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元カノが コンビニで    作者: 三ツ星真言
18/25

先生との再会

 どこの飲み屋街でもよくあることだが、

酔っ払いが若い女にからむことに出くわす。

「お姉さん。とって食おうっというんじゃないんだから、

 俺たちに付き合えや。」

「そうそう、突き合おうじゃないか。」

 下品な笑みを浮かべる中年のサラリーマン風の

二人組が、両脇からかなりイケてる女の子に絡んでいる。

 完全に肘で女の胸の感触、推定Dカップを楽しんでいる。

「止めろ。止めろって言ってんだろう。」

 こちらの女も、どうも酔っぱらっている感じである。

 このままではお持ち帰りされる可能性が高い。

 イケナイことをされる。

 

 僕は、声をかけることにした。

「すみません。連れがご迷惑をおかけしたみたいですが。」

 丁寧に声をかけたつもりだが、二人組の敵意が一気に

200%に膨れ上がり、僕を激しく睨む。

 それは無理もないであろう。

 誰でも、トンビに油揚げをさらわれるのは嫌だ。

 余談であるが、僕の田舎では浜辺で弁当を食べていると

本当にトンビに弁当をさらわれることがある。


「何だ。お前。ホストか。」

「邪魔するな。」

 若い方が右拳を大きくふりかぶり殴りかかってきたが、

よけるまでもない。

 左手で受け止め、握力70kgで握りつぶし、捩じ上げる。

「痛ててて、離せ。」

 情けない悲鳴を上げ、両足が爪先立ちになる。

 その男の鳩尾に右拳を軽く打ち込んだ。

 酔っ払いを気絶させると、頭を地面にぶち当てる危険性があり、

後で厄介なことになるので、戦意を奪うだけで十分である。

 自分で言うのも何だけど、僕は細マッチョで、一族に伝わる

ある武術を少しばかりやっているから、こんなもの朝飯前である。

「あのう、まだやりますか。」

 地面に膝をついて、苦しむ若い男の顔面を蹴り上げる気配を見せ、

女の背後から両手で抱き着いている頭の剥げた男に聞いた。

「えっ、嘘。やりません。帰ります。」

 全く信じられないものを見た様子で、頭の禿げた男は若い男を

抱きかかえ、形肩にかついで逃げ去って行った。

 置いて行かないところは感心かな。


「大丈夫ですか。お怪我はありませんか。」

 その場に立ちすくむ女の子に声をかけた。

 どうも、恐怖のためではなく、じっと僕の顔を凝視するではないか。

「 尾上君。尾上君じゃないの。ほら、私よ。

  君が高校三年の時、教育実習に行って、音楽を教えた

 音羽 かなえよ。 覚えてないかな。」

 僕も改めて女の子の顔を凝視した。

 確かに若く見えるが30歳を越えている。

 あの当時は大学三年生だから、年齢は合っているが、

清純で初々しい女子大生の教育実習生だった頃の記憶とは

違いすぎる。

 酔っ払いに絡まれるのも無理もないメイクとファッションである。

 それにも増してお酒臭い。

 じれったくなったその女の子は、僕の首に腕を回してキスをしてきた。

 この感触、このテクニック、確かに記憶がある。

 キスの後、そのまま体を離さず、僕の耳元で甘く囁いた。

 「この続きは、大人になったらね。」

 思い出した。

 確かに、僕のクラスで2週間実習した。

 それだけではない。

 教育実習期間の最後の日の前日、図書室からの帰り、

誰もいないはずの音楽室から聞こえる美しいピアノの音色に

誘われて、足を踏み入れた。

 題名は忘れたが、よく聞く有名な曲の演奏が終わったとき、

僕は思わず、ピアノに近づき拍手をしてしまったのであった。

「先生、素晴らしい演奏です。今までに聞いた中で、最高です。」

 僕の存在に気がついた先生は、恥ずかしそうに言った。

「ありがとう。でも、何だか凄く嬉しいな。お礼したくなっちゃった。」

 そう言って、僕にキスをしてきたのである。

 考えてみれば、これが僕にとってファースト・キッスだった。

 あの頃の僕は、純情な少年だったので、全身立ちすくむしか

なかったのである。

「再会を祝して、飲もう。さあ、早く。」

 返事をする暇もなく、両手を僕の左腕に絡ませて引っ張る。

 かっての先生には、逆らえない。

 いや、先生の瞳の奥に隠された悲しみが気になったので、

大人しくついて行くことにした。















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