対面と決意
なんなんだあいつは!
それが如月 律が陽明 奏汰に抱いた第一印象である。
そのボルドー色の髪は一見活発な印象を与えるが、ガーネットのような深紅の瞳には誰もが不思議と引き込まれるクールな魅力がある。若干15歳とは思わぬ整った顔立ちに均整の取れた肉体を持つその青年を世の女性達が放ってはおかないだろう。
律はムカつくくらいイケメンだなぁ~なんて一瞬でも思ったがそれは間違いだった。
陽明家の応接室で当主である陽明 晃佑と陽明家の筆頭執事である律の父、如月 司に律はこれからの仕事を聞かされ、主人になる奏汰様を紹介された。
律は1回だけ会ったことがあったからどんなやつかはなんとなくわかっていたつもりだったが、なにせ会ったのは11年前。予想を斜め上に越えてきた。
(どんな成長すればこうなるの?素直で泣き虫なかわいいあの子を返して!)
内心うろたえていたのである。
「律、この子が息子の奏汰だ。これから宜しく頼む。ほら、お前も挨拶しなさい」
「はぁ、……ども」
「…………」
父である司は律の脇を小突く
「……はじめまして、明日より奏汰様に仕えさせていただきます、如月律と申します。至らぬ点が多々あるかと存じますが、どうぞよろしくお願い致します。」
その態度で同い年とか、どうかしてる。と律は思った。
ひねくれ具合もここまできたら清々しい。
「何かご用がございましたら、私になんなりとお申し付けください。」
完璧な執事の仮面を被って律は言う。
「ああ…」
「律、すまないね。今日から宜しく頼むよ。細かいことは司に聞くといい。」
晃佑様は苦笑いしながら、律と司に退出を促す。
「はい、承知しました。では失礼いたします。」
律は父と共に応接室を出て、陽明家の使用人に挨拶にまわったあと、寝泊まりする使用人部屋に向かう
「まあ……その、あれだ、奏汰様は人見知りだから緊張してただけだろ」
司は律が使う部屋の扉をあけ、中に入るなり開口一番そう言った。
「別に、無理して執事にならなくてもいいんだぞ。家の事は気にするな」
律は奏汰様の第一印象について表情には出さなかったつもりだが、父には律が思っていた事は分かるらしい。
「はぁ?何をいまさら」
律は眉を潜める。
「だって律は女の子なんだから」
ここ10年で何百回も聞いたセリフにため息をついたのだった。
如月家は代々陽明家に仕える家柄である。その歴史は戦国時代にまで遡る。陽明家にとって如月は腹心中の腹心。今でこそ執事という役職だが、昔から陽明一族の護衛や諜報活動などありとあらゆるサポートを一手に引き受けるなくてはならない存在だ。陽明家がこの国を代表する大財閥となった今でも如月は絶対的主従関係を結んでいる。
そんな家に産まれた律は4歳の時に奏汰の執事になる事を決意した。
「女の子は執事になれないよ」
司が何度そう言っても聞かなかった。
「じゃあ僕は今日から男になります」
そう言ってハサミで伸ばしていた髪を躊躇なく切り落とす。司は慌てふためき、祖母は泣いていた。
母は律が物心つく前に亡くなっており、如月家がどういう家かも、跡取りがいないことも幼い律にはわかっていた。
それ以降、言葉遣いや服装、所作さえも男らしく振る舞い、回りが何度説得しても女の子らしくは戻らなかったのである。
司がとうとう諦め、律が5歳になった頃から陽明家にふさわしい執事になるべく教育を始めた。
司は、母親がいれば説得できたんじゃないかとおもったが、美しい妻以外に後妻をもうけて跡取りを…なんて微塵も考えたく無かったので律の決意に折れたのである。
律は母の面影を受け継いだアーモンド型のグレーの瞳で如月家の血筋である濃紺のサラサラとした髪をもつ愛くるしい少女だった。
同い年の奏汰様つきにするのは主であり幼なじみの晃佑様と協議(呑みながらの愚痴りあい)の末決定事項だったが、唯一の妥協点として、25歳になったら奏汰の執事を辞め普通の女性として生活するという約束をかわした。この約束ができたのも、この頃、司の弟のところに長男が誕生し、如月家の跡取り問題がどうにかなりそうだったからである。
司は愛しい妻に似て絶世の美女になるであろう娘を愛でるという夢は捨てきれなかった。嫁にはやらんけど!
そんな父の思惑を知ってか知らずか、現在の律にとってあの約束は口約束以外のなにものでもないと思っている。20年間筋金入りの男装生活のあと、はい、そうですかと女性らしくするなんて到底無理だ。嫁に行く気はさらさらないし跡取りには従弟がなりそうだから婿もとらなくて良さそうだ。一生、陽明家に仕えるつもりである。
「父さん、俺が何のために今まで努力してきたか分かりますか?奏汰様をお守りするためです。やっとお側にいられる歳になって、いまさら怖じ気付くと思いますか?」
語気を強めて司に言った。
「お、おう。悪かった、悪かった。だよな~そうだよなぁ……」
司はあからさまにシュンとしたが、律は見て見ぬふりをする。
「まあ、1週間後には入学なんだから、この1週間で少しでも奏汰様と仲良くなっとけ。じゃないと寮生活もたないぞ」
「分かっています。大丈夫ですよ」
俺は慣れた営業スマイルで本音を隠す。
(大丈夫じゃなくても大丈夫にしてやるさ…)
手元には、1週間後に入学する皇桜学園高等部の入学案内。
見たこともないくらい分厚い入学案内を覚えるため、机に向かった……
読みにくいですよねぇ(;´_ゝ`)拙い文章でゴメンナサイ