23 見回り隊
「ロ、ローザ様」
上の部屋にいた子どもの一人が、足早に降りてきた。
「どうしました?」
「見回り隊です。百姓代もいます。どうしましょう? ローザ様は出かけられたことにしますか?」
ダンか。
すでに領主も村に到着している。
嫌な汗を感じる。
「待て、ローザ。適当にしらばっくれた方がいい。居留守を使え」
「この時間になっても帰っていないのはおかしいでしょう。出ますわ。みなさんはお静かにしていてください」
「ローザ。行くな。奴は狡猾だ。何か仕出かしてくる。それにもしかして俺達が見られたのかもしれない」
「アキヒコ。大丈夫よ。この場所には志がある者しか入れません。独裁者の犬なんかに踏み込ませるものですか」
ローザは細い通路を上がっていく。
俺は息を殺して聞き耳を立てた。
ダンの野郎が変なマネでも仕出かしたら、俺は――
戸を開く音がし、上の階から声がする。
「こんな遅い時間にどういったご用件ですか?」
「何を勘ぐっている?
知っての通り新しい領主様が着任された。俺は百姓代だ。だから領主様を代弁して新しい決まり事や年貢について一軒一軒伝えて回っているだけだ。
お前がやましい事をしているから、俺が煙たく感じるだけじゃないのか?」
「……そんなことはありません。
お勤めご苦労様」
「それよりか、また子どもが増えたな」
「身寄りもない可愛そうな子を、この長屋に招き入れているだけですわ。それはカイルがリーダーだったころからやっていること。あなたにはとやかく言われる筋合いはありません」
「あぁ、とやかく言うつもりなどない。食い扶持が増えればその分生活が苦しくなるだけ。そんなこと俺にはまったく関係ない」
「早く要件を言いなさい」
「年貢の利率が変わった。
昨年の120%。
もし払えぬ場合、その比率に応じて人柱を差し出すこと。
以上」
「ま、待ちなさい。
今年の年貢だって、すでに常識を逸脱した量だった。
それを更に上回るなんて、誰が払えるっていうのよ!?
それ、私達に死ねと言っているようなものよ」
「代用品で賄うことだな。
まだ飯を食う時間があるだろ。
寝る時間があるだろう。
空気を吸う時間もあるだろう。
それを有効活用すればいい。
まだまだ払えるはずだ」
「もう限界よ!」
「払えなければお前ら5人組の誰かが奴隷になって街へ行く。その為に増やしているんだろ? 小僧や小娘を。小僧の方が田畑を耕すのに戦力になるが、小娘の方が払えなかった時には役に立つ。お前の判断は正しい。
以上、すべて伝えた。では帰る」
「待ちなさい。
あなたはいいの?
それで本当にいいの?」
「……。
誰かさんが、前領主、前々領主を殺している。
分からないのか?
この村の年貢を減らすと言う事は、国家は百姓に屈した事になるのだ。
年貢に不満があれば、暴挙を起こせばいい。そういう噂が国中を駆け巡る。
そうなればエルフ国全土を減税しなくてはならない。
それをしたらどうなる?
だから国はメンツにかけても、この村を許さない。
全軍をもって報復する。
もはやこの村が生き残るには懐柔しかないんだよ。
言いなりになって、尻尾を振って、懐いて、たくさんの年貢を納めて、負け犬のような人生を歩むしか、なっ!」
「……そんなこと……私が許さない。私だけじゃない……」
「それ以上言うな。
誰かが噂していたぞ。
お前がとある教団の親玉だってな。
お前を疑いたくないし、お前を敵に回したくないが、これ以上言うと、お前自身が自供したのと同じことになる。
そうなったら終わりだ。
俺もお前も、この村すべてもな。
俺はなんとしても、この馬鹿げたテロを食い止めたいだけだ!
そうそう。
奴がこの長屋に紛れ込んだという噂を耳にしたが、まぁ、俺の知った事ではない。
奴に会ったら言っておけ。
お前は神でもヒーローでもない。お前のやっている行為は殺人教唆をしているだけ。いたずらにテロを助長しているだけだと。村には腰の立たない老人や赤子までいる。お前は彼らに武器を握らせる気か、と」
そこまで言うとダンたちは、ローザの長屋から姿を消した。
降りてきたローザは「帰ったわ」と微笑を浮かべていた。その一言で皆、安堵の溜息を吐いた。
俺は見逃さなかった。
眼帯から覗く彼女の右の瞳が、朱色に染まっていたのを。




