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TGJC mission file 3:target<十四人目の執行官> 3

アイス美味しー

 ユリ外出中、TGJC本部。

「さて、ユリが来たときにサオリがくっつけてくれた盗聴器でユリに裏がある事は確認が取れた。まぁ通話相手は分からないが、とにかく警戒が必要だ。というか、始末しちまうのが一番早いんだがな……」

 トオルはタツミの方に目線を動かす。

 皆の目に映るタツミの表情は何か考え事をしているようだった。

「何か気になる事があるようですね」

 ユウキは尋ねると。

「あぁ。ユリには妹がいるはずなんた。なのに、あいつは単身でTGJCに入ってきた。つまり、彼女の妹が何者かに連れ攫われて命令されて動いている可能性が高いという事だ。ユウヤ、例の任務の開始日時はいつだ?」

「四日後だね」

 ユウヤの答えを聞いたタツミは更に顔を曇らせる。

「どうしたものか。……ん? そうか……そうなると更に厄介だな……」

 彼は何か思いついたように立ち上がり、ホワイトボードに相関図を書く。

「これは……ほんとなの……?」

 ミカは目を擦りながらボードを見つめる。

 タツミの書き上げた相関図内には政府の諜報機関までが書き込まれていた。

「あぁ。よく考えろ。そもそも、何故どことも精通している可能性の無いようなただのテロ因子をTGJCに案件としてまわしてきた? 何故このタイミングでユリが現れた? 何故特殊諜報機関が彼女に審査を許可した? 話が出来過ぎている。ありえないだろ? なぁ、誰か五年前の事件でウォンが最後どうなったか調べてくれ」

 彼の命令でサオリが書類を探しに行く。

「そうなると私は早速動いた方がいいわけね」

 ミズキは準備を始めた。

「あぁ。気をつけろよ。相手は潜入のプロ集団だからな」

 タツミはサオリの持ってきた書類に目を通し始める。

「やはり……」

 書類上、ウォンはTGJC拷問官の調べを受けた後裁判所で死刑にされたと書かれている。

 書類の情報発信元は政府特殊諜報機関。

「確かに黒で間違いなさそうですわね。ですが、凶悪犯罪者を逃がすとなるとそれなりに大きな力が複雑に働きあわないと成せないことですわ。しかし、諜報機関一つがそこまで強い権力を発揮できるわけもないですし……」

 スズは首を傾ける。

 サオリはタツミの資料を覗き込み、判決を言い渡した裁判官を指さす。

「佐々木 十造……。佐々木……どこかで……」

 すると、何かを思い出したかのようなマサキが覗き込んでくる。

「佐々木って、ユイナちゃん時にタツミが脅した裁判官一家の爺様じゃないか?」

「それだ!」

 二人は顔を見合わせマサキにアイコンタクトを送る。

「よし来た。俺が佐々木十造をとっつ構えて拷問官に送ってやるよ」

 マサキは部屋に向かった。

「さて、ユウヤ。ここからはバトンタッチするよ」

「あ、あぁ随分と半端なところでパスしてくるね。まぁいいか……。でも少し問題があってね、いつも偵察を任せてるミズキがタツミに使われちゃってるから情報が少なくなっちゃうなぁ」

 ユウヤは少し悩んで依頼書を見る。

「それに……建物の破壊は禁止みたいだし……」

 彼は溜息をついて書類を机に投げ置く。


 ユウヤが作戦を考えている中タツミは更に暗い表情を見せる。

「罠だな」

 彼の呟いた一言が場の空気の流れを重くする。

 言われてみればそうだ。

 ただのテロ因子が別荘の様な基地を持つことは不可能だし、作戦開始までたったの四日、どう考えても誘き出されているようにしか見えない。

「そうなるとわざわざそこに突っ込んでいく必要はあるのかい?」

 ユウヤが更に頭をひねらせる。

「しかし、諜報機関とウォンだけがこの事件にかかわっているとは限らない。俺は少し嫌な感じがする」

 リュウは刀を眺めながら目を細める。

「剣士の感ってやつか? まぁいい。だが確かに匂うな」

 トオルは小さな玉を投げながら考える。


 話し合いの結果、ユウキとリュウが建物に潜入、ミカが狙撃待機が任務を遂行する事になった。

 その間、残りのメンバーはユリ達に関しての調査をすることになった。

「じゃあ、そういう感じで。かいさーん」

 ユウヤの掛け声とともに皆各々の行動を始めた。



 そして四日後。

 山の崖に沿って建てられた豪邸に二人は潜入、ミカは反対側の山でスナイパーを構えている。

「では、任務を開始します」

 ユウキとリュウは別の場所から潜入を開始する。

 今回の任務の建物は崖から飛び出すように建てられたもので、計四階建て。

 ユウキは一階、マサキは四階から潜入を開始した。

 しかし、建物内に人影は見られず三階で二人は合流した。

「誰もいないのはそれはそれで不気味だな……山岳の柱を壊されたらこの屋敷は一貫の終わりだからな」

 リュウは少し呟く。

 その瞬間、ミカが焦りの口調で無線を入れる。

「大変! 攻撃ヘリが向かってる!」

 その瞬間、激しい低音と共に攻撃ヘリが窓の外に姿を現す。

 しかし、ヘリは銃口を向けることなく扉を開けて一人の武装した男を送り出してきた。

「よぉ、久しぶりだな」

 男はユウキに向けて言葉を投げかける。

「ユウキ、知り合いか?」

「……もしかして、あの時のウォンの手下ですか?」

 ユウキは銃を構えなおし照準を眉間に合わせる。

 男は怯むことなくユウキの元へ歩を近づける。

「リュウ、これは僕がやります。ヘリを逃がさないで下さい」

「わかった」

 リュウはユウキに言われた通り窓際まで走った後、ヘリに飛び乗った。


「なぜ、あなたがここにいつのですか?」

 ユウキは銃のトリガーに指をかける。

「まさかあの崩壊で俺が死んだとでも思ったのか? それと、今の俺に銃弾は効かないぜ」

 大男の挑発に乗ってユウキは弾丸を眉間に打ち込んだが、潰れて落ちてしまった。

「だから言ったろ? もう五年前の肉体とは違うんだ。そうだ、名を教えてやろう。俺は【ビルイス・ロー・クーザ―】元軍人だ」

「ビルイス……元アメリカ軍特殊攻撃部隊総大将の名前ですよね。何故あなたの様な人間がウォンの手下などに……」

 ユウキの質問にビルイスは少し暗い表情を見せた。

「俺はな、十年前、当時最年少で総大将を任された。俺は軍の中じゃそれなりに強かったし、影響力もあった。そのせいで、上から酷使され続けた。当時二十七だぜ? でも、俺は国のために働いていると考えて一生懸命働いたさ。でもな、三十二になった年に俺の体は突如崩壊した。一年間の入院生活を強いられ、退院するころには軍に俺の席はなかった。

そんな時、ウォンに会った。あいつは俺の体を動かせるようにしてくれた。それに、アメリカには俺にしたことの報いを受けてもらう。だから俺はお前たちに負けるわけにはいかないのさ」

 ビルイスは身に着けていたアサルトライフルをへし折り、投げ捨てる。

「俺が今までに戦闘で倒せなかった人間はお前だけだ執行官。だから正々堂々戦ってやる。俺に銃弾は聞かないがナイフ等の武器はダメージを与えられる。ナイフ位持っているだろ?」

 ユウキは覚悟を決めてハンドガンをしまいナイフを取り出す。

「あなたの人生がとても良いとは言えない。ウォンの手下となった経緯も理解しました。ですが、TGJC執行官№1、全力であなたを排除させていただきます」

 二人は正面から突撃しあった。





 一方、ヘリに飛び乗ったリュウは、豪邸から暫く離れたところでパイロットをヘリから蹴り落とし自分もパラシュートで降下し意図的に墜落させた。

 その後、ミカと合流し双眼鏡でユウキ達の様子を伺っていた。

 

「なぁ、あの男知ってるか?」

「んー、知らないなぁ。リュウの方はあのヘリの中で何か収穫はあった?」

 リュウは真剣な顔をして。

「あぁ、あのヘリは軍からの盗品等ではなく、個人企業の所有している攻撃ヘリだった。しかし……積まれていたパラシュートの制作会社の名前は聞いたことがなかったな……。確か『ドライド工房』だったな」

 ミカも会社の名前は聞いたことがなさそうだった。




 ビルイスとユウキは互いに傷は受けつつも一進一退の攻防を繰り返していた。

『ユウキ、そろそろタイムアップの様だ。攻撃ヘリが六機接近している』

 マサキからの通信を聞いたユウキはビルイスに尋ねる。

「攻撃ヘリがこちらに迫ってきているようですが、あなたの差し金ですか?」

 その言葉を聞いた彼は驚きの表情を見せる。

「攻撃ヘリ……? そんなの知らねぇ」

 ビルイスは体の力を抜き外を見て、後ずさり、腰を抜かして床に倒れる。

「あ、アメリカ軍特殊攻撃部隊の攻撃ヘリ……!?」

 彼の様子をみたユウキはリュウに通信を返す。

「第三勢力です。高度な技術保持の可能性有。サーマルカメラ等に警戒して下さい」

 リュウとミカは通信を聞いてその場を一時的に退避する。


 飛んできた六機のヘリは豪邸の窓側に均等に並び。

「これより始末を開始する! さらばだテロリスト共!」

 と英語でアナウンスが入った後、ミサイルとマシンガンによる一斉攻撃が始まった。

「はははははははははははは!」

 ビルイスは窓際で豪邸が壊されていく状況を見て狂ったように笑い始めた。

「そうか! 俺は死ぬのか! 追い出されたアメリカ軍共の手によって! ははは! 愉快だ! 執行官! 一時休戦と行こうじゃないか! 俺がヘリ諸共地獄送りにしてやるよ!」

 ビルイスは窓ガラスを突き破り、半壊した豪邸の床を蹴ってヘリに飛び移る。

 その衝撃で豪邸は崩壊し、ユウキは瓦礫に巻き込まれ谷の底へ落ちていった。







 同刻、千葉沿岸中工場地下。

「よぉ、久しぶりだな。クリスチャン・ウォン」

 タツミが銃口を向ける少し老けた男。

「その名で呼ばれたのは五年ぶりくらいですかねぇ」

 ウォンが指を鳴らすと大量の武装した軍人が奥から姿を現す。

「さすがにあなたといえどこの状況で私に手を出すことはできまい。して、何用かな?」

「マイナという女の場所を吐け」

「まぁまぁ、銃を下ろしたまえ。君の手足に関する情報はすでに知れ渡っているということを忘れない方がいい。デーモンズビリーバーの開発した能を媒体として作成された高性能コンピューターは君が戦ったケートスから情報を得て更に正確になっていることを忘れない方がいい」

 ウォンの言葉を聞いたタツミは銃口を少し下げる。

「その機械なら俺が破壊したはずだが……」

「君がデーモンズビリーバー本社で破壊したものはダミーだよ。君が攻めてくると分かっていて見え見えなところにコンピューターを残しておくと思うかい? 本体はもうマッドマン博士の元へ渡っているよ」

 タツミは少し笑って。

「なら、今ワンがやってるビルイスとか言う改造人間を拷問すればいい話じゃないか?」

「ふんっ、あいつは当てにしない方がいい。それにきっと今頃自分の最も愛したものに殺されているだろうさ」

「それはマッドマン側にアメリカ政府が付いたと解釈していいんだな?」

 タツミの質問にウォンは軽く笑う。

「チッ……」

 タツミは銃を降し周囲を見渡す。

「ちなみに、マイナならここの一個下の階に閉じ込めているぞ? 好きに連れていくといい。まぁ、ユリは別件で出ているから伝える手段はないだろうがな」

 そういってウォンが再度指を鳴らすと軍人もウォン本人も影に姿を消した。


 タツミは周囲の安全を確認し、床を殴り下の階への道を貫通させる。

 下の階では鉄格子に囲まれた牢獄でユイナと同じくらいの年齢の少女が閉じ込められていた。

「誰」

「ゼロ」

「どこかで……」

「あぁ、五年前君達姉妹に船に乗せられた」

 その言葉を聞いてマイナは目を丸くしてタツミのこじ開けた鉄格子の隙間から体を出してくる。

「今からユリの所に行って報告してあいつの暴走を……」

 タツミが足の飛行デバイスのエンジンをかけた瞬間、携帯に緊急連絡が届く。

『ユウキ、コードパープル、東京中央病院集中治療室、同伴菊城彩芽』

 この文字列の意味する事。

 コードとは怪我の度合いを現すもの。

 イエローが骨折程度、多少検査が必要な怪我、レッドが脇腹に弾丸を食らう等の激しい怪我、パープルが最上位で生きているのが不思議な状態なくらいの怪我という事である。

「すまないマイナ、少し予定が変わった。今から東京中央病院に向かう。






 東京中央病院地下特別手術室横会議室。

「何があった」

 会議室の前のベンチにマイナを座らせたタツミが中に入るとミカ、マサキ、リュウが暗い顔で席に座っていた。

「豪邸を米軍に攻撃され、倒壊に巻き込まれ高さ四十メートル以上からの落下だ」

 リュウの説明にタツミは納得がいかなさそうに。

「何故だ? 飛行デバイスでも故障していたか?」

「違う、豪邸自体約高さ七十メートルの所に建てられていた。建物倒壊と同時にヘリに捕捉されないよう、ゆっくりと下降していたが、上から降ってきた瓦礫が背中を貫通し、そのまま落下していった」

 返答を聞いたタツミは不安そうに。

「容体は……?」

 と恐る恐る質問する。

「まだわからない。きっと今頃体を貫通した瓦礫を撤去できたくらいの時間だろうしな」

 四人が暗い顔をしていると、彩芽とマイナが中に入ってくる。

「誰だ、外に子供を置き去りにしたやつは」

 手術用マスクと白衣を脱ぎながらマイナの手を引く彩芽にミカが。

「ユウキは……?」

 と尋ねる。

 彩芽は溜息をついて言った。

「正直言って危ない。だが、エリートに手術を刺せている。だから失敗の可能性は低いと見て良い。しかし、後遺症は免れないだろう。骨髄を傷つけてしまっている」

 彼女の言葉に場が更に重くなる。

「ちょっと……出てくる」

 タツミがマイナの手を引いて出ようとしたときに、彩芽が。

「あぁそうだ、タツミ。ちょっと相談したいことがあるから気持ちの整理が終わったら声かけてくれ」

「あぁ」

 と適当に返事をして二人で病院の外のベンチげ夜風に当たった。

「お兄さん、どうかしたの……?」

 心配そうに見てくるマイナにタツミは少し笑って。

「これで何か好きな飲み物買ってきていいぞ」

 と財布を手渡す。

 マイナは軽く頷いて小走りで走っていった。


 次の日、タツミは本部にいつもと変わらない様子で参上した。

「タツミ、ちょっといいかい?」

「あぁ、昨日のお願いってやつ?」

 彩芽が頷いたのを見て二人は奥の部屋へ移動した。

「昨日、病院から君が帰宅した後本部に帰還したユウカによるとユリはTGJCに対する攻撃はしないと宣言したらしい」

「どういうことだ?」

「彼女、二重スパイをしているみたいなの。TGJCの情報を改ざんしてウォンに伝えていたらしい」

 彩芽の言葉にタツミは少し首をかしげる。

「わからない。何故その必要がある?」

「うむ、そこなんだがユリの話だと、アメリカ大統領はマッドマン側に付きたいらしい。対して、知っての通り日本はマッドマンと敵対する姿勢を取っているだろ? しかし、日米間には第二次世界大戦時に交わした協定が存在する。そこで、アメリカ軍は例の豪邸にTGJCを誘き出し、アメリカ軍のヘリを攻撃させ日本への攻撃口実を作ろうとしていたらしい。それをユリはウォンの手下のビルイスという男がアメリカ軍とTGJCに恨みを持っている事を利用し、内戦という形でアメリカ軍を抑えようと考えたらしい。つまり、ユリはTGJCの味方、特殊諜報機関はアメリカ政府に買収、ウォンはただ動かされているだけという感じだ」

「だが、過去にウォンは特殊諜報機関に助けられているのだからウォンが特殊情報機関に味方していてもおかしくないのではないか?」

「ふむ、更に複雑な話になるんだが、そもそもマッドマンとウォンの父親には昔からの仲というやつがあるらしい。だから、ウォンはマッドマンに従う事のが多い。つまり、ウォンを助けるためにマッドマンがアメリカを使って諜報機関を動かし助けたという形になる。

しかし、マッドマン本人はアメリカにそこまで高い好意を持っているわけではないからウォンが特殊情報機関及びアメリカ政府に手を貸す可能性は低いと考えられる」

 タツミは説明を聞いた後、本題に関する話題を出す。

「そうだったな、本題に入るとしよう。正確に言うと、もしユウキが執行官復帰できなくなったとしてもナンバーの繰り上げは無し、ユリはまぁ事情があったとはいえ政府に反する行動をTGJC執行官として取ってしまったことに変わりはない。執行官除名は免れないだろう。しかし、今回の一件、政府機関に問題がなかったわけでもない。それで、処分に関する話を小原総理から処分を我々に任せると通達があった。そこで、君にはクローズバリアアイランドを買ってほしい。そこに私用のもう少し大きな研究所や工場を作ってもらえないだろうか? そこでユリとマイナをメンタルケアと称して隔離しておきたい。まぁ、正直なところ彼女たちが二人で安全な暮らしをするにはそれ以外場所がないのよ」

 彩芽は少し暗い顔で説明する。

「……俺が買うの……?」

 タツミが自分を指さしながら聞くと彼女は。

「うん! タツミは色々稼いでるから! それにあそこの島は知っての通り交通の便も悪いし航空機もめったに来れないから、研究施設、航空機の発着場、研究用隔離特殊施設、居住区、その他諸々購入費二十億位!」

 と笑顔で言った。

「俺の財産の三分の一を持っていくつもりか……!?」

「もちろん、総理やコネを使って半額位にはしといてあげるわよ!」

「俺の利点は……?」

「……ないな! しかし、ユリやマイナ、私の武器研究で今後の発展がTGJCの執行官達を助けると考えれば投資しやすいでしょ?」

 タツミは大きく溜息をついた。

「仕方ない……確かに仕事に毎回嫌がらせかと思うほどの報酬金がついて来るから使いきれず溜まる一方だったしな……それに白髪の狩人での仕事もぼったくりでやってたし……わかった、買うよ……」

「決まりだね! それと、マイナちゃんは私が見ておいてあげるわ」

 彩芽はすぐに連絡をはじめ、次の日にはもう島及びその範囲の海の所有者は獅童辰巳となっていた。

 

 タツミは一度ユイナの様子を見に自宅に帰る。

「お帰りパパー!」

 ユイナは相変わらず元気に出迎えてくれる。

「あぁ、ただいま」

「どうしたの?」

 少し元気のなさそうなタツミを心配したユイナが尋ねても、タツミは笑っていつも通り。

「何でもないよ」

 と言って家の中に入って部屋着に着替えてリビングに戻ってくる。

「ユイナ、一週間も家を空けちまったが大丈夫だったか?」

「うん! 大丈夫! 少し寂しかったけど彩芽博士がたまに遊びに来てくれてたから大丈夫! そうだ!」

 ユイナは台所に走っていき、袋を持ってくる。

「これ食べて!」

 袋の中には丁寧に乾燥材も入れられたクッキーだった。

「おぉ、これユイナが作ったのか!? 美味そうだな!」

 ユイナはとてもうれしそうに。

「食べて食べて!」

 と急かす。

「おう! いただきます」

 タツミはクッキーを食べて。

「うまい! めっちゃうまいこれ! 本当にうまいぞ!」

「私ね、パパの代わりに家事出来るように彩芽博士に色々教わったんだ!」

「そうか! ユイナはいいお嫁さんになれる……いや、娘はやらん!」

 タツミは腕を組んで宣言したが、ユイナは頭の上にクエスチョンマークを浮かべていた。


 その日の夜。

 タツミはユイナにお願いされて一緒にベッドに入って寝ていた。

 タツミを抱き枕にしてぐっすりと眠ったユイナの頭を軽く撫でながらユリから聞いていた彼女の電話番号に電話をかける。

「よぉ。お前はどこまで嘘をつく」

『ユウキさんが怪我をしてしまったことは本当に申し訳ないと思っているわ』

「そうか、知っていたか。で、お前はどこまで嘘をついている」

『タツミ君……私はね、マイナと過ごせればいいの。あの子がウォンに捕らえられている以上、私はどこまでも自分を殺して嘘をばらまき続けるわ』

「そうか。そういえばうちのユウカがお前に接触したらしいな。いつだ?」

『確か、ユウキさんが怪我で運び込まれたという連絡をユウカさんが受ける寸前よ』

「お前があいつに教えたことは真実か?」

『そんなわけないでしょう? わかってて私に連絡をしてきたのでしょ?」

 タツミは溜息をつく。

「違うぞ。お前が正直に話したから何を考えているのか余計分からなくなった、だから連絡したんだ」

『私が真実を話した?』

「そうか、本当にお前の考えていることは分からない。何故だ。もし、言わないのであればマイナを排除対象リストに入れる」

 その言葉を聞いたユリは少しためらった後。

『十五秒で記憶して』

 と言って静かになる。

「は?」

 タツミが聞き返そうとした瞬間、メッセージに謎の細長い画像の写真が送られてくる。

 細長い写真には一列に文字が書いてあり、上の方には三角形が書いてある。

 タツミはとっさに画像を保存した。

『じゃあまた連絡して』

 とユリは電話を切った。

 彼女の送ってきた文字列はこうだ。

【△こな0のの1回で3線以2は上ー盗の6聴電3さ話4れ番9て号ーいに2まか4すけ2 な5 お し て】

 タツミは画面を眺めて考えていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。


 次の日、タツミは暗号を解読しユリに連絡をした。

「面倒くさい事してくれるじゃないか」

『簡単な暗号だったでしょ? まぁいいわ。で、マイナを始末者リストに入れるってどういうことかしら? もし、そっちがその気なら私だっていつでもあなた達の情報を敵に流すことが出来るのよ?』

「なぁユリ、現状を作っている数々の権力闘争はどこを持って終わりとする気だ? お前が日本に対してアメリカが暴挙に出ないように阻止してくれたのは分かった。しかし、第三次世界大戦の火種と成りうる勢力が俺達TGJCを取り巻いている。俺達はどこを目指している? マッドマンが戦争を起こすことは間違いないだろう。それに対抗、あるいは協力して世界を巻き込む大戦がはじまるかもしれない。君はTGJCを……いや、日本をどういう混乱に陥れるつもりだ?」

『前から言ってるわよね? 私はマイナと平和に暮らせればいいの』

「君が本当にそう思っているなら今すぐにスパイなんてやめたほうがいい。君が二重スパイなのはもうウォンにもばれているだろうしな」

『もし本当に私が二重スパイだと気づいているならなぜウォンはマイナを殺さないの?』

「それは君がスパイを始めてTGJCが動くことを予想していたからさ。ウォンは……いや、マッドマンは、アメリカ軍と日本軍に再度開戦させ、どちらかの勢力が優勢となった場合に現れる第三勢力になるだろう。つまり、君にはトリガーの役目しかないんだよ。それも一回きりの。そしてそのトリガーがこの前ひかれた。つまり、もう君を必要とする人間は居なくなる。ただ一人を除いて」

『嘘……。それじゃあマイナは……』

「あぁ、もしお前が用済みになったらさっさと始末するだろうよ」

『そんな……』

「だが、お前にチャンスをやろう。TGJC執行官を辞退しろ。そして国籍などもすべて消せ。もう二度と裏職に関わるな」

『……それは私にマイナは諦めて隠居しろと言ってるの? それにあなた言ったわよね。一人だけ私を必要としている人間がいると。その人に泣きつけばいいじゃない』

「お前……自分の妹に泣きつくのか?」

 タツミは爆笑した。

『ど、どういう事よ』

「いいか、ユウキが事故にあったとき、俺が何してたか耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ。俺はそもそもあんたがTGJCに入った時、妹を一番に考えていた人間が来るなんて確実に何かあると考えた。それに、特殊情報機関がかかわってくるとそれなりに大きな勢力が動いてお前を操っているという所に行きついた。お前がウォンから一度逃げたときからの経歴とウォンの処理資料。二つから見えてくる点はお前の弱点を知っているウォンが妹を武器に動かしていると考えた。だから俺達は執行官の中でもごく少数だけでウォンの現在の調査を行った。そして、ユウキが事故にあったとき、俺は単独でウォンの隠れ家を襲撃しマイナを救出し、TGJCで保護した。それを報告しようとしたときにユウキの情報が入ってきた。というわけだ。結論だけ言うと、お前の妹は俺達が人質に取った。さっき突きつけた条件を飲み込み、TGJCの……いや、俺に保護されろ」

『ウォンは……殺したの?』

「いや、逃がした。だからお前の身を思って提案している。もし、条件を飲むのであれば今日の夕方までにTGJC本部に出頭しろ。いいな」

 タツミは少し雑に電話を切った。



「……ありがとう……やぱりゼロを信じた私は正解だった……!」

 某ビル屋上。

 一人の少女が携帯を握りしめながら涙をこぼしていた。









「あんたがメールじゃなく電話をかけてくるなんて珍しいじゃないの、総理?」

『タツミ……いや、白髪の狩人君、今すぐ特殊諜報機関長【永田 優斗】を消してくれ!』

「こりゃまた急な話だな。何かあったか?」

『今の君達の置かれている状況は説明をリュウ君からもらっている。なので奴の所を訪ねようと思ったら急に奴はアメリカ軍地警察特殊諜報官になったといわれ、現在地は大阪、今日の午後三時に空港からアメリカ行きらしい! 頼む! ヤツを逃がさないでくれ!』

「現在の時刻は午前十時……飛行デバイスがあるから間に合う。で、報酬は?」

『君のクローズバリアアイランドの件を負担しているのは誰か忘れたのかい? そのせいで永田に会うのが遅れたといっても過言ではないからな』

「わかった、あとで博士に報酬は払ってもらうとしよう。座って完了報告を待っておけ」

 タツミは急いで着替え、ユイナに留守を頼み家を出た。

大体一部七千から一万字程度で投稿しております

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