26 資金調達
ローザと一つに繋がった夜。
俺は彼女を長屋に送り届けて一人になると、しばらくの間、夜道を歩き思いにふけっていた。
彼女の為なら喜んで死ねる。
だがこの命は安くない。俺を期待してくれているみんなに報いるまで、俺は生きなければならない。
翌朝。
ダンたちの動きに注意しながら、長屋にあった地下壕は埋め立て、農徒神教の本部を山の上で見つけた洞窟に移した。
そして五日後。
プライマーから資金が用意できたとの連絡を受けた。
大金を持っての移動は危険なので護衛として、クナに迎えに行かせた。
その日の夕刻。
プライマーとクナは、馬8頭に荷を引かせて、待ち合わせていた人けのない峠までやってきた。
俺は荷をほどかせて見分していく。
エルフ国に流通する金貨か。
全部で25億1458万フラーヌ。
築城するには十分すぎる資金だ。
それなりの軍備、兵糧だって揃えられる。
「なるほど……。さすが顔が広いようだな」
「国を問わず、知っている商人すべてから借りました。
わての首と人生をかけて」
「そうか。お前の覚悟は分かった。合格だ」
「……アキヒコはん。この金を何に使うかは、ぼやかしています。あんさんの手に渡っている事を知る者はいません。わてを殺せば、全額、アキヒコはんのものになります」
ローザは、
「プライマー。何を言っているの? アキヒコがそんなことをするはずないじゃない」
「アキヒコはん。別にあんさんを恨みはしません。これが戦です。わてがあんさんなら、そうしたかもしれません」
「なるほど。お前は俺に殺される覚悟で、それでも金を持ってきたというのか?」
「はい」
大きく頷くと、プライマーはその場で正座をして真正面から俺の顔を見上げた。分厚い丸メガネの奥には、真剣な眼差しが見える。いつもの垂れた目ではない。まさに鋭い眼光。それは覚悟した男の目だ。
「相手は遥かに強大なエルフ軍。奴等と渡り歩いていくなら、冷静さと非情さが必要です。わては、アキヒコ様、あなたにその資質があると確信しました。あなたは時代を変えていけるお人。その人柱になれるのなら喜んで死にましょう。それに――」
「それになんだ?」
「とにかく資金調達に重きを置きました。この金のほとんどが短期借入。三ヶ月後には5割の金利をつけて返す約束になっております。
総額でざっと37億強。
12億以上つけて返す必要があるのです。そのような金額を返せる筈もありません。取り立てとやり合うなんて時間の無駄です。あなたには他にやるべきことがあるのですから。
保障は、わての首。
逆を言えば、わてが死ねばいいだけのことです。一時的に困る商人が現れるでしょうが、それは一時の話。
あなたがこの資金をもとに、組織を築き、エルフ軍を倒せば、いずれは皆が報われることになります。アキヒコ様がエルフ軍を倒し時代を変えていくことが、金を貸した者達への返済に、いえ、それ以上の見返りになるのです。さぁ、わてを殺し、目立つところに捨てなさい。
わてはあなたの行く末を、地獄から見ております」
俺は笑った。
「ふふふ、俺も見くびられたもんだ。
プライマー。
最初も言ったが、お前が俺を試したように、俺はお前を試した。
そして合格を出した。
つまりこっからは俺達、本当の仲間なんだよ。
お前は並みの商人ではない。才能がある。そして大志もある。だからうちの金庫番はお前しかいなんだよ!」
「で、でも、この金には……」
「だから増やせばいいんだよ! 倍なんて簡単だ。
俺は商人ではない。職業、小作人だ。
売り買いについての才能なんてない。
値段の駆け引きする商才ってのが皆無だ。
だが知っているか?
物流の最前線にいるのが小作人だ」
「……。
何か秘策があるのですね」
「そうだ。
今から有り金全部はたいて、流通している米を買い占めろ」
「米の供給をストップさせて値を釣り上げる気ですか?
確かに今年は不作。
多少の値は変動するでしょうが、それでも2割がいいところですし、時間もかかります。とても返済額に達するとは思えませんが」
「誰が売れと言った。これは俺達の兵糧なんだよ。売るのは一部だけでいい。買ったところとは別の問屋を作り、安値で売って信用をつけろ。豊作時くらいの安値で売れ。平均値は高騰しているから、これだけでインパクトがある。
そうだな、売る量は、全体の5割程度か。これだけ流通に流せば、問屋としてかなりの信頼を勝ち取れるだろう」
「……確かに信用を得られるかもしれませんが、それでは丸損ではないですか! 返済原資はどうするんですか?」
「先物だよ」
「……来年の買い注文を受けるんですか?」
「あぁ、信用を作り、来年も同額の豊作時の値段で売ることができるって豪語して予約を受けろ。人間界やドワーフとの流通ルートがあるとでもホラを拭いて、豊作の国から引っ張れるとでもいっておけ。
それでも量には限りがあるから予約分しか売れないが、もし不作になってもその金額で売ると付け加えておけ。金は原則前払いだが、信用できないという連中には三割程度の証拠金を入れてくれればそれでもいい」
「……なるほど。
確かに前受金が手に入りますな。
ですが一時的に返済できても、今度は来年どうされるのですか? 安値で予約販売しているのですから」
「簡単だ。
来年は豊作だ。
言っただろう。
俺は小作人。
物流の最前線にいる。
季節変動は手に取るように分かるし、それにな……」
俺は空に手の平をかざした。
そう、鍛え抜いた農民は天候を操作できる。
――奥義、雨乞い。
途端、空が曇り、雨が降ってきた。
周りにいた農民たちは、
「神だ」と言って手を合わせているが、俺は神ではない。神は大干ばつが来ようとも、雨を降らせてくれない薄情者だ。
俺は田畑の番人、小作人。
俺がいる限り、農家が不作で困ることはない。
「そして最後にもうひとつ。
穀物が安くなる決定打がある」
ニヤリとする俺に、眉根を寄せるプライマー。
「分からないのか。
お前が俺を信じてついてくれれば、それは実現する」
ハッとした顔で、プライマーは口を開いた。
「確かに実現します!
いえ、実現させなければなりません。
来年はエルフ軍が倒れ、バカのような税金が撤廃される。理不尽な国の取り立てがなくなり、その分世の中に流通する。
そう言いたいんですね!」
「そうだ」
「アキヒコ様。わてをすぐに動かせてください。命に代えても、物資調達を成功させます」
「命に代えなくてもいい。必ず生きて帰還せよ。いいな」




