バール城のバインドベア
「さて、さっさと済ませますか」
夜になり、廃城前に着いたリオたち。
サーガから貰った廃城の鍵を指に引っ掛け回しながら笑顔でリオは言った。
さながらおもちゃを与えられた子供のようだ。
「準備はいいかい?今回は戦闘はエリザとアデル。マリアの護衛はサクラってことでok?」
全員が小さく頷く
「さて、ご対面~」
リオが鍵を差し込み、廃城の入口を開ける
ギオオオオオと錆び付いた扉の音が響き渡る。
中は大きなホールになっており、ホールの中央に大きな影が見える
扉から僅かな光が差し込み、影の正体が徐々に見える
光がちょうど顔の辺りを照らすとその影は咆哮を上げた
「ギガアアアアアア!!」
「来るぞ!!」
バインドベアの咆哮と共にリオが叫ぶ
戦闘態勢をとる一同。
作戦通りにエリザとアデルが前衛となり、後ろにリオ、さらに後ろにマリアを庇うようにサクラが刀を構える
「ギガアアアアアア!!」
再びバインドベアが咆哮を上げると地面に微弱な電撃が流れ始める
「『麻痺領域』か」
麻痺領域。バインドベアが使う中級電撃魔術。自身の触れている範囲に電撃を流し範囲に触れているもののスピードを鈍らせる
「アデル、分かってるな。無闇に動くなよ
」
リオからの指示がとぶ。
そうしているうちに『麻痺領域』から電気の矢が生成され、リオたちに発射される
「くっ、後衛から狙ってきたから意外と知能あるな。サクラ!!大丈夫か?」
「ええ、大丈夫だからさっさと決めちゃって!!」
「エリザ!!領域を支配!!」
「了解!!リオくん!!」
エリザは両腕を肩くらいの高さに突き出すと深く息を吸い込み魔法を発動した
「『氷結領域』!!」
すると、電気を帯びていた地面が一瞬で凍り付いた
「ギガアアアアアア!!」
自分の領域が掻き消されたことが気に食わないのか3度目の咆哮をあげるバインドベア
しかし、氷結領域が麻痺領域に切り替わることは無い。
同じ領域魔法の場合、魔力の多い方が領域権を有する。つまり1度書き換えが起きた場合、再び書き換えられることはない。逆に魔力が劣っていれば書き換えることができない。
「ガアッ!!」
自分の魔法が通用しないことが分かるとバインドベアはエリザにものすごい速さで突進を始めた。
しかし、エリザとバインドベアの間に一瞬間にアデルが滑り込んだ。
「おまたせ☆」
体を屈ませ、姿勢を低くとり、ニカッと笑うと右手のパイルブレイカーを突進するバインドベアの顔面に叩き込んだ
爆発音と共に宙を浮くバインドベア。殴られ、突進していた方向とは真逆に10mほど吹っ飛ばされ、凍った地面に叩きつけられるとピクリとも動かなくなった。
「あーあ、歯応えないなー。でも、実験は成功ね」
そう言ってアデルは再び笑った
その後、バインドベアの遺体を念の為にリオの魔法で焼却し、リオたちが廃城の外に出ると
「いや~見事なものだ。その若さでバインドベアを倒したのかい?戦闘後に疲労しているところで悪いが、廃城の鍵を渡してくれないかい?冒険者くん」
そこには多数の賊を引き連れたパーター卿が城を包囲していた
「あんたがパーター卿かい?」
「いかにも。私がこの地面の下に広がる魔道鉱脈の主となるパーター卿であーる」
パーター卿は顔についた沢山の駄肉を揺らしながら自慢げに答える
「嫌だって言ったら?」
「この数の賊だ。ざっと50人はいるぞ。懸命な判断をすべきだと思うぞ?」
ニヤニヤしながらパーター卿は答える
それを聞いてリオはニヤッと笑い言った
「嫌だ!!」
「そうか・・・」
先程まで笑顔だったパーター卿から徐々に笑顔が消える
「・・・殺れ」
パーター卿の合図で一気に襲いかかる賊たち
「エリザ!!」
「『隆動する氷』!!」
エリザの唱えた魔法により賊の足元から次々と氷山が隆起し、現れる。
「ぐあああああ」
「あのオンナ、魔道士かよ!」
「聞いてた話とちげえぞ」
「消耗してんじゃねえのかよ!」
逃げ惑う賊たち。あちらこちらから悲鳴があがる
「懸命な判断をさせてもらいましたよ?パーター卿」
悲鳴が上がる中、リオは言い放った
「こ、この、役立たず共があああ!!」
肩を震わせながら空に向かいパーター卿は叫び、首に付けていたネックレスを引きちぎり、踏み潰した
すると、ネックレスから溢れ出した黒い霧がパーター卿を包み始めた。
しばらくし、霧が晴れるとそこには背中から六本の脚が突き出た蜘蛛の化け物へと変貌したパーター卿が現れた