TGJC mission file 12:<踊る燕> 3
あっついっすね。
TGJCの中の世界では現在十二月なので、なんか脳がぶっ壊れそうです。
「いやぁ、TGJCでショッピングとかマジ久々だな~」
マサキは串に刺さった肉らしき物を食べながら言う。
「何食ってんだお前……」
タツミは苦笑い。
「何って……焼き鳥だろ」
「いや、まぁ、うん。ショッピングモールで!? しかも部位はそれ、とさかだろ? どこに売ってたんだよ……」
「まぁ気にすんな!」
色々話していると、ミカが目を輝かせて指をさした。
「見て! ファンシーショップだって!」
「良いね! 行こうよ!」
アカリもノリノリで、二人が向かっていく背を見ながら全員がついていく。
「ユウキはずっと病院だっただろ? どこか行きたいところとかないのか?」
リュウの質問にユウキは首を傾けた。
「うーん、まぁ割と入院中でも欲しいものはネット注文とかタツミとかで間に合ってたしなー。ずっと入院してたから車とかそういうアレはあるけど、ショッピングモールで買うものとなると特にないかな~」
「そういやここ、併設に室内プール施設があるらしいよ~」
ユウヤは奥の巨大な建物を指さす。
「いいですわね、たまにはちゃんとしたレジャー施設で泳ぎたいですわ」
「マジかよスズ……」
※十二月
「あらタツミ、寒中水泳はお嫌いで?」
「ほほー、言ってくれるね。じゃあ行ってやろうじゃないか! と言いたいところだが、今現状でお前らが百パーセント武装を解くのはまずくねぇか? 俺ならまぁ軽くプールの沸騰位なら出来るし、ユウキだって体内に武器位仕込めるだろうがよ、ああいうレジャー施設って基本的に武器持ち込み禁止じゃん」
「はぁ、まぁそれはそうですわね。タツミはさらにあの部隊の件も引き受けているわけですし、色々片付いたら皆でプールに行くとしますわ」
「んだな」
アカリ達とちゃっかりついていったユイカとサオリを外で待つ間、色々と雑談を続ける執行官たち。
「タツミ、お前って弱点とか無いの?」
「なんだそりゃ」
マサキの唐突な質問に戸惑いながらも考え始めるタツミ。
「そうだな……しいて言えば薬かな。一粒ずつしか飲めん」
「けどお前、よく除痛剤とか戦闘中に飲みまくってるじゃん」
「アレな、実は葡萄味とか林檎味とかあってな、ラムネと一緒なんだよ」
「そうだったのか……ちなみに、なんで薬が飲めないとかあるのか?」
「いや、そもそも二つ以上同時に飲むとかいう感覚がつかめない。あと、昔殴られると同時に口に薬を放り込まれて殺されかけたからな」
「あぁ、つっても相当前じゃね!? なんならまだナンバー確定前じゃん!」
「ま、俺はそもそも風邪とか引かないし。後はまぁ大体の人類というか、生命体が死滅する事が弱点だな。体内にグレネードを突っ込まれるとか。毒飲まされるとか。ま、めったな事がない限りそんなヘボはしねぇがな」
「お前この前不意打ちで苦無刺されて死にかけてたけどな」
「うっせ。ったく、あれで死ねりゃ楽なのにな。現代科学の進歩はやっべぇよな」
タツミの言葉にリュウが頷く。
「俺達は無駄にしぶといからな、なんだっけ? 胃まで刃が行ってて胃酸で周辺組織が溶けてたんだっけか?」
「そうそう、まるで胃潰瘍っつってな!」
「しかも、薬の箱を開けるのが面倒で缶ごと噛み砕いて歯折れたんだろ?」
「いやぁ、折れちゃいねぇよ。というか、あそこの歯は元々折れてて、差し歯が欠けただけだ」
「それ、大差無くね?」
「年寄りに杖を渡すか四輪カート渡すか位の差はあるだろ」
「……いやそれ無いよね? 差。というかどっちがどっちだろ!」
「いやまぁその辺はどうでもいいんだよ。で、なんの話だっけ?」
「いや、特にこれと言った話題はない。買い物待ちだ」
「あぁ、そうだったか」
そう話すタツミはずっと右肩で寄りかかって顔を俯けたまま。
それに気づいたミズキは。
「タツミ? なんか調子悪い?」
「いや、大したことはない。一昨日の制圧の一件でISSからの被弾を防ぐときにちょっとな。痛覚鈍化剤を飲んでたし、服も分厚かったから良く分かんなかっただろうが、左の肩甲骨が折れててな。一応腕は独立した機械だから肩甲骨が動かなくても動かせるが、どうやら腕に血を送るポンプも故障したらしくてな、どうにも貧血気味なんだ。まぁ、幸い博士には昨日見て貰ってて、今日帰るころまでには修理と手術を始める準備を整えておくらしいから、とりあえず今日を乗り切れば何とかなる」
「それは……大丈夫なの?」
「ま、昨日殺人衝動が出るかもって思って減血剤を飲んだのは失敗だったな。まぁけど、引き続き痛覚鈍化剤は飲んでるし、このくらい平気だ」
特殊部隊に体調の良し悪し等関係ない。
この間にもタツミ達は背中に敵の視界を受け続けている。
『It’ Echo. Ready to attack. Give me signal』
『Roger. oh...Echo careful. You to be shadowed by someone』
『What? I can’t feel anything』
『Yeah. I can understand. Maybe commoner. Don’t attack her』
『Wait. Did you say her?』
『Yes. Maybe...eighteen or nineteen years old』
この通信を盗聴していたタツミは咽喉マイクを使用して指示を出した。
「通信は聞こえたな。カオリ、落ち着いて離脱しろ」
『わ、分かった』
「八重原、伏兵が居ないか確認しろ。カオリのバックアップも頼む」
『了解です』
「ユイナはそのまま追跡実行」
『はーい!』
通信を終えると同時に店に入っていたメンバーが出てくる。
「次、どうしよっか?」
「そうだな……」
その後皆で二時間ほどショッピングを楽しんだ。
「八重原、フェーズ移行。車の準備を頼む。ユイナと荷物を基地に運んだら今日はもういい」
『畏まりました』
日もすっかり傾き、冬の冷たい風が吹き始める。
ターミナルに止まったワゴンに荷物を乗せた執行官たちは顔を見合わせ一斉に走り出した。
『Target running!』
『Roger! Everyone! Move! Move!』
執行官たちが人混みをいとも容易く走り抜けていく後ろを、武装した集団が追いかける。
「食いついたな! ユウヤ、指示だしは任せるぜ!」
タツミ達は周囲の地形を巧みに使い、スピードを落すこと無く走り続けた。
「まったく、僕走るのは得意じゃないんだけどなぁ。衛星カメラ起動……敵影二十二」
「マジか……そんなに潜んでたのか……。ゴキ並みだな」
「十秒後、クワトロ展開! 八、七、六、五、四、三、二、一、今!」
ユウヤの合図と同時に扇型四方向に広がっていく。
『Two backup! The rest starts tracking in four directions!』
『Yes,Mam!』
「ユウキ! お前、なまってんじゃないだろうな!」
タツミは笑いながら話しかける。
「大丈夫だって! というか、僕が今の今までベッドで寝てた訳じゃないんだよ!? ちゃんと戦闘訓練とかもやって、一年以上のブランク取り戻してるんだから!」
二人の後ろをせっせと走ってくるサオリとミカ。
「あ、私はバックアップで離脱するね~」
「おう。頑張れよ」
「あれ!? タツミ!? 僕の時と対応違くない!?」
「活だ。活」
ミカは軽く笑いながら横に飛び、一気に天井まで駆け上がった。
「アイツ、今日パワードスーツ着てくるの忘れたって言ってなかったか?」
苦笑いするタツミの横にサオリが追いついてくる。
「言ってた……」
「やっぱ、生身のTGJCで比べたら何気にマッチョ度上位だよなぁ……。十キロ以上あるスナイパー抱えてあのダッシュだもんなぁ」
「うん……マサキとかリュウとかと……同じくらい」
「だよなぁ」
ため息をついたタツミの頬を、弾丸がかすめ取っていく。
「もう撃ってきやがった。俺ら以外見えてねぇってか?」
「一図なのは嫌いじゃないけど、もう少し周りを見てほしいよね~」
「アホか。ヤンデレはお断りだ」
「二人とも……いいからポイントまで走って……」
「はいよ。二人とも、ケツを鉛玉で蹴り飛ばされねぇようにな」
「蹴られたら貫通するね」
二人の会話を気聞いてサオリはため息をついた。
「はぁ……。二人って無駄に仲いい……。しかもナンバー分け前突然……キモい……」
「なんだ、妬いてんのか?」
「ち、違う!」
「お、おう……」
珍しく大声を出したサオリに驚き、上半身で慄くタツミ。
「そろそろポイントだよ」
目の前にはショッピングパークの荷物搬入所。
三人はその中に駆け込み、暗い倉庫の中に立ち並ぶ商品の棚に身を隠した。
「あっちの件はどうなってるの?」
「問題ない。ちゃんとあのおっさんに組み込まれたチップは持ってきた。蒼天煉会の日本支部の奴らは絶賛ここに全火力で集結中さ。スワローズとわざわざ正面からやり合ってこっちの手の内を見せる必要もねぇしな」
すると、サオリがカメラの映像を見せてくる。
「両方来たよ……」
「おう。サオリも、一晩で同型チップの複製で大変だったのに、ご苦労だな」
「ん……大丈夫」
突然、入ってきた方向とは反対の壁が爆散した。
そして無数の発砲音が響き、周囲の段ボールが崩れる。
「行くぞ」
タツミは二人に小声で合図し、三人一斉に天井に向けてワイヤーショットを撃った。
天井に繋がるワイヤーを、スーツに搭載されたリールで巻き取り静かに上へ上がっていく。
天窓から三人は這い上がり、悲鳴と共に逃げ出す民間人を上から眺める。
「流石にスワローズも蒼天煉会も民間人をわざわざ攻撃しないだろうしな」
「これで……完璧」
「そうだね。僕とユウヤの作戦、完璧でしょ?」
「あぁ。まさか日本本土を舞台にした、ただのアメリカ対中国の戦争に仕立て上げるとはな」
「まぁ完璧とは言い難いけどね。敵のバックアップはミカが排除する事前提だし」
『こちらツー。バックアップクリア』
「こちらゼロ。了解した。他の三隊へ通達。倉庫班、バックアップは任務完了だ。何かあれば言ってくれ」
『こちらエイト! ちとまずいぜ! 戦車だ!』
「あーそう。頑張れ」
『ちょ、タツミ!?』
「まぁ筋肉戦車のマサキなら行けるかなって」
『無理だ! ありゃ傷痍、重装甲、機関銃、なんでも備えてやがる! 俺達の現状の持ち込み武器じゃ太刀打ち出来ねぇ!』
「……分かった。ユウキ、行くぞ。サオリはそこで引き続きカメラ監視を頼む。もちろん、下の戦闘がヤバきゃ退避していいぞ」
「ん」
タツミとユウキは軽く走り出した。
「けどタツミ、肩甲骨は大丈夫かい?」
「それは問題ねぇ」
「それは? と言うことはどこか不調でも?」
「マサキの話が本当ならば、その戦車を倒すのに俺達の武器を使ったところで不可能なことに変わりはない。つまり、必然的に人工体の俺らが戦う事になる。けど、俺は今減血剤の影響でレベル二までしか解放できない。お前は脳みそと口回り以外を全て機械に換装してるから血液の循環もない変わりに、俺みたいに薬で強制的に機械の能力をあげる事も出来ないだろ。レベル二程度じゃどうせ戦車の走行も壊せないぜ?」
「確かに……なんで行くなんて言っちゃったの!?」
「ま、策はあるからな」
そう言いながら、黒煙立ち上る方向へ向かう。
「よぉ。待ったか?」
「なぁタツミ……呼んどいてあれなんだけどよ? お前……さっきの通信の話マジか?」
マサキは物陰に身を隠しながら尋ねた。
「マジだ。ま、安心しろ。策はある」
そう言いながら戦車の前に飛び出すタツミ。
けたたましい轟音と共に放たれた砲弾をアヤメニウム製金属バットで撃ち返した。
「いやぁ! ひっさびさにこいつを登場させたぜ! あ、ちなみにユウキの分もあるぜ。ほらよ」
「っとと」
投げ渡されたただの棒を受け取り眺めるユウキ。
「その棒はアヤメニウム製の以下略だ。熱伝導率、電気伝導率、耐久性は折り紙付きだ。ま、アヤメニウム溶解液には相変わらず弱いから、死なば諸共ってヤツだ」
「へぇ。ちなみに、二発目撃たれてるよ?」
「はっ?」
タツミは咄嗟に振り返り、迫った砲弾を前腕と二の腕に挟んで受け止めた。
「わお。ナイスキャッチ」
「ユウキテメェ、そういうことは早く言え」
「なぁ二人とも……そろそろ戦車壊してもらっていいか?」
マサキは周りに弾丸をばらまきながら苦笑い。
「はいよー」
タツミは捉えた砲弾を持って戦車に正面から歩み寄り、砲口に弾を入れて金属バットで塞いだ。
「ほれー、撃ってみんしゃい。どうしたどうした?」
タツミは煽りながら運転席の隙間に顔を見せる。
「撃ったら中で暴発するけどね~。あはははは~」
わざとらしい演技に周囲の敵味方問わず困惑した。
しかし次の瞬間、運転席の隙間から血が飛び出す。
「はぁ……乗り物に乗って攻撃する時は正面ばっか気にしてると、上から悪人が襲ってくるかも知れねぇから気をつけなきゃいけないのに」
「豚に真珠、猫に小判、だね」
戦車のハッチから死体と共に姿を現したユウキ。
「どうだ? 久々の戦場は」
「どうと言われてもね。というか、まだ敵残ってるんじゃないの?」
すると、煙りあがる銃をもってマサキがやってきた。
「安心しろ。戦車が居なきゃ、蒼天煉会も相手じゃねぇ」
「スワローズはどうした」
タツミの質問に、彼は首を横に振る。
「戦車に掃討されちまった。ま、映像は取れてるし問題はないだろ」
『こちら四班、作戦終了ですわ』
『こちら二班、同じくだ』
「こちらワン。了解だよ、警察やらが来る前に撤収しちゃおう」
一斉にパークの出口に向けて走り出し、駐車場を目指した。
駐車場では、八重原がバンボディの中型トラックで待っている。
全員が乗り込もうとした瞬間、大量の武装車両が駐車場に入り込んできた。
そして、設置された機関銃が一斉に火を噴く。
「全員乗れ!」
タツミは一人外に残った。
「お前! どうするつもりだ!」
マサキの怒号にタツミは軽く笑い、トラックの影に止められていたオープンハイパーカ―に飛び乗る。
「全員に通達。俺は……そうだな、一足先に逃げさせて貰うとするかね!」
軽く笑ったタツミはダッシュボードからLMGを取り出し腕に固定しアクセルを踏み込んだ。
けたたましい咆哮の様なエンジン音と共にタイヤをスリ減らす甲高い悲鳴。
煙をあげて黒い跡を地面に擦りつけ、マフラーから炎を吹き出す。
「八重原! 早くトラックを出せ! 死ぬぞ!」
その瞬間銃とは違う、鼓膜を通り越して脳を揺らす様な爆発音が響き二台の近くの地面を抉り取った。
さらに、それは一発では無い。
数発の砲弾が一斉に降り注ぎ、周囲の車にぶつかり誘爆を起こした。
『教官! 衛星レーダー情報によると道は完全に封鎖されてます!』
「道は封鎖だ? 馬鹿言ってんじゃねえ! 道ってのは物が通る場所なんだよ! 通れりゃそこは道なんだよ! ついてこい!」
タツミは正面の壁に銃を乱射し罅を入れてギアを入れなおす。
『正気ですか!』
「正気でやってられっかこんなバカげた事をよ!」
ギアボックスの後ろに付けられた赤く点滅するボタンを押し込み、マフラーから今度は青い炎を吹き出し、時速は一瞬で百八十キロ。
「全員歯食いしばれぇぇ!」
砂埃とコンクリート片を突き破り、高級車と防弾トラックが公道に飛び降りた。
「俺はこのまま右折して奴らを引く。お前らは行け!」
そう話しながらタツミはブレーキを踏み込み、後続の敵武装車両をリアバンパーで受け止める。
衝撃を感じながらも後ろを振り向き中指を立てた。
「どうだ、高級車の塗装と排気ガスはキャビアの味でもするか? そうそう、キャビアには白ワインが合うらしいな」
そう言うと彼は、液体の入った瓶を武装車両のフロントガラスに向けて投げつける。
「おっと、ガラスが邪魔か? ならぶち破ってやるよ」
タツミはアクセルを踏み込むと同時にハンドガンで武装車両のフロントパネルを撃った。
その瞬間、割れた瓶から飛び出した液体が突然発火し、武装車両は勢いよく炎上し爆発。
「おや、これは白ワインじゃなくてガソリンだったか!」
げらげらと笑うタツミの後ろを戦車と武装車両が追いかけていく。
「さてさて、まさかここまでの重装甲が来る事を予想してなかったからこいつはただのスーパーカーだし。そもそも、公道を封鎖してなかった時点で戦車は失策としか言えない。こちとら最高速度三百四十の車だぞ? まぁ、俺らの任務はアイツらの始末だからな」
ドリフトで交差点を駆け抜けるタツミを戦闘に武装車両が弾丸をバラまきながら追って来た。
「マジかよ! 街中だぜ? クソッ、民間人を危険にさらす行為を単独でやるわけにも行かねぇし……とりあえず市街地へ出るか!」
高速道路の入口に向かい、バーを跳ね飛ばして急行する。
しかしその瞬間、轟音と共に目の前の道路が崩れ去った。
「戦車の砲撃!? よっぽど俺を殺したいらしいな!」
タツミはアクセルを踏み込み、勢いよくハンドルを右に切る。
崩れた橋から飛び出し、火花と共に公道に着地。
「こりゃバンパーがまずそうだ」
後ろからは瓦礫を乗り上げる戦車と高速から飛び降りてくる武装者が。
「しつこい……」
しかし、高速から飛び出した武装車数台が空中で衝突し、ルーフから地面に突っ込み横回転で建物に突っ込んだ。
遠くからサイレンが聞こえてくる。
「厄介なのが首を挟みに来やがったな」
車を走らせながら、正面に現れた警察車両を見てハンドルをきり、街中を蛇行していった。
警察車両の数はどんどん増えていく。
しかし、敵の車両は追跡を諦めるどころか警察だろうが何だろうがと言った様に銃を乱射し、すでに警官の死者も出ていた。
「こりゃこっちも逃げてるだけじゃダメそうだ」
サイドブレーキを引き、車の頭を百八十度回転させる。
フロントガラスを蹴り外し、ダッシュボードにLMGを構えた。
「俺の腕が本物じゃなくて残念だったな」
タツミが引き金を引くと、無数の弾が銃口から放たれ目の前の車のバンパーに向かっていく。
それでも目の前の車は走行を止めずに直進したが、遂にエンジンから火を噴き大爆発を起こした。
「やっべ」
爆発し飛び上がった車体片が、めくれかけたボンネットの隙間に入り込み、タツミの車のエンジンから黒煙が上がり始める。
「急いで逃げ――」
彼が飛び出そうとした瞬間、タツミの車も大爆発を起こした。
赤々とした火柱が二本、地面から立ち上る。
「げほっ……。俺のイタ車が……」
※痛車× イタリア車○ 補足、イタ飯みたいなもん。ちなみにフェラーリF8スパイダー。
服に燃え移った炎を叩きながら立ち上がる。
しかし、あっという間に戦車と武装者の銃口に囲まれてしまった。
「久しいな。ゼロ」
正面の車の助手席の扉から声をかけながら出てきたのは右目に眼帯を付けた男。
「…………」
「おや、その顔は覚えてない様だな。まぁ、確かにお前と俺に面識はないさ。執行官№1はいるか」
「ワン?」
「俺の名前はビルイス・ロー・クーザ―だ」
「ほぉ? アメリカ軍史上最年少の元総大将か、また珍しい」
『今から行く』
「えは?」
「来る、と通信でも入ったか?」
「……」
「彼と俺はいわゆる因縁の敵というやつだ、と俺は個人的に思っている」
「そうか、お前クリスチャン・ウォンの所の改造人間か。ユウキと休戦してアメリカ軍のヘリ部隊に単身で突っ込んだ馬鹿野郎、だったか? 確かあの後ヘリは墜落したはずだが?」
「あぁ。俺がやった」
「生きてたのかい?」
後方のトラックの影からユウキが姿を現す。
「で、俺はどうすればいい? まさか、好敵手の仲間を見つけたから尋ねてきた訳じゃねぇんだろ? まさか、酒とつまみで鑑賞してろなんて言うんじゃねぇだろうな」
「そもそも俺達の目的はあんたらの排除だ。ただ、俺は彼をこの手で仕留めたかっただけ。お前ら、やれ」
一斉に銃口がタツミに向き、弾丸の雨を浴びせた。
「ゼロ!」
「まぁ落ちつけ。レベルツーでも致命傷を逃れるくらいは出来る。が、流石にきついな」
砂埃晴れて現れたタツミは左わき腹を抑えている。
「耐えた……相変わらず執行官と言うのは人間を超越しすぎている」
「あぁ、俺もそう思う。時間の使い方とかな」
『こちらキングフィッシャーA2。対象エリアを確認。五秒後にミサイル投下開始。友軍は直ちに避難すべし』
『後続、エアータクシーD4(デルタフォー)。ミスターゼロ、チャンスは一度、地上到達期間は四秒です』
タツミは軽く笑ってユウキにサバイバルナイフを投げ渡す。
「死ぬなよ」
「これでかい?」
「十分だろ」
「はぁ……。ちなみにゼロ、航空支援はなんて言って要請したんだい?」
「あ? 敵車列が地雷にかかって足止めされてるから一網打尽にしてくれってな」
「は? ちょっと待って!? それ、巻き込まれる――」
「いやぁ、まさかお前が来ちゃうとは思わなかったぜ」
その瞬間、空に戦闘機が一台現れ、上空でミサイルを離して地面に落した。
爆音と灼熱と衝撃。
それの前では戦車も機関銃も無力。
煙立ち上る空を戦闘機が去っていく。
『こちらキングフィッシャーA2、着弾を確認。帰投する』
『エアタクシーD4……回収対象の目視不可……』
「ゼロだ。そのまま任務を続行しろ」
『い、生きていらっしゃった! 任務を続行します!』
「その声、いつものあんたか。イラン以来だな」
『ご無沙汰してます……。十秒後、ロープ着地します』
煙の中、目を光らせるタツミ。
彼が、突然目の前に現れたロープを左手でつかむと、体を一気に持ってかれて煙の外に出て全てが明らかになる。
小型輸送機につなげられた縄。
その縄にぶら下がるタツミ。
『ご無事ですか』
「あぁ。このまま軍事空港まで向かってくれ」
地上。
「げほっ、げほっ。全く、無茶苦茶だね、ゼロは相変わらず……」
「ほう? 生身の人間が……」
「申し訳ないけど、もう僕は生身じゃない。崩壊したあの山の建物の瓦礫に巻き込まれてね。失明、全身麻痺。だから、生きている部分だけを取り出して機械に詰め込んだ、一種の人造人間さ」
ユウキはタツミから受け取ったナイフを抜いて構える。
「そりゃいいな」
ビルイスは死体のもたれかかる車を持ち上げ、中から金属棒を引き抜き引きずった。
「行くぞ!」
彼が鉄パイプを振り上げて突進する様子を見て、ユウキも一気に走り出し、金属音を響かせる。
「懐かしい、懐かしい感覚だ!」
「楽しそうだな、ビルイス」
「何、こうして前線に立つのは久しぶりなのさ!」
「良く分かる!」
二人がぶつかるたびに地面に火花が舞い落ち、近くのガソリンに引火して爆発した。
しかし、二人は互いを微動だにせず。
左腕で金属棒を受け流し、右手でナイフを突き立てた。
「相変わらず怖いもの知らずの様だな!」
「僕たちはThe Gray Justitiaだよ? 灰色の正義。正義のヒーローや軍人を相手にしてるなら考えを改めた方がいいかな」
「CIAのエージェントみたいなもんか」
「アメリカ人の政府関係者はわりとルールに忠実なんじゃないの?」
「本当にそう思っているならお前こそ考えを改めるべきだな!」
二人とも一度距離をとり、乱れた髪や服を正す。
「余裕じゃん」
「そっちこそだろ」
「死に装束は綺麗なほうがいいでしょ?」
「気が合うな」
そういうと、ビルイスは懐から勲章を取り出し服に付けた。
「陸軍名誉勲章」
「あぁ。俺は従軍中に史上最多の三つを獲得した。そして学んだ。どんな英雄も、故障すればポンコツになり下がるのさ。お前も分かるだろ? 無駄に政治がらみの事件に首を突っ込まされる。けど、上は常に切り離す準備をしている」
「そうかも知れないね。けど、僕には家族がいる。一緒に戦ってくれる家族がいるから」
「はっ……。仲間とは言わないんだな」
「当然さ。だって、アイツらは普通に嘘をつくし、裏切るからね」
「なら、どうして」
「お互いを信じてるからさ。君は……誰かに信じられて裏切られた事はあるかい? 僕はある。うちのゼロとかいう男は味方の頭上一センチをめがけて超遠距離狙撃をしてくるし、ファイブが執行官を殺そうとした数なんかも数えきれない、エイトとセブンなんてしょっちゅう喧嘩してる。だって、突然密室で毒ガス投げるんだよ? けど、それは僕たちがガスマスクを瞬時に付ける判断が出来ているから。エイトとセブンだって互いに本気で言い争ったところで本心は怒ってない事を知っているから。家族ってさ、そういう不安定な物の上に成り立ってる物だと僕は思うんだよ。ま、実の血縁者は全員この手で殺したけどね」
ニコニコした顔で話すユウキに違和感を覚えつつも楽しそうな表情のビルイス。
「そろそろ行くぞ!」
「……悪いけど、僕も暇じゃないんだよ。ま、君とまた話が出来たのは嬉しかったよ。もし、来世があったら友達になりたいね」
表情をピタッと固め、真顔になったユウキは懐から拳銃を取り出した。
「言ったでしょ? 僕らは灰色の正義。作戦遂行の為ならばどんな手でも使う」
「……はは、そうらしいな。M1905、また変わった物を」
「フレーム流用に最適だっただけだよ。装弾数は十四、ダブルアクション機構も強制的に乗せてある」
両手で銃を構え、アイアンサイトをビルイスの眉間に向ける。
「ふっ、こりゃ完全に不利だ。ま、それで諦めるつもりもないけどなぁ!」
彼は突然左右に揺れながら走り出した。
ビルイスは腐っても元アメリカ陸軍最強軍人。
その運動神経から生み出される左右への動きは中々拳銃の照準を絞らせない。
しかし、ユウキは表情を崩すことなく、落ち着いた様子で銃口を向け続ける。
「死ねぇ!」
気が付けば、ビルイスとユウキの距離は僅か一メートル程になっており、互いの目をビルイスは狂ったように、ユウキは氷の様に冷たく見つめていた。
そして。
パァン。
一発の銃声。
散る彼岸花の様に宙を舞う血。
眉間を貫かれ、後方に飛ぶ体。
銃口から立ち上る白い煙。
地面に落ちたビルイスの体にユウキは銃口を向け続ける。
そのまま、彼はトリガーを引き続けた。
ビルイスはもう息をしていない。
それでも、全身に銃弾を打ち込んでいく。
体は、弾を撃たれるたびに電気を流されたかの様にビクンと跳ね上がった。
弾倉が空になり、ようやく銃声が止む。
銃を懐に戻し、片膝を地面についた。
胸に付けられた名誉勲章を真っ直ぐに直し、立ち上がってその場を去る。
「もう起きてこないでね」
同刻、都内某所ホテル。
「...All signal lost...」
「Withdraw...」
「B,But commander...」
「This is order...After the collection, we're withdrawing」
「Yes, ma,am」
外国人二人が話す部屋のドアが突然蹴り開けられた。
「What!?」
「おやおやおや、どこに逃げると言うんだ?」
「貴方達は国際法に抵触する行為を行いました。TGJCの名のもとに確保します」
部屋に現れたのはショットガンを担いだマサキと巨大な銃口を持つハンドガンを構えるミズキ。
動き出そうとする外国人に向かってミズキは銃を向ける。
「動かないほうがいいわ。この銃の弾丸は18mmx30mm特殊砲弾。鼻に当たれば顔ごと吹き飛ぶわ」
「そういうこった。死にたくなけりゃ言う通りにしな」
その瞬間、男が叫びながら銃を構えて突撃したが、呆気なくマサキにハチの巣にされてしまった。
「Ken!」
「次はあんたかもな」
マサキはショットガンをコッキングしてトリガーに指をかけたまま銃口を向けて近づく。
「Sit..! What is Special Forces!?」
「それは表の顔だろ? 俺らの本文は何でも屋。目的の為ならどんな手段も厭わない。何人殺そうが、拷問しようが、人質を取ろうが、そんなのどうでもいい。ただ、目的を達成できるなら」
「...Monster」
「Good sense」
マサキは答えた瞬間にショットガンのストックを女軍人の鳩尾に打ち込み気絶させた。
「こちらエイト。一人ぶっ飛ばしちまったが、指揮官は確保した」
『こちらテン。まぁ一応蒼天煉会との戦闘跡で生き残ったスワローズも戻って回収したから、大丈夫かな。ただ、どこかの白髪さんは博士にこっぴどく怒られて、全身麻酔でラボに連れていかれてるから、面倒は持ち込まないでね』
「あのバカ……。まぁいい。了解した。ちゃんと汚れは落して帰る」
彼が通信を入れている間に、ミズキは慣れた手つきで女軍人を拘束し、顔に布をかぶせる。
「あんたが運んで」
「はぁ? まぁいいけど。こいつは頼むぜ」
マサキはミズキにショットガンを投げ渡した。
「部隊№8、後処理を頼む」
『イェス、サー』
「よし、行くぞ」
女をキャリーバッグに詰め込み、銃をコートの中に隠す。
その瞬間、ドアベルが鳴り響いた。
「はい」
『すいません、区役所と間違えました』
「あぁ」
マサキがドアを開けると、ホテル従業員の恰好をした男性が三人。
「お前ら、隠ぺいが終わったら部屋ごと爆破しろ。あくまで事故の様にな」
「了解です、教官」
「後は頼んだ」
ホテルマンに扮装したマサキの直轄部隊と入れ替わりに二人は本部に帰った。
数日後、一旦の傷が言えた執行官たちは吉原に集められていた。
「何かあったのか? 俺はこれからゼロ部隊の再教育任務が控えてるんだが……」
未だ、タツミの服の隙間からは巻かれた包帯が顔を見せている。
「その件なんだけどね……、メディアが……」
「は? メディア?」
「そ、そうなんだ……。カレリアで開戦してから日本のメディアを始めとした国民が軍系に興味を持ち出してね……。特殊部隊の取材をしたいっていう連絡が無数に来てるんだ……。今までは世間一般への存在がうやむやだったし、隠ぺいしきれないような事も無かったからあれだけど……、この前の市街地での大規模戦闘、国内違法薬物製造工場の一斉爆破、SJCによる戦線への兵派遣。流石に存在自体を隠ぺいするのが困難になってきてるんだよ……。執行官諸君は、ゼロ部隊の再教育が終了次第、共にカレリアに訪れて向こうの軍人と会話と前線押上に協力してもらう。そこまでをメディア公開するのはどうだろうか……? もちろん、撮影可能区域はまた別に用意するTGJC拠点と、訓練施設および移動車両内のみで、君たちの自宅や周辺の人達を映す様な真似は絶対にさせない」
執行官たちは無言で顔を見合わせた。
「けど、いいのか? 知ってると思うが、俺は訓練生を殺してる。何十、何百、何千の命を奪ってきている。下手をすればテレビ局の人間を殺すぞ。実際に顔を合わせて存在を認知した時点でこちら側の人間だ。それだけは忠告だ」
「もちろん……理解している」
「もし、戦線押上げ作戦に参加するなら俺らは上空五万メートルからの空挺降下が打倒だろ。そう言うのはどうするつもりなんだ」
「小型カメラとかじゃないかな……?」
「まぁ、メディア自体は別にかまわん。ただ、問題に関してはこちらで随時解決する。命の保証は出来ない。この条件を局に突きつけろ。それで諦める様ならくだらないジャーナリズムでゴシップでも追っかけ続けろと伝えろ」
「……わかった、伝えよう……」
「クリスにもちゃんと伝えとけよ」
タツミは立ち上がって手を振りながら部屋の出口へ向かう。
「どこに行くんだい?」
「調整。こちとら故障個所の調整中に招集かけられてんだよ」
「そ、それはすまなかったね……」
彼が出た後、少し不安そうに吉原が尋ねた。
「な、なんか機嫌悪そうだったね……」
するとマサキはため息をつく。
「機嫌が悪いっつーか、全身麻酔直後に来てたわけだし、まだ全身の感覚戻ってねぇんじゃねぇのか? タツミの座ってた所見てみろよ。水、溢しまくってるぜ?」
「ほんとだ……」
「あと、俺からもさっきのタツミの忠告に付け加えさせてくれ。絶対に間違えた行動はするなよ」
「と言うと?」
「ほら、テレビとかってたまにあるだろ。その場で『お願いします!』とか、タレントに無理やり言わせたりとかそう言う感じのやつ。もし、そんなことが起きればアイツはタレントだろうがカメラマンだろうがディレクターだろうが関係なく殺す。もし、それに怒ったファンがタツミを殺そうとしても確実に返り討ちになって負の連鎖が続く。だから絶対に間違えるなよ」
「分かった……」
「じゃあ僕からもいいかな?」
ユウヤがゆっくり手をあげる。
「なんだい?」
「放映と同時に事件を起こしてよ」
「どういう事?」
「タツミは警察革命軍に正体を隠してパイプを作った相手がいる。彼に素性がバレるのはまずいかなって」
「いつの間にそんなパイプを……まぁ分かった、何とかしてみるよ」
「じゃ、いつも通りこっちが実地処理で、そっちが書類処理で行こうか」
ずっと銃とか車の固有名詞を出すのを避けてきたのですが、調べてみたところ、まぁ商業用じゃないし、何の問題もないことが分かったので、これからはちょいちょい固有名詞出してイメージをつかみやすくするように努力します。




