TGJC mission file 2:target<捕らわれの天才> 3
気分です
「おいキング、例の機械の場所教えろ。てかそういえばなんでお前ここにいるの。脅迫状にお前の名前はなかったぞ」
飛び込んだ部屋の中に戻ってきてタツミが尋ねる。
「あ、あぁ機械は地下だ。ちなみに俺は気づいたらここで拘束されていた」
「何言ってんだ」
タツミは脇腹を抑えながら進む。
「ちょ、ちょっとあんた助けなさいよ!」
鎖で繋がれたクイーンが暴れながら言う。
「は? 特殊部隊だろ? 鎖のピッキング位できるだろ?」
タツミが言うと、キングが。
「あぁ……それがな、この鎖ダイヤモンド配合の超合金みたいだし、鎖はカードキー式なんだよなぁ」
とタツミに教える。
「クソめんどくせえ」
タツミはリミッターをレベル5まであげる。
服が解け、腕が開き、煙が立ち上る。
「じゃ、ジャック……?」
クイーンが少し驚き静かになる。
「あ?」
タツミはいつものように不機嫌そうな表情を見せる。
そのままタツミは鎖を持ち上げ熱と腕力で引きちぎる。
「よし、じゃあ俺は行く」
タツミはリミッターを再度かけ、地下を目指す。
彼の去った後、クイーンがキングに尋ねる。
「ね、ねぇ……。ジャックっていったい……」
「うーん、何というか……代わり者なんだよあいつは」
キングは少し笑いながら言った。
「……クソ……あの偉そうな金髪男、俺の肉体に穴開けあがって……」
タツミは脇腹から垂れる血を抑えながら呟く。
暗い廊下に続く血液の行く末。
そこは薄暗い地下の隔離室の様なところだった。
青白い蛍光灯が照らす部屋の中では大型のコンピューターがいくつも動いていた。
「これは……凄いサーバー数だなぁ」
コンピューターの間を歩いていくうち、少し開けた場所に出る。
「これは……」
タツミの前に突如として現れた謎の液体に浮かぶ脳みそだった。
タツミは表情を突如として怒りの物に変え、能の入ったガラスを拳で殴り割る。
「おや、派手に壊してくれるじゃないか」
奥の機械の間から立花 サースフレアが姿を現す。
「おっと、これは驚いた。さっきてめぇの脳天をぶち抜いたはずだったが……」
「マッドマン博士を知っているか? あの人は本当に天才だよ。遺伝子研究のプロフェッショナルだ。この天才で、頭の回るこの私を『複製』してくれるのだからなぁ!」
サースフレアは高笑いしながら近づいて来る。
「じゃあ、何回お前を殺せばいいんだ?」
「ふむ、複製されているとはいえ数に限りはあるからなぁ。かといって私の精巧な遺伝子はただ複製されているだけ。身体能力で全身機械の君に勝てるわけもない。と、言うわけで君にはマッドマン博士の開発した『対ジャック用生物兵器』とな!」
サースフレアが何かのスイッチを押した瞬間タツミの足元が開く。
「それは俺が飛行できると知っての罠か?」
「君の手足に使われている合金については調べがついている。たしか、君の手足の弱点は専用の融解液だろ? 我々の高性能コンピューターを舐めないでいただきたい」
その瞬間、上から大量の液体が降ってきた。
「なるほどそう来たか。仕方ない。乗ってやろう」
タツミは足のジェットを切り、融解液を浴びながらさらに下へと落ちていった。
タツミの叩き落されたそこはまるで闘技場の様なところだった。
「確かに俺の手足の融解液だが……薄めた物の様だな。溶けるまでに二、三十分はかかるだろうな。その間に倒れてくれる雑魚なら助かるんだが……」
巨大すぎて端まで明かりの行き届いていない闘技場の端の方が音を立てて動き出す。
暗い門の向こうからクジラの様な化け物が姿を現す。
「何だありゃ。浮いてるのか? 羽はないよな……でかすぎて見えないだけ……というわけでもないよな? あの巨体についてる羽がそんな小さいわないしなぁ。やっぱりあれは浮いてるよなぁ……」
タツミは腰の拳銃を抜き、試しにクジラに向けて銃を撃ってみる。
放たれた弾丸は、クジラの巨体に衝突したものの、一切の外傷は見られず化け物の装甲の硬さを思い知った。
『やぁ、ジャック君、楽しんでくれているかい? その怪物の名前は『ケートス』。そのクジラの持つ鱗はアヤメニウムより硬い。そして、一枚剥がしたところで一分以内に完全再生する。ちなみに、衝撃波で体内から破壊しようとしても無駄だよ? このクジラは浮くために体内で大量のヘリウムガスと水素を発生させているからね。君の腕から出る煙と温度で発火。ここ一帯は隕石が落ちたかのように吹き飛ぶぞ?』
また、音声が流れてくる。
「なるほど、確実に俺の息の根を止める化け物ってわけか。確かに融解液のせいでもはやレベル5まで上げたとしても3程の性能しか出ないだろうな!」
タツミは地面に足が沈むほどに力を乗せ、勢いよくケートスに向けて突っ込んだ。
彼の付きたてた拳は、クジラの正面に直撃したが、融解をはじめていたため、手がえぐれる結果となった。
「こりゃ参った。融解が思った以上に早かった」
タツミは右手の手の甲を見ながら言う。
「ならこれはどうだ!」
タツミは再度ケートスに突進し、空中で体を翻して足の杭を突き刺す。
足から飛び出た杭は見事にケートスに刺さったが、痛みで体をゆがめた衝撃で杭が曲がり抜けなくなってしまった。
「おっと、こりゃまずい」
ケートスはタツミをたたきつけるように壁に突進した。
「グハッ」
タツミの口からは血が飛び出し、杭は折れて壁に埋め込まれてしまった。
「いてぇじゃないの」
タツミは腕で壁をこじ開け地面に降りる。
「昔の俺なら躊躇わずに口の中に突っ込んで自爆してただろうが……今は守るものがあるんでなぁ」
彼は頭から垂れてくる血をぬぐい一歩踏み出す。
「どこかに必ず弱点があるはずだ!」
タツミはケートスの周りをまわり、装甲の薄そうなところを探す。
そして一番最初に目が着いたところは目だった。
タツミは一直線にケートスの目に突っ込み拳を突き刺す。
すると、ケートスはクジラの様な鳴き声で悲鳴を上げる。
「あと一個か?」
タツミは速攻で反対側の眼も潰す。
今度もケートスは鳴き声を上げて体を歪ませたが、一切の躊躇もなくタツミに向けて突進した。
咄嗟に突進を受け止めたタツミだったが、溶けかけの手足に押し返すことはかなわず、また壁に突き飛ばされてしまった。
「どういうことだ? 目は潰したのに的確に攻撃を当ててきやがる。……そうか! 超音波!」
タツミは飛んでくるケートスを交わしながら考察をする。
「確か、クジラとかの超音波を受け取る器官は頭部にあるって聞いたことがあるな!」
ケートスは尾を振り回したり、地面をえぐるように飛行したりと、人間であればとっくに死んでいるような攻撃を連続でタツミに仕掛けてくる。
「頭には折れた杭が刺さっているはずだ……だが今の手足じゃ押し込むのに力不足だ……。あれを使って一か八か試してみるか……」
タツミは腰から小さなケースを取り出す。
「俺も最近まで知らなかったんだが、俺のこの半永久的に動く機械の手足の動力源は俺の血液だったらしいぞ。確か、この薬を飲め場ば敵を粉砕する代わりに自分の手も粉砕しちまうような諸刃の剣、レベル6に到達できるんだとさ」
彼はケースの中のタブレット型の薬を全て手に出し口の中へと放り込む。
口の中の薬を噛んだ瞬間に、激しい眩暈に襲われ地面に膝をつく。
そして、だんだんと血流が速くなっていき、体温が上がる。
呼吸は荒く、目つきは狂気に満ち、口からは唾液がだらだらと地面に垂れていく。
「一撃で……葬り去ってやる……!」
タツミはレベル5にも相当する速度でケートスに突進する。
薬の副作用なのか、自分の速度に耐えられなかったのか。
眼からは血が涙の様にあふれ出し、鼓膜は破れ血が垂れる。全身のあちこちが何かに切り裂かれたかのように傷つき、サースフレアに刺された脇腹の傷からは血が噴き出す。
タツミの拳がケートスの杭に触れたとき、激しい衝撃が巻き起こり、闘技場をヒビだらけにする。
ケートスの前身の鱗はその衝撃で剥がれ落ち、杭は深く刺さるどころか尾の方から貫通して飛び出してきた。
杭は壁に刺さり、闘技場の壁を崩壊させ、そのまま一体の地盤事崩壊させた。
デーモンズビリーバーのビルやその周辺の建物は崩れ、地面は沈下した。
「こりゃまずい!」
上階から降りる途中だったキングたちも倒壊に巻き込まれたが、特殊部隊特有の体術とワイヤー技で何とか窮地を脱した。
「これは一体何なのさ!」
クイーンが沈下の惨状を見て驚愕する。
「はぁ……はぁ……」
崩れるビルの地下。
タツミは瓦礫に潰されたケートスの前で傷だらけになって立っていた。
ケートスの腹から可燃性ガスが漏れている現状を認識はしていたが、彼に体を動かすエネルギーは残っていない。
指の一本でも動かせば古傷が次々と開いていくような現状で動くのは愚かという物。
さらに、一撃を食らわせた右腕は跡形もなく粉砕していて、その他の四肢は溶け出し配線やバネ、骨格がむき出しになっているような状態だった。
「帰らなきゃ……」
タツミは無理も承知で自分の周りに積みあがる瓦礫をかき分けようとあがく。
が、少しでも無理な動きをするたびに口から血液が飛び出す。
それに、周囲の建物が崩れた衝撃であちこちからガスやオイルが流れてきている。
いつ火事や爆発が起きてもおかしくない。
逆に起きていないのが奇跡である。
タツミはゆっくりと体を動かし瓦礫を押しのけ、登り、どかして地上に出た。
「かえ……ろう……」
崩れた瓦礫の砂埃をみてキングが駆けつけてくる。
「ジャック! 今助け―!」
キングが手を差し伸べようとした瞬間、小さな炎がガスに引火。
その後、次々と広まっていきケートスの死骸へと引火し、核よりも巨大な爆発を引き起こした。
キングはジャックを見捨てたクイーンとエースに引っ張られ何とか退避した。
数日後、どういうわけかケートスの死体は消え、隕石墜落映像のみが世間に公表された。
ジャックの家でタツミの帰りを待つTGJCの皆のもとに姿を現したのはキングただ一人だった。
「お、おいあんた! タツミは……」
マサキがキングの胸元をつかみ問い詰めるが、キングは無言で首を横に振る。
「だ、大丈夫っしょ! また前みたいにフラッと帰ってくる……でしょ!」
ミカの言葉にどこからか。
「その通りだ……。俺がそんな簡単に死ぬかってんだ……!」
山の草むらから姿を現したのは、服もボロボロ、手足もボロボロで常人には立っているのもままならないような状態のタツミだった。
「ぱぱ……!」
唯奈がタツミに泣きながら飛びつく。
「おいおい、そんなにくっついたら汚れちまうぞ?」
タツミの眼から、もう意識が飛ぶ寸前なのは誰もが理解できた。
その後、その場の全員で協力しタツミを手当し綺麗にしてベッドに運んだ後、彩芽を呼んだ。
それから約二週間後、タツミは目を覚ました。
起き上がろうとしたタツミの全身に激痛が走る。
「うっ……」
「タツミ、無理をしすぎだ。全く、君にも守るものが出来たわけだろ? ならもう少し自分の生還する可能性を選択してもいいんじゃないか? 今回君が生きていたのはもはや運と言っても過言ではないぞ」
「別に自爆特攻したわけじゃないぞ」
「何を言っている。自爆特攻していないというならなぜレベル6に到達させるためのブースタードラッグが全て消えている? 私言ったよな? 一回一錠まで、使用後四日はダメージバックで動けなくなると」
彩芽は少し怒りながら言う。
「そ、そんなこと言ってたっけ……?」
タツミは少し笑いながら言う。
「はぁ、まったくお前は……まぁいい。一体何があった?」
彩芽の質問にタツミは皆を集めた後にあった出来事を説明した。
「それじゃあ、やはりマッドマンは……」
「あぁ、いるだろうな」
ユウキは深刻そうに顔を俯ける。
「それと問題がある。俺の血が取られたかもしれない。もし、改造人間部隊に俺の遺伝子が組み込まれたら、生身だった頃の俺が大量に表れるかもしれないぞ……」
タツミは少し悔しそうに言う。
「なぁタツミ、ならそろそろ教えてくれないか? お前が七歳だかの頃、執行官プログラムから他のプログラムを受けさせられていたって話を」
マサキの目は本気だった。
「……俺があの時受けていたのは……『殺戮兵器養成プログラム』だ……。その時の同期がさっきいた大股の金髪男だ。殺戮兵器養成プログラムは人を殺すことだけに重きを置いたプログラム。人格や体つき、感情までもを兵器にしてしまうような最悪のプログラムだ。人格はまず無感情なものへと変えられる。そこで、殺人を通して新たな人格を構成される。幸い、俺とキングは大差なかったが、そこで大体の受講者が廃人と化し、処分されていった。次に体格だ。訓練などは簡単に言えば執行官プログラムの二倍といったところだ。その訓練中に何人か死んだ。そして感情。殺人を楽しいものとして、スイッチが入ると自分でもコントロールできないほどにまで殺人欲がわいてくるようにされる。俺とあの金髪はその欲の抑制とコントロールに成功したのさ。まぁ、俺は二年前に制御を失って、鎮静剤を飲むかしないと殺人欲が湧いてきちまうんだけどな……。そこで、俺達は暗殺、潜入、現地調達の殺しの技術、話術を身に着けた。とまぁこんな感じだ」
タツミは布団から体を起こし溜息をつく。
「でも、タツミ体術凄い弱くなかったっけ?」
ミカは昔の事を思い出しながら訪ねてくる。
「殺戮兵器養成プログラムで教わる体術は、どの動きも必ず終わりに死が入る。訓練も本当の死刑囚でやっていた。俺もそこで何百人と殺しているさ」
タツミは暗い顔で言った後上を見て。
「あの頃は凄くつらかった。感情もなく殺し続けるという行為に慣れてきてしまった自分が怖くて仕方なかった。その時かな、あの金髪が俺に初めて『守れるもの、大切にできるもの、やりたいものを探せ』って言ってきたのは。あの時の俺には落ちこぼれ寸前のあいつが主席の俺に口出しすんなって思っていたけど、あいつの気持ちもわかるってもんだ」
彼の少し微笑む顔に反して周りは更に表情を暗くしていた。
「そうだ、唯奈の所に行かなきゃ」
周りを見たタツミは震える手足に力をこめ、ベッドから起き上がり壁伝いに部屋を出ていく。
タツミのいなくなった部屋では、皆の知らなかった彼の過去についての話し合いの様なものが行われていた。
タツミは唯奈の部屋にノックして入った。
「ぱぱ、もう大丈夫なの?」
少し不安そうな彼女に。
「もうすっかり元気だぞ! ほら普通に立てているだろ?」
タツミは壁から手を放して見せるがすぐに倒れてしまった。
「もう、ぱぱったら……」
唯奈は彼の手を引き自分のベッドに寝転がせる。
「ねぇぱぱ、なんでデーモンズビリーバーぶっ壊してくれたの?」
「いいか唯奈。パパにはやらなきゃいけないことがあるんだよ」
タツミは震える手で唯奈の頭を撫でた。
「やっぱりぱぱは強いね……」
「大丈夫、俺はお前がクラスでいじめられようが、悪い組織に命を狙われようが、お前の味方だぞ。唯奈」
タツミの言葉に唯奈はまた泣き出してしまった。
泣きじゃくる唯奈の頭をなでながらタツミは再度眠りについてしまった。
タツミが目を覚ますころには空はすっかり暗くなり星が空に昇っていた。
彼の寝ていた布団の中では唯奈が抱き着きながら寝ていた。
「すまんな、ベッド借りちまったな」
タツミは唯奈の腕を優しくほどき立ち上がる。
「やっぱりまだ少し感覚はおかしいが、日常生活は出来るな」
そう思ってリビングに行き、コップに水を入れて飲もうとしたが手からコップが落ちていった。
「およよ……?」
タツミは落としたコップを拾おうとしていると、奥から彩芽が歩いて来る。
「当たり前だ。あくまで君の手足は君の血液と能の電気信号で動いているんだ。今の君の体がその信号をまともに送れていると思うか?」
彩芽は落ちたコップを拾い上げストローをさしタツミの口に突き立てる。
「はぁ、あとどのくらいで動けるようになってくれると嬉しいんだがな」
「あの子の授業参観……か?」
タツミは静かに頷く。
「まぁ、一週間後には人間なりに動けるだろうよ。だが、任務に関しては時間を置くんだな。
まぁ、大丈夫だ。例の日までには喧嘩くらいできるさ」
「喧嘩ねぇ……。まぁ、唯奈の前で教師を半殺しにはしないさ」
薄暗い部屋で彩芽の前のタツミは狂気に目を光らせる。
「地獄に落とす」
タツミはふらふらと部屋に戻っていく。
「ちなみに物を食べると人の回復は早くなるらしいぞ」
「ふむ、冷蔵庫に野菜と生肉があったよな。食うか」
彼は冷蔵庫を開け、中に入っていた生のニンジンを皮も向かずに食べ始めた。
「アホか。料理位してやるわよ」
タツミの抱え上げた材料を奪い取り料理を始める。
「博士料理できたんだ」
「まぁね。生きていくうえで必要だからね」
「博士、料理にはんだごては使わないぞ?」
「ちがうわ! これは煮物の柔らかさを見るために串を立ててんの!」
台所からプラスチックのボウルが飛んでくる。
「いてっ。今俺が避けられないの知ってて投げただろ!」
タツミは飛んできたボウルを机の上に拾い上げて待つ。
暫くして、彩芽が料理をタツミに出した後、彼の正面に座る。
「で、詳しく聞かせてくれる? その地獄に送るっていう言葉。もし教師を恐怖に陥れて言うことを聞かせても彼女の回りを取り巻く関係に変化は見られないと思うが」
「確かに、俺はそういう環境に陥ったことがないからな。教師は俺が何とかできるとしても、ガキどもは変わらんだろうしなぁ。そこは唯奈に頑張ってもらいたいと思っているさ。しかし、唯奈の家族環境が原因だとしたら、そこは俺が何とかするしかないだろう。あいつは必ず俺が守るさ」
タツミの言葉に彩芽は。
「まぁ、せいぜい親ばかと呼ばれないように注意しなよ」
と言って部屋に帰っていった。
「はぁ、どうしたものか。情報が少なくて動き出せないんだよなぁ」
彼は料理を口にかきこみ部屋に戻る。
「はぁ、まだ二日もこの体か。トイレもままならない。まぁ座ればいい話だが」
タツミは部屋に寝転がって頭の中で色々と考えたのち、彩芽に欲しいものをメールで連絡した。
次の日の朝。
唯奈は日課の朝練に励んでいた。
「あ! ぱぱ! もう体は大丈夫なの?」
「あぁ、問題ない。唯奈も朝練お疲れ」
タツミは冷えた水の入ったペットボトルを彼女に投げ渡す。
「ぱぱ、そういえば明日大晦日だよ」
唯奈の言葉にタツミはハッとする。
「あ、あれ? クリスマスは?」
「何言ってんのぱぱ。ぐっすり眠っている間に終わっちゃったよ。私も今もう冬休みだし……」
タツミは頭を抱えてその場にしゃがみこむ。
「し、しまった……! お、おい唯奈! 今日買い物行くぞ! ちゃんと車で! 急いで着替えてこい!」
タツミは大慌てで部屋に戻り、スーツを着て身支度を整えてまた唯奈のもとに姿を現す。
「ぱぱ……それ私服じゃないよね……?」
「……」
唯奈の指摘にタツミは目線を逸らす。
「まさか……持ってないの……?」
「まぁ……着る機会もないしなぁ」
唯奈はタツミに初めて会った時も少し着崩したスーツだったことを思い出した。
「じゃあぱぱ、一緒に選ぼうよ!」
唯奈もシャワーを浴びて準備を始めた。
「タツミ、昨日の欲しいもののリストの件だが、冬休み明けの面談の後、計画リストにあった『あれ』やるんじゃないでしょうね」
「さぁね」
タツミは少し笑いながらスーツのネクタイを緩め、第二ボタンまで開ける。
「そういえば博士、これから仕事で車の置き場所がなかったらここの地下ガレージ使っていいぞ」
「ほぉ、地下ガレージなんてあったのか」
「あぁ。山の入り口からここまで来るまでの間にもう一本道あったろ? その先のシャッターの中が車二十台収容できるガレージがあるぞ。とは言っても、俺も車が好きだからね。半分は使われているから大した量の車両は止められないがな」
タツミの言葉に彩芽は少し驚きの表情を見せた。
「驚いた。タツミに好きなものがあったとは」
「まぁな。俺の手足と車にはなんだか親近感を感じるしな。純正もいいが、改造のし甲斐はあるしな。まぁ車のキーはガレージにおいてあるから、使いたきゃ使ってくれてかまわないぞ。一般的に普及している乗用車からドイツ製超高級車、軍規格で防弾化されたオフロード車まであるぞ?」
彼の言葉を聞いて彩芽は呆れた表情を見せた。
そこへ丁度リビングの方から唯奈が呼ぶ声が聞こえてくる。
「ぱぱー! 準備できたよ!」
タツミは立ち上がり。
「じゃあちょっと出てくる」
と彩芽に言ってリビングの方へと向かい、唯奈を連れて地下ガレージへと連れて行った。
並べてある鍵を取り、車のエンジンをかける。
「す、すごい……! ドアが縦に開く車なんて初めて見た……! それに凄いエンジンの音……!」
タツミは唯奈が乗り込んだのを確認して発進させる。
最初敷地内では安全な運転をしていたタツミだったが公道に出た瞬間にアクセルを踏み倒した。
車のタイヤは甲高い音と煙を放ち、エキゾーストからは炎が飛び出す。
『ルート検索を開始。ショッピングモールまでの所要時間は四十分です。実際の交通ルールに従って走行してください』
ナビの音声を聞いたタツミは。
「二十分で着くさ」
と笑みを浮かべる。
「え? そ、それってどういう事……? パパ?」
唯奈はシートベルトをがっちりつかむ。
「そうだ、その調子で掴んどけよ!」
速度はどんどんと上がっていく。
車はカーブの度にタイヤをすり減らしながら曲がっていく。
そして、タツミの言った通りに十分で目的地に到着した。
「よーし、着いた……って、大丈夫か? 唯奈?」
彼女は車の中で目をまわしていた。
「さ、さすがに運転荒すぎたかな?」
タツミは唯奈が落ち着くのを待ってから車を降り、ショッピングを始めた。
「ねぇぱぱ。なんでパパはいつもスーツ着てるとき黒い手袋してるの?」
「ん? スーツを着るときは手袋をつけるものではないのか? 昔そう習ったのだが……」
唯奈は少し呆れて。
「それ、悪いことするときじゃないの……?」
といった。
その言葉を聞いてタツミは少し表情をゆがめて手袋を外しズボンの後ろのポケットに入れる。
「ねぇぱぱ、なんで手袋付けてるの?」
「あぁ、あの手袋な。金属繊維が使われててな、刃物に刺されても破れない優れものなんだよ。そうだ、今度唯奈にもプレゼントしよう」
タツミが説明していると唯奈が突如手を引き。
「ぱぱ! 私あっちのお店見たい!」
とはしゃぎだした。
タツミはその様子を見て少し微笑みながら唯奈の後を追う。
その日のショッピングは楽しくをし、二人の買い物は無事終了した。
「ぱぱ! クリスマスプレゼントをありがとう!」
「おう、大事にしろよ」
たまにはしっかりとした終わり方もあり寄りのあり