謎の尾行者
二日後、肌寒い夕暮れ、会社の帰りに丸亀製麺で熱い夕食を
済ませた後、いきつけのコンビニに寄った。
あくまで、立ち読みと缶ビールを買うためである。
断じて、元カノに会うためではない。
しかしながら、元カノがいなかったことを確認したとき、
ホッとする自分がいるのも確かであった。
立ち読みを満喫した後、新発売のカップ麺、来来亭の新しい
カップ麺も、買い物カゴに入れた。
レジに並ぶと、いつもの年配のスタッフの様子が変だった、
何か言いたそうであったが、無視した。
コンビニを出て、会社の独身寮に戻るわけだが、
僕を尾行する何者かの気配を感じた。
途中、カーブミラーを使って確認すると、中年の作業服を着た
男らしいのがわかった。
正直、大学時代は、恋の修羅場を何度かくぐったことがあるから、
後をつけられたことはある。
慣れてはいないけど、免疫はある。
『もしかして、元カノの旦那か。しかし、歳が離れているような・・・・。
あれか、歳の差結婚ってやつか。』
僕は、ブツブツ独り言をつぶやいた。
知らない人が見たら、僕の方が危ない奴と思ったであろう。
尾行者をまくのはたやすいが、まとわりつかれるのも面倒なので、
近くの公園へ誘った。
狙い通り、バタバタと近ついてきた。
「おい、おまえ。」の怒鳴り声にふりむいた途端、
尾行者は僕の顔面に右拳を飛ばしてきた。
気合の入ったパンチであったが、僕は慌てることなく
かわすと同時に、背後に回り込み、作業服の襟をつかみ、
締め上げた。
1、2、3、4、5・・・秒ほどで白目になり、
おちてくれた。
やはり、打撃技は気が引けるし、かといって投げ技は危険だし、
関節技では騒がれても困る。締め技しかなかったのである。
僕も尾上一族の端くれ、これくらいは朝飯前である。
まあ、皇君には負けるけどね。
尾行者をおんぶして、すぐそばの公園のベンチに運んでから、
活を入れた。
「うっつ。」と尾行者は眼を開け、あたりを見回した後、
僕の顔を見るとベンチから飛び降りた。
「この野郎。」と、性懲りもなく殴りかかろうとする。
「まだ、やりますか。今度は、手加減しませんよ。」
僕はベンチに座ったまま、非情に言い放った。
「ムムツ・・・」
尾行者も馬鹿ではない、力の差を素直に認め、両手を下げた。
「そこに座ってくれませんか。少しお話ししたい。」
僕の丁寧なお願い、即座に答えてくれた。
そこまでは良かった。
その後に発した言葉が、実にやっかいであったのである。




