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農民無双  作者: 弘松 涼
11/27

11 地位と金と友情と

 ファラードがこの村に赴任してきて二ヶ月が経とうとしている。


 ファラードが田畑を見回っていると、大人たちは手を合わせ、子供たちは「領主様!」「領主様!」と追いかけていく。


 ファラードはその様子を涼しげに眺め、にこやかに見守っている。



 だがファラードは何か企んでいる。

 年端のいかない子供たちを寺子屋に集めているのも、その計画のひとつなのだろう。

 このままだと村のみんなはヤバイ。

 今すぐ出ていって皆を説き伏せたいが、村人たちはファラードに心酔しているし、俺は犯罪者。そう思われている。

 

 

 特にカイル。

 彼はファラードの三歩後ろに、いつも控えている。



「ファラード様。お靴に土が……」と率先して領主のブーツを磨く。


「そのようなことはよい。どうせまた汚れる。それよりか、この村にはまだ解決できていない不幸があるだろ? それを教えてくれ」

「いえ、ファラード様のおかげで皆は幸せです。もはや不幸なんて……」


「そうか? 先日、レンは身ごもったと聞くぞ。めでたいことだ。だが、ほら。今日も彼女は畑にでておる」

「え、エルフの農民は皆働き者です。それくらいのことで休めません」


「それくらいって……。馬鹿者! 彼女はもはや一人ではないのだ。子は村の宝だ。この村に産休と育休の法を作る。その間の年貢は免除する。そして村の皆は彼女を守るのだ。よいな」


「……は、はい。ですがそのようなことをしたら年貢は減りますよ? よいのですか?」

「一時的には減るだろう。だが子供の育ちやすい環境を整えていけば、ゆくゆくは村が潤う。子どもが大きくなれば、我々を助けてくれるではないか? 違うか?」


「おっしゃる通りです」

「そうだ! レンには褒美をとらせよう」


「褒美、ですか?」

「レンだけではない。子を産んだものには皆、褒美を授けよう。育児にはなにかと金が必要だろう」


 カイルはファラードから金貨を受け取ると、レンの方に走り寄り、旨を伝えて金貨を手渡し、その足で集会場へ走って行った。

 新たな法を皆に伝えに行ったのだろう。



 ファラードはカイルの後ろ姿を見てニヤリとほくそ笑み、何か言った。


「それまでこの村があれば、な……」と。


 俺には聞こえた。




 *



 俺はこっそりカイルの後を追い、村の集会場の付近で身を隠した。

 カイルはファラードの側近のひとり。

 彼の口から何か情報を聞けないかと思ってだ。



 集会場の中から声がする。


「カイル。それはホントか」

「本当だ。ファラード様はすげぇよ。それよかイシルよ。何度言わせれば分かるんだ? 俺のことを呼び捨てにするなや!」


「……あ、すまねぇ。カイル様、だった。

 どうもいけねぇ。昔の癖でな」


「俺はもはやお前らとは違うんだよ。俺はお前ら農民よりさらに上位に位置する騎士なんだぞ! 俺がいたからファラード様とこうやって直接交渉できるんだ。今後、俺にタメ語は許さないからな」


 ローザもこの場にいるようだ。

 どうも彼女はここのところカイルを避けていたようなのだが、この日は集会に参加している。


「カイル様、変わっちゃったね……」


 さみしそうに呟くローザに、カイルは威勢よく、


「そりゃ変わるさ! 変わらなくてはならない。だって俺はもはや農民ではないんだ。ファラード様に認められた騎士なんだ」


「……そうよね。で、カイル様、ファラード様にあのことを進言してくれましたか?」



 ――あのこと?



 カイルはため息をつき、

「あぁ、あれか。

 ローザはまだあいつの事を気にかけているのか?」


「だってアキヒコは大切な仲間よ。彼と寒い冬を一緒に乗り越えてきたのを覚えていますか? 去年も今年以上の不作だったけど、アキヒコが寝ずに頑張ってくれたからなんとか乗り超えることができたんだよ!」


「そんな古い昔話、まだ言っているのか?

 もう忘れろよ。

 それに分かってくれよ。だって俺はチャンスを掴んだんだ。ファラード様のお気に入りになれたんだ。もしここで俺がファラード様に、犯罪者の助命なんて言ったらどうなる? いくらファラード様だって不審がるに違いない。もしかしたらクビになるかもしれないだろ?」


「だけどみんな言っているわ。

 ファラードは優れた人格者って。そしてあなたの声には耳を傾けてくれるんでしょ? だったらアキヒコを助けてくださいって、どうして言えないの? あなた、言ったよね? アキヒコに謝る、必ずアキヒコを迎えに行くって!」


 その時だった。

 ビシャリと鋭い音がした。


 ――カイルの野郎、ローザを殴ったのか!?

 

 カイルの怒声は続いている。

 

「うるせぇ!! たまに会えばいつもそうだ。アキヒコ、アキヒコって! どうしてお前は俺の出世の邪魔ばかりしようとするんだ。俺が偉くなれば、お前ら底辺の小作人だってマシな生活ができるんだぞ!」



 集会場の中からは声が聞こえるだけ。

 だけど見えなくてもわかる。

 ローザは声を殺して泣いている……



「わ、悪い。ローザ、ほら金だ。

 これでいい服買って、うまいもんでも食え。ほら、お前らにもやる。俺はファラード様に認められている。給金だってこんなに貰っているんだぞ! あはははは」



 たった二ヶ月でカイルは変わってしまった……

 彼を変えてしまったのはなんだ。

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