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農民無双  作者: 弘松 涼
15/27

15 伝説の農術

 黄金の閃光が接近してくる。

 横目で後方を一瞥する。

 そこには村のみんな――そしてローザ。


 かわせば、黄金の牙がローザを襲う。


 かわす訳にはいかない。

 それを知ってか、ファラードは右の口角を鋭く吊り上げる。


 俺の体を光の弾丸が捉えた。

 激しくぶつかり、腕の先から砕け散っていく。



 ファラードはニヤリと笑う。勝ちを確信した顔だ。



 だが、俺は言ったよな。

 もしゴッドシールドを放てば、てめぇの首は宙を舞うと。



 領主は年貢の取り立てを容赦しない。

 だから農民は考えた。

 そして生まれたのが二期作と二毛作だ。


 二期作は、同じ作物を1年間に2回栽培し収穫すること。

 二毛作は、2種類の作物を1年間に栽培し収穫する伝統的な農術だ。

 日本においては、春から秋にかけてイネを作り、秋に収穫してから翌年の春まではムギなどを作っていたと聞く。そして一回目を表作、二回目を裏作という。



 これはそれを応用した農術。

 今、発動させている農スキル――それは奥義・二毛作の陣。



 二毛作の陣とは――

 表作、裏作の二体に分裂して、効率よく農作業を行う陣形奥義のひとつである。



 そしてファラードが攻撃したのは、裏作の俺。

 つまり偽物だ。

 ゴッドシールドは誰かにぶつかると収縮する性質がある。だから俺の影に足止めをさせた。続いて次のゴッドシールを放つまで、僅かだがタイムラグがある。

 俺はその隙を逃さない。

 だって俺はプロの小作人だ。

 収穫とどめのタイミングを見逃す訳がない。

 ファラードの背後に回り込み、白銀の鎌を呼び出す。


 これから発動させる奥義、――それは稲刈り斬だ。

 

 稲刈りには二種類の型がある。

 一の型、それは根元から切り取る根刈り。

 二の型、それは穂だけ刈り取ることは穂首刈り。

 

 右腕に力を凝縮して最高速度で一点を貫く必殺の農術、それが『稲刈り斬――穂首刈り』だ。

 

 奴の首元に狙いを定める。


「ま、待て! 小作人よ。私の負けだ。どうだ? 私と手を組まないか? いい思いができるぞ。地位も金も欲しいだけやるぞ」


「興味はない」


「ま、待てよ! どうしてなんだ。お前は身分卑しき小作人。だが実力は俺と互角……。いや俺以上だ。それは天下を狙える力なのだぞ。なのにどうしてお前はクソのような職業に甘んじているのだ?」


「俺は小作人。

 田畑の番人だ。

 だから俺が力を貸してやっていいと思える領主が現れるまで、この戦いをやめない」



「ククク。この問答は次なるゴッドシールドを生成するまでの時間稼ぎよ。バカだな、まんまと引っ掛かりやがって。誰がてめぇなんてクズと組むか。キサマの戦略はすでに覚えた。三重のシールドなら突破できまい。今度こそ清きこの私が死への引導を渡してやる! くたばるがよい!!」



 無言のまま俺は、ファラードに背を向けた。



「くくく。敗北を悟りとち狂いやがったか! 潔くくたばりやがれ!」



 奴の腕は金色に輝きだした。


「灰となってこの地上から一片の肉片すら残さず消滅させてやるわ! さらばだ、小汚い農民野郎!」

 

「あんたの言う通り、俺は地べたを這う農民。

 仕事を終えた農民は、いつも泥だらけで真っ黒さ。

 それを汚いと蔑むのなら、勝手にそう思うがいいさ。

 ただ……、俺はプロだ。

 仕事を終わらせずにグダグダしゃべるようなマネはしない。

 すでに収穫は終わっている。

 じゃぁな……ファラード」


 そう、俺の全速の鉈は、既に仕事を終えている。

 そのことにすら気づかなかったのか……。


 ファラードが奥義の構えを取った瞬間、奴の首に亀裂が入った。



「な、なにぃ!! ま、まさか……。偉大なるこの私があああああ」



 真っ赤な鮮血が噴き上がり、奴の顔が宙を舞った。




 カイルは瞳を開けたまま、こちらをじっと見つめている。

 最後まで見守っていてくれたのか。


 もう終わったんだよ、カイル……

 この勝利は君がいたから手にすることができた。


 俺はカイルに歩み寄り、そっとまぶたを閉じた。

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