20 漁術使い
村の入り口が見えてきた。
あんなもの、あっただろうか。
村の四方には背の高い柵が打ち付けられ、外敵を見張る木造の塔までたてられてある。
俺の視力は99999999999999999ある。
塔の上には、村の青年団の姿がある。あいつは知っている。ニック。ダンの手下だ。手には弓を握り、背中には矢の入った筒がある。
まるで臨戦態勢だな。
近々ガルキーナがやってくるから、俺からガルキーナを守ろうとしているのか。
村の連中は俺の力を見たはず。
勝てないとわかっていて、どうして?
そういえばダンはガルキーナに『アキヒコは甘いところがある。石を投げても投げ返してこない。例え敵であってもかつての友を殺せない』と言っていたのを思い出した。
俺がやり返してこないと踏んでの威嚇なのか?
背中には眠っているクナがいる。
物騒な村の外で彼女をほっといて行く訳にもいかず、朝食確保のために手ごろな川を探した。
クナを川べりに寝かせると、少し離れた場所に座り釣りを始める。
やっぱり釣れない。
あまりにも暇なので、荷袋から書物を取り出して読んでみた。
ファラードの屋敷で手に入れた漁術の書だ。
当初、ファラードクラスがどうしてこのような本を持っているのか疑問に思った。だって奴は腐ってもエリートだ。そして他を圧倒する破格の実力を持つ。
神のカーテン、ゴールドシールド。
すべての攻撃をかき消す規格外の奥義。
俺が勝てたのは、カイルがヒントを教えてくれたから。
それに再び戦えば、タイムラグの弱点を克服しているだろう。
奴はあざとく狡猾で、そして強い。
そんなファラードが農術の書、漁術の書、猟術の書を揃えていたのだ。
趣味やコレクターとして持っていたのか、このスキルの体得を目指していたのか、それとも単に家庭菜園やアウトドアが好きだったのか今になっては分からないが、これら三冊だけ力を入れて読み込んでいるようで、折り目やペンまでひかれている。
同様にページが真っ黒になるくらい書き込まれていた書物もあった。
もちろんその本も物色している。
荷袋から取り出して並べてみる。
大地の書、海の書、空の書。
どのページにも手垢がびっしりついている。
最後のページにファラードが追記していた。
これら三つの奥義を極めた者は無敵の強さと噂されているが、所詮、子供だましだった。ゴールドシールドの前では赤子も同然。私の脅威ではない。
やはり農、漁、猟……か……
この三つ術を極めたものは伝説の勇者シロー以外存在しない――
と、付け加えられていた。
「……おい」
「あぁ、目が覚めたか」
「お前……。ダンじゃなかったんだな。もしダンなら、領主に楯突いたあたしが、生かされている訳がない。今頃檻の中か、胴と頭が分離していただろう……。ゴメンですまんとは分かっているが、ゴメン」
そう言ってペコリと頭を下げたクナ。
「いいさ。昨晩夕飯をご馳走してもらったし、それでチャラにしてやるよ。ここから南に5キロほど行けば村の入り口がある。用があるんだろ? 俺は朝飯を釣ってから行く。じゃあな」
クナはどういう訳か村へ向かおうとしない。
俺の周りをうろうろ歩いている。
「ところでお前、釣り下手だな。何時間粘るつもりだ? 朝飯を手に入れる前に昼がくるぞ」
「ほっとけ。それに俺はアキヒコだ。お前じゃない」
「あははは、お前がアキヒコ様の訳ないじゃん。
あ、そっか。単に名前が同じだけか。同姓同名って多いもんな。
お前はただの釣りの下手な農民なわけだし」
「うるせーな。ほっとけ」
クナは腰のひもをほどくと、上着を脱ぎ捨てて川に飛び込んだ。
あっという間に大魚を捕まえてくる。
「ほら、やるよ。人違いの謝罪分と、そんでもって村までの道を教えてくれた礼だ」
クナはドスンと魚を置き、解体を始める。
俺は書物を荷袋に片づけて、石を叩き火を起こした。
「それよか、お前、本が読めるのか? 見かけによらず頭いいんだな。なんて本を読んでいるんだ?」
「漁術の書だ。釣りの手法とかかかれてある」
「へぇ~。マジで釣りを覚えたかったんだな。でも、そんなの漁師の村で暮らせばすぐに身に付くぞ。まぁ、あたしの村は……」
クナの村はガルキーナに滅ぼされている。
俺は話題を変えようと、「漁術を極めたらすごい奥義ができるんだな。大海に亀裂を入れて道を作ったり、海水を水圧銃のように発砲して敵を粉砕したりでるんだってな」
「は? なんだよ、それ。漁師にそんなことできねぇーよ」
「この本にはできるって書いてあるぞ。クナの知っている漁師はまだ漁術を極めていなかったんだろ。もっとレベルが上がったらできるんだろ?」
「あたしはすべての漁術を極めた伝説の漁師という男を知っているが、漁師にそんな魔法みたいなことできるなんて一言も言ってなかったぞ」
いるのか?
そんな達人が。
「おい、その漁術使い、どこにいるんだ?」
「……それ、あたしのおじいちゃん……。エルフ十字軍に殺されちゃった……」




