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TGJC mission file 4:target<狩人を狩る> 3

やっほ。

「俺を殺す……か」

 眼をつぶったまま問い直すとシアムは。

「あぁ」

 とだけ答えた。

「にしても、俺を狩るのにこの人数とは少々甘くないか?」

「何を言っている。お前は今世界でも名のある殺人鬼五人に銃口を突きつけられてるんだぞ?」

 タツミの高速移動やその他の動作はある程度体勢を作らなくては発動しても意味がない。

 腰を深く座っているタツミがいくら高速移動しても立ち上がるために必ず重心移動の隙が生まれる。

 前、タツミがクイーンに迫った時は、腰を浅くし、重心を前に倒した状態で高速移動したため瞬間移動の様な移動になったのである。

「どうする? ジャック」

 シアムは煽るように銃口でタツミの後頭部をつつく。

「さぁ。今俺も参ってるんだ。この状況を打開する策が思いつかない」

 タツミが目だけを動かし掴んだ周囲の情報。

 まず、目の前を机を蹴り上げて怯ませようかと考えていたが、床と机の脚がコンクリートで固められているうえ、百キロは軽く超えるほどの金属製。

 タツミの座っている椅子も埋め込まれており、クッション性も高くてすぐには立ち上がれない。

 グレネードやフラッシュ等の武器も所持しておらず、持っているのはサイレンサーの付いたハンドガンを一丁だけ。

「無駄話もここまでにしようじゃないか。そろそろ僕たちは一斉にトリガーをひくが、何か言い残したことはあるか?」

「チェックメイト」

 タツミの言葉にシアムは不思議そうな顔をした。

 ニヤッと笑うタツミを不気味に思ったのか皆にトリガーをひくように指示した。

「死ね!」

 シアムはタツミの後頭部より一ミリも離れていないところで弾を放った。

 薄暗い部屋に液体が飛び散る。

「あっけなかったな」

 シアムが自分に返ってきた液体を拭こうとして驚く。

「な、なんだこれ!?」

 その瞬間、タツミだったものが突如透明で液体の入った人形へと姿を変えた。

「だから言ったろ? 光には気を付けろ、と。俺を煽ってつついている時、素手で触っていたら気づけていたかもしれないのに。まだまだ未熟だな」

 長机の真反対から、声と共に徐々にタツミが姿を現す。

「すごいだろ? この光学迷彩に全身トラッキングして透明な人形に投影する機械」

 タツミはハンドガンを抜き、即座に襲い掛かってくるべステアとガルスの脳天を貫いた。

「悪いな。俺は別にお前たちの遺言なんて聞きたくねぇんだ」

 そして、早打ちで動き出そうとした姉妹を殺す。

 一歩、また一歩と近づいて来るタツミに恐怖したシアムはハンドガンを連射するも、掠る程度でダメージを与えることは出来ない。

「く、来るな化け物!」

「化け物……いやだなぁ。やっていることは君たちと同じじゃないか!」

 タツミは口角を吊り上げ高笑いする。

 その瞬間、ネックカッターが太刀でタツミの首を狙ったが、直前の所で刀を握られ投げ飛ばされる。

「悪いな。俺は素手で刃物を持っても怪我しねぇんだ」

 そして、容赦なく気を失いかけているネックカッターに三発の弾丸をぶち込む。

「お、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!」

 シアムは地面に閃光手榴弾を叩きつけ、血眼になって逃げだした。

『む、無理だ! 白髪の狩人は化け物だ! まともな人間じゃない! そんな次元じゃない! とにかく撤退だ! クソッ! クソッ!』

 彼は走りながら歯を食いしばる。

 近くの駐車場に車を止めていたシアムは自分の車に駆け込んだ。

「よ、よし!」

 エンジンをかけ、アクセルを踏み倒し車を急発進させタツミのいる方とは反対へハンドルを切ろうとしたとき、バックミラーに返り血で染まったタツミが映る。

 狂気のあふれた笑みは、一瞬でシアムの脳内に一生忘れることのできない恐怖を刻み込んだ。

 角を曲がった直後、車は激しく爆発を引き起こし、シアムの記憶の更新は途絶えた。

「チェックメイト。意味は『打ち取った』。お前が逃げることは容易に想像できたからな」

 タツミは爆発した車からシアムを引きずり出し、別の車のトランクに乗せてエースを殺した別荘に行って同士討ちをしたように見せた後、別荘に火をつけ火事を起こした。

 爆発した車は、タツミが行った後すぐに『掃除』が入り、証拠を隠ぺいした。

 エースと部下が直前に行っていた通信は、極秘通信だったため通話の履歴や証拠の一切が消去されており、口の証言のみとなってしまい、国際警察も動きを見せなかった。

 そして後日、世界中のニュースがタツミの仕組んだとおりに動き、無事今回の騒動を内乱で収めることが出来た。



「よぉユウキ。無事に全部終わったぞ」

 タツミはまだ退院できていないユウキのお見舞いに向かう。

 彼は、前回よりも元気になっていた。

 しかし、毛布の下の体には、何本もの管と電線が刺さった鎧の様なものを着ていた。

「これは……?」

「あぁ、これはね、彩芽博士がとりあえずで作ってくれたパワードスーツさ。まだ触覚は一切戻ってないんだけど、これを着れば強制的に手足を稼働させることが出来るんだよ」

 ユウキは腕を上下させて見せた。

「そうか。まぁ、手足の完成にはもう少し時間がかかりそうだな」

「タツミは手足の痛覚機関を省いているって聞いたけど何か不都合なことはある?」

 彼の質問にタツミは少し考えたのち。

「無い。というか、無くていい。人間の筋肉には普段セーブがかかっていて、攻撃反動による自身へのダメージを極限まで減らしている。それに対して、義手は二百パーセント以上の力を引き出すことが出来る。まぁ要するに、俺に痛覚を作ると本気でパンチを出した時に、身体ダメージはゼロなのに骨が砕け散るほどの激痛を味わう羽目になるという事だ。まぁ、義手にかゆいとかいう感覚もないから、特に問題は無いな。ただ、自分の受けた手足のダメージは自分で確認する必要があるから、感覚を覚えるのが少し大変だ」

 タツミの説明を聞いてユウキは少し考える。

「ダメージ計算ってやっぱり視覚を必要としているよね……。僕の場合はどうすればいいんだろう……」

「まぁ、何とかなるだろう。例えば、触覚とかまぁその辺は博士がうまい事調整してくれるだろう」

「そうだ、ユイナちゃんは元気かい?」

 唐突な質問にタツミは少し言葉に詰まる。

「もしかして、最近あの子と一緒に過ごしていないんじゃないか? 確かに、大切な人を危険から遠ざけたい気持ちもわかるけど、彼女はまだ中学生なうえ、一度家族を失っているのだぞ? もう少し気を使ってあげたほうがいいと思うよ」

「あぁ。わかってる。それに、ユウキが来れない理由についてもちゃんと説明しなきゃな……」

 声のトーンを落としたタツミにユウキは。

「あぁ、それなら大丈夫。君がクリストフ・ジョナーことエースを暗殺した次の日に彩芽さんとここを訪ねてきたよ。まぁ、実をいうと、君が帰れていない理由もしっかりと説明した。タツミは本当に一人で抱え込む癖があるからね。まったっく、困ったものだよ」

 ユウキは溜息をついた。

「そうか。迷惑をかけたな」

「だから、それだよ。全然迷惑じゃないから。大体君は昔から……。まぁいいや。それが君だもんね。だが、本当に困ったことがあるなら相談してくれよ? 今の君は昔君が嫌いだった僕だよ」

 タツミは返す言葉を見つけられずに黙ってしまった。

「それと、君がジャックとして受け取っていた土地、あれ売ってもう一回買ってジャックは退去したことになってるから。もう戻っても大丈夫だよ。あとなんだっけ、あぁそうそう、カオリさんが君の家とユイナちゃんの面倒を見るために本土に帰ってくるって。あと、ジャックも白髪の狩人も執行官№ゼロにも三か月の休暇を取るから。色々な面倒に巻き込まれて高校三年生中退になっちゃったカオリちゃん、君の家から一年間高校通う事になったから。とは言っても、まだ彩芽博士は追われている身だから彼女の通学は君が護衛するんだぞ」

「あぁ」

 タツミは、謎に手を焼いてくれる彩芽とユウキに多少の不信感を抱いていた。


 その後、車で学校にユイナを迎えに行き、ジャックの家へと二人で帰還する。

 内装は前と完全に同じになっており、車庫には車がしっかりと並べられていた。

「ぱぱ、なんかテレビにボタンが追加されてるよ?」

 壁に埋め込まれたテレビを眺めながら言う。

 タツミはユイナを持ち上げ彼女にボタンを押させる。

 すると、テレビの電源が入り画面に車庫が映し出される。

「何だこれ?」

 右向きの矢印の書かれたボタンをユイナが押すと画面が切り替わり、自宅前を映し出す。

「あぁ、監視カメラか」

 そして、次の画面は山の入り口に取り付けられたものだった。

「ぱぱ、なんか女の人がいるよ」

 カメラには、少し不安そうな顔のカオリが映っていた。

「迎えに行くか」

 タツミはユイナを抱えたまま玄関を出てカオリの元へと顔を出す。

「よ、元気か?」

「た、タツミ君……女児誘拐……?」

「ちげーよ!」

 タツミはユイナをカオリに渡して代わりに荷物を持つ。

「俺の娘だ。ユイナ、この人はカオリ、今日から一緒に住んでうちの世話をしてくれる」

「ちょ、え? 娘? 誰との?」

 驚くカオリの口を急いでふさぎ、少し怖い顔で『後でな』と囁く。

 

 彼女をとりあえず自宅に案内し、色々話を聞く。

「てか首都圏の山を買ってるって……どうなってるのよ……」

「ふむ、俺がTGJCに戻る前より元気になったみたいだな」

「そう? まぁいいわ。話はお姉ちゃんに聞いてるわ。ここでユイナちゃんと家の世話しながら学校に通うという事だったわよね」

「知らん。仕事が片付いたのが昨日の深夜だからな」

「はぁ。そうだ、お姉ちゃんが私の生活必需品は全部タツミ君に頼んでって事だったから着替え二着と下着、学校用の制服しか持ってきてないんだけど今から買いに行かない?」

「は? 聞いてねぇぞ?」

 タツミは彩芽に電話をかける。

「おい、どういうことだ!」

『まぁ、良いじゃないか。タダ働きしてくれるんだぞ? むしと小遣いを渡さなきゃいけない立場なんだぞ?』

「頼んでねぇぞ……」

『頼んだ頼まれたじゃないんだよ。私は君を信用しているんだ。互いに信用して依頼するってこういう事じゃないのか?』

 そういって彼女は電話を切った。

 タツミは溜息をついて。

「明日な」

 と言って財布を見た。


 次の日、午前中に起床するとキッチンからいい匂いが漂ってくる。

「何してんだ……?」

 タツミがキッチンを除くと、中ではユイナとカオリが二人で料理をしていた。

「朝ごはん作ってるのよ」

「ぱぱー! 今日お出かけするんでしょ! 私、最近流行ってるスイーツ食べたい!」

 駆け寄るユイナの頭をなでていると、カオリは。

「ねぇ、ユイナちゃんって少し子供っぽいわよね。私が中学生のころはもう少し落ち着いていた気がするわ」

 首をかしげるユイナの代わりにタツミが答える。

「昨日話した通りの境遇の子だ。少しストレスによって発達に障害が出ている面もある。実年齢で言えば中学二年生だけど、中身はもっと幼いと思って接してくれ」

「そ、そっかごめん……」

 カオリは少し俯く。

「それに、お前は昔から可愛くない。確かにお前は昔から落ち着いていたよな。異常なくらい」

「あんたが言うか」

 三人は身支度を済ませタツミの運転でアウトレットパークに向かい、二人に振り回されて散々金を使った。


 それから約一か月。

 カオリはタツミの家での生活にすっかりなじみ、景色は桜色へと変化していた。

「来週からまた高校生か」

 窓辺で外を眺めていたカオリの後ろからタツミが話しかける。

「そうだね。でもこれからどうしよう……。なんかさ、普通の就職とか絶対できないと思うんだよね。経歴とか関係人物とか」

「夢とかあるのか?」

「……。私の過去は知ってるでしょ。だからね、今を生きるのに必死なの。だから更に未来の事なんて考えてたらおかしくなっちゃいそうだよ。お姉ちゃんみたいに研究もできないし、頭もよくないし、狙われの身だし……。世界情勢は不安定で留学みたいなこともできないし。そう考えたりすると、タツミ君達がちょっとうらやましい。小さい時から就職が確実で、お給料もいい」

「俺達みたいになりたいなんて思わない方がいい」

「わかってる。前にも言われた。でもさ、確実な信頼関係を持った仲間が何人もいて、タツミ君には守る人がいて。だからさ、警察官にもあこがれていたの。だけどタツミ君達と一緒にいると国家権力の汚点が次々に浮き彫りになってきて何も信用できなくなっちゃう。お姉ちゃんは、好きな事をすればいいとか、タツミ君に貰ってもらえばいいっていうけど、私には好きな事がない。タツミ君がもらってくれるのはうれしいよ。でも、家族になったらタツミ君に『いってらっしゃい』って言えなくなっちゃうかもしれない。私は強くないし、技術もないから執行官になる事もできない。私、どうすればいいと思う?」

 カオリは寂しそうな表情を見せる。

「なら、やりたいことの前にやれることを考えろ。いいか? この世にはやりたくてもやれないやつらが大勢いるんだ。俺だって、定時に帰って、夜飯を俺が着くってユイナに出してやりたいと思う。だけど俺は帰れねぇし料理が出来ねぇ。だからできるお前がうらやましいし尊敬している。戦場以外人生のやることを見つけられなかった男は、急に前線から離脱したらどう思う? 普通、死にたいほど退屈と未練の時間が押し寄せてくる。だけどそういうやつが死なずに頑張ってんのはなんでだ? 今、自分が出来ることを考えたからさ。逆に、考えられない人間は道を踏み外し自殺に走る。未練に飲まれそうになりながらも出来ることを探している人間を応援すると同時に、できるやつが手を貸してやればいい。そうすれば、今お前に出来る事がおのずと見えてきて、結果夢がかなうかもしれないぞ」

 タツミは彼女の頭を優しく撫でた。

「それ、特に解決になってないよね?」

「うるせぇ。いい事言った風なんだから」

 二人は窓辺で笑いあった。


 そして一週間後、彼女は学校に編入する事となった。


 その後、大事は無く二か月が経ち、言われていた休暇期間を消化しきった。


 久しぶりに本部へ顔を出すと。

「タツミ、少し厄介な事になるかもしれないぞ」

 とマサキが謎の手紙を渡してくる。

「ラブレターか?」

「やめろ。気持ちわりぃ」

 タツミは鼻で笑いながら手紙に目を通す。

『執行官へ通達。六月二十日、試験的に特殊工作部隊『ミルリグロス部隊』の編成を開始。部隊員教育に執行官を抜擢』

「これって、例のTGJCを知らない議員が発足を促していた特殊部隊か?」

「そうだ。吉原さんの力をもってしても止められなかったそうだ。まぁ、TGJCを露呈させないために人員の選択は吉原さん一人でやったらしいがな」

「にしても急な発足だな。もう少し時間とか案とかを練る必要があるんじゃ……」

 タツミが考えていると、奥からユイカが現れて、飲み物のコップを机に強く置きながら言う。

「トランプ特殊部隊エースの暗殺、アメリカ国籍の凶悪犯罪者、コード486の死亡。まぁ、タツミなら何か知っているんじゃないしら?」

「ユイカさん……目が笑ってないんすけど……」

 彼女の圧に思わずタツミの言葉が丁寧になる。

「そういう事だ。結果、世界に手を出せる日本の機関が一個壊滅したことになる。そうなると、世界情勢に疎くなるわけだ。んで、政府は世界の強者を集めるのではなく、潜伏させるという手段に出たわけだ。まぁ、俺達みたいなのとはかかわりのないお花畑のお偉いさんが考えそうな方法だぜ」

 マサキは舌打ちをする。

「にしても、六月二十日ってもう明々後日だぞ? 近くね?」

 タツミはの疑問に皆も頷く。

「ねぇねぇ! 私も教官になるんだって! ミカ教官って呼ばれるのかなぁ♪」

 部屋からミカが姿を現す。

「あほか。偽名かナンバーだろう」

 マサキの言葉にタツミは。

「いや、本名かもしれないぞ。吉原からの直接命令だろ? もしかしたら、同姓同名の戸籍でも持ってくるんじゃないか?」

 タツミが軽く笑ってから約三日後。


「やぁ執行官達」

 吉原が皆を待ち構えていた。

「よぉ、吉原。全く詳しい情報は聞いてないんだが?」

「まぁ、君のことだ。もうほとんどを理解しているのだろ?」

 そういって紙を渡してくる。

「タツミ、そりゃなんだ?」

 三日前のタツミの予想は見事的中。

 『SJC』という特殊機関に所属するメンバーということになっていた。

 仕事の内容はTGJCと変わりなく、コードネームも同じだった。

 その後、呆れながら案内されるがままに体育館ステージ裏に案内される。

「バスケットボールのコートが三つ並ぶ体育館に日本国籍のミルリグロス部隊志願者が待機しています。人数の制限はありません。使えそうなものを好きに使って部隊を構成して下さい。では、私はこれで」

 その後は執行官達に進行を一任し小原は去っていった。

「俺は面倒くさいから前には立たんぞ」

 タツミは近くに置いてあった椅子に腰を下ろす。

「俺も嫌だね」

 マサキはあくびをしながら座る。

「なら僕がやろうか?」

 ユウヤは少し呆れながら置いてあったマイクを持つ。

「いいのか?」

 トオルの質問に。

「いいよ。いつも立案の時に前立ってるし。まぁ、他の男性陣と比べたら迫力はないかもしれないから『お前達はクズだ!』とか言うアメリカの軍学校みたいにはいかないけど……」

 タツミは少し笑いながら。

「いいよ。やってくれるだけで助かる。俺は壇上に立って建前とか言うのが大の苦手なんだ。そういう鞭を打つ行為はそれぞれが生徒を持って訓練が始まってからやるからな」

 といった。

 ユウヤは微笑みながら舞台袖から出て行った。

「初めまして。僕はSJCコード10こと佐久原さくはら 裕也ゆうや。今日から君達の教官になる者です。今、ここには千七百人の特殊部隊志願者が集まっています。これから四か月間厳しい訓練になるでしょう。訓練終了時に何人残るかわかりません」

 彼の言葉に会場が少しざわめく。

「何をいまさらざわめいているのですか? 尻尾をまいて逃げ出すなら今ですよ?」

 ユウキの浮かべている笑顔がなんだか不気味なものに見えてくる。

 しかし、会場の人間は一切動かず逃げ出そうとしなかった。

「それはそうですよね。自分で志願してきたのに逃げ出したら僕の仕事仲間が八つ裂きにしていたところです。ではまぁ、挨拶はこのくらいで。えっと、僕の手元にある資料によると、十二人の教官の得意分野等の情報が記載された資料が配布されているという事ですがあってますか? 明日までに希望教官を決めておいてください。では今日はこれで解散。寮に戻っていただいて結構です」

 ユウキは舞台袖に戻ってきた。

「なぁ、そんな資料もらったか?」

 帰ってきた彼にタツミが尋ねる。

「壇上においてあったよ」

 と手渡してくる。

「ちょい見せて♪」

 ミカは紙を横取りして除く。

「私が気になってるのは例の教官紹介ページ……」

 ページ内には顔写真、得意分野、コードネーム等の詳細が書かれていた。

「あれ? これ……」

 ミカはタツミのページを指さす。

『獅童辰巳(19)男 コードネームゼロ オールラウンダー』

 と書かれていた。

「何かおかしいかしら?」

 覗いたミズキが首をかしげる。

「確かに。タツミの能力はオールラウンダーと言っても構わないがレベルが違う。分野の所に鬼教官と高確率で死ぬってのが抜けているな」

 リュウが場を和ませる。

「ふむ、異論はない」

 タツミは立ちあがり話を続ける。

「サオリは大丈夫なのか? お前人前に立ったり大勢に物を教えたりするの苦手だろ?」

「だいじょぶ……。なんとかする」

 彼女は自慢顔でマイクとスピーカーを取り出す。

「そ、そうか……」

 タツミはあまりに勢いよく言われたので思わず納得してしまった。

 その後、十二人は歩きながら支給された宿泊施設に向かう。

「ねぇ、タツミここに住むの? また唯奈ちゃんに怒られちゃうんじゃない?」

「ありがとうミズキ。ここからあの家は遠いしなぁ。困った。カオリの護衛もしなきゃいけないのに……。朝早くから訓練して座学して夜まで訓練とか……全く、とんだブラック企業だぜ」

 タツミは満ちにある小石を蹴り飛ばした。

「おい、タツミ」

 マサキが何かを言いたそうにこちらを睨んでくる。

「何だよマサキ。……お前ら訓練カリキュラムどう組むつもりなんだ?」

 皆は何となく教えてくれた、

 大体一週間、平日休日関係なく週三回の自主練日を設けるつもりらしい。

「じゃあ……」

 タツミは少し申し訳なさそうに。

「お前らの自主練の日、カオリとユイナの事頼んでもいいか?」

 少し頭を下げた彼に皆が微笑みかける。

「もちのろんだよ♪」

「やっと私達を頼ってくれるんだね」

 ミカとユイカは特に嬉しそうだった。


 その日の夜にカオリたちにはタツミから事情を説明し了承してもらった。

 


 次の日。

 千七百人は十二人の元へと分散した。

 コードナンバー2、ミカの所には約百人の狙撃手見習いが集まった。

 次に3、サオリの所には五十人、4の所には三百五十人、5の所へ二百五十人、6の所に九十人、7の所には八十人、8の所には五十人、9には百二十人、10の所へ二百五十人、11には二百人、12の所へ百三十人。

 そして、0の所へは三十人が集まった。



『これより訓練を開始する』

 十二組の訓練が一斉にスタートした。

次回は間話的な感じで行くのでタイトル予想は次の次のお話で答え合わせです。

ちなみにタイトルはほとんどこの章内に出てます。

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