TGJC mission file 1:target<最強の執行官> 1
はじめまして。
二千十七年 十一月十五日 午後二十時三十分
『見えますでしょうか! テロリスト達の立てこもった高層ビルには未だに静寂が続いています! 警察の突入隊にも一切動きがありません…おっとここで警察から最新情報です! 犯人達は逃走用のヘリを要求しているそうです! あ! ご覧ください! 警察に動きが出てきました! 一体どうするのでしょうか』
「山下警部、どうしましょうか」
「ふぅむ、すぐにでも突入隊を送りたいが人質の安全が保障されない限り隊を動かす事は出来ない…」
「警部!」
月霞む空の下に立てられたテントの中に一人の警察官が入ってきた。
「どうした」
「テロリスト達の言葉によると、ビルの六階に爆弾が仕掛けてあり、爆破装置は奴らが所持しているとの事です!」
山下は右手で顎を摩りながら冷や汗を流した。
ビルの内部地図を見て彼はつぶやく。
「このビルの六階を破壊されてしまったら上に連なる三十四階分は地面に落ちてしまう…」
山本が考えていると一本の電話がかかってきた。
『やぁ。山本警部殿かな?』
「? 何者だ?」
『詳しいことは話せないが警察は何もしなくていい。テロリスト君たちへのヘリを準備しておきなさい。トラッカーなんてつけるんじゃないですよ。話は以上です。行動に移りなさい。では』
「おい! 一体何を!」
山本が話しかけたときには既に電話は切られていた。
「くっ…信じられるわけ…」
焦りと緊張の最中にかかってきた電話に怒りを隠しきれない山本の電話が更に鳴る。
『山本警部、私だ。先ほどの電話に従いなさい』
「佐藤警視総監殿! どういうことですか! 先ほどの電話は一体…?」
『残念ながら詳しくは話せないが、信用してよい。では』
山本は唇を噛み少し黙った後。
「ヘリを準備しろ…」
と命令を出した。
同刻 上空一万二千メートル
『こちらパイロット。五分後にジャンプポイントアルファに到着。オーバー』
「よし、作戦のおさらいだ。ジャンプポイントアルファに到着次第、セカンドは単独降下。スナイプポイントのビル屋上に到着次第待機。セカンド降下後この機体は左へ急旋回しポイントベータへ三分で到着する。そこで全員降下。テロリストのいるビル屋上にステルス降下。その後、ワンとサードはビル側面から六階へ。爆発物を無効化し五階より下のテロリストを制圧。ファイブ、シックスは目標ビル東側、セブン、エイトは西側、ナイン、テンは北、イレブン、トゥエルブは南へ。各方面のスナイプポイントになりうるところをクリアに。フォーと俺は人質の集められているフロアを探しながら上から制圧する。作戦は以上。各々準備を開始」
『了解』
各々装備を身に着けていく。
「ちなみに今回パラシュートとかはないぞ。さっき渡したゴーグルと防弾装備には色々な仕掛けがあるからな。ただ今回の任務は緊急だったからなぁ。皆に機能を説明する暇が取れなくてすまない。今回必要になりそうな機能は降下中に説明しよう。セカンドは単独降下するからな。これを渡しておこう。」
ゼロはセカンドに冊子を手渡した。
「何これ?」
「これはゴーグルと防弾装備の説明書。一冊しかないからなくさないでくれよ」
『こちらパイロット。三十秒でアルファに到着。ハッチオープン。暴風に注意してください』
「よし、セカンド、頼んだぞ」
「うん♪ 任せて! ゼロも頑張ってね!」
セカンドはライフルバック持って飛び出していった。
直後、飛行機は機体を傾け旋回を始めた。
『こちらパイロット。ベータに到着。二分後ハッチを閉め、離脱します。ご武運を』
「任務開始。全員降下!」
ゼロを先頭に皆飛行機から飛び出した。
「こちらゼロだ。今回皆に支給した特殊ゴーグルの機能を説明する。着陸までに頭に叩き込んでくれ。まず、右側四段ある数字の内、上から地上までの距離。単位はキロメートル。二段目が光度。単位はルクスだ。一ルクスを切ると自動で暗視へと切り替わる。ちなみに現在は暗視ロックをかけている。ゴーグル上のボタンを押せば解除され、現在機能が開始される。着陸までに開始させておけ。三段目の数字は方位磁石になってる。首の向きに連動している。三百五十九が最大値だ。一番下が現在外気温だ。次にレンズは銃のサイトやサーマルモード、その他にもズーム等の様々な機能が備わっている。最後にレンズ左側だ。これは自分の視線の先の物への距離を現す。単位はメートルだ。基本機能は以上だ。ちなみに今着ているスーツの腕に小さなモニターがはまってるだろ? そこで調べてみてくれ全員分かったか?」
「おうよ! つまりなんかスゲーゴーグルってことだろ?」
服の上からでもわかる筋肉の男が楽しそうに言う。
「エイト、あんた絶対分かってないでしょ。ほんと能筋なんだから…。まったく、ペアを組むこっちの身にもなりなさいよ」
そういわれるエイトは食い気味に。
「うるさいぞセブン。だからぺったんこなんだぞ」
「あんた…」
セブンは眉をぴくぴくと動かした。
「なぁゼロ、喧嘩止めなくていいのか?」
「ほっとけテン。いつもの夫婦喧嘩だろ」
ゼロは腕の端末を操作した。
「言い忘れていたが今回皆が身に着けている防弾スーツにも沢山仕掛けがあるぞ。その一つがこれだ」
すると、スーツのふくらはぎの後ろ辺りが開き、ジェット噴射を始めた。
「皆無事着地したな。では各々作戦を開始してくれ!」
ワン、サードは腕の端末に目を通す。
「サード、ジェットではなくグラップルフックの方がよさそうだね」
「うん」
二人は屋上の突起にフックをひっかけ壁を降下していった。
「ここか。音を立てずに侵入するには…」
ワンの服の裾をサードが引っ張る。
「ん? どうしたのですか?」
サードは自分の腕の端末をワンに見せる。
「これは…ガラスカッターですか! ざっくりとしか目を通していなかったので気づきませんでしたがこんな機能までついているなんて…。ゼロと仲良くしている『博士』とは一体何者なのでしょうか…」
サードも首を横に振る。
二人はスーツの右手の人差し指についたガラスカッターで中に入った。
「これは…!」
ワンはゼロに通信を入れた。
「ゼロ、少し慎重に行動した方がいいかもしれない。こりゃ六階に爆弾が仕掛けられているというより六階が爆弾になっている感じだぜ。それに見たことないタイプの機械がたくさんついてやがる。それに通信機みたいなのもいくつかついているから起爆スイッチが一つではない可能性も十分にあるぞ」
『了解した』
ワンとサードは慎重に爆弾の解除を始めた。
着地後 ゼロとフォーは屋上の扉から中に侵入を始めた。
「セカンド、聞こえるか? ゼロだ。そちらから見て人の密集しているフロアはあるか?」
ゼロは声を潜めながら通信する。
『こちらセカンド♪ んーっとね、三十三階と三十四階に熱源が密集しているね。テロリスト達は上からくることは予想してないのかしら…? 三十四階まで各フロア二、三人程の見張りしか見えないなぁ』
「了解」
ゼロとフォーは自分の銃にサイレンサーをはめフロア攻略を始めた。
一見簡単そうに見えた上方の攻略だが、その難易度は非常に高かった。
敵に一切の声を出させずに攻略することを強いられていた二人は暗視ゴーグルから見える視界だけを頼りに進むしかなかった。
フォーはしばらく進んだところでゴーグルを額にずらし頬の汗をぬぐった。
その時、彼女の目には月明かり照らす部屋の角で細い何かに反射する光が映った。
「ゼロ、見て」
フォーの指さす先には細いピアノ線で作られたブービートラップが設置されていた。
「これはまずいな…。ピアノ線という古典的な方法だから赤外線にも熱完治にも引っかからない。そのうえ夜で暗いから更に見えにくいという事か…」
ゼロは慎重にピアノ線を切断し、トラップを調べた。
「ねぇゼロ、これ爆弾じゃない。何かの送信機…?」
フォーはゼロに分解した機械を見せる。
「これは…通信装置…? 援軍を呼ぶためか?」
機械を調べる二人の元へ通信が入る。
『ゼロ、少し慎重に行動した方がいいかもしれない。こりゃ六階に爆弾が仕掛けられているというより六階が爆弾になっている感じだぜ。それに見たことないタイプの機械がたくさんついてやがる。それに通信機みたいなのもいくつかついているから起爆スイッチが一つではない可能性も十分にあるぞ』
「了解した」
通信を終えた二人は顔を見合わせる。
「これはもしかしたら六階の爆弾へとつながる遠隔スイッチなのかもしれない…」
ゼロは通信機をスーツに装備されている工具で分解し、ゴーグルのスキャン機能を使って調べた。
「ゼロ、何か分かった?」
「待ってくれ、ワンに発信コードの映像を送って分析してもらっている。結果がそろそろ…お、来たみたいだ。やはり六階への通信機だったみたいだな。だがもし、俺らの様な特殊部隊以外の人間が救助に来たらどうするつもりだったんだ? 絶対に引っかかるよな…」
「今回のテロ、もしかしたら自爆テロに酷似したものなのかも…。もしそうだとしたらヘリを要求した後確実に人質は殺される。でもなんでこんな回りくどいことを…?」
「理由なんて本人たちに直接聞けばいいさ」
ゼロとフォーは慎重にフロア攻略を進めていった。
二人が犯人たちのいる三十四階へ降りる階段の前に到着するころには周辺のクリアリングも終了していた。
三十四階に突入しようとした二人のもとに一本の通信が入る。
『こちらワン。爆発物の解除に九十九パーセント成功した。だがな、一つだけ仕組みの分からないものがあるんだ。サードの解析によって起爆装置に書かれている数字がゼロになった時に起爆するのは分かったんだが数字の法則やらがさっぱりわからないのですよ。六十五周辺を行ったり来たりして少し安定してきたかと思えば急に八十や九十、百を超えた瞬間も有りました』
「なぁそれ、誰かの心拍数じゃないか? 俺達は今から三十四階を攻略する。もし誰かの心拍数だとしたらまずいことになる。 言い忘れていたが今回の任務には制限時間がある。警察がヘリを用意し終わるまでだ。ヘリ要請開始の時間から考えてあと十五分以内には任務を完遂する必要がある。もし、爆弾の解除が難しいのであれば早急に離脱してほしい。待てたとしても三分だ。その時間内に解除できる可能性が九十九パーセントを下回るなら今すぐに切り上げて離脱してくれ」
『そうか。ちなみに三分で解除できる見込みはない。これより五階より下の階のテロリストを殲滅しながら離脱をする』
通信を終え、ゼロとフォーは攻略作戦を立てる。
「俺は三十四階、フォーは三十三階の攻略を頼む。誰の心拍数が起爆スイッチになっているか分からないから殺さずに敵を無力化してくれ。油断は禁物だぞ」
「大丈夫。問題ない」
そういってフォーは階段を下りて行った。
ゼロはサイレンサー付きのピストルを構え部屋に突入した。
「全員武器を捨ておとなしく投降しろ」
敵の数は八人。
ハンドガン持ちが四人、サブマシンガン持ちが三人。
そして、ボスの様な風格を匂わせる全身を布で包んだ大男。
「お前が今回のテロの首謀者か」
「こんなお子様に俺たちの崇高なる計画が邪魔されるとはな。舐められたものだな。貴様一人に何ができる?」
大男の挑発に周りの男達も鼻で笑う。
ゼロは無言で銃を構え、大男以外の男達の手を射撃し、銃を落とさせ無力化して見せた。
「ほぉ? なかなかやるみたいだな。しかし、そんなハンドガンごときで俺を倒せるかな?」
そういいながら布を脱ぎ捨てた男はミニガンを構えた。
「なっ!? こんなところでミニガンなんて使ったら仲間まで殺すこちになっちまうぞ!?」
「仲間? 別にこいつらは仲間じゃない。我々の絶対にして最強の恩方の作戦においてたまたまついてきた奴らだ。俺はあの方の言うことに従うのみ。こいつらがどうなろうとかまわんのさ!」
男はそう言ってミニガンの連射を始めた。
ゼロはとっさの判断でオフィス机を盾に身を隠した。
ゼロが身動きを取れない状況の中。
『こちらフォー。三十三階の制圧を完了。人質十人を非常階段より避難させている。音で何となくのそちらの状況は分かる。人質の安全確保後、そちらに応援に向かう。五分時間を稼いでくれ』
「了解」
ゼロは余裕のありそうな声で返事をした。
しかし、ゼロの身を隠した机もだんだんとミニガンの威力に押されて変形していく。
「ちっ、限界か」
ゼロは決死の思いで机から飛び出し大男に向けて銃を撃つ。
銃口から飛び出た弾丸は大男の左肩を奇跡的に貫通した。
「ぐっ」
大男はミニガンの発射をやめ地面に膝をついた。
「手を後ろに組め」
ゼロは大男の眉間に銃口を構える。
「へっ、ガキのくせに忍耐強いじゃねぇの。さっき俺に銃を撃った時、ミニガンの球を左腕で受けていたじゃねぇか。複雑骨折で済むといいな。いくら防弾のスーツを着ているとはいえミニガンで撃たれればただじゃ済まねぇ。それに…」
大男が言いかけた瞬間、右足に何かが張り付くのを感じた。
「忘れてないか? お前は銃を落とさせて無力化させただけ。今お前の右足につけられた粘着爆弾はそう簡単にはがれるものじゃないぜ? それに、これも心拍数で起爆するタイプの白物さ」
「…。全員に告ぐ。現在ビル内部にいるものは直ちに外へ退避せよ。まもなくビルは倒壊する。周辺の人間も直ちに避難させよ。以上。絶対命令だ」
そういってゼロは無線機をスーツから外し銃で破壊した。
「まさか時間を稼いで自分もろとも爆発させる気か? 言っておくが起爆装置になっている人間はもちろん毒薬を携帯していていつでも起爆できるんだぞ?」
「そうか。なら最期に一つ教えてくれ。お前たちの目的はなんだ?」
「無線機も破壊して遺言を届ける相手もいないくせに何を聞いているんだ? おもしろい。おしえてやろう。冥途の土産に持っていけ。俺達は『ドラゴンズ・ハート』って名前の組織の一員さ。ロシアのとある武器会社の裏組織ってところだな。我々の目的はただ一つ。『第三次世界大戦』を引き起こすことさ。武器販売で金を稼ぎ、参加国の戦力を削りあわせ、ドラゴンズハートの率いる帝国を作成し世界征服することさ。俺が話せるのはここまでだな。あばよ。『執行官№0』さんよ」
大男が話し終わると同時にテロリストの一人が隠し持っていた毒薬を飲み倒れた。
直後、ビル三十四階では小規模な、六階では大規模な爆発が発生しビルは崩れた。
『ゼロ!』
ワンからトゥエルブの全員が無線を入れたが彼らの声がゼロに届くことはなかった。
民間人の死傷者ゼロ。テロリスト達の全員死亡が確認されたが組織名等は調査しても一切出てこなかった。
よって小規模なテロ組織が行った犯行だと処理された。
その後『The Gray Jūstitia Company』のメンバーは十二人で帰還した。
『菊城 彩芽博士へ
あなたが執行官№0を回収していることは知っている。
彼の情報をどこにも流すな。
生存情報も、どこにいるかも、どのような状態かも。
もし流した場合、君の娘の命はない。
ドラゴンズハート日本支部代表 大国 勝』
続く
次回もよろしくお願いします