告白は天守閣で
天守閣のお土産売り場は混雑していた。
それと、窓にへばりつくように外の景色を見るお客さんの
多いことに、驚いた。
確かに、高島屋が遠くに見えるのは面白い。
「何か、欲しい物ない。」
僕の言葉に彼女は悪戯っぽく笑う。
「ふ~ん、やっぱり慣れているんだね。手が早いんだね。」
「酷いなあ。君に喜んでもらおうと必死なんだよ。」
「良く言うよ。」
こんな時に僕を見つめる彼女の眼が、超ヤバい。
絶対に、20歳未満に思えない女の眼だ。
今すぐ、ここで、人前でも抱きしめたくなる。
そんな僕の心を察知したのか、彼女は僕にこう言った。
「ねえ、私のこと、どう思っているの。はっきり、言ってよ。」
思わなぬ直球勝負に僕は一瞬たじろいたが、彼女は
これでもかと、叩き込んで来た。
「クリスマス会でナンパされ、カラオケまでついてくる
軽い女だと思ってるんでしょう。
今日だって、名古屋までホイホイついて.・・・」
僕は彼女の言葉を全部言わさなかった。
キスで口をふさぎたかったが、それこそ彼女に
遊び慣れているように思われる。
僕は、彼女を優しく抱きしめた。
「好きだ。大好きだ。初めて会ったときから、
君のことが忘れられない。」
ここで、彼女の頭を胸から離し、彼女の言葉を待った。
「本当、本当なのね。騙してない。
遊び相手じゃないよね。」
彼女の瞳がウルウルしているのが、わかった。
「誰が、そんなことするものか。」
実のところ、大学時代はキス泥棒と異名をとった
僕である。付き合った彼女は十人もいないが、
それ以上に女友達はたくさんいた。
恐らく、クリスマス会で一緒に来ていた女友達が
心配して色々忠告したのであろう。
彼女も不安な気持ちになっていたのだろう。
だから、今日、最初から待ち合わせ時間に遅れたり、
僕を試すような言動が多かったのかと、納得した。
「僕もはっきり返事が聞きたい。僕と、付き合ってほしい。」
僕は、これ以上にない真剣な表情で訴えた。
「もう、遅いんだよ。」
彼女の方から、僕の首に抱きついてきた。
早いといったり、遅いと言ったり、本当、女心は
複雑で難しい。
この日、この時から、名古屋城の天守閣で、僕たちは
正式に恋人として付き合うようになったのである。




