乾杯はベッドの後で
「もう、堪忍して。死んじゃう。」
先生は何度か昇りつめた後、僕の体の上に覆いかぶさって来た。
「あれえ、先生、もう終わりですか。」
僕は意地悪く聞いてやった。
「もう、先生なんて呼ばないで。奏って呼んでよ。」
僕の右指にチュッとキスをしてくる。
どうして女は名前で呼んで欲しがるのだろう。
呼んでやるとあれほど喜ぶのだろう。
大学デビューした僕がずっと不思議に思っていることである。
「 それにしても、明君。全然、変わっちゃったのね。
髪が伸びただけではなく、男としても逞しくて強いのね。
ねえ、今、何してんの。やはり、ホスト。」
「ホストは酷いなあ。考えたことはあるけど、普通の会社員です。」
髪を肩まで伸ばすようになったら、よくホストに間違えられる。
「ふうん、そうなんだ。それで、結婚は、まだなの。」
「まだです。奏は、どうなんですか。」
一応、年上だし、先生だったので敬語は外せない。
「私、してないけどね。愛人やってたんだ。」
とんでもないことをサラリと言うところが、スゴイ。
「愛人・・・。過去形ですか。」
「 そう、私が音大出って知ってるわよね。
その音大の指導教官だった 教授よ。
そんな顔をしないで。パワハラでもセクハラでもないのよ。
私が奥さんいるのに勝手に好きになって、無理やり関係を
迫ったんだから。」
「奏に迫られて、断ることができる男性はいないだろうね。」
「まあ、お上手。あの頃の純情で真面目な優等生はどこへ行ったのかな。」
「先生のせいですよ。僕に、あんなイケナイことをするから。」
「 ウフフ、嘘でもそう言ってもらえると嬉しいわ。
その話は置いといて、・・・・・」
先生は、急に黙り込んだ。
「 どうしたんですか。何があったんですか。」
「 彼、昨日、死んじゃったの。肺がんだって。
煙草を一本も吸わなかったのに、皮肉よね。
病院にはお見舞いに行けたんだけど、今日の葬式には行けなかった。
奥さんは私と彼の関係に気づいていて、斎場の入り口で門前払いよ。
私、彼にお別れを言うことができなかった。
今まで愛してくれて、ありがとうって言えなかった。
この気持ち、どうしたらよいのか・・・、わからなくて。」
ベッドの上の僕の胸で声を出して泣きじゃくる奏の髪を優しく
撫でてやった。
先生は飲まずにはいられなかったのだろう。僕は、納得した。
暫く泣いて落ち着いた奏は、顔を上げた。
「 ありがとう。優しいのね。気持ちが楽になったわ。
ところで、明君、何故結婚してないの。
随分、女の扱い慣れているみたいだけど、一生女遊びを続けたいの。」
「 それは酷いなあ、僕は、ジゴロではありません。結婚願望はあります。」
「へえ~、それは驚きね。」
僕は、これも何かの縁と、元カノの光と女友達の霧子のことを語るのであった。




