25 ローザ
プライマーは一礼してローザの隠れ家を後にした。
「アキヒコ、ちょっといい? 実は裏口もあるのよ」
奥にある棚をどけると、その裏には何とか人が一人通れるくらいの通路があった。
ローザに連れられてその道を進む。
村から少し離れた裏山にでた。
「んん~。やっぱ外は気持ちいいね」
大きく伸びをするローザ。
彼女の緑色の長い髪が、風に揺らめく。
「この穴、実はプライマーが提案してくれたの。他にも彼は色々策を練ってくれたんだ。実はね……」
「つまり、プライマーが俺を試していたのは、演技だった。そういうことか?」
「……うん。どうしてもアキヒコの器を見たかったみたい。あらかじめ私には断ってくれていたんだよ。だからね、お金を引っ張ってこさせるの、やめさせてあげて。アキヒコだって7日で倍だなんて、あれ無理なんだよね? 売り言葉に買い言葉なんだよね? 弾みであんなこと言っちゃっただけなんでしょ?」
そうだったのか。
あいつ……。
だが俺は首を横に振った。
「いや、そのつもりはない。どうしても俺はプライマーの覚悟を知りたい」
「覚悟は十分あるわ!」
「……仲間の覚悟を知ることは、つまり俺に課せられた重みを知ることになる。今までだって生半可な気持ちで言っていたわけではない。だが俺一人だけではこの聖戦を成し遂げることは不可能だ。みんなの力が必要。だから、俺は――」
「いくら言っても無駄のようね。……分かったわ。フフ」
「どうした? 何がおかしい?」
「いえ、ちょっと考えてみたの。自由だ、自由だって言っているけど、本当に自由になったら私たちどうなるんだろって」
「……確かにな。
理不尽で不平等な時代を変えなくては! そのことばかり考えて、俺たちがどうなるかなんて考えたことがないな」
「アキヒコは何かするの?」
「……そうだな……
俺、何するだろ?
前も言ったように、俺は君が幸せになってくれればそれで満足だ」
「私も……」
見上げると満月がやさしく俺たちを見下ろしていた。
今夜の風はちょっぴり暖かく感じる。
「私たち、同じだね?」
「はは、そうかもな。似た者同士なのかもしれないな。頑固で意固地で実直で、やると決めたら誰がなんといっても強行突破。外野からすればはた迷惑なことだって、見境なくやっちまう」
「ふふ。そうかもね。
ねぇ?」
「ん?」
「アキヒコは、好きな人いる?」
それは唐突に思えるよう質問ではなかった。
ごく普通に。
自然に。
だから流れるように言えた。
「……君じゃぁダメかい?」
ローザはやや俯いて小さく首を振った。
「ううん。うれしい」
彼女の頬が赤みを帯びて見えたのは、あの満月のせいなのだろうか。
俺は、自分の気持ちを悟っていた。
彼女には、幸せになってもらいたい。
そして俺は、ローザなしでは生きていけない。
それだけに、彼女の片目を覆っている眼帯が、とてつもなくおそろしいものに思えた。




