15 伝説の農術
黄金の閃光が接近してくる。
横目で後方を一瞥する。
そこには村のみんな――そしてローザ。
かわせば、黄金の牙がローザを襲う。
かわす訳にはいかない。
それを知ってか、ファラードは右の口角を鋭く吊り上げる。
俺の体を光の弾丸が捉えた。
激しくぶつかり、腕の先から砕け散っていく。
ファラードはニヤリと笑う。勝ちを確信した顔だ。
だが、俺は言ったよな。
もしゴッドシールドを放てば、てめぇの首は宙を舞うと。
領主は年貢の取り立てを容赦しない。
だから農民は考えた。
そして生まれたのが二期作と二毛作だ。
二期作は、同じ作物を1年間に2回栽培し収穫すること。
二毛作は、2種類の作物を1年間に栽培し収穫する伝統的な農術だ。
日本においては、春から秋にかけてイネを作り、秋に収穫してから翌年の春まではムギなどを作っていたと聞く。そして一回目を表作、二回目を裏作という。
これはそれを応用した農術。
今、発動させている農スキル――それは奥義・二毛作の陣。
二毛作の陣とは――
表作、裏作の二体に分裂して、効率よく農作業を行う陣形奥義のひとつである。
そしてファラードが攻撃したのは、裏作の俺。
つまり偽物だ。
ゴッドシールドは誰かにぶつかると収縮する性質がある。だから俺の影に足止めをさせた。続いて次のゴッドシールを放つまで、僅かだがタイムラグがある。
俺はその隙を逃さない。
だって俺はプロの小作人だ。
収穫のタイミングを見逃す訳がない。
ファラードの背後に回り込み、白銀の鎌を呼び出す。
これから発動させる奥義、――それは稲刈り斬だ。
稲刈りには二種類の型がある。
一の型、それは根元から切り取る根刈り。
二の型、それは穂だけ刈り取ることは穂首刈り。
右腕に力を凝縮して最高速度で一点を貫く必殺の農術、それが『稲刈り斬――穂首刈り』だ。
奴の首元に狙いを定める。
「ま、待て! 小作人よ。私の負けだ。どうだ? 私と手を組まないか? いい思いができるぞ。地位も金も欲しいだけやるぞ」
「興味はない」
「ま、待てよ! どうしてなんだ。お前は身分卑しき小作人。だが実力は俺と互角……。いや俺以上だ。それは天下を狙える力なのだぞ。なのにどうしてお前はクソのような職業に甘んじているのだ?」
「俺は小作人。
田畑の番人だ。
だから俺が力を貸してやっていいと思える領主が現れるまで、この戦いをやめない」
「ククク。この問答は次なるゴッドシールドを生成するまでの時間稼ぎよ。バカだな、まんまと引っ掛かりやがって。誰がてめぇなんてクズと組むか。キサマの戦略はすでに覚えた。三重のシールドなら突破できまい。今度こそ清きこの私が死への引導を渡してやる! くたばるがよい!!」
無言のまま俺は、ファラードに背を向けた。
「くくく。敗北を悟りとち狂いやがったか! 潔くくたばりやがれ!」
奴の腕は金色に輝きだした。
「灰となってこの地上から一片の肉片すら残さず消滅させてやるわ! さらばだ、小汚い農民野郎!」
「あんたの言う通り、俺は地べたを這う農民。
仕事を終えた農民は、いつも泥だらけで真っ黒さ。
それを汚いと蔑むのなら、勝手にそう思うがいいさ。
ただ……、俺はプロだ。
仕事を終わらせずにグダグダしゃべるようなマネはしない。
すでに収穫は終わっている。
じゃぁな……ファラード」
そう、俺の全速の鉈は、既に仕事を終えている。
そのことにすら気づかなかったのか……。
ファラードが奥義の構えを取った瞬間、奴の首に亀裂が入った。
「な、なにぃ!! ま、まさか……。偉大なるこの私があああああ」
真っ赤な鮮血が噴き上がり、奴の顔が宙を舞った。
カイルは瞳を開けたまま、こちらをじっと見つめている。
最後まで見守っていてくれたのか。
もう終わったんだよ、カイル……
この勝利は君がいたから手にすることができた。
俺はカイルに歩み寄り、そっとまぶたを閉じた。




