13 エルフ浄化計画
エルフは薄汚れた存在である。
エルフの権力者たちは、弱い農民を苦しめてきた。
そんな薄汚れたエルフを救うために、ファラード様が立ち上がった。
村ではそのような噂でもちきりになった。
ファラードが直接言っているわけではない。
あくまで噂だ。
だが噂なんてものは簡単にコントロールできる。
支配者の手によって。
*
寺子屋がくさいと思い、毎日のように張っていた。
少し離れた物陰から、中の話に聞き耳を立てている。
エルフの子どもが21人。神父が1人。
神父は耳の長い老エルフである。
どうやら世界史の授業のようだ。
『人間は勇者や賢者といった魔王と戦うことができる優れた上級職業になれる』
『えー。いいなー。あたしも勇者になりたい。どうやったらなれるの?』
『エルフは力がないから無理だ。
人間はすばらしい。そんな非力なエルフを守るために、モンスター達とたたかっておる』
『人間がエルフを守ってくれていたの?』
『そうじゃ。そしてそれをエルフの王は隠しておる』
『どうして?』
『人間に良いイメージをもたれるからじゃ。エルフの権力者にとって人間界は恐ろしいところではならない。人間界に逃げ込まれたらたまらんからな。だから人間はエルフを苛めるというウソの噂を流布させていた。だが、それは真っ赤なデタラメじゃ』
『人間さん。頑張っていたんですね。あたし、人間さんを応援したいです。人間界にも行ってみたいです』
『あたしも!』『ボクも!』
『そうか。そうか……
でも弱ったな。
そうじゃ! ファラード様にご相談してみよう。
お前たちが人間界に社会見学に行けるように。――いや、できれば人間界で勉強した方がいい。わしのような老いぼれエルフではなく、人間界にある優れた教育機関で勇者や賢者を育成している教育のエキスパートにみっちり教わった方がいい』
『え、あたしたち、人間界に行けるの?』
『ファラード様は優れた人格者。そして知恵者でもある。あのお方に不可能はない……。
とは言ってもお前たちを人間界に滞在させるとなると、莫大な資金が必要になるな……。
一農村の領主様が支払える金額をはるかに凌駕しておる。
なにか良い手立てはないかのぉ……』
『ボク、働きます。人間界でお仕事をします』
『あたしも頑張ります。何でもします。住み込みとかのお仕事はないのでしょうか?』
『人間界は文化が異なる。それに仕事はどれも甘くはないぞ。ほんとうによいのか?』
『はい。頑張ります』
『まずその前に、そなたらのご両親を説得しなくてはならないな』
『大丈夫だよ。父ちゃんがね、人間はすばらしい。エルフは弱い俺達を苛める非道な種族だ。もし人間界に行くチャンスがあれば、応援するって言ってたよ!』
『うちも』『あたしんとこも』
『そうか、そうか。善は急げという。早速ファラード様にこのことを相談してみるとしよう』
『わーい!』『あたし、超頑張る!』『ボクだって!』
授業が終わり、寺子屋から出てくる神父を尾行した。
神父は村はずれにあるファラード邸に入っていった。
中から声がする。
ファラードと神父か。
『ククク。士農工商計画もいよいよ大詰めです』
『そうか。金は前払いで払っているのだ。最後まで油断するなよ』
『はい、もちろん。
それにしてもあなたの手腕には驚かされます。
エルフのガキは奴隷として良い値がつきます。だから大抵捕えて薬漬けにして肉奴隷にするのが一般的なやり方ですが、まさか洗脳して純粋無垢なまま売り飛ばすとは。このようなやり方で金儲けを考えたのはあなた様が初めてです』
『ククク。ガキ共は勉学の為に6年ほど人間界に行く。そういう話で親たちを丸め込む。まさかお前がプロの奴隷調教師とはガキどもは夢にも思っていないだろうし、最初の数カ月は自分におかれた立場が分からず人間たちに必死に奉仕するだろう。
それでいい。
売り抜けるには十分な期間だ。
そして6年後、ガキどもは帰ってこねぇが、誰も心配しない。
心配する奴はいねぇから。
この村の住民は全員肉にして売っちまう。
エルフの骨もわりといい値がつくからな。
ククク。あははは!
滑稽、滑稽。クソ笑える。哄笑ってやつだ。
士農工商――
それはつまり、飼農哄笑。
農民共を飼育して、売り飛ばし、俺たちは大笑いする。
ククク、アハハハハハハ!!』
『あとこれは別件なんですが……』
『なんだ?』
『あのエルフの女……ローザですが、あいつもいい値がつきそうなんですわ。何とか売り飛ばしたいと思っているのですが、何か良い方法はないでしょうか?』
『あぁ、緑色の髪をしたあいつか。私も目をつけていた。だからゴミのようなカイルというクズを拾ったんだ』
『確か5人組の仲間を売ったクズでしたよね。どうしてあのような者を拾ったのか、アッシには分かりかねましたが、そういった理由があったんですか?』
『あぁ、そうだ。薬漬けにして売るのは簡単だが、そんなことをしたら商品価値が落ちるだろ? だからカイルの口から女の弱みを握ろうとしたんだ。あの女の弱みさえ握れば、脅して奴隷屋にぶち込めるだろ?』
『さすがです』
『だがカイルは使えんのだ。私がこうやって村人の困りごとと称して弱みを握ろうとしているのに、あいつ、私の機嫌取りばかりしているのだ。わりとウソもつくしな。私はパラディン。職業、正義の騎士だ。ウソは許せん性格をしている』
『なら、そろそろ肉屋に売りますか?』
『あぁ、そうだな』
その時だった。
違う者の声がした。
『ファラード様。農民がやってきました。如何いたしましょう?』
『誰だ?』
『ローザという名の村娘です』
『ほぉ。ローザか。通せ』
まずい。
ローザ。
どうして!?
ローザは俺の罪を許してくれるようにファラードに嘆願しているようだ。
今度はファラードの声がする。
『ローザと言ったな。そなたの気持ちは分かった。だがアキヒコは前領主を殺した罪人。私の一存では何ともいえぬ。それにそなたの行動は、決して良いものとは言えない。罪人をかばっているのだからな』
『それは分かっております。で、でも……』
『エルフの王は、きっとアキヒコを許さないだろう。私はエルフではないし、エルフの王に任されただけの雇われ領主。
だが私はそなたの勇気ある行動に報いたいと思う。そなたは勇気を奮い、仲間を守ろうとした。私はその行動に深く感激した。
私は職業、パラディン。正義の騎士だ。正義のために万進するものを救うのが我が宿命。
こういうのはどうだろう?
実はエルフの子供たちを人間界に勉強へ行かそうと思っておってな。
だが彼らはまだ小さい。
何かと面倒を見なくてはならないし、学費を捻出するために少しばかりではあるが、労働をしてもらわなくてはならない。
そなたにはその手助けをしてもらいたい。
その間、そなたの畑を守るのに誰かがいるだろ?』
『その誰かって?』
『立場上、私にはその名を言うことを許されない。だが目をつむることはできる』
『ファ……ファラード様。私、頑張ります。あなたのようなすばらしい名君を持てたことが、最高の喜びです』
『ローザよ。おもてをあげなさい。
あなたは綺麗な子だ。涙など似合わない。人間界での仕事は辛いかもしれぬが、決して涙を流してはならぬぞ。だってそなたには、守らなくてはならない子供達がいるのだから』
『は、はい! ファラード様!』
『明日、出発を命じる。支度をしておきなさい』
ローザの去ったファラード邸では。
『ククク。自らやってくるとはローザはつくづく運がないですな』
『違うんだよ。私が運が高いのだよ。だって私は悪を許せぬ正義のパラディンという職業。パラディンは神のご加護とかあってな、ラックがどんどん成長するタイプなんだ。エルフの王にも簡単に信用されるし。
それよかぬかりはないな。
これは奴隷商との契約書だ。
売り先にはちゃんと話を通しておけよ』
『は、もちろんです。あっしはプロですぜ』
『ふ、そうだったな』
ついに確たる証拠をつかんだ。
てめぇらは正真正銘のクズだ。
俺は職業、小作人。
だから収穫の時期を見逃すはずがない。
遂に刈り取る時が来たのだ。
田と生き、時に闇にまぎれて悪を刈り取るのが俺の仕事。




