コンビニで立ち読みは危険だ
それから数日後、いきつけのコンビニに寄った。
元カノの顔を見るのは嫌だけど、何だか逃げていると思われるのも
シャクなので思い切った。
高さ15mの飛び込み台からプールに飛び降りるくらいかな。
やはり、元カノをレジで発見した。
僕は知らぬふりをして、そのまま雑誌コーナーに行き、
週刊漫画や週刊誌、ファッション誌の立ち読みを始めた。
暫くしてから、すぐそばで人の気配を感じた。
コンビニではよく他の客が来て、立ち読みを始めることがあるから、
場所を開ける必要がある。
ふと、視線を向けると、信じられないことが起きていた。
元カノが、すぐそばに立っていたのである。
確かに、お客は少なく、レジにはいつもの年配のスタッフがいた。
元カノが、雑誌を整理しながら、僕に囁くではないか。
「もう来ないかと思ってた。」
考えるより先に口が動いていた。
「何で。」
「アタシに会うの嫌じゃないの。」
「別に、気にしないし。」
「そう、安心したわ。」
その後、元カノの動作が一瞬止まった気がした。
「髪伸ばしたんだね。」
「ああ。」
「わかんなかった。」
「あっ、そう。」
僕は努めて冷静に冷たく接した。
元カノは何かを言いたそうであったが、レジに戻って行った。
その後ろ姿、元カレの僕にはわかる。寂しそうであった。
僕は、正直ホッとした。
『旦那さんとうまくいってなかったら、どうしよう。
誘われたらどうしよう。』
内心、冷や冷やしていた。
最近、テレビや新聞で、不倫が何かと騒がしい。
ぶっちゃけ、大学時代は略奪恋をしたこともされたこともある。
しかし、人妻はない。嫌、あってはならない。
それが、社会人として、人間としての掟だと心に誓っていた。
立ち読みが終わってから、僕はシンプルなノリ弁を選び、
カゴに入れ、わざと元カノのレジに持って行った。
僕の方から先にポイントカードを渡し、「温めなくていいです。」と告げ、
おつりのないようにお金を渡した。
レジ袋に入れてくれたノリ弁を素早く受け取り、「レシート要りません」と
コンビニを後にした。
元カノが「ありがとうございました。」と言うのがやっとの速さであった。
この僕の言動が、新たな事件を起こすことになるとは、予想もしなかった。




