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不幸を背負って、親父は笑顔で逝った  作者: 春山 潮
第三章 白い猫と神主:詠み人知らず
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来世を救うために

 伝言が届けられたことを見届けて、秀明は、人好きのする笑顔に、寂しさを宿した表情で、この世を旅立った。


 人を呪い殺す道具であるワシは、さまざまな人間が死に追いやられる姿を、その最期の時を見届けてきた。


 あるものは生に追いすがり、何とかこの世に留まる術を見つけようとした。


 あるものは絶望し、この世の未練を切々と語り、なかなかそこを離れたがらなかった。


 秀明の人生は、決して順風満帆なものではなかった。富も、名声も、家族からの愛情も。その辺の人間が幸せの要素としてあげつらうものを、ほとんど手に入れられずに死んでしまった。


 人に与えるばかりの人生であったのに。それなのに、清々しい顔で、アッサリと逝ってしまった。本当に、何という男なのだろう。


 この先、生まれ変わったあの男の前に立ちはだかるのは、莫大な不幸の残債だ。今世で回収された幸せは、多く見積もっても十年分。


 秀明は、洸太が成人して新しい家族を築き、年老いて死ぬまでの一生分の人生を願った。洸太が秀明と同じ歳まで生きるとしたら、あと、六十年足りない。


 それを次の人生で回収することになれば、本人が常に不幸に見舞われるだけでなく、近しいものの命にまでその害が及ぶことだろう。ーーそう、あの男が最も大切にしている、家族の命までも。


 ふと、自分の体を見下げる。先程人前に姿を現すために力を使ったせいだろうか。桜貝のような、虹色に光る魚の鱗のような小さなカケラとなって、ワシの体は半分以上崩れ落ちた。


(・・あと、二回。あと二回力を使えば、ワシも完全に消滅してしまうだろう。だが、まあ、いい。ワシはもう十分生きた、最後に「家族」を救えるなら、それでいい)


 ふと、静江の顔が頭をよぎった。消滅したら、ワシもあの世に行けるのだろうか。初めて愛しいという感情を抱いた相手に、再会できるのだろうか。


 そんな幻想を胸に抱き、即座に首を横に振った。


(妖が人間と同じように、あの世に行けるわけがない・・ただ、消えてちりとなるだけだ)


 身体のあちこちが痛む。息も絶え絶えになってきた。だが、不思議と心は温かく、満ち足りている。


(もう、残債の回収は止められない。来世で、あの男のそばに寄り添い、幸せに導いてくれる人間が必要だ)


 さあ、そろそろ立ち上がらねば。


 もはや力の入らない身体を引きずり起こしながら、想いを託す相手を探し始めた。

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