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第一話後編 艦隊、転進!?

 

 

 司令長官の入室により作戦室の空気が変わる。

 二十名の参謀らが既に席の前で直立している。

 和喜多わきた楓恋かれん司令長官は、中央の席へと腰をかけると同時に声をかける。

 「全員、着席」

 長官附の副官である黒田くろだれに中佐の号令で二十名の参謀らは同時に着席する。

 「では、早速ですが、今後の方針について会議を進めていきたいと思います」

 黒田中佐が進行をしていく。

 「単刀直入に申しますと、現在、音信不通となった横須賀の艦隊参謀本部の状況を確認すべく、艦隊を転進させるべきかどうかです。各参謀の意見をお聞かせ願います」

 黒田中佐が着席すると同時に、席を立つ者がいた。

 種木たねぎいちご主席参謀である。

 「直前まで、我が艦隊に起こっていた事態に鑑みても、参謀本部に何かあったと判断していいのではないかと考えます。早急な転進が望ましいかと思います」

 うんうん、とうなずく参謀が散見される。

 しかし、もちろん反対意見もある。

 種木主席参謀が着席すると同時に、起立したのは一教艦の頭脳たる作戦参謀である石原いしわら咲来さくら大佐だった。

 「この第一教育艦隊の現時点の航行目的は米海軍太平洋艦隊司令部のあるパールハーバーに寄港して、そこにいる軍人らと交流することが目的です。故に、艦隊参謀本部からの指示なしに勝手に帰還するのは問題であると考えます」

 石原作戦参謀の意見に頷く参謀もまたいる。

 二人の意見は先ず、艦隊司令部に在籍する者なら想定する意見だった。

 そして、種木主席参謀と石原作戦参謀の意見が対立するのもまた、艦隊司令部に在籍する者であれば予想がついた。

 続いて発言したのは、中佐である香坂こうさか舞音まいね政務参謀である。

 「現在、情報が少なすぎます。なので、ここから偵察機を発艦させ、偵察機の報告を待って今後の進退を決めれば良いのではないでしょうか?」

 香坂政務参謀の意見は全うで、艦隊司令部に在籍する者は二人を除き、皆頷いていた。

 

 その頷かなかった内の一人、艦隊の中では極めて珍しい男子生徒である特務参謀長、桐山慶介少将が発言する。

 「偵察機の発艦をするか否かは大変重要ではありますが、それは艦隊を横須賀へ向けるか真珠湾へ向けるかとは別の話です。香坂舞音政務参謀、議題をそらさない方が良いかと思います」

 注意された香坂政務参謀はシュンとなるが、桐山少将は落ち着いた口調で話しを続ける。

 「それで今後の艦隊の方針ですが、種木たねぎいちご主席参謀の発言は、真珠湾にも当てはまることです。横須賀の艦隊参謀本部からも、米軍の太平洋艦隊司令部からも今のところ応答はありません。だとしたら、応答が無いことを根拠に横須賀へと戻ることを提案された主席参謀の意見というのは、根拠の弱いものということになります」

 桐山特務参謀長の諭すような物言いに、種木主席参謀も黙って俯くが、話は続く。

 「また、石原咲良さくら作戦参謀の意見についても、非常事態である現時点の状況に鑑みれば、艦隊方針の決定権は艦隊の最高司令官たる和喜多楓恋司令長官にあると判断するのが必然であります。現時点でフリーサットシステムをはじめ、いくつかのシステムエラーの発生と、横須賀と真珠湾のそれぞれからの交信途絶を確認してなお、この現状を非常事態ではないと言い切る根拠は無いでしょう?」

 桐山特務参謀長は、石原作戦参謀に質問を投げかける。

 「……は、はい。私の思慮が浅かったと思います。楓恋長官、愚鈍な発言をしてしまい申し訳ありませんっでしたぁ!」

 石原作戦参謀は涙目になり、今にも泣き出しそうにながら許しを請う。

 「いいえ、咲来さくら参謀。悪いのは、自分だけで判断ができず参謀のみんなに意見を募っている私よ。だから元気を出して、ね?」

 和喜多司令長官は、場の空気を察して、石原作戦参謀を励ます。

 「は、はい!」

 桐山特務参謀長は心の中で、微妙な空気にしてしまったことを後悔しつつ、少々打算的な発言をしながら話を再開する。

 「(頭を下げた方が、心証が良くなるか……?)石原作戦参謀、少し言いすぎました。すみません」

 「えっ!あ、いや、私の思慮が浅かっただけです。むしろ桐山特務参謀長に指摘していただいたおかげで、自分の浅はかさに気付けました。ありがとうございます!」

 階級が二つ上の異性である桐山特務参謀長から謝罪を受け、若干戸惑う石原作戦参謀であったが、謝罪されたという事実に、彼女は少しばかり喜んだ。

 一方で、桐山特務参謀長の思惑にはまり、ダシにされていることには、気付かなかった。

 「(うん。これで、少しは俺の発言に他の参謀たちも耳を傾けてくれるだろう)では、ここで私の意見を述べますと、横須賀への帰投を進言します」

 桐山特務参謀長は、言い切る。

 「何故ですかっ!?貴殿は先ほど、いちご主席参謀の意見を退けたではないですか!」

 そう発言したのは、神崎麗羅参謀長である。参謀たちの抑え役であり、同時に和喜多司令長官の右腕でもある。彼女は参謀長という立場からも、第一教育艦隊の司令部の異端者たる桐山慶介という男の存在が、気に食わなかった。

 桐山特務参謀長もそれを察しているので、詳しく説明をする。

 「私は、通信に対して応答が無いことを根拠に横須賀へと戻ることを提案された主席参謀の意見に対して、根拠が乏しいと言ったのであって横須賀への帰投には賛成です。真珠湾は太平洋上の中心にあるのに対し、横須賀は横浜、東京をはじめとする港湾が周囲にいくつもある。これだけでも、どちらに行くべきかは明確です」

 神崎参謀長もこの意見には黙ってしまった。

 そして逆に今まで、黙っていた和喜多司令長官が口を開く。

 「よし、それで行くわよ!早速、針路を変更して……」

 和喜多司令長官が告げようとしたとき、通信士の一人が入室してきた。

 

 「大変ですッ!? 教官艦を捜索中の偵察機より画像が送られてきたのですが……」

 そこで口ごもる。

 「何があったの?」

 少し心に余裕のある和喜多司令長官は優しい口調で訪ねる。

 「えぇと、口で説明するよりも、見て頂いた方が早いかと……今、スクリーンに映します」

 そう言って、スクリーンに十数隻の艦艇の映った艦隊の写真が投影される。

 その先頭を航行しているのは、会議室にいる全員が見たことのある艦であった。

 ある者はこれは何かの間違いだと思ったし、ある者は写真を見ただけで震えが止まらなくなった。


 そう、艦隊の先頭を航行していたのは、艦首に菊花紋章を据え付け、主砲は41センチ砲を装備し、かつて日本が誇ったビッグセブンの一角である……。

 

 

 

 

 

 「「「「戦艦、、、長門ッ!? 」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 旗艦「ほうおう」艦長である荒木梨乃は、会議室内への入室こそ認められていたが、一部始終を見ていると共に、記念艦となって菊花紋章を取り外され、横須賀の地で動かなくなったはずの戦艦・長門が航行している写真に驚くことしかできなかった。

 

 

 

以上で、第一話「運命の瞬間」は終了です。

第二話の題名は「鳴り響く轟音」を考えているのですが、進みそうにないので続きは絶望的と思ってください。

すいません、身勝手で。

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