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TGJC mission file 2:target<捕らわれの天才> 2

あー。

 お父さんが悪い人にひどい事されてる……。


 私がいるからひどいことをされている。


 私がいなくなればお父さんも解放されるのかな……。


 そうだ、もういっそ、死んじゃおう……。


 私は目をつぶり駅に来る電車の音を聞きながら線路の中に飛び込んだ。






「これだから公共交通機関は嫌いなんだよ!」

 タツミは線路に飛び込み、左足の杭を地面に打ち込み、迫りくる電車を足のジェットと組み合わせて受け止めた。

「ライトジェットリミッター解除レベル1!」

 彼はジェットをさらに強め、電車を数メートル押し返す。

「おいガキ! 騒ぎになる前に逃げるぞ!」

 タツミは少女の手をひき駅から連れ出す。

「え……?」


 その後、二人は人気のない裏路地のカフェに入った。

「マスター、コーヒーブラックとオレンジジュース」

「おや、坊ちゃま久しぶりですね」

「マスターも元気そうじゃないか」

 ここのカフェのマスターは、タツミの精神が不安定な時期に施設から抜け出したタツミを面倒見ていた優しい人なのである。


 二人が空いている席に着くと同時にマスターが頼んだものを持ってきてくれる。

 少女は少し怯えていたが、ストローからジュースを飲み始めた。

「うまいか?」

 タツミの言葉に少女は頷く。

「そうか」

 タツミは軽い笑みを浮かべてコーヒーを飲んだ。


「お兄さん……強いね……」

 少女は小さな声で話しかける。

「おう、お兄さんは強いぞ!」

 タツミは満面の笑みを浮かべた。


「おや、坊ちゃんがそんな顔見せるなんて珍しいですね」

「うるさいなぁ。それより、今日はちょっと風通しが悪いな」

「ハイドの準備が整いました」

 マスターの言葉を聞きタツミは。

「少しいい席に行こう」

 タツミは少女を壁際に連れていく。

「な、何……?」

 おびえる少女の耳元に顔を近づけ。

「君、スナイパーついてるよ? 一体何したの。大丈夫。誰にも聞かれない、監視されていない部屋に行くだけだ」

 すると二人の足元が動き出し、地下へと運ばれる。

「さてと」

 地下の大部屋においてあるソファーに腰を掛ける。

「君、何か悪い人たちにおいたしたの? こんな子供にスナイパー二人なんて」

「私が……いるから……」

 タツミは彼女の表情の変化を読み取り。

「えっと、君の名前を聞いていいかな?」

「お、小原……唯奈……」

「ん? 君が……そうか」

 タツミは少女の顔を覗き込む。

「お、お兄さん、白髪の狩人さん……ですよね……?」

「ほう、俺を知っているのか?」

 タツミのもとに少女が駆け寄る。

「お父さんを助けて! 狩人さん! デーモンズビリーバーをぶっ潰して!」

 と泣きわめく。

「……。いいかお嬢ちゃん。人は金で動かすものだぞ」

 タツミの言葉に少女はポケットからぐちゃぐちゃの紙切れを取り出してくる。

「ん? なんだこれ……?」

 唯奈から渡されたもの。

 それは一千万円分の小切手だった。

「嬢ちゃんこれは……」

「私の一生分のお小遣い……。これでパパを救い出して!」

 唯奈は更に泣きわめく。

「……わかった。やってやろう」

 タツミは小切手を受け取り、唯奈を連れてカフェを出た。

「じゃあな。もう自殺なんて考えんなよ」

「待って! ……匿って!」

 少女はタツミの服の裾を掴む。

「かーちゃんが心配するだろ?」

「死んだ」

「とーちゃん」

「捕まった」

 タツミは少し考えた後。

「ふむ、とりあえず君に付いた虫を振り払ってみようか」

 彼は唯奈を抱き上げる。

「絶対に目を開けるんじゃないぞ」

 タツミは足のブースターを使い、スナイパー二人の後ろに瞬時に移動しナイフを首元に突き刺す。

「よし、もう目を開けていいぞって、ずっと開けていたよな」

「大丈夫……もう慣れた……」

 彼女の言葉を聞いたタツミは表情を恐ろしいものに変え唯奈を地におろし、肩を強く掴む。

「お兄さん……? 顔が怖いよ……?」

「唯奈。いいかよく聞け。人殺しの現場を見ることに慣れたなんて絶対に言ってはいけない」

「でも、私は弱いから……誰も助けられないから……」

 少女はまた悲しそうな表情を見せた。

「……。なら、俺がお前に生きるための強さを教えてやろう」

「なんで……?」

「なんでって、あのなぁ、俺は子供から金を巻き上げる趣味はない。それに、デーモンズビリーバーは俺の敵でもある。だから俺はお前からもらった小切手でお前の両親がお前に教えられなかったことを教えてやることにした。意義は認めん」

 タツミは唯奈を抱え上げ、トランプ部隊ジャックへと送られた専用の基地に帰った。


『通達

 ミッションの目標を能の排除に設定。

               エース』

 このメールが携帯に届いたのは、唯奈に夕飯を食わせ、寝かしつけた後の事だった。


「俺だ」

『おぉ、ジャック、こんな時間にどうしたんだい?』

 タツミは一度深呼吸し。

「キング、俺はトランプと敵対することになった」

 彼の言葉を聞いたキングは少し黙った後。

『おいおい、急な話だな。なんだ? TGJCで何か動き始めたか?』

「違う。実は今日、一千万で雇われた」

『そりゃまたとんでもない額だな。一体誰に』

「小原唯奈だ。父親を奪還してほしいといわれた」

『俺にそんな情報流していいのか? 一応俺もトランプだぜ?』

 キングは少し不安そうだった。

「問題ない。お前には随時クイーンとエースの動向を報告してもらう」

『ほう、俺を雇うってのかい?』

 タツミは軽く溜息をついた。

「時給百円でいいか?」

『そりゃないぜ。日本の学生バイトの時給より安いじゃないの』

「頼むよクリス。俺は唯奈を教育するって約束しちまったんだ」

 タツミの言葉にキングが少し笑う。

『そうか。俺の親友タツミがようやく楽しみを見つけたというのなら、協力してやるさ。だが、俺はお前の情報を流さない、トランプの動きをお前と話す。それだけだ』

「十分だ。俺は親友と仕事の話をするだけだ。危険はない」

 タツミはそう言った後、別れを言って電話を切った。


 次の日。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」

 朝食を食べ終えた唯奈が玄関で靴を履くタツミのもとに寄ってくる。

「少し仕事に行くだけだ。唯奈はさっき言った、腕立て腹筋背筋を百回ずつやっておくように」

「はーい!」

 二人はすっかり打ち解けた様子だった。


 公安局への移動中、タツミはユウキの元へ電話をかける。

『タツミ! 一体最近どこをほっつき歩いてるんですか! まったく、連絡もなしに……』

「悪いなユウキ。ちょっと妹が出来ちまってバタバタしてるんだ」

『はぁ!? 妹? どういうことですか?』

「事情は後で説明する。午後三時にユウキ、ミカ、マサキ、ミズキの四人で今から送る住所に行け。ついたとき、何があっても銃と刃物だけは抜くなよ。抜いたら俺が殺す」

『ちょ、さっきから何を言っているのですか……?』

「今忙しいから。じゃあな」

 そういってタツミは電話をブチ切りした。



 公安局地下会議室。

「やぁ、みんな集まっているね。今日呼び出した理由はただ一つ、もしかしたらこのトランプのカード通しの通信が何者かに傍受されている可能性があるということだ」

 少し急ぎ足で会議室に入ってきた吉原が言う。

「あたし達の通信が洩れてるって言いたいのかい?」

 クイーンが肘を机に乗せる。

 エースも少し不信そうな顔で携帯を見る。

 その様子をみたタツミはキングに。

「なぁ、傍受ってそもそもそんなに会話していたか?」

「お前だってうすうす気づいてんだろ? お前はハブられてんのさ」

 と小声で話しかける。

 少し機嫌を損ねたタツミは荒い口調で。

「で、証拠は?」

 と吉原に問いかける。

「実は、今日の明け方、トランプあてにデーモンズビリーバーへの攻撃をやめるように脅迫状が届いた」

 吉原の言葉を聞いたキングが今度はタツミに。

「まぁハブられていたとしてもこの状況はお前にとって好機なのではないか? 脅迫犯さんよ?」

「さぁ、何のことだか」

 と耳打ちする。

「それで、吉原さんはどうするんですかい?」

 キングの質問に、吉原は。

「脅迫状なんかに屈しるか! と言いたいところなんだが、犯人の正体がつかめるまでは動き出せない。トランプを知っているということはただの人間なわけがないからな」

 吉原の言葉にタツミ以外の三人も同意見の様だ。

「そうか、では少し作戦開始まで時間が出来たわけか。いつ開始命令が来てもいいように仕事は控えていたが、一殺ししてくるかな」

 タツミは立ち上がり、堂々と会議室を後にした。


「お兄ちゃんお帰り! 早かったね!」

 ジャックの家の玄関で唯奈が迎えてくれる。

「ただいま。筋トレは終わった?」

「ばっちり! 言われたとおりにやったよ!」

 タツミはしゃがんで唯奈の目線に合わせ、頭をなでる。

「さて、今何時だ?」

「今ね、十一時!」

「そうか、なら唯奈。ちょっと庭でストレッチしていてくれるか?」

「はーい」

 タツミは荷物を置き、自分もジャージに着替えて唯奈の後を追った。


「いいか唯奈。これから約三時間後に、四人の人が山道を通ってここに来る。今から、人を襲撃する方法を教えるから三時間でしっかり覚えて、四人の内一人に襲い掛かってみようじゃないか」

「殺すの……?」

「違う、ちょっと驚かせてやろうってことだ!」

 そういってタツミは楽しそうに唯奈に森や室内で自在に動きまわるテクニックを教えた。


 タツミ達の現在いるジャックの家は、政府から特別支給された訓練施設を兼ね備えた別荘の様なものだ。海沿いの別荘にはプライベートビーチがついていたりと大したものだった。

 ちなみにタツミの別荘は、山が丸ごと別荘の私有地となっていて、山の頂上の方に本家があるのである。


 そして約三時間後。

 何も知らないユウキ達が到着した。

「どうだ唯奈、ターゲットは見えたか?」

「み、見えたよ……! あのちょっと怖そうな金髪の人に飛びつけばいいんだよね……?」

「その通りだ。さっきの訓練で分かったのだが、君には気配を消す力がある。一度肩の力を抜いて深呼吸してみろ。多分気が付かないぞ」

 唯奈はタツミの言うとおりに行動し、息を潜め、マサキが着た瞬間、彼女は木から飛び降りしがみついた。

「おわ! 離せ!」

 マサキは咄嗟に動き、唯奈を投げ飛ばした。

 彼女が地面に落ちる瞬間、茂みからタツミが飛び出し自分を犠牲に彼女の衝撃を殺した。

「ふむ、武器を構えなかったから許してやるとするか」

 タツミは唯奈を抱え上げ起き上がる。

「お兄ちゃん……この人怖いよ……」

 唯奈はおびえながらタツミの後ろに身を隠す。

「おいタツミ、一体何してんだてかそのガキ誰だ?」

 マサキは頭を掻きながら言う。

「妹だ」

 タツミの返答にマサキは呆れていた。

「それよりタツミ、彼女はどこかで訓練を受けていたのですか?」

「いや? 三時間前に襲撃の方法を教えただけだ。だから二の動きがなかったろ? でもこの子、凄い才能を持っているかもしれないぞ。なぁ、ミズキ。気づいたか?」

 話しかけてきたユウキからミズキに目線を動かす。

「全く気付かなかったわ」

 ミズキの言葉に嘘偽りはなかった。

「まぁ、ここじゃなんだ。家まで行こう」

 タツミは四人を家に案内した。



 四人を席に座らせ皆に、唯奈の正体、デーモンズビリーバーの脳のこと、二つの対立した任務が課せられてしまい唯奈の味方に立つという事を決めた、ということを説明した。

「今のタツミの状態はわかった。で、俺達を呼び出した理由はなんだ?」

 マサキは椅子で胡坐をかく。

「やってもらいたいことは一つ。ミズキ、デーモンズビリーバーに潜入してくれないか?」

 タツミの言葉にミズキは意見を言うことなく了承した。

「それじゃーミズキだけ来ればよかったんじゃないの? なんであたしたちを呼んだの?」

 ミカは少し前のめりで質問攻めにしてくる。

「さっきも言ったが、唯奈は宝石の原石の様なものだ。この山は私有地だ。武術、射撃術、戦術をこの前のカオリの十分の一程度でいいから教えてやってくれ。俺は少し忙しくなる」

「唯奈さんは一応中学一年生なのでそれなりに経験があるのでは?」

 ユウキは少し不思議そうだ。

「いや、こいつには人質としての効果があるみたいでな、ここに来るときこいつの監視をやっちまった。多分向こうさんにも唯奈が逃亡中だということはもうしれているはずだ。いつ襲ってくるか分からない以上、鍛えておいて損はないだろう」

 タツミの説明に皆納得してくれたようだ。

「では皆よろしく頼む」






 そして、山での五人暮らしが始まった。

 更に時折、TGJCのメンバーが山に遊びに来て唯奈の面倒を見る。

 とは言っても彼女は日中学校があるので、基本的に訓練をさぼりに来るか単純に子供が好きという理由だけだ。


「唯奈、学校は楽しいか?」

 タツミの質問には普段瞬間的に答える唯奈だったが、この質問をされた瞬間に表情が曇った。

「た、たのしい……よ」

 唯奈の言葉に不信感を持ったタツミは次の日、彼女の持ち物に盗聴器を仕込み監視することにした。


「おい犯罪者の子供!」

「聞こえてるのかよ! お前父親いないんだろ?」

 タツミの耳に入ってきたのは数人の子供が唯奈に向けての罵声だった。

「おい、何とか言ってみろよ!」

 少年の強い言葉の後に、鈍い打撃音が聞こえた。

「私がぶったら……怪我しちゃうから……」

 唯奈のか細い声が聞こえてくる。

「おいおい、君達、じゃれるのもたいがいにしろよ」

 奥から大人の男の声が聞こえてくる。

「はーい!」

 数人の子供の声と、周囲からのクスクスという笑い声。

「チッ」

 タツミは軽い舌打ちをした後、盗聴をやめた。

 その後、彼はユウキ達に唯奈に手加減を教えてほしいと頼んだ。


 夕方、唯奈は少し汚れた格好で家に帰ってきた。

「お帰り」

 タツミは何も言わずにいつも通りに唯奈を迎えた。

「お、お兄ちゃん! こ、これ……」

 唯奈が手渡してきたのは学校の授業参観及び個人面談のお知らせだった。

「よし、これには俺が行こう。唯奈、今日の訓練があるから着替えて庭に行きな」

 彼女の少し震える手から手紙を受け取る。

 唯奈は軽く頷いて部屋の奥に行った。

「おぉ、タツミ! なんかあった?」

 買い物から帰ってきたミカが話しかけてくる。

「俺、本当に唯奈の家族になるのかもしれない」

「はい?」


 タツミはミカに今日の事を話した。

「そっか。でも今まで任務の事しか頭になかったタツミがやりたいことを見つけたなら私は応援するよ♪」

「同じようなこと昔の知り合いにも言われた。そんなに任務一筋か? 俺」

 タツミは少し笑って家を出た。


「キング。俺は世界を敵に回すかもしれない」

『こりゃまた大げさな』

「俺な、唯奈の家族になることにした。だから、トランプを裏切ることになる……」

『……お前聞いてないのか……? 唯奈ちゃんの親父さん、もう死んでるよ』

「な、なんだと!?」

 タツミは怒りをあらわにした。

『ついさっきクイーン達が入手した情報だ』

「じゃあなんでデーモンズビリーバー唯奈にスナイパーをつけている?」

『やっぱりお前か。毎日あの子についてるスナイパーを狩っているのは。まぁそれはいい。彼女の父親の能力はしっかりと唯奈ちゃんに受け継がれていた。開花していないだけだ。そして、唯奈ちゃんは昔デーモンズビリーバーの何かの機密資料を見ているらしいんだ。本当なら今すぐにでも始末したいだろうが、父親の人質としての効力があったから殺されていなかった。しかし二日程前、彼女の父親は過労と飢餓による衰弱死してしまったのさ』

「ならデーモンズビリーバーの力も弱まるんじゃないか……?」

 タツミの質問にキングも溜息をついた。

『俺達もそう思っていた。だが、デーモンズビリーバーが開発させていたのは脳みそを媒体とした高性能コンピューターだ。だから、親父さんは生きていると言えなくはない。自我は無いがな』

「そうか……」

『はぁ、デーモンズビリーバーも今夜で終わりか』

「いや、終わらないぞ」

『ほぉ、珍しいな。ならどうする……』

「明後日だ」

 タツミは電話を切った。


 その日の夜、タツミは唯奈以外の家にいる人間を招集する。

「そ、それは本当なのですかタツミ!」

 ワンは前のめりになり机をたたく。

「あぁ、ミズキからも俺の古い仲間からの情報も一緒だ」

 タツミの言葉を場の空気を一気に重くする。

「ねぇタツミ、それ唯奈に伝えるのあたしに任せてくれない?」

「……いいのかミカ?」

「大丈夫。私に任せて♪」

 ミカは、いつもとは少し違う笑顔で頷いた。

 その後、タツミは皆にこの件に手を出さないように釘を刺し自分の部屋に戻っていった。


 次の日、急激に事態が動き出す。

『ジャック。本部出頭』

 と一言だけメールが届く。

「チッ、今日は忙しいのに」

 タツミは悪態付きながら飛行デバイスを起動させる。


「タツミ君。緊急事態だ」

「俺を名前で呼ぶとは。で、何があった」

 部屋に入ってくる吉原にタツミは少し驚きながら話しかける。

「あ、あぁ、エースとクイーンが音信不通なんだ」

「そんなの俺の知ったことか。キングにでも頼めばいいじゃないか」

 吉原は顔を曇らせる。

「キング君も音信不通なのだよ……」

「何? なぜさっきの説明であいつのことを省いた?」

「彼はきっと……家で寝ている……」

「は?」

 吉原は一枚の紙切れを取り出す。

「この脅迫状によると、エースとクイーンを人質に取っている、トランプにデーモンズビリーバーの攻撃をやめさせるようにとの事だ……キングが音信不通なのは携帯の電源を落としているというのが一番正しいだろう」

「はぁ、だからあいつはいつも落第寸前になるんだよ。まぁいい。トランプは手を出さなければいい。白髪の狩人が単独で動けばいい話だろ?」

「しかし、ジャックが白髪の狩人だということも割れているみたいなのだよ……」

 心配そうに顔をゆがめる吉原。

「問題ない。お前は黙って椅子に座っていればいい」

 タツミは椅子から立ち上がり部屋から出て行った。


 その日の夜。

 部屋で銃の手入れをしていたタツミのもとに唯奈が姿を見せる。

「ぱ……」

「ぱ?」

「ぱぱ……」

 唯奈の言葉にタツミは目を丸くした。

「ぱぱ、この前の依頼取り消しできる……?」

「ほう」

「私のお金でパパに依頼できる依頼の数は一個だけ……。だから……その……私のパパになってください!」

 唯奈は深々と頭を下げる。

「いいぞ」

「へ?」

 タツミの即答に唯奈は思わず戸惑う。

「いいと言っている。すまない。パパは忙しいんだ。君のパパとしてやるべきことがあるんだよ」

「ぱぱ……?」

「大丈夫だ」

 唯奈は、今までに見たことない真剣な表情のタツミに恐怖する。


 そんな時、リビングからワンが呼ぶ声が聞こえてくる。

「大変です!」

 タツミと唯奈は急いでリビングに向かう。

「ちょっと! このニュース見て頂戴!」

 ミカのつけたテレビからは緊急速報として、隕石が地球に向かっている、その着弾点が神奈川県だという事だった。

「まじかよ……!」

 マサキも少し動揺を見せる。

 そこに、一本の電話がかかってくる。

『タツミ、そのニュースはデーモンズビリーバーが作った嘘です。どうやらタツミが攻めるのを知っているみたい。そして、それを真正面から受ける気みたい……』

「そうか。なら俺も正面から突撃するまでだ」

 タツミは表情一つ変えず答える。

『まぁ、タツミならそういうと思ってはいたけど、注意した方がいいわ。どうやら何かあるみたい』

「まぁ、本社一体を締め出して無人にしたんだ。何もないはずがないだろう」

 ミズキや他の皆が思う以上にタツミは落ち着いていた。

『タツミ、装備は?』

「ふむ、今の条件から考えるとすると、ハンドガン一丁と十二マガジン、ナイフ、防弾服が妥当じゃないか?」

『正気? そんなの敵の本陣に突っ込もうとしている人間の装備じゃないわよ!』

「忘れたのか? 俺には凄い手足が付いているじゃないか。それにスナイパーも意味はないし。ショットガンやアサルトライフルなんて邪魔なだけだぞ。そういうのは現地調達で何とかするもんだ」

『まったく、そんなの執行官プログラムには載って無かったわよ? 一体どこでそんな知識を……』

 実は、殺戮兵器プログラムを受けていたことはTGJCの誰にも話していないのである。

「まぁ問題ないさ」

『まぁ、余計な心配するもんじゃないわね。でも、奴らが『新兵器』と呼称しているものを今回使ってくる可能性は非常に高いわ。それに、彩芽博士も言っていたでしょ? タツミの手足のエンジンにはタツミの血液を使っているって。無理だけはしちゃだめよ』

 タツミは軽く笑みを浮かべ。

「大丈夫さ」

 と言って電話を切った。




 作戦決行日。

 夕方五時ごろ、タツミは神奈川県にあるデーモンズビリーバー本社に向けて進行を開始した。


 まもなく本社上空というところで何かが空から大量に降ってくる。

「何だ!?」

 タツミはジェットを使い落下物をよける。

「飛行デバイスの兵隊か。これが新兵器か?」

 彼の周りを取り囲むように浮遊する数百もの兵隊。

 しかし、形は彩芽の物とは異なり背中に付いたジェットで全身を支えている。

「あぁ、そういえば博士の研究資料にもあったな。ブースト使用時に太ももの裏を火傷する問題を解決できなくて足の裏に取り付ける形にしたとかなんとか。まぁ、結果ぶつけ本番でこのデバイスを作り上げたっぽいんだけどね。やっぱあの人天才だわ」

 そういいながらタツミは前方に進み、兵隊の一人のみぞおちに拳を入れる。

「まず一匹……?」

 彼の腕が感じ取ったのは、まるで鋼鉄を殴っているかのような感触だった。

『やぁやぁ、白髪の狩人君。どうだい? 我々の新兵器『改造人間部隊』の殴り心地は。君にはこれからその兵器と戯れてもらうとしよう。是非楽しんでくれたまえ』

 どこからか音声が聞こえてくる。

「改造人間部隊だと? こいつら……サイボーグなのか? いや違う。遺伝子操作で人工的に生み出された超人という事か……」

 タツミは周囲の考察をしながら高笑いを始める。

「はは……ははははは! 面白い! 実に楽しみだ! 少しは綺麗に踊ってくれよ! 『コード、リムリミッターリリースレベル2。コード、ジェットリミッターリリースレベル2。コード、スローワールドレベル2』。では、始めようか!」

 タツミは姿が見えなくなるほどの速度で移動を開始し、ナイフで首元を切り裂いていく。

「どうだ? いくら鋼鉄でも強さと一直線の剣筋があれば鋼鉄位余裕で切り裂けるんだよ!」

 一番星光りだす夕方の空に、血が舞う。

 

 そして、数分も経たずに改造人間部隊は壊滅した。

「興覚めだな。こんなザコ、何体送り込まれようが戦況は変化しないぞ」

 タツミは返り血をぬぐっていると。

『おや、こんなもので勝った気になってもらっては困りますなぁ』

 次に彼のもとに送り込まれてきたのは、戦闘用人型ロボットだった。

 ロボットは、タツミを囲みアサルトライフルを容赦なしに撃ち始める。

「ロボット部隊に味方への配慮なんて概念ないもんなぁ!」

 タツミは、飛んでくる弾丸をよけようとしたが、数発を手足に食らってしまった。

「まぁ、それなりによけられたと思うな」

 彼が腕を振ると、潰れた弾丸が地面に落ちていった。

「同士討ちが起きても不思議ではないが一台も落ちていないか。なるほど、鋼鉄以上の硬度がありそうだ。さて、どうしたものか」

 タツミは瞬間でロボットの後ろに回り込み、頭と体を引き離す。

「アームリミッターリリースレベル3!」

 更に腕のパワーを増大させても頭と体が離れる様子はない。

 徐々にタツミの腕の温度が上がるにつれて、煙が立ち上る。

 やがて、物が焼ける音と共に、金属の感触がなくなる。

「……? オーバーヒートか……?」

 タツミが手を見ると、ロボットの頭の部分が解け始めていた。

「なるほど、硬度を中心に設計された鉱物か。なら、耐熱面で抜けていても仕方ないかもしれないな。これ以上続けていると、フォーに上げるかツーに落とすかしないと排熱が出来ないからな。すぐに終わらせるとしよう」

 高熱の腕を振り回し、夜空を爆発で染め上げる。

 そのままタツミは一直線に本社ビルに突撃した。


 壁を突き破り、デーモンズビリーバー所有のビル二十四階の隔離施設に突入すると、そこにはトランプのメンバー三人が拘束されていた。

「ジャック、お前早くここから逃げたほうがいいぞ」

 エースがなぜか落ち着いた様子で話しかけてくる。

 しかし、タツミは一切話を聞かずに奥へと歩を進めた。


「ようこそ、白髪の狩人」

 三十代前半ほどの金髪の男がワイングラス片手に挨拶してくる。

「誰だお前」

「おっと、これは失礼。私はデーモンズビリーバーの現頭首。立花 サースフレアと申します」

 タツミは警戒しながら腰の銃に手をかける。

「おや? 外で聞いた声と違って驚きましたか? まぁ、あれはうちの科学者ですので。あれでも結構優秀な科学者なんですよ? 貴方を傷つける事すらできませんでしたが……」

 サースフレアはワイングラスを近くの机に置き、タツミに歩み寄る。

「ふむ、なかなか面白い。手足と目がサイボーグ……いいじゃないですか……。昔からけた外れの才能を持つと聞いていましたが、今は更に力をつけたようですねぇ」

 そして、彼はタツミの顎を持つ。

「あなたの才能いただきますね?」

 直後、サースフレアはタツミの脇腹にナイフを刺す。

 タツミは間髪入れずにサースフレアの脳天に弾丸を打ち込む。

「くそっ! 油断した!」

 脇腹のナイフを抜き、地面に投げ捨てる。


 その後、タツミはここが所持しているといわれている高性能コンピュータを探すために館内を散策し始めた。























「まったく、ひどいことをしてくれるじゃないですか我が弟に。まぁいいでしょう……。あの男のDNAが手に入ったのです。今回はこれで良しとしましょうか」

 床に投げ捨てられた血まみれのナイフを拾い上げたのは立花サースフレアだった。

いー。

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