表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『迷宮管理者と次元の魔女』シリーズ~登場人物・小話等一覧~  作者: 夕闇 夜桜
『小話』や『番外編』、『こぼれ話』、『本編とは違う別ルート』等
9/22

第三章 余話:キソラも知らない裏側で


○彼と相棒の会話(第八十話の解散後)


「おい、ナツキ。『空間魔導師』とは何だ」


 帰ってきて早々、『ゲーム』の相棒にして契約者であるデュールからそう尋ねられた主、ナツキ・ルーデンベルグは固まった。


「……何だ。いきなり」


 いや、聞くまでもない。おそらく、『彼女』と会ったのだろう。


「奴をようやく見つけたと思ったら、変な女に邪魔をされてな。お前に『空間魔導師』について聞いてみろと言われた」

「ああ……そういうことか」


 女、と聞いて、やっぱり彼女か、と思えば、今度は聞いてみろと言われて、また面倒なことを押しつけてきたな、とナツキは思ってしまった。

 だが、デュールのことである。見つけた相手を必要以上に痛めつけたのだろう。

 それが偶然にも、『彼女』の相棒(パートナー)兼契約者だっただけで。


(まあ、参加者だったことにも驚いたけどな)


 ただ、『空間魔導師』である彼女を、相棒に出来た『異世界からの来訪者』は運が良いと思うが。


「『空間魔導師』について、か。簡単に言えば、この世界で最強とされている魔導師だよ」

「最強?」

「現在は九人居るとされているけど、きちんと把握はされてないし、空間魔導師たちも把握しているかどうかも不明。ただ、お前が会ったのが学院の敷地内なら、間違いなく学院に在籍している『彼女』だろうがな」


 学院内なら、『彼女』で間違いないはずだ、とナツキは思う。


「……」

「あと、悪いことは言わない。関わるなとまでは言わないが、手だけは出すなよ。俺も彼女の相手はしたくない」


 ナツキの脳裏に甦るのは、初等部の時の出来事。

 運良く助かって、こうしてこの場に居るが、あの時は恐怖しか感じなかった。

 だが、話を聞いたデュールは違ったらしい。


「そうか。そんなに強いのか」

「っ、お前。俺の話、聞いてたか!? 下手したら、死ぬかもしれないんだぞ!?」


 デュールの場合、話しただけだから、呑気に言えるのだろう。

 だが、ナツキは違う。目の前でその力を発揮されたのだ。


「死ぬ、とまで来たか。だが、かもしれない(・・・・・・)、んだろ?」

「死んでからだと遅いんだよ。それに、お前は彼女のことを知らないだろうが」

「まあな。だが、あいつが『キソラ』と呼んでいたのは聞いている」


 それを聞いて、ナツキは叫びたくなった。

 デュールが戦闘中でありながらも、周囲のやり取りを見聞きしていたことに感心するべきか、うっかり彼女の名前を教えることになった状況を責めるべきか。


「そ・れ・で・も、だ。第一、彼女に会って何をするつもりだ」

「何を、だと? そんなの決まっている。あいつの持つ『もの』は奪い、破壊する。それだけだ」


 それはつまり、とナツキはデュールから目を逸らす。


「俺は彼女と同じ学院の生徒だ。それに今、彼女は注目を浴びているし、下手に彼女が姿を消せば、みんな不審がるぞ」


 だから、彼女に手を出すな。という意味で言ってみれば、くっくっ、とデュールは笑みを浮かべる。


「何だ。気でもあるのか?」

「無いよ。ただ、彼女を本気で消すというなら、俺はお前を止める」

「『ゲーム』にこれまで参加しなかったお前がか?」

「これでも、生徒の中では実力がある方なんでね」


 ミルキアフォーク学院二年普通科所属にして、生徒会会計。

 それが、ナツキの学院での立ち位置である。


「そして、彼女にお前を殺させるつもりもない」

「この俺に殺気を向けてきたような奴だぞ?」

「だとしてもだ。それに、彼女についてだったら、お前よりは詳しいよ」


 接触していなくとも、初等部から高等部まで一緒だったのだ。


(多分、彼女は俺もデュールも殺さない)


 『ゲーム』のルールを理解しているのなら、おそらくは。


(一回、話す必要があるかな)


 そのためには、勘が働く他の役員たちに気づかれずに、動かなくてはいけない。


(そのためにはーー)


 『ゲーム』を利用するしかないのだろう。いや、『ゲーム』だけではなく、デュールも利用しなくてはいけない。


「くくっ、確かにな。だが、それもまた面白い。それなら、やってみろ。世界最強の魔導師に、お前の実力を示してみるんだな」


 この際、デュールが何で偉そうなのかは、横に置いておく。


「ああ。けど、俺のやり方に文句だけは言うなよ」


 これだけは譲れない。

 求めるのは、勝利でも敗北でもない。引き分けである。

 彼女のーーキソラの能力を考えると、何としても、引き分けに持ち込んだ方が互いに良いはずだ。


 ーーと、作戦を練り始めた矢先、「あ、整地しとけっていう伝言、忘れてた」と今思い出したらしいデュールに、「ふざけんなぁぁぁぁっ!!」と心の中で思いっきり叫びながら、ナツキは寮の自室から慌てて飛び出して行った。



大規模戦闘(レイド)空間を出た後~精霊と守護者~(第百八話の後)


「……」

『寝ないのか?』


 その場に座って、ぼんやりと中空を見ていたキソラに、ヴィクトリウスが声を掛ける。


「モンスターが来たら困るからね」

『俺が起きてるが?』

「試験が完全に終わってない状態で、見張りも無しに出来るわけが無いじゃん。それに、そっちは試験官側でしょ。与えられた役割ぐらい、最後まで突き通しなさいよ」

『そればっかだな』


 だが、ぼんやりと見張りをされるよりはマシである。


『だったら、イフリートに頼めばいいだろ』

『良いのか? 俺で』


 ヴィクトリウスの言い分を聞いていたのだろう、近寄ってきたイフリートが何か言いたげにしながらも、彼に問い返す。


『何が言いたい?』

『さあな』


 イフリートの返答にヴィクトリウスはムッとしながらも、珍しく口を挟んでこないキソラに目を向けるが、すぐに逸らす。


「……」

『ったく……』


 そんなヴィクトリウスに対し、仕方がなさそうにしながらもイフリートは船を漕ぎ始めたキソラの隣に座ると、頭を自身の肩へと寄せる。


「……イフリート?」

『見張りはやっといてやるから、もう寝ろ。また明日も歩くんだろ?』


 気配で察したのだろうキソラが視線だけを向けて問えば、イフリートにそう返される。


「まあ、そうだね」

『なら、大人しく寝とけ。モンスターたちを近付けないようにしておいてやるから』

「う~ん……それはそれで、他のみんなの危機察知能力が低下しかねないから、完全に防ぐのだけは止めておいてね」


 家に帰るまでが実技試験だから、とキソラが言えば、「分かってる」とイフリートは返す。


「なら、少しだけ寝させてもらうよ」

『ああ』


 イフリートの肩から頭を離すキソラだが、すぐさま元の位置に戻される。

 それが何回か繰り返されたのだが、キソラの方が先に折れたのか、そのまま眠ってしまうの訳だが、そんな彼女の頭をそっと撫でるイフリートに、ヴィクトリウスは無言で二人を一瞥する。


『何か言いたいことがあるなら、言えよ』

『随分、過保護だな』

『そうか?』


 まるで意識していないと言いたげだが、イフリートとて自覚はしている。

 けれど、一度目を離すとキソラはすぐに無茶しようとする。

 それはノークに言えないことでもないのだが、それでも迷宮管理者であるノークからキソラのことを頼むと『命令』されたのだ。

 正直、頼まれた当初は「何で俺が」と文句を言いたい所だったのだが、それも気にならないぐらいに他の四聖精霊ーーシルフィードたちと同じように、彼女を過保護と言われても仕方がないくらいに世話するようになった。


『お前が何でキソラを目の敵にしているのか分からないが、もし、俺たち四聖精霊全員がこいつに付いていることに文句があるんだとすれば、そうするように命じたのは、お前の主だからな?』

『……』


 誰よりもキソラのことを案じているノークである。

 四聖精霊たちーー特にイフリートとノームまでキソラに付けられたのは、まだ二人が初等部の時だ。


 ーーあいつのサポートを頼む。


 この時、ノークのサポートをどうするんだとノームが聞いたのだが、「俺は大丈夫だけど、キソラは……」と言われてしまったのだ。

 当時、ノエルたちも一緒に居たとはいえ、ノークと比べ続けられたキソラの精神面を思ってのことだったのだろう。

 今では落ち着いているが、またいつ同じ状況になるのか分かったもんじゃない。


『まあ、キソラのことをお前がどう思おうと構わないが、敵視だけはしてやるな』


 少なくとも、キソラはヴィクトリウスに対して、喧嘩相手として認識していても、敵としては認識していない。


『さっきまでのキソラの反応から、大体は察せられただろ?』


 イフリートの問い掛けに、ヴィクトリウスは目を逸らす。

 何も好意を持てとまでは言っていない。

 せめて、何かあったら協力し合うような関係にはなっておけ。

 それが、イフリートの言いたいことだ。


(まあ、キソラはあっさりと手を貸すだろうがな)


 キソラやノークは迷宮の守護者たちを家族のように思っている。

 それを分かっているからこそ、イフリートたちもエターナル兄妹を家族のように接している。


『……戻る』

『ああ、ノークによろしくな』

『……分かってる』


 ヴィクトリウスが何をどう思ったのかは分からないが、それでもキソラに何かあれば、キソラの管理下にある守護者だけではなく、ノークも黙っていないだろうから。


『……ま、難しいことは後回しだな』


 イフリートは、考えるのは止める。

 今は仮眠であろうと、キソラたちを休ませることを優先させるべきだと思ったからだ。

 けど、とイフリートはちらりと右方面に目を向ける。

 キソラからは完全撃退だけはするなと言われているが、厄介そうな奴を撃退するなとは言われていない。


『さて、行きますか』


 少しでもキソラの荷が下ろせられるのなら、そうするための努力を惜しむつもりはない。

 キソラの隣に居たノエルの肩へと彼女を(もた)れさせ、イフリートは立ち上がる。


『お前ら。(マスター)たちの安眠妨害だけはしてくれるなよ?』


 そして、起きていた見張り組とともに、撃退しに向かうのだった。



○部屋に帰還後(第百八話の後)


「ただいま~……って、やっぱり、いないか」


 普段なら、キソラもまだ学院に居る時間である。

 そのため、この時間のキソラの部屋にアークが居るはずがないのだ。


「……」


 そんなキソラの視線が向くのは、いつも使っているベッド。


「お布団(ふとーん)!」


 一日そこで眠らなかっただけなのに、何だか懐かしく思えてしまい、特に助走を付けることもなく、ベッドに飛び込んでいく。


「……何とか帰ってこれた、か」


 今居る場所が自室だと気を抜けば、一気に睡魔が襲ってくる。


「……」


 もうこのまま寝てしまえとばかりに、キソラはそのまま眠りにつく。





「ただいまー――……って、おわっ!?」


 つい癖で「ただいま」と口にしたアークが、部屋に置かれていた荷物とベッドの上を見て、ぎょっとする。


「……キソラ?」

「ん~~」


 うつ伏せのため、顔は確認できないが、おそらく部屋の主であるキソラであることはそれなりに付き合いの伸びてきたアークにも分かる。

 そして、自身の声に反応したらしい声も、間違いなくキソラのものだった。


「……あ~、アークだぁ……」

「とりあえず、休め」


 とろんとした目を向けてくる、明らかにいつもの彼女でないことを察したアークは、即座にそう返す。


「何か疲れてるみたいだから、夕飯用意してやるが、荷物ぐらいはどうにかしとけよ」


 厄介な奴は相棒(パートナー)であろうと、関わらないに限る。


「ア~ク~」


 夕飯を用意しようとキッチンへ向かおうとしたら、間延びしたように名前を呼ばれる。


「どうした?」

「ア~ク~」


 問い返しても返事はなく、名前を呼ばれるのみ。


「……キソラ」

「ん~?」


 やっぱり、いつもの彼女とは違う。


「試験、お疲れ様」

「ん~、私頑張ったよ? いつ魔力切れ起こすか分からない中、みんなを守ったんだ」


 誰かを失うのを恐れるキソラであるため、たとえ関わりが少なかろうと、目の前で誰かが死ぬのは許したくないのだろう。


「でも、あいつ(・・・)の居場所に、侵入されちゃった。もう、同じことは起こさないようにしようと思っていたのに」

「……そっか」


 真相(ほんとうのこと)を知るにはアリシア辺りに聞いてみれば手っ取り早いのだろうが、そんなことは後で良い。

 今するべきことはーー


「よく、頑張ったな」

「……うん」


 彼女の頑張りを褒めて、少しでも落ち着かせてやることだ。


「大丈夫だよ。何があったって、お前がすぐに対応や対策出来る奴だって、俺は分かってるからな」

「……うん、そうだよね」


 ようやく調子が戻ってきたらしい。


「……ありがとう、アーク」


 再度、顔を上げたキソラの表情は、いつも通りの彼女の表情。

 その事に、アークは安堵の息を吐く。

 無茶をするなとは言いたいが、かといってこんな風にいきなり別人のようになられても困るわけで。





「で、どういうことだ?」

「……よくは分からないけど、多分、意識が一時的に幼児退行したんだと思う」


 夕飯を口にしながら、先程の状態について話し合う。


「あと、褒められたから戻った、って訳じゃないからね?」

「そうなのか?」

「そうだよ」


 いちいちこんなことがある度に褒めたり、何やらをしているとキリがない。

 それに、こんなことが何度も起こるわけでもない。


「……まあ、気にしていたのは、事実だけど」

「何か言ったか?」


 キソラの呟きに、アークが問い返すが、首を横に振られる。

 目覚めたばかりとはいえ、会話の内容自体は覚えていたわけだし、洩らした気持ちも嘘ではない。

 でもーー


(この場所に、帰ってこられた)


 何があっても、どんな状況下であろうと。

 今、自分はこの場所にいる。


「何でもないよ」


 だから、アークの言う通り、きちんと対応して、こんなことが起こらないようにしなくてはならない。

 けれど、その前に。


「アーク」

「ん?」

「ただいま」


 この部屋に入ってきた彼に言えなかったその一言を、キソラは告げる。

 そんな彼女に目を見開くも、それは一瞬のことであり、アークは笑みを浮かべる。


「ああ、おかえり」


 それはーー正真正銘、キソラが完全にこの部屋に戻ってきた瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ