TGJC mission file 1:target<最強の執行官> 3
ちすちす
「どう? ツーから何か見える?」
アカリは無線でミカに尋ねる。
「うーん、さっきっから見張ってるけどそれらしき人影はないね。サーマルでも人影一つ見つからないよ」
彼女の通信を聞いた四人は警戒を始める。
「本性現してきやがったか?」
マサキは銃を構えた。
四人の居るビルから千五百メートルほど離れたスナイパーを構えるミカの更に後ろ。
四人からの距離約六千メートル地点。
『おいゼロ。聞こえているんだろうな? お前の保護者がTGJCに情報を流したという噂が立っているからな! お前の手でかつての同僚を始末しろ! 失敗したら菊城 カオリの命はないと思え!』
『だまれおっさん。仕事中だ』
タツミは無線を無理やり切断した。
「タツミ君……」
「大丈夫だカオリ。あいつらは強い。そんなに簡単に死なないさ。それに、お前の命は絶対に守る。彩芽博士は秘密研究所内に身を潜めている。大丈夫。あいつらは必ず俺の所に来る」
「うん……」
カオリは寝転がり銃を構えるタツミの横に座る。
「タツミ君は怖くないの……?」
「怖い……? 何がだ」
「だって、作戦通りにやるならお仲間さん達の一センチ上を狙うんでしょ? もしずれたらとか……」
「大丈夫だ。あいつらは狙撃をよける技術を身に着けている。近距離狙撃は難しいが、ここから向こうまで六キロもある。それにこの弾は曳光弾だ。必ず気づく」
「えいこうだん……?」
「そう。少し光って見える弾だ。本来はトラッキングを目的に使われるんだが、あいつらなら意図を組んでくれるさ」
二人が話していると、別の通信が入ってくる。
『タツミ君、大丈夫?』
『こちらタツミ。ビル二十四階にターゲットを捕捉。目標まで距離六千。問題なし』
『タツミ、わかってるわね』
『博士。安心してくれ。ガキでもプロだ。仕事はちゃんとやる』
『あなたの物理演算能力とその『目』があれば十キロ先の相手の眉間にだって簡単に弾を充てることが出来るわ。それに私特性のライフルで弾道落下も最小限に抑えているから、千メートル級の狙撃とかっては変わらない。では健闘を祈る』
『りょーかい』
タツミは工事中ビルの二十四階に照準を合わせトリガーを引いた。
銃口から飛び出した弾丸は光の筋を描き、ビルの石柱につきささる。
「狙撃だ! ツー! どこからかわかるか!」
物陰に身を隠したマサキがツーに無線を入れる。
「と、飛んできた弾は曳光弾で大体の距離はすぐにわかるんだけど……距離は六千位……」
ミカは何度もスコープ内に映し出される対物距離を見直す。
「六千だと!? そんな距離ここまで正確に射撃できる銃なんてこの世に存在してるわけないだろ!」
「落ち着いてくださいエイト! それに、次弾が来ないことを見ると狙撃手は一撃のみしかもっていないのかもしれません。それに、こんな強力な銃を作り出せるのはこの世で二人しかいません! 菊城彩芽博士と昔ゼロが物資を買っていた博士という人物だけです! ツー、今すぐに狙撃手がいると思われるポイントに向かってください! 犯人がまだ付近にいる可能性を十分に考慮して行動してください! ツーが狙撃ポイントのクリア後、フォー、エイト、イレブンは打ち込まれた弾丸を調べてください!」
全員ユウキの言うとおりにした。
「タツミ君……」
「大丈夫。あいつらは無事に弾をよけたよ。多分、ワンの事だからツーにここを調べさせ、安全だと確認が取れたら弾の調査を始めるだろう」
「じゃあここでツーさんに会って事情を話したら……」
「それは出来ない。いつどこであの組織が俺達の行動を監視しているか分からない。それに、今狙撃された相手に俺は和解を申し込まれても問答無用で発砲するだろうしな。だから急いでこの場から離れるぞ。狙撃を外したのがばれるのも時間の問題だ。奴らにばれる前に君を博士のもとに送り、俺は身を隠す。明日は学校を休み、明後日カオリは登校して犯人の餌になってもらう。きっと、TGJCの奴らもそこで会うことになるだろう」
「タツミ君は……」
「俺は狙撃でTGJCを援護する。この手足なら六キロくらい数秒で走れるからな」
タツミは銃をケースにしまい、カオリの手を引きその場を去った。
しばらくして、ツーがタツミ達のいたところの姿を現す。
「こちらツー。狙撃ポイントクリア」
彼女の通信をきいた四人は打ち込まれた弾丸に対する調査を開始した。
「ふむ、やはり外してますか」
ユウキは着弾点の高さを計る。
「いやいや、なんでわかるんだ?」
マサキの質問にユウキは彼に着弾地点に立つように指示する。
「ま、まじか……これ、狙ったのか……?」
マサキの頭より一センチほど上の所に着弾していたのだ。
「そうですね、でもあの距離から狙撃したので外しただけという可能性もありますが……。やはり狙ったのでしょうね……」
様子を見ていたユイカは。
「でも、何も手掛かりとかないわね……」
辺りを探ったりしていると、ユイカから通信が入る。
『こちらツーなんだけど、狙撃ポイントにメモを発見。これは……状況がつかめてきたかも……この手紙は自分たちで読んだ方がいいかもしれない。持って帰るね』
ミカは手紙を懐に入れビルを去った。
その間、ユウキ達も埋まった弾丸を回収し、本部へと帰還を始めていた。
本部内会議室。
「ミカ、何を見つけたんだ?」
質問するマサキにミカが一通の手紙を渡した。
「これは……!」
『菊城 彩芽博士へ
あなたが執行官№0を回収していることは知っている。
彼の情報をどこにも流すな。
生存情報も、どこにいるかも、どのような状態かも。
もし流した場合、君の娘の命はない。
ドラゴンズハート日本支部代表 大国 勝』
「この感じだとゼロの生存は確実だな。だが、人質があるとなるとあいつが敵か味方かまだ分からない。この際、奴が敵側にいると考えたほうのがいいな」
マサキは椅子に浅く腰かけ考える。
「でもそうなると、私たちがどんなに頑張っても勝てない可能性があるわね……」
ユイカが少し不安な顔を見せる。
「でも、今回の行動を見る限り、ゼロは味方なのかもしれませんね。でもドラゴンズハートってあまり聞かない名ですね」
ユウキが話していると。
「ちょっと! これ見て!」
アカリが秘密事件ファイルをもって入ってくる。
「なんですか?」
皆の覗き込むそのファイルの中には、タツミが十歳の時にかかわった菊城彩芽の依頼の件がたくさん書き込まれていた。
「これって……タツミがフラッといなくなっていた時期とまるかぶりね。右手が義手に変わった……!? つまり……ゼロの言っていた博士って菊城博士だったのか……」
皆は顔を見合わせ、菊城カオリ及びタツミの手助けをすることを決めたのだった。
「おい、菊城彩芽。執行官№0の記憶が戻っているようだがこれはどういうことだ」
「はい? 一体何のことでしょう」
「あいつは爆発の衝撃で記憶を九割以上失くしていたじゃないか。だが、あいつは何のためらいもなくトリガーをひいていたぞ。つい先日までは人を一人も殺したこともないような性格だったではないか! いつ記憶が戻ったのだ!」
「何をおっしゃいます。彼の記憶は戻ってなどいませんよ? それに撃ち殺せと命令したのはあなた方じゃないでしょうか」
「本当に戻っていないのだな?」
「ええ。彼の記憶はほとんど戻っていないかと思いますよ。まぁ私も逐次聞いているわけではないのでもしかしたら多少は戻っている可能性もあるかもしれませんよ。でわ」
彩芽は勢いよく電話を切り、椅子をまわし煙草に火をつける。
「タツミの記憶は……一切戻ってないわよ。彼の育てた能力は記憶がなくなっても引き継がれている。だから呑み込みが早くて、自分がどうなったのかを一瞬で理解して見せた。それ故に記憶喪失なんて一切匂わせないけど、本当は彼もきっと不安なのよ……。ただ、過去の感情や経験から、TGJCの仲間達への信頼は存在しているみたいね。ここから記憶が戻るといいんだけど……」
彼女は少し上を向き煙を吐いた。
タツミはカオリを家に送り届けた後、彼は今までの硬い表情から、死んだ人間の様な表情に変え、フードを深くかぶり、ふらふらと何処かへ歩いて行った。
狙撃事件の次の日の夜。
TGJC本部地下では、次の日の作戦会議も終わり皆個人の部屋で準備を始めていた。
ミカがスナイパーライフルの手入れをしていると隣の部屋から物音が聞こえてくる。
「……? 隣って元ゼロの部屋だよね……? 今は秋のはず……誰かいるのかな……?」
彼女は懐中電灯を持ってゼロの部屋に入る。
部屋の中ではフードを深くかぶった謎の男が、TGJC執行官達の集合写真を眺めていた。
「誰!」
ミカは拳銃を男に向ける。
「身元を明かさないなら遠慮なく撃つわよ」
彼女の言葉に男は少しだけフードを浅くした。
「た……タツミ……なの……?」
驚く彼女を横目にタツミは再度フードを被り。
「ごめん」
と一言放ち、出て言ってしまった。
「ちょっと待ってよ!」
彼女の言葉はタツミの耳に届かなかった。
「ごめんってなんなのよ……」
ミカはその場に座り込んだ。
「もしかしたら記憶が戻るかもしれない」
と考えたタツミはTGJCの本部へと向かった。
関係者以外は知らない警報トラップの場所なども体がしっかりと覚えていて、容易に自分のもとの部屋へと侵入できた。
そこで彼は過去の自分の映る写真や資料に目を通したが記憶のかけらも戻ってこなかった。
そこへ物音を聞きつけたミカが入ってきたのである。
「この写真を見る限り、彼女は執行官№2のミカさんだろう……。だめだ……全く思い出せない」
タツミは彼女に一言謝りその場を去ったのだ。
ミカは作戦に支障が出るかもしれないので他のメンバーにタツミが来ていたことは秘密にした。
そしてついに、作戦の日。
カオリがいつも通り高校で授業を受けていると、武装した男達が教室に乗り込んできた。
「ちょいと邪魔するぜぇ」
男達はカオリの元へ行き、腕をつかむ。
「嬢ちゃん、ちょっと来てもらうぜ」
引っ張り連れて行こうとしたとき。
「動くな!」
窓ガラスを突き破り、TGJCの十一人が飛び込んできた。
「TGJCです。降伏しなければ遠慮なく始末させていただきます」
ワンは銃を構える。
「来ると思ってたぜ。悪いな。こっちには超強いスナイパーが構えてるんだぜ? お前らが一歩でも動いた瞬間頭が飛ぶぜ。
「はったりですか?」
ワンは銃を構えなおした。
すると、ワンの右頬をかすめる程の距離を弾丸が通り抜けた。
「ゼロ……彼は一体何を考えているのでしょうか……」
ワンの小言に男の一人が。
「さぁな。あいつは俺達の味方でもお前の味方でもない。目的はこの小娘一人だ。奴の援護には期待するなよ。俺達もあいつは信用していない、ちなみに、お前たちのスナイパーのお友達も信用しない方がいい。今きっと彼女は狙撃ポイントにはいないぞ?」
学校より約五千メートルビル屋上。
「ふむ、TGJCに味方した方がカオリの助かる確率が高くなると思ったが……さっき教室に向けて撃たれた銃弾距離は二千メートル級。まさかドラゴンズハートが別のスナイパーを用意してくるとは思っていなかった。それに、ミカだ。あいつ、さっきの狙撃が俺だと勘違いして五千メートル範囲を一瞬で探し出して今こっちに向かってきている。TGJCに今スナイパーの援護はいない。ドラゴンズハートが優勢になるわけだ。とりあえず面倒だし、ドラゴンズハートの狙撃手は始末しておくか」
タツミは、狙撃手の後頭部に照準を合わせ引き金を引いた。
「しかし、こうなった所でようやく対等。潜入任務ならばこのくらいの人数余裕だが……正面衝突となると勝ち目は少ない。装備も二年前の型落ちだし……。ドラゴンズハート……旧名【竜の眼】……外交発展前から日本にあるテロ組織……一時期は日本から手を引いていたらしいが菊城彩芽博士の件からまた日本に注目を始めた組織。今の俺なら一人で潰せなくないらしいが、そうなると世界がひっくり返っちまう。カオリも守り切れないかもしれない。それじゃ本末転倒なんだよな。昔の俺ならTGJCの味方をしたのだろうが……」
と、軽い溜息をつきスコープを除く。
スコープ越しに見える教室は、硬直状態だった。
「タツミ君!」
突如背後の扉が開き、ミカが入ってくる。
「……どうした」
「うん……昨日の言葉なんだけど……」
「悪いな。俺はお前達の味方ではない。もし、俺とカオリを敵とみなし行動をするのならば俺は容赦しない」
タツミは再度スコープを除き監視に戻る。
「ねぇ……タツミ……、あの事件の後何があったの……?」
「あの事件? 何もなかったさ。なにも……」
「でも私見たの! 爆発に巻き込まれたタツミが何処かへ連れていかれたの!」
「……そうか。なら、詳しく話してくれ」
「……どういうこと……?」
「俺はその爆発に巻き込まれた衝撃で名前以外全ての記憶が飛んじまってんだ。お前の顔だって、部屋に会った写真を見比べて理解している」
タツミの言葉を聞いたミカは、その場に座り。
「わかった。話すわよ。その代わり教えて。タツミは……どっちの味方なの?」
「俺はカオリの味方だ」
その返事を聞いたミカは少し笑って、過去の話を始めた。
暫く話を聞き、タツミのいなくなった日の事になった。
「それでね、タツミは皆を退避させて一人ビルに残って……」
「俺は爆弾をつけられて爆発に巻き込まれた。たしか、組織はドラゴンズハート……」
そう呟いた直後、タツミは頭を抱えてうなり声をあげた。
彼は、頭痛に襲われていたのだ。
「タツミ……? 大丈夫……?」
「そうか……あいつらの目的は菊城ハルカじゃない! TGJCだ! ありがとうミカ! 思い出した!」
タツミはスナイパーライフルをしまい、ビルから飛び降りた。
「タツミ!?」
彼は、地面に着地した後、また五階程あるビルの屋上へと飛び上がった。
「い、いくら特殊部隊でも飛び降りたらふつう死ぬでしょ……どうなってんのよ……」
硬直していた教室内は、すでに銃撃戦が始まっていた。
戦況はドラゴンズハートの優勢。
TGJCのメンバーは援護も無く満身創痍状態だった。
「ふんっ、TGJCも大したことなかったな」
男の一人がワンの眉間にハンドガン照準を合わせる。
「せめてものなさけだ。苦しまずに殺してやるよ」
男は引き金を引いた。
発砲音と共に、一枚の窓ガラスが割れ、黒い人影が突っ込んでいき、ワンの前に出て弾丸を殴る。
拳と衝突した弾は潰れ速度を落とし地面に落ちた。
「タツミ君……?」
カオリが心配そうな目でタツミを見る。
「大丈夫だ。忘れたか? 俺の右手の無くなったあの日から俺に弾丸なんて通用しないだろ?」
「タツミ君……! 思いだした……のね!」
「あぁ。しっかり思い出したぜ」
タツミは足に力を入れ、敵に殴りかかる。
「何をしている! 撃て!」
男達はタツミに銃を向けるが、
人間並みでは無い速度で移動する彼に弾を当てることは不可能だ。
暫くしてTGJCと敵の間に現れたタツミは血にまみれ、右手には生首を持っていた。
両手足からは蒸気が立ち上がり、顔に浮かんだ笑みからは狂気すらも感じた。
「おいおいどうした。銃声が一回も聞こえなかったぜ? 今ここは戦場だ。殺らなきゃ殺られる。それが常識だろ? なんだ、ビビッて声も出ないのか。今この教室にいる薄汚い虫けらを七人殺した。次は十五人殺す。次はそこの偉そうなやつ以外皆殺す。最後にお前を殺す」
生首を捨てたタツミは一番偉そうな男を指さす。
「さぁ、死にたくなければ必死で抵抗してみろ!」
タツミはまた、高速移動を始めた。
「こ、殺せ! 敵はたったの一人じゃないか! アサルトライフルでもミニガンでもロケットランチャーでもなんでも打ち込んで始末しろ!」
男達はムキになり周囲への配慮も一切なく、銃を撃ち続けた。
TGJCのメンバーは、教室の後ろの方に固まっていた生徒達をひと固まりにまとめ、机でバリケードを作り守りを固めた。
男達の放つ弾丸はタツミには一発も当たらず、あっさりと偉そうな男以外殺されてしまった。
「これが執行官№0……お前は本当に人間か……?」
「さぁな。俺が人間かどうか。それは俺の決める事じゃない」
「悪魔め……」
偉そうな男は部下の落としたアサルトライフルを両手に持ちタツミに向けて放つ。
「それで結構」
タツミはニヤッと笑い息を吸う。
「コード、リムリミッターリリースレベルワン、スローワールドレベルツー」
彼がそう発した瞬間、手足から大量の煙が漏れ出し、高熱による蜃気楼が発生した。
タツミは飛んでくる弾丸を受け流し、殴りつぶした。
「終わりか?」
タツミは掴んだ弾丸を数発手から落とし、鼻で笑った。
「ば、化け物……!」
男は後ずさり、倒れこんだ。
「おいワン。こいつ殺してもいいのか?」
「い、いえ、できればあそこに送りたいのですが……」
「ふむ、あそこか。あいつ嫌いなんだよなぁ。二年で変わってるといいんだけど」
タツミは男に歩み寄った。
「コード、システムクリア」
タツミの手足から出ていた蜃気楼が消え、さらに煙が彼を包んだ。
「な、何をする気だ……!」
「これが本当の鉄拳制裁! とうっ!」
おびえる男にタツミは拳を振り下ろした。
鈍い音と共に男は気絶し倒れた。
その後、男の首元をつかみワンに投げ渡した。
「ほれ、お望み通り生け捕りにしたぜ」
「は、はぁ……」
ユウキは呆れた顔を見せた。
その後、タツミはTGJCのメンバーの方へ向き。
「久しぶりだなお前ら」
彼の言葉に執行官達は声が出せなかった。
「ねぇ、カオリちゃん……だっけ? 一つ聞きたいんだけどタツミってあんな感じだったっけ……? 昔のゼロはもっとこう、寡黙な感じで任務以外能がないみたいな感じだったのに……」
「そうですか? 私の前ではいつもこんな感じでしたよ。それに、博士に言われた任務をするときはこんな感じだって……。初陣の時だって、言葉遣いや行動方針は慎重だったものの、やってることは凄くやんちゃな感じでしたよ……」
カオリはイレブンの質問に小声で答えた。
「カオリ、博士の元へ一度帰るぞ」
タツミは彼女を抱え上げた。
「コード、レッグリミッターリリースレベルワン」
と発し、教室から飛び出していった。
TGJCメンバーは、警察に処理を任せると伝言を残し、本部に帰還した。
皆が家の中に入ると、内装が変わっていた。
「これは一体……」
皆が騒いでいると、部屋の奥から一人の女性が姿を現す。
「初めまして。菊城彩芽と申します。今日からカオリの護衛をタツミ君に依頼することになりました為、今日からここでお世話になります。ちなみに、カオリも一緒に住みます。彼女にはメイドとして生活してもらうように言ってあります」
彩芽は皆に頭を下げた。
「そうそう、ってことでよろしく~」
奥から上半身裸のタツミが姿を現した。
「た、タツミ君! 服はちゃんと着なきゃだめよ!」
彼の服を持ち奥からカオリが現れる。
「あ、皆さんお帰りなさい! 今日からここでお手伝いさせていただく菊城カオリです!」
「あ、こいつら紹介するよ。執行官№1こと『ユウキ』だ。んで、執行官№2『ミカ』、執行官№3『サオリ』。№4『ユイカ』、№5『トオル』№6『リュウ』№7『ミズキ』、№8『マサキ』№9『ユウカ』№10『ユウヤ』№11『アカリ』№12『スズ』だ」
紹介するタツミにマサキが。
「お前、二年間で何があったんだ?」
「何があった……」
タツミが返答に困っていると。
「まぁまぁ、皆戦闘で怪我してるでしょ、しっかり手当てしなきゃ駄目よ」
皆が彩芽に連れていかれた後、ミカがタツミに歩み寄った。
「ね、ねぇ、一つ質問なんだけど……二年前の事件の時、タツミの体は生きれるはずがないくらい損傷していたはずじゃなかったっけ……」
「あれ? 彩芽博士が事件の後の俺の写真を送ったって言ってたけど……」
「事故の後の写真って……まさかあのグロ画像……?」
「それそれ」
「でもあの写真じゃタツミの四肢や目が……」
「あぁ」
タツミはミカに腕を差し出した。
「これって……」
「そう。義手だ。足も全部機械。右目も機械だ。さっきの俺の戦闘見ていただろ? 『コード』の部分で声帯認証、その後の文で機械のリミッターを解除できる。例えば、コード、リムリミッターリリースレベルワン。これで俺の手足は飛来する銃弾をを交わせるほどの能力に強化される。コード、システムクリア」
「で、でも身体能力が強化されても動体視力が追いついてなきゃ……」
「あぁ。だから俺の目を使う」
タツミは右目を指さし。
「この目は普段、普通の目としての役割を果たしているが、スローワールドを使うと、動体視力を上昇させることが出来るのさ。イメージとしては、自分以外の世界がスローモーションになる感じさ」
「そ、そうなんだ……。なんか……すごいね……」
「ん? どうしたミカ。お前は結構おちゃらけた性格じゃなかったっけ?」
「う、うん。なんかびっくりしていつもの調子でなくて……。だ、大丈夫♪ 明日にはもとに戻ってるから!」
ミカは自分の部屋へと帰っていった。
「ふむ、今度博士にボタン一つで腕脱着できる装置つけてもらってどっきりでも仕掛けようかな?」
タツミのつぶやきに。
「やめなさい。そして服を着なさい」
とカオリがチョップしながらつっこむ。
そして次の日、皆はもう、二年前と大差ないような生活を始めていた。
「いやー、まだ一晩しか経ってないけどカオリちゃんのおかげで大分生活が楽になったわね」
ユイカがソファーに腰かけながら言う。
「おっはー♪」
ミカもいつも通り部屋から出てくる。
「いやー、サオリちゃんの技術は凄いわね~!」
奥から楽しそうに彩芽とサオリが歩いて来る。
「おや、サオリが執行官以外のメンバーと話すなんて珍しいですね」
ユウキは少し驚いた表情を見せた。
そこへ。
「速達が検閲から届いていますよ」
と、カオリが入ってくる。
タツミは彼女から手紙を受け取る。
『TGJC本部 通達
菊城カオリを二週間で部隊レベルまで引き上げなさい。
近距離格闘術、運転術、射撃術、機械術。
以上の項目を強化せよ。
場所は太平洋上TGJC所有の島。
伝達到着七日後より開始してください。
以上』
手紙を見たタツミは地面に投げつける。
「何だよこれ!」
ほかのメンバーも手紙を見て。
「彼女はお手伝いでしょ?」
といった。
「いや……そうじゃない……。二週間だと? それじゃ海水浴する時間ないじゃねぇか! 遊べねぇ! カオリ! 一週間で項目の能力を特殊部隊レベルまで引き上げるぞ!」
タツミがカオリに詰め寄る。
「そ、そもそも特殊部隊レベルって……?」
質問を聞いて皆首をかしげる。
「それは……十歳のころのスズと同レベルまでってことじゃないのか? なぁ、ユウキ」
タツミはユウキに尋ねる。
「ぼ、僕に振らないでくださいよ! でも、十歳の頃でもスズは軍隊百人を相手でも組手で勝っていましたよね? 流石にそこまで鍛え上げなくてもいいんじゃないでしょうか……」
「正確には九十八人です……」
スズが訂正を入れてくる。
「そっか。じゃあ近距離格闘術の目安は軍人五十人抜き出来るくらいか。射撃術はハンドガンは百発百中、アサルトは五割、スナイパーは九割。運転は乗り物の内ジャンボジェット以外でいいか。機械術は盗聴と一般的な爆弾の解除術だけでいいか。よし、一週間で……」
「さすがに無理だろ!」
マサキが突っ込みを入れる。
「ま、まぁ予定調整とかはサオリちゃんに頼めばいいんじゃない? サオリちゃん頭いいし! ね♪」
ミカがサオリの方を向くと、彼女は無言で親指を立てた。
「そんじゃまぁ準備しますか!」
タツミはなんだか楽しそうに部屋へ向かった。
「では、カオリさん、一応訓練開始までに銃の扱い方とか基本的な技能だけ学習しておいてくださいね」
「は、はい!」
ユウキは少し呆れながら彼女に言った。
TGJC mission fike 1 target: 〈最強の執行官〉 ~完~
『大国さん! 申し訳ありません! あの場にいた宮島以外全ての人間がやられました……。ゼロも記憶を取り戻し、TGJCに帰還した模様! 菊城彩芽も奴らに加わった可能性があるとの情報も……』
『なんだと……? そうなると標的は別のテロ組織だろう。奴らを吸収し、巨大な組織へと進化させる。そして、政府を乗っ取り日本を占拠。世界を征服するぞ』
『過去、第二次世界大戦時代にサテライトキャノン政策に携わったもう一人の生き残りの娘、吉原美里はこちらで確保しています。今は自由にさせていますが、ご命令とあらば拷問してでもサテライトキャノンの設計やその他の技術を吐かせますがいかがいたしましょう』
『人間、言えと言われてすぐに言うような生き物ではない。出来るだけ自然に聞き出すのだ。焦りは厳禁。なぜなら相手はあの菊城彩芽だからな』
『かしこまりました』
『ボス! ドラゴンズハートと思われる者の通話を傍受しました』
『奴等、我々を利用する気だな。このデーモンズビリーバーの名にかけて奴らを潰す』
『しかし、もしTGJCと戦闘するのであれば見方は多い方が……』
『かまわない。小原唯奈を使え。あのガキをTGJCと接触させ、情報をつかませろ。失敗したら捨ててかまわない』
『了解』
大体三話毎に完結するスタイルになるかと…。




