよ。」
「期末は全部セーフだし!···ギリだけど。」
日常的な会話に戻りつつある中、
1組の男女が彼女達に終わった話題を蒸し返しにくる。
「茜!栞!メールみた!?」
金色に染めた長髪をツインテールに結んだ女の子らしい身振りの少女が二人の話に割ってはいる。
「さや。誠。もうお弁当食べ終わったの?」
長身·短髪の黒髪の男子はさやの隣で答える。
「うん。さやがみんな誘って鬼ごっこに出たいって言うから。」
「はぁ!?やだよあんな怪しいの!」
予想外からの誘いに茜が声をあらげて否定する。
「なんでー!?鬼ごっこするだけで1億円だよ!?みんなで協力すれば絶対1位取れるよ!」
その否定にさやも驚きを隠せないかのように言う。
「こんなダイレクトメール絶対詐欺だって。」
「詐欺なら同じ時刻に全員におくるようなことしないでしょー。」
確かに。と茜は内心思いながらも、
偏差値的にも劣る彼女に言い負かされてしまったことに少し苛立ちも覚え、言葉に詰まる。
「えっと、誠君は出るの?」
茜の異変にいち早く気付き、
栞は話題を誠へと移すように誘導する。
「さやが出たいって言うし、それにさやの言う通り、詐欺とかなら、こんな大々的に広告する事もないと思う。うちの親にも来てたしね。」
彼女への愛故か、彼女本位での自分の意見に加え、
彼の両親である警察官にも同じメールが届いていることから、ただのダイレクトメールでないことを物語っていた。
「修と銀次誘ったらいいよっていってたし!もうすぐ高校最後の夏休みだよ!みんなで思い出作りに参加しようよ!」
誠の意見に畳み掛けるようにさやがいう。
茜はまだ訝しげな表情をしている。
その茜に判断を託すように栞は視線を送り続ける。
数秒沈黙が続く中、
茜が深いため息と共に「わかったよ。」と呆れたように参加を決意する。
「やったーーーーーー!!!!」
さやが両手を上げて大喜びする。
それを誠は嬉しそうに見つめながら「よかったね。」と彼女に語りかけている。
自分の選択が間違っているのではないかと、
眼鏡をはずして目頭を揉みながら冷静さを取り戻そうとする茜に、
その決断を委ねてしまった栞は申し訳無さそうに自身の弁当内の卵焼きを彼女の弁当箱に移す。