深夜、車の中で
二人を照らす光明。
迷いの霧は晴れ、真如の月まどかならん。
熱いコーヒーで甘いケーキを食べた後、車の中に静寂が訪れる。
暗くて狭い車の中、手を伸ばしたら届く距離でお互い見つめあう。
お互い言いたいこと、聞きたいことは山ほどある。
何せ、三年ぶりだから。
何から言えばよいのか、何から聞けばよいのか、わからない。
もどかしくてたまらない。
でも、この時間さえ、僕には嬉しかった。
光は左手で髪をネジネジしながら、口火を切った。
「ねえ~、何か言ってよ。」
不安と期待が入り混じった表情、すねたような責めるような甘える声に
僕は、たまらなくなり、助手席から右手で光の右肩を引き寄せ、背後から
抱きしめる。
この匂い、この感触が懐かしく、愛おしくてたまらない。
「何、ちょっと。」
いきなりの僕の行動に、ビックリするのも無理がない。
僕自身、驚いているんだから。
「好きだ。ずっと好きだった。」
光の右耳に囁く。
「えっ」
僕は振り向く光にキスをした。
三年分を埋めるかのような、長い時間、舌を絡ませ合い、
唇で舌を奪い合う濃密なキスだった。
二人の両手はもどかしそうに、お互いの体をまさぐりあう。
特に、光は僕の肩まで伸ばした髪を何度も撫でていた。
一度、唇が離れた後、光は体の向きを変えて、自分から
抱き着いてきた。
「もう、遅いんだよ。」
この台詞、忘れもしない。
初めての光とのデート、天守閣での僕の告白に対する光の返事だった。
それから、二人の間に何が起こったかは、二人だけの秘密である。
海の上の雲のすき間から時折顔を出す三日月だけが知っている。
「光」「明」
僕たちは、一つになったのである。
これで完結とさせていただきます。
この後、小悪魔こと二村ひとみへの報告、両親に無理やり勧められるお見合い、
二人の今後のお話も書くことも考えましたが、まとまらまいのでやめました。
月落不天離天
僕たちの失敗の多くは、目先のことにとらわれ、その本質や真理を
見極められなかったために起こります。
建前や体裁ばかりにこだわると大切なことを見誤ります。
人生、迷いはあって当然、。
その迷いの霧が晴れ、光明に照らされることを、心からお祈りしております。
長い間、お付き合いくださり、誠にありがとうございました。




