17 百姓頭
しばらくはダンをマークすることにした。
夜は森の中で眠り、日が登ると村へと下り、毎日のようにダンを尾行している。
彼は村の農民たちにとって危険な行動にでるやもしれない。
実はあの後二回ほど直接交渉もしてみたが、ダンは俺を見ると落ちている石を握り喧嘩腰に話してくる。折り合うことはなかった。
そして嫌な予感は的中した。
ダンは以前構築した人脈を辿り、ファラードの前の領主――グラハバの兄、ガルキーナとの折衝に成功したのだ。グラハバ同様、クマのような巨漢で、見事なまでの傍若無人ぶりである。
屋敷いっぱいに人間界で売られている精巧なおもちゃが並んでいる。おもちやが欲しいというくだらない理由で、過酷な年貢の取り立てを行い、二回ほど農村の民を餓死させた経緯がある。
さすがに二つも村を潰したので、役をおろされて現在謹慎が言い渡されている。
俺はダンを尾行して、ガルキーナの屋敷の物陰に潜んでいる。
「おい、ダン。マジで俺を領主にしてくれるのか?」
「はい。私はあなたの弟であられるグラハバ様に絶大なる信頼をいただいておりました」
「あぁ、そいつは聞いたことがある。
弟がいつもほめていたぞ。
お前はスゲーよ。
なんでもグラハバが人間界の高級クッキーを腹いっぱい食いたいから年貢を上げるように命令したことがある。だけどさ、エルフの農民共はこれ以上払えないとぬかしたんだよ。
エルフの農民共はまだ空気を吸う時間があるんだ。その時間、仕事をすりゃ捻出できるのによ。お前だけだった。ちゃんと弟が欲しいだけ払ってくれたのは」
「はい。エルフの農民は言い訳ばかりします。俺は全力で頑張ります」
「でもよ。ほら、見て分かるように謹慎が言い渡されているんだわ。しばらくは身動きが取れないんだ。それに次、農民を餓死させたら、完全にお役御免だ。今度は慎重にやらんといけんし、その前に何か点数を稼いでこの境遇から脱出しなくちゃならないんだ」
「簡単です。
私どもの村には犯罪者が潜んでいます」
「そいつを捕まえて点数稼げってか? でもよ、さっきのお前の話では、そいつは無茶苦茶強いんだろ? 俺に勝てるのか?」
「真っ向勝負にでればかなり厳しいと思います。だから良いのです」
「は?」
「剛剣使いグラハバ様、聖騎士ファラード様、どちらも最高クラスの将軍様です。彼らが抑えられなかったところへ誰が行くでしょうか? おそらく次はエルフ正規軍を派遣して戦争、そういう筋書きではないのでしょうか?」
「あぁ、そうだろうよ。上の連中は毎日遅くまで会議をしているしな」
「だから簡単なのです。ガルキーナ様は手をあげるだけで、この村の領主になれます」
「バカ言え! アキヒコという小作人に殺されちまうじゃねぇか!」
「あなたは私が守ります。アキヒコには弱点があります」
「それはなんだ?」
「ローザという農民の娘」
ダンの野郎、何を考えているのだ!?
もしおかしげなことを企んでいたら、俺が即座に――
だが俺の心配をよそに、ダンは妙なことを話し始めた。
「なるほどな、ダン。ローザを人質にとって脅すんだろ?」
「いえ、違います。下手に刺激をしてはいけません。アキヒコはあれでいて純粋です。ローザがピンチにならなければ妙なことはしないはずです。それを証拠に、アキヒコがキレたタイミングは、どちらもローザの身に危険が起きた時なのですから」
「そいつ、女ひとりの為に戦っているのか? 女なんて街にいけばいくらでも買えるだろうが。バカなのか、そいつ」
「はい、ガルキーナ様から見ればバカなのかもしれません。ですが、人には行動心理というものがあります。私は数度アキヒコとローザに石を投げました。
アキヒコはローザにぶつかった時だけ激しく反応しました。
自分にぶつかっても口論してはくるものの、それほど気にはしていません。
おかしいとは思いませんか?
だって彼は無双の強さなんですよ。
私なんか簡単に殺せるはずなのに、いくら石を投げても反撃してこないのです」
「そりゃ、どういうこった?
俺は自分以下のゴミが攻撃してきたら、それが鼻くそでも容赦なく粉砕してやるがな」
「それです。
アキヒコは農民なのです。
領主ではございません」
「は? わかんねーよ。
もうちょっと噛み砕いて話せよ」
「つまり欲というものがないのです。普通なら金が欲しいとか、身分が欲しいとかそういう感情があります。他人を蹴落としても上を目指そうとします。だから、攻撃されたり自分がけなされたりしたら怒ります。それが普通です。
人は欲があるから上にいけるのです。
欲のない人間は弱い。
アキヒコは農民を守るとか言っていますが、結局、ただの人気取りでしかありません。彼には大義なんてものはないのです。
だからローザがピンチにならない限り、彼は無害です。これはあなただからお教えしました。このことは知将ガルキーナ様しかしりません。
二人の将軍を葬り、数十人の兵士を一掃させた無双者の弱点を知っているのは、ガルキーナ様ただおひとりなのです。あなたは他のライバルを出し抜くことができます。今、エルフ国を脅かしている犯罪者を手なずけられるのは、あなたお一人なのですから」
「なるほど。
ダンよ、お前、なかなかの策士だな。
よし、俺は、お前の村の領主に立候補してみる。
そしてお前には百姓代の地位を与えてやる。
俺のために働け」
「はっ! ありがたき幸せ」
ダンはなんでこんな奴なんかを領主に……
しかし考えてみれば、これしかないのかもしれない。
俺はすでに二人の領主をやっている。
そんな危ない場所に、まともな領主が来るわけがない。
剛腕な無法者を送り込むか、軍隊を編成して攻めてくると考えるのが妥当なところ。
その前に手を打つなら、大義などなく俗欲にまみれたものを手なずけるのは良策なのかもしれない。
あくまで戦いを回避し、平和裏に進める場合の話だが。
ダンはダンで、彼なりの正義のために動いているのかもしれない。
次は村を二つ潰した猛将ガルキーナか。
いや、もしかしたら……敵は内にあり、か。




