尾行者の正体
「いやあ~、あんた、女みたいな髪だけど、強いなあ。
流石、俺の娘が惚れただけのことはある。
娘って言っても、義理の娘だけどな。」
尾行者は一方的にまくしたてると、ガハハと笑った。
ズボッ
僕はみぞおちに重い一撃を喰らった気がした。
『娘、義理の娘・・・』
僕は、必死に情報を整理しようとした。
そんな僕の様子はおかまいなしに、元カノの義父は
まくしたてる。
「いやね。この前、娘がバイトから帰ってくるや、泣きながら
二階の部屋に駆け上がって行くじゃねえか。
いつもなら、只今って俺に優しく挨拶してくれるんだぜ。
俺も気になったけど、何せ、義理の父親だし、そんで
家内に様子を見に行かせたわけよ。
やはり、血のつながった親子っていうか、女同士、
何があったか家内には話してくれたみたいだ。
俺は、家内から、バイト先のコンビニに、昔の男が
現れたってしか聞かされてねえ。
俺は、てっきり、あんたがまたチョッカイをかけてきたかと
思ってよ、一発ぶんなぐってやろうと思ったわけよ。」
そこで、元カノの義父は喋り疲れたのか、ひと呼吸おいた。
「確かに、娘さんとは三年前にお付き合いさせてもらったことはあります。
言い訳になるようですが、私の方がふられたんですよ。
それに、私には未練はありません。
娘さんに女としての魅力がないと言っているのではありませんよ。
私は過去は振り返らない主義なのです。
過去は変えることができない。
昨日より、今日。今日より、明日に向かって、精一杯生きて行きたいのです。
わかってもらえるでしょうか。」
「偉い。あんた、若いくせに人間が出来ている。髪が女みたいに長いのは
気に入らないけどさ、娘とは仲良くしてやってくれ。じゃあ、邪魔したな。」
こちらが返事をする間もなく、元カノの義父は足早に立ち去った。
すごく気の良いお父さんだった。
僕がコンビニに現れるのを、寒い中、駐車場で待っていたに違いない。
血のつながっていない娘のために、ここまで真剣になるなんて、何だか
心が温かくなった。
そして、今回の襲撃事件を引き起こすことになったこの間の僕のあまりに冷たい
態度を少し反省するのであった。
しかし、新たなる問題が残されることになったのである。




