表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/47

TGJC mission file 2:target<捕らわれの天才> 1

思いついた日に四時間くらいで一気に書き上げる人間です。

「海だー!」

 タツミは船を飛び降り、砂浜を走り上半身の服を脱ぎ捨て飛び込む。

「ちょい! タツミ! ずるいぞ♪」

 ミカも彼の後を追って飛び降りる。

「お前らなぁ、カオリちゃんの訓練でこの島に来てるんだから遊んでる暇は足してないからな?」

 真面目そうに言っているマサキだったが、しっかりアロハシャツを着こみ、サングラスをかけ、船の甲板でトロピカルジュースを飲んでいた。

 そこにサオリが来て、無言でメモをマサキの顔に張り付けた。

「うお! ん? これ、トレーニングメニューか。やっぱサオリに任せて正解だったか! って……ん? おいこれサオリが講師として訓練するメニュー入ってねーじゃねぇか!」

 サオリは右手で軽く敬礼し、早着替えで水着になり、船から飛び降りた。


 その後、彩芽によって全員訓練施設に連れ戻され、サオリはメニューを書き直された。


「と、言うわけで。まずは近距離格闘術の伝授をこのエイト様が教えるわけだ」

「よろしくおねがいします!」

「それと、あそこ腕を組んでいるのが『博士が足の改造やら調整やらで足を奪われたため、逆立ちで海まで向かっていたところを俺に捕まって連行された』タツミだ」

「ビーチパラソルまで連れて行ってくれるかと思ったらこんなところに連れてこられちまった……」

 タツミは少し不機嫌そうだった。

 島地下格闘訓練場。

 ここには様々な格闘用機械が設置されている。


 訓練開始から約三時間。

 カオリが給水休憩をを取っていると、島中にエマージェンシーの集合アラートが鳴り響く。

「カオリちゃん、行くよ!」

「はい!」

「ちょいちょい! 俺を置いていくなぁぁぁ!」


「どうした」

 マサキとカオリが会議室に到着した。

「二人とも、大変よ!」

「だから……置いていくなって……」

 ユイカが話しかけたとき、息を切らせながら逆立ちでタツミが現れる。

「何してるんだタツミ……大道芸の練習か?」

「黙れリュウ、俺だってやりたくてこうしてるわけじゃないぞ!」

 怒るタツミを見て彩芽は足を渡す。


 その後、タツミは足をはめ、状況の説明を聞く。

 ワンは深刻な表情になって言った。

「落ち着いて聞いてくださいね……これから……第三次世界大戦がはじまるかもしれません……」

 場の空気が凍り付く。

「ワン、詳しく聞かせてくれ」

 ゼロが珍しくまともに質問する。

「は、はい。今から二百年ほど前に起きた『対新帝国戦争』をご存じですか?」

「あぁ。全世界を植民地にすることを前提としたヨーロッパ周辺で出来上がった帝国を、アメリカ軍が主体となって潰し、三年後には帝国の因子は排除完了した戦争だろ?」

 ユウキが説明してくれる。

「はい、戦争について現在表立って知られている情報は、アメリカ軍が勝利した、という事実のみです。ここからは、上より入ってきた情報を説明します。対帝国戦争の時のアメリカ軍の勝利はぎりぎりの物でした。原爆こそなかったものの、毒ガスや、航空攻撃。様々な戦法で責めました。対して帝国側の戦力はアメリカ軍の三分の一以下。ではなぜ三年もかかったのか。簡潔に言えばはやり病です。病気による進行が止まらず、アメリカ軍は次々と戦力がそがれていったのです。一般人であれば、衛生面等を疑うのが妥当ですが、この戦争に限っては違います。そもそも、何故新帝国などというものが誕生したのか。これに関しての正しい情報はない。が、『マッドマン』という男の存在が噂されている」

「マッドマン……聞いたことないわね」

 ユイカは足を組み、顎を摩る。

「そのマッドマンという男が生物兵器をつかい、ヨーロッパを裏で操っていて、その頭脳と科学力を信じ切った人間たちが作ろうとしたのが新帝国」

 ユウキの説明を聞いたゼロは。

「ふむ、その辺の事情は理解した。だが、その第三次世界大戦と何の関係があるんだ?」

「それが、数か月前、マッドマンとその側近達が生きている可能性が出てきた。というのも、マレー半島周辺の海域で『ドラゴンフィッシュ』が目撃され始めたらしいんです」

「ドラゴンフィッシュ? タツノオトシゴか?」

 マサキは皆の想像を代弁してくれた。

「いえ、ドラゴンフィッシュというのは、マッドマンが作り出した人工生命体です。肉食で、戦車でも一瞬で噛み潰せる程の強靭な顎を持ち、陸上でも蛇のようにうねりながら移動する生命体です」

 その話をきいたユウヤは。

「げっ、そんな奴いたら大問題になるだろ」

「その通りです。昔出現したときは海が地獄と化したそうです。今となっては映画にフィクションとして使われていますが、巨大サメ映画の原点はドラゴンフィッシュともいわれているのです。さらに、つい最近潜入調査が行われたらしいんですが、その情報が洩れていて、捜査官はほぼ全滅させられたそうです。逃げ帰ってきた調査員によると、すでに生物兵器が大量に開発されていて、人造人間の兵士部隊も編成されていたとか……。ここまで膨大になられてしまうと、TGJC単体だけでは手を出せません。全世界の同盟を組んで相手しなければ相手は出来ないでしょう……」

 ユウキは少し難しい顔を見せた。

 すると、彩芽が。

「ふむ、ではタツミの手足をさらに強化しておかなくてはな」

 そういうと、彼女はタツミに歩み寄り、手足をもぎ取っていった。

「え!? ちょ! まて博士! う、動けないって俺! ちょいちょい! え! 無視!?」

 タツミの呼びかけに、何かを思い出したかのように博士が戻ってきた。

「よ、よかった!」

「すまない。眼球を持っていくの忘れていた」

「へ?」

 博士はタツミの眼を持って行ってしまった。

「えぇ……そんなぁ……」

 タツミはがっかりした表情を見せた。

「タツミ、ちょっといいかしら?」

 突如話しかけてきたミズキはタツミの有無を聞かずに持っていった。


「タツミ……あなた、今までの二年間、穏便に生活してきたわけじゃないんでしょう……?」

 ミズキの質問に、タツミは。

「穏便に過ごしていたさ。ドラゴンズハートとの無線履歴も聞いたんだろ? 俺の記憶が戻ったのはつい数日前。そんな仕事できるわけないだろ?」

「嘘だよね」

 ミズキの言葉にタツミは少し動揺する。

「根拠は?」

「白髪の狩人」

「それを……どこで……」

 ミズキの言葉を聞いたタツミが表情を変える。

「裏の界隈じゃ有名な殺人鬼の名前……。一年半前に突如として現れた謎の狂人……。ターゲットとその周りの無害な人間まで全てを殺しつくす、最凶の化け物……。そして、TGJCの任務の中で名前が出たのに唯一ターゲットにならなかった者」

「なるほど……じゃあ俺の存在は昔から分かっていたわけか……?」

「いや、本当なら始末命令が出ていたはずだったの……。でも、戦闘映像を見て、始末は見送りになった……」

 ミズキがタツミに見せた映像に写っていたのは、影の様な何かに次々と人が殺されていく映像だった。

「ね……わかるでしょ。人間の動きじゃない。私たちにはどうしようもできない。でも、この前のタツミの戦闘を見て分かった。白髪の狩人ってタツミだよね……」

 ミズキの質問にタツミは無言になった。

「タツミ、二年前の事件の後半年以内に記憶戻ってたのよね……。でもどうして殺人鬼なんて……」

 タツミは黙っていたが、急に口を開いた。

「人の命は平等か?」

「そ、それは……」

「もし平等なら、何故俺達は犯罪者を殺す? それが正義か? 犯罪を犯した瞬間に命の価値は下がるか? 人殺しは犯罪。俺達と犯罪者の違いはなんだ?」

「……」

「な、俺達は正義の皮を被った犯罪者だ」

 ミズキは少し顔を曇らせた。

「世界はTGJCを犯罪組織だとは思わない。もちろん、俺もお前達が人殺しの犯罪者だとは思っていない。だが、その正義に身を任せ俺達の行為を正当化する行為はやめろ。なぜTGJCが存在する? 警察という正義が悪に侵され機能しないからだろ? 一つ覚えておくといい。悪を制裁できるのは悪だけだ。俺が言えるのはこれだけだ」

 タツミは目を閉じながら話した。

「私達は悪と戦う……悪……。でも、何故皆に嘘をつくの?」

「嘘?」

 タツミは目を開ける。

「だって、タツミが皆と話すときの明るい感じ、なんだか無理をしている感じがする。今の所タツミが白髪の狩人だって確信を持っているのは私だけだけど、いずればれる。その時、あなたはどうするつもり……?」

「俺は善を演じる。悪を相手にするために」

 彼がミズキに向けた笑みは、狂気そのものの様だった。

「タツミは……変わっちゃったの……?」

「……いずれ気づくさ。俺達が正義のヒーローではなく、王が王でいるための人間兵器だとな」

 タツミがそう言った時、二人のいる部屋のドアがノックされる。

「勘違いするな。俺はTGJCのお前らを家族同然に思い、大切に思っている。だから言う。いいか、正義と悪は紙一重だ。だから、悪に流れないために大事なことが一つある。殺しに慣れるな。もし、慣れ、それを楽しみだしたら、もう人間ではない。殺戮兵器だ。俺はもう、自分を人間だとは思っていない。現に体の主要部分が機械だからな」

 そういいながらミズキにドアを開けるように首で指示する。

「私は、タツミを人間だと思ってるから」

 彼女はそう一言言ってドアを開けた。

「なにかお話でも?」

 入ってきたカオリの質問に。

「何もない」

 とタツミは言った。


 その後、カオリはタツミを博士の元へ運んでいった。

「殺しに慣れる……私……悪なのかな……」

 ミズキは自分の手のひらを見つめながら呟いた。




 タツミが彩芽の前に姿を現すまでに今まで通りに戻っていた。

「なぁ博士、せめて足一本位残しておいてくれてもいいんじゃないのか?」

「悪いね。両方同時に調整しなきゃ都合が悪いんだ」

 彩芽はモニターをつけ、タツミに話を始めた。

「もし、世界が人造人間と戦う事になった場合の最高戦力は君になるだろう。だから、さらなる強化が必要になると踏んだ。今まではリミッターの解除レベルを最高で2までとしていたが、これから行うアップグレードにおいて、解除レベルは最高で5までとなる。今まで、アサルトライフルをよけられる能力がレベル1、ミニガンをよけるのに必要なのがレベル2だ。その他にも、視覚と連動していて、弾丸を殴る場合、腕のリミッター解除を一時的に動作させていたりした。今回追加されるレベル5は、スナイパーの弾と追いかけっこできるレベルだ。まぁ、もともとのレベルで避けられない弾はほとんどなかったから、レベル5は主に、攻撃用だろうね。ちなみに、計算上ではレベル5で殴った場合半径七メートル以内半円状に衝撃波が発生するぞ。ただ、排熱のため、腕の下の排熱口を大きくはするが、使いすぎるとオーバーヒートしてしまうから気をつけなさい。ちなみに足もだ。そして、今回の追加の一番の機能は飛行だ。足の裏にジェット機についているエンジンを小型したものをつける。コードは『ニーズヘック』。操作方法は体をひねらせる方式だ。このニーズヘックは戦闘服にも搭載使用と思っている。性能は一緒だ。最後に、スローワールドと連携するための拡張ユニットの作成も決定した。色々と使えると思うぞ。というわけで、暫く君の体を借りる。と言っても、その状態じゃ生活もままならないだろうから、今の君の手足の試作モデルを持ってきた。リミッターリリースのレベルが1までしか存在していないが、生活するには十分だろう」

 そういって彼女は借りの手足をつけ、目には眼帯をつけてくれた。

 タツミは施設の屋上に行き、専用サーキットで練習するカオリを眺めていた。

「もう人間に戻ることは出来ないのかもしれないな」

 彼の言葉を乗せた湿気まみれの風はすぐに消え去った。





 数日後、カオリの訓練も予定通り終わり、合宿も残すところ二日となった。

「カオリ、よく頑張ったな」

「うん! 凄い大変だったけど、皆優しくて助かったよ!」

 皆が称賛を送る中、タツミが前に出る。

「さて、本日より、我々TGJC執行官の訓練を始める。皆の武装は二千十七年式の旧型の物だった。しかし、今回、博士に頼み、さらに強くなったスーツを開発してもらった。今日の訓練は、新型のメイン追加装備、飛行デバイスニーズヘックの訓練をしてもらう」

 彼の発表と同時に、戦闘服の入ったロッカーが次々と運ばれてくる。

 戦闘服は以前のものと大差ない形をしていたが、少し足裏が厚くなっており、所々開閉する場所が増えていた。

 全員戦闘服に着替え、屋外で再度集合した。

「さて、皆が準備している間に政府から第三次世界大戦に対する最新情報と命令書が伝達された。……んだよな? ユウキ」

「はい、やはりマッドマンの存在は確かだといっていいでしょう。そして、ドラゴンズハート、及びデーモンズビリーバーといった様々なテロ組織が同盟を結び始めている可能性があるということです。なので、TGJCはこれから手を貸す可能性のあるテロ組織の殲滅を開始します。開始は政府のリストアップ終了後になるため一か月以上はかかると推測されますが、それまでに戦闘術を最大限に強化しておく必要があります。さすがにタツミと同レベルとは言いませんが、それなりにしなくては……欠員の可能性も十分に出てきます」

「ふむ、何故ゼロである俺の元に情報が来ないんだ……? まぁいいか、大丈夫、腕がダメになったら博士に頼めばいいさ」

 ゼロは皆の頭上を飛び越え後方に立つ。

「その新型スーツの使い方はさっきユウキに渡しておいたから。俺は博士に説明聞かなきゃいけないから。飛行訓練頑張れよ」

 彼の言葉に。

『飛行?』

 と首を傾げた。



「博士、遅くなった」

「いや、大丈夫。早速君の手足について説明を始めよう」

 二人は広い演習場に来た。

「まず、飛行だ。今回皆の戦闘スーツに搭載されているジェットは、両足、つま先とかかとに一基ずつ、両足に二個。均等にエンジンが取り付けられていて、バランスも取りやすく、航空機に潜入するときや戦闘機と追いかけっこするときなど、バランスの必要な任務の時に非常に頼りになる。しかし、君の物は少し違う。右足に三個、左足のつま先に小型が一つだ。この形だと、バランスがとりにくいが、非常に高い機動性を取れる。つまり、戦場で縦横無尽に駆け回る弾丸になれるわけだ。ちなみに左足のかかとにはパイルバンカーが埋め込まれているぞ」

「ぱ、パイルバンカー? なんで?」

 タツミはかかとを覗き込む。

「なんでって、もし正面から戦車が高速で迫ってきたらパイルバンカーを地面に打ち込んで、右足でジェットを前方に噴射して受け止められるだろ?」

「そんな場面あるわけないだろ……」

「ちなみに、杭は飛び出すだけで飛んではいかないから遠距離攻撃は出来ないから注意しろよ」

「本当に使う状況限られてくるな……」

「大丈夫。世界一固く、一番軽い鉱石『アヤメニウム』を使っているから戦車の甲板だって突き破れるぞ?」

「アヤメニウムって博士が生み出した鉱石だっけ。そこまで強いとなると、使い道は広がるな」

 彩芽は二回ほど手をたたき。

「タツミの飛行は難しいんだ。早速訓練を始めよう」

 タツミは彩芽のジェスチャー通りに訓練を開始する。

「基本の姿勢は右足の上に左足を重ねる形だ。まずはそのまま少しだけ浮遊し姿勢を崩さずに移動してみて、慣れてきたら体と地面の角度を小さくして行ってちょうだい」


 彩芽の予想に反し、タツミの成長は早かった。

 そして、最終的には、急上昇した後、エンジンを停止し、自由落下中に二キロ離れた的を狙撃した後、地面すれすれでエンジンを点火するといった高度な技までもやって見せた。

「さすがだね。タツミ」

「結構難しかったが、慣れれば大したことはなかったな」

 彩芽はタツミに資料を手渡す。

「ここからは、リミッターの話になるのだが、やはり排熱量の問題で、スリーまでが限界となってしまった。しかし、相手が人間でない以上、スリーでは火力不足だ。だから、改良をした。くれぐれも注意してくれ。レベル4や5は本当に危険だ。5で空気を殴ってしまうと、爆風が生まれるどころではなく、振動により物体を内部から破壊してしまう。さらに、普段君の手足を隠しているスキンは、4で溶けて義手があらわになる。さらに、フォーからは排熱とジェットを使用するため、肘のあたりのハッチが開く。その時後ろにも暴風が発生する。今回の大まかなアップデートはこのくらいだ」

 彼女の説明後、タツミは少し暗い顔で。

「アレはついてないのか……」

「あれだけは何としてもつけない。君は命を大切にした方がいい。だが、代わりとして手足を脱着できるコードは作成しておいた。それで我慢しろ。あぁそうだ、言い忘れていたが、リミッターレベル4以上用の追加エンジンは君の足の裏のエンジンの左右にも搭載されている。コードで飛行速度を上げることもできるが、オーバーヒートして爆発してしまったら君は隕石になるから気をつけろよ」


 タツミが一人で訓練を初めて約二時間後。

 彼の携帯に一通のメールが届く。

『ジャック。本部招集。二日後。吉原』

 タツミは顔色を変え、メールを削除した。






 二日後。

 東京。公安局地下秘密会議室。

「やぁジャック! 久しいね!」

 タツミに話しかけてくる金髪の男の首元にナイフを突きつける。

「その名は好かない」

「わ、わかったよ……!」

 タツミはナイフをしまい、無言で奥の部屋へと向かっていった。

「エース、あいつに関わるのはやめとけ」

「わかったよクイーン。そういえばキングは?」

「さぁ。あいつならいつも重役出勤だからな。まぁあたしたちは何もできないけどジャックなら半殺し位にまではしてくれるわよ」


 会議開始時刻。

「ふむ、皆定刻通りに……おや? キングがいないな」

 ドアから入ってきたのは総理大臣 吉原 耕作だった。

「ちっ。あの大股野郎……玉の一個や二個潰してもいいか?」

「じゃ、ジャック、それは仕事に影響が出るからやめてくれるかな?」

 悪態づいたタツミに吉原が優しくなだめる。

「んで、総理大臣様があたし達を呼び出して」

 クイーンも機嫌が悪そうに肘をつく。

 吉原は少し改まり。

「我々はトランプ部隊は過去四度のみ運用されている特殊部隊だ。世界の特殊部隊のトップ及び殺人鬼だ。エース、アメリカの特殊部隊の特殊起動トップ。クイーン、カナダの情報収集局のトップ。キング、イギリスの秘密諜報特殊工作員。そしてジャック、白髪の狩人」

 エースやクイーンがジャックを睨む。

「ふん、殺人鬼と仕事なんて俺達は好ましくないな」

 クイーンはジャックに拳銃を向ける。

「やめておけ。お前らに俺は殺せない」

 彼の言葉にクイーンは苛立ちを強め、引き金を引く。

 放たれた弾丸はジャックの眉間を的確に射ていたが、タツミの目の前では無意味だ。

 首を左に傾け、弾丸をよけた。

「化け物……」

 クイーンのつぶやきにジャックはにやりと笑った。

「さて、話を続けよう。第三次世界大戦の件は皆聞いての通りだ。そして、今回の我々の任務はデーモンズビリーバーだ。つい最近、デーモンズビリーバーが過去の天才博士の頭脳を取った」

 吉原の言葉を聞いたジャックが聞き返す。

「過去の天才だと?」

「えぇ。第二次世界大戦時、サテライトキャノンを作成した研究者のトップは二人いた。菊城 勝と小原 健三。小原の子供は特殊な才能の持ち主だった。見た物、聞いたものを一瞬で記憶する能力だ。終戦後、小原健三は息子の小原優斗に自分の脳の全てを託した。記憶能力を受け継いだ優斗は父の研究データやその他の全てを記憶に保存し、手元にある物は全て抹消した。デーモンズビリーバーは優斗の娘、唯奈を人質に彼をデーモンズビリーバーに引き込んだ。今回の任務はデーモンズビリーバーからの小原優斗奪還または能の抹消を達成条件と設定する。作戦は各々で話し合ってくれ。私は成功報告のみを待っている。以上解散」

 吉原は部屋を出て行った。

「キング、殺されたくなければ出てこい」

 ジャックが言うと、後ろの排気口が開き、汚れた一人の男が出てくる。

「じゃ、ジャック! 奇遇だなお前も今来たところか?」

 焦りの口調を隠せていない彼にタツミは。

「何を言っている。第三次世界大戦の話題が始まったころにはもう排気口の中に潜んでいたじゃないか。俺に半殺しにされるのが怖くて出れなかったんだろ?」

「そ、その通りだジャック! よくわかったな!」

 キングが冗談を交えたように席に着く。

「エース、立案は任せる」

 タツミが言うと。

「ジャック、なんであんたがこの場を仕切っているのよ!」

「黙れクイーン。お前はさっき俺を殺すのに失敗しているだろうが」

「な、ならあんたは私を殺せるのかしら?」

 少しクイーンが挑発すると、ジャックはその場から姿を消し、クイーンの目を潰す寸前で腕を止めた。

「あぁ。可能だ」

 クイーンは絶句した。

 タツミの素早さもそうだが、冷たく放たれたはずのたった二言の中に尋常ではない殺気と狂気を感じたのだ。

「だが今は殺さない。第三次世界大戦が勃発するのも時間の問題だ。敵戦力を削るという共通の目的を持つ者同士だ。仲良くしようじゃないか」

 クイーンはタツミが握手しようと差し出した手をはたき。

「ふざけないで。あんたと握手なんて死んでもごめんよ。エース、作戦が出来上がったら連絡を頂戴。私は帰る」

 彼女は勢いよく扉を閉め出て行った。

「僕も作戦を任されてしまったから、さっさと帰って考えるよ!」

 エースもクイーンの後を追った。

「なぁ、ゼロ。いつまでお前は殺人鬼を続けるんだ?」

「何言ってんだクリス。前も言ったろ。俺が七歳の頃、TGJC執行官養成施設のプログラムから殺戮兵器養成プログラムに切り替えられた時から俺は狂った殺人鬼さ」

「殺戮兵器養成プログラムを受けた同期として……いや、友達として言わせてもらうが、お前はもっと自分を大事にしてもいいんじゃないか……?」

 クリスは少し悲しげに言う。

「クリス、お前は何故殺戮プログラムを受けた?」

「俺は両親を殺した奴らを憎んでプログラムを受けたのさ。まぁ、お前と仲良くなって、お前の話を聞いていくうちに復讐心も萎んでいき、結果イギリスで諜報員をしているのさ。前から気になっていたがタブーだと思って聞いていなかったんだが、なんで執行官プログラムから切り替えさせられたんだ?」

 彼の質問にタツミは静かに答えた。

「切り替えの前、俺は人を殺しているからだ」

「任務か……?」

「違う。意思だ」

「誰を」

「血縁者全員」

 タツミの言葉にクリスは静かになった。

「別に大した話じゃない。俺は銃教育の始まった四歳のころから射撃の腕は大人にも負けないほどだった。その情報を聞きつけた血縁者は異端児としてきた。その後、俺を厄介払いの様にTGJCに引き取らせたってわけ。だが、TGJCのメンバーは全員が同じような者ばかりだ。ただ、俺は銃を使い殺そうとしてきた奴らを全員その場にあるものと自分の腕だけで殺したというだけだ」

 タツミの説明にクリスが。

「そこで、殺し屋としての天賦の才が買われ、プログラムが変わったと」

「そういうこった」

 タツミは立ち上がり、クリスに別れを言った後、会議室を後にした。










「タツミ……お前はTGJC正義の執行官№0か……? それとも最悪の殺し屋白髪の狩人なのか……? そもそもお前は人間か……」

 誰もいなくなった会議室でキングの質問が響く。






「俺は……殺戮兵器だ」

 タツミは薄暗い路地裏で呟き、足のエンジンで空へと飛び立った。









 その後無事、合宿も終わり、カオリは見違えるほどに強くなっていた。

 TGJCやトランプの仕事の無いつかの間の休日。


 タツミは珍しく、電車で移動をするところだった。


 タツミはあまり人のいない後ろの車両を待っていた。

 すると、そこへ暗く、悲しい顔をした少女がやってきた。

「あの制服は……近くの中学校のやつか……」

 

 奥からクラクションを鳴らしながら入ってくる電車。

 少女は。何を思ったのか駅の線路に向けて前向きに落ちていった。

「これだから公共交通機関は嫌いなんだよ!」

気まぐれ気まぐれくーるくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ