小悪魔の逆襲
あの晩、元カノと和解した次の日、会社の帰りにいつものお店で
牛丼を食べてから、コンビニに行った。
スイーツコーナーで棚卸をしている元カノの姿を発見した。
今日は、立ち読みしたい週刊漫画がなかったので、週刊誌を
軽く流してから、すぐにカップ麺コーナーでどん兵衛を買い物かごに
入れた。
最近テレビのCMでよく見る吉岡里帆が可愛いからである。
僕は、スイーツコーナーの横を通ると、元カノが一瞬微笑んだ気がしたが、
僕はスルーした。
すると、「このシュークリーム、新発売です。お勧めですよ。」と
言ってくるではないか。
流石にスルーするのも大人げないし、また泣かせて、あの義父さんに
襲われるのも面倒だ。
いや、元カノがまた深夜に僕の部屋に来ることは避けたい。
「本当。じゃあ、一つ買います。」
「ありがとうございます。」
元カノの嬉しそうな顔が、光る。
まったく、名は体を表わすって本当だなって、今更ながら思った。
付き合っている頃は、本当眩しいくらい可愛かった。
余韻に浸ってはいけない。過去を思い出してはいけないと、
僕はレジに向かう。
無事、いつもの年配のスタッフのレジに並べた。
心なしか、この前と違って僕を見る目が優しいような気がした。
コンビニを出て、まっすぐ会社の独身寮の自分の部屋に戻る。
テレビは何か秋の二時間スペシャルをやっていたので、適当に見た。
そろそろ寝る時間になったので、シャワーを浴びて、髪を乾かし、
念入りに手入れをしてから、どん兵衛をツマミに缶ビールを飲む。
至福の時間である。
これで、吉岡里帆さんのキツネが出てきたら、最高だなと
思っていたら、ドアをドンドンと叩く音がするではないか。
『 このノックの音、出たな、小悪魔。
今日こそは、話を付けてやる。』
僕は、勇者が魔王に立ち向かうか如く、ドアを開く。
「ヤッホー、元気。」
プーンとアルコールと香水の匂いが僕の鼻を襲う。
そして、いつものように僕の首に抱き着き、キスを迫ってくる。
「おい、やめろ。」
その声に、小悪魔は一瞬固まる。
「何、いつもと様子が違うのね。何かあったの。」
「いいから、そこに座れ。絶対に、ベッドに行くな。」
僕は、冷蔵庫から南アルプスのペットボトルを取り出し、
コップに入れ、氷をいつもより多めに入れてやった。
「サンキュー。ああ、美味しい。」
僕が差し出したコップを、前髪をかきあげ、ゴクゴクと飲み干す。
これはこれで悩ましい姿であるが、もう慣れている。
「真面目に聞いてほしい。もう、僕の部屋に二度と来るな。
いいな。」
僕の真剣なきつい口調に、小悪魔はちゃかすことなく眼を背ける。
「おい、聞いてるか。」
「何よ、偉そうに。新しい彼女ができたから、私が邪魔になったの。」
僕は、一瞬で理解した。
この前の背筋のゾクゾクはこいつの呪いだ。見られたに違いない。
「邪魔も何も、おまえとの関係はそんなんじゃないだろう。
そもそも、新しい彼女じゃない。元カノだ。」
「へえ~、元カノを深夜遅く部屋に入れるんだ。
遊び人の明さんもおちたものよの~。」
このふざけた態度に、僕はきれそうになった。
「あいつと別れた原因の半分は、おまえにあるんだぞ。
おまえが、いつもこうやって僕の部屋に遊びに来るもんだから、
おまえとの仲を疑い、浮気されたと勘違いして大変だったんだぞ。」
「へえ~、それは知りませんでした。一応、ごめんって言うけどさ、
そんなことで別れるくらいな仲だったってことじゃん。」
僕は、グッとコブシを握りしめた。
確かに、小悪魔の言う通りかもしれなかった。
「過去のことを話すのはやめにする。とにかくだ、
お互い、28歳になる。もう、遊んでいられる年じゃない。
そう、適齢期の後半に来ている。
実家の両親もお見合いをうるさく勧めてくる。
会社の上司にも勧められている。
これは、本当だ。
お見合いはともかく、僕は30までに結婚したいんだ。
それが僕のライフプランだ。わかってくれ。」
一気に熱弁をふるった僕の顔をマジマジと見つめる小悪魔の
顔が目の前にあった。
「へえ~、アッキーラに結婚願望があったなんて、サプライズ、サプライズ、
サプライズだよね。いいわよ、ただし条件がある。」
小悪魔の瞳が妖しく光る。




