小悪魔の告白
「30歳までに結婚相手を見つけること。
それが出来れば、アタシはもうこの部屋に二度と
来ることはないわ。約束する。
もし、それができなければ・・・・・」
そこで、小悪魔はいったん顔を下向けた。
この沈黙が、めっちゃ怖い。
小悪魔がキッと顔を上げて、僕に言い放った。
「私と結婚して。それが、無理なら、私と付き合って。」
「・・・・・・・・・」
僕は唖然となった。聞きたくなかった。
恐らく僕の眼は点になっていたであろう。
僕の沈黙をどう感じたかわからなかったが、
小悪魔は続ける。
「 私にとってあなたは初恋の人なの。
あなたは覚えていないと思うけど、高校の文化祭の
クラス劇で太っていた私を主人公に豚ズキンちゃんを
やろうと男子が悪ノリした時、止めてくれたじゃないの。
私・・・・、すごく嬉しかった。
高校の時のあなたは今とは違った。
真面目で明るい優等生でよく学級委員に選ばれていたわよね。
大学受験しか頭になかったので、私なんか近寄ることはできなかったわ。
私・・・・、遠くから見ることしかできなかった。
高校を出て、短大生になった私はダイエットに必死に取り組んだの。
バイト代を全部ジムとエステにつぎ込んだし、メイクもファッションも
必死に勉強したわ。
成人式であなたに逢う日のために。
綺麗になったねって、言ってもらいたくて。
私、あなたのことが、明のことがずっと好きだったの。」
僕は、情けないことに言葉が全く出なかった。
そんなふうに僕のことを想っていたのか。
そんなことを考えていたのか、信じられなかった。
確かに、高校の時のこいつはポッチャリだった。
クラスの男子が言うほど、デブではなかったと思うけど、
成人式で見た時、綺麗になっていたことにはめっちゃ驚いたのは
今でも覚えている。
振袖姿の女の子が多い中、ビシッと上から下までシブいスーツで
決めていたから、余計目立ったよな。
「ねえ、何か言ってよ。」
僕の回想は、これで邪魔された。
流石に、ここまで来て何も言わないようでは男じゃない。
「 霧子、君の気持は嬉しい。
でも、信じられないのが本音だ。
君にとって僕は都合の良い遊び相手にしかすぎないと
思っていたから。
だから、今すぐ返事はできない。
考えさせてくれ。」
これだけしか、言えなかった。
僕の方こそ、霧子を都合の良い遊び相手としか
見ていなかったことは言えなかった。
「うん、わかった。私のこと、久しぶりに霧子って呼んでもらえたし。
今日は、大人しく帰るね。」
霧子はまるで恋する女子高生のように恥ずかしそうに、
帰って行った。
バタンとドアが閉まった瞬間、僕はソファにバタンと倒れ込むのであった。




