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『迷宮管理者と次元の魔女』シリーズ~登場人物・小話等一覧~  作者: 夕闇 夜桜
『小話』や『番外編』、『こぼれ話』、『本編とは違う別ルート』等
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第三章 第九十九話・ルートB


「貴方の得意とするフィールドでやってあげるよ。空中戦」


 デュールに空中戦をやるとは言ったが、いくら魔力や空間魔法を使っていたとしても、キソラ自身ずっと空中浮遊していられるわけではない。

 対アルヴィスたちの時みたいに空中に足場を作ることもキソラは考えたが、地上から足場を必要とする空中までの足場をその場に作るだけで、それだけで結構な魔力を食うことになる。

 だからこそ、キソラが空中戦で勝利するためには、四聖精霊(シルフィード)たちの力を借りるか、出来る限り相手に致命傷を負わせるか、早々に決着を付ける必要があった。

 だが今は、戦争などの割と規模がある戦いではない以上、四聖精霊たちの力は借りられない。つまり、純粋に(・・・)キソラの力だけでどうにかしなければならないのだ。


「空中戦だと?」


 馬鹿にするでもなく、純粋に疑問を口にしたかのようにデュールは問う。

 何も翼が無ければ空中戦が出来ないわけではないが、目の前にいる少女がどうやって空中戦を行うのか、楽しみだと言わんばかりにデュールは笑みを浮かべる。

 そして、何よりーーこの世界最強と()われる魔導師と戦えるという今の状況が、彼の高揚感などを助長しつつもあった。


「やれるものならやってみろ。小娘」

「私を相手にしたこと、後悔するなよ? クソ(がらす)


 初めて言われたのだろう、『クソ烏』なんて言われ方をしたデュールは一瞬だけーーほんの一瞬だけ、反応し行動するのが遅れた。


「ーーがっ!?」


 強烈な一撃を背中に受けたデュールが、勢いそのままに地面に落ちる。

 というのも、『クソ烏』発言の後、地面からデュールの背後を取れる高度まで跳躍したキソラが、がら空きだったその背に向けて攻撃したのだ。


「……」


 だが、立ち上がろうとするデュールへ、追撃とばかりにキソラの魔法が降り掛かる。

 これで諦めるなら良し、まだ立ち向かってくるなら相手をするまでーーキソラは、そのつもりでいた。


(さあ、どうする?)


 彼がキソラに勝つには、限られた方法しかない。

 いくらキソラがアークと(デュールを)会わせないために、壁になっているとはいえ、デュールが『アークと戦う』という意志を曲げない限り、この鬼ごっこはずっと続くことだろう。


「っ、小娘がぁぁぁぁっ!!」


 キソラが空中から見下ろしていれば、刃の切っ先を突きつけんばかりの勢いで、下からデュールが突っ込んでくる。

 そんなデュールを、キソラは冷静に躱すが、ふと彼の手にある剣に気づく。


(魔法だけじゃ勝てないと判断したか。けど……下手に刀剣類を使わない方が良さそうかな)


 となると、キソラとしては、ホーリーロードの形態変化を含め、槍系や弓などの遠距離攻撃が可能な武器に変えるしかないのだが。


「まぁ、迷ってる暇は無いか」


 先程からデュールの攻撃を避けてばかりなので、そろそろ反撃したいところでもある。

 そうと決まれば、キソラはホーリーロードを銃に変化させ、デュールが近づいて攻撃してくる前に弾丸を放つが、肝心の弾丸は彼に捌かれる。


「俺相手に空中戦をすると言っておきながら、その程度か?」


 デュールの問いに、キソラは答えない。


「だんまりか?」

「まさか」


 ようやく口を開いたかと思ったデュールの頬を、キソラが放った弾丸が(かす)る。


「……」

「……」

「……」

「……」


 しばし、互いに視線を交わす。

 そして、先に動いたのはどちらだったのか。


「空中戦を()めるなよ。小娘!」

「翼があるからって、有利だと思うな。クソ烏!」


 互いの剣がぶつかり合うが、キソラは銃型形態のままのホーリーロードをデュールに向けるものの、それに気づいた彼が発砲間際に回避する。


「何でもありかよ。空間魔導師って奴は」

「何でもじゃない。出来ることしか出来ないだけ。だからーー」


 キソラは告げる。


私の相棒(アーク)から手を引いて」

「断る!」


 即答し、それと同時に背後に回り、攻撃しようとしたデュールだが、瞬時に反応したキソラが、彼の剣を剣と銃型形態のホーリーロードで受け止めるーーが、勢いは止めきれずに、少しばかり落下する。


「っ、」


 上手く立て直したから良いものを、一度息を吐いて、呼吸を整える。


「ああもう……」


 何でこのタイミングで、制服の汚れた部分に気付いてしまうのだろうか。


「つか、甘い」

「っ、」


 溜め息混じりに、デュールの魔法を防ぐ。


「どれだけ気配を消そうが、私に対しては無駄だから」


 そう、無駄なのだ。彼女自身が空間魔法を使っているわけでもないのに、キソラの前では、どんなに気配を消していたとしても探知される。

 とはいえ、いくら気配察知が馬鹿げたレベルであっても、限界や弱点もあるわけで。


「ならーー」


 ばさり、とデュールがその背にある翼を更に広げる。

 その光景を見ていたキソラは、ひらひらと落ちてきた黒い羽を手にする。


「お前に察知されなければいい」


 それは正論だった。


「……されない自信、あるんだ」

「お前に勝たなければ、あいつの居場所を聞き出せないわけだからな。そのためなら、いつまでも手の内を隠したままじゃなく、本気でぶっ倒しに行くまでだ」


 そんなデュールの言葉を聞いて、相手(わたし)はあんたと同性じゃないというのに……、とキソラは小さく息を吐く。


「あんたが本気を出そうが出さまいがどっちでも良いんだけど、私が本気を出すと世界がヤバいことになるから、本気のぶつかり合いがしたいというなら諦めてよ」


 そう言ってから、「あれ? さっきも言ったっけ?」とキソラは思ったが、言ってしまったものは取り消せないので放置し、先程手にしたデュールの羽もこっそりとーーちゃっかりとも言うがーーポケットに仕舞(しま)い終えれば、ホーリーロードを銃型形態から剣へと変化させる。


「なら、俺が勝った場合、負け惜しみは無しにするんだな。本気を出さず、出そうとしないお前が原因なんだから」


 そう言って、急降下してきたデュールに、キソラはホーリーロードを構え、受け身の体勢になる。


「私に勝てると良いね。ーー本当に」


 そして、そこから袈裟懸(けさが)けや逆袈裟懸(ぎゃくけさが)け等が放たれたりと激しい刃の撃ち合いが始まり、甲高い音がその場に響き渡る。

 時々フェイントを入れたりはしているが、そのことが予想されているのか避けられる。また逆も然り、なのだが。


(それならーー)


 いくつかの魔法を発動待機状態にして、発動するタイミングを見計らっていく。


「ぶっ飛べ、クソ烏!」


 勢い良く剣だけで吹き飛ばし、すぐさま発動待機状態にしてあった魔法の一つを発動する。


「降り注げーー“水爆撃”!」


 大量の水の爆弾がデュールへと放たれ、デュールはデュールで空中でーー時折変な動きをしながらもーー器用に躱していく。


「っ、小娘がぁぁぁぁっ!!」


 追われるだけではないと言わんばかりに、デュールが鬼気迫るような様子で、キソラの方へと突っ込んでくる。


「っ、」


 思わず怯んだものの、それだけであり、キソラは突っ込んできたデュールを回避する。

 だが、回避したキソラを追うように、デュールが剣を振るえば、その刃に触れたのだろう彼女の髪数本が宙に舞う。


(こりゃあ、アークが嫌がって逃げるはずだわ)


 一見(いっけん)すると自棄(やけ)でも起こし、出鱈目(でたらめ)にも適当にも振っているように見えるが、恐ろしいことに、デュールは見事にキソラが狙ってほしくないところを狙ってきている。


「避けてばかりじゃなくて、反撃してきたらどうだ」

「……そうだね」


 そうは返しながらも、キソラの回避行動は止まらない。

 だが、その間もデュールが一瞬でも作った隙を見逃さないように、キソラの視線は彼の動きを、一挙手一投足を追っている。

 そしてーー


「ここ」


 剣を振り上げ、振り下ろされるーーその刹那。下手をすれば、こちらが()られるかもしれないタイミングで、キソラは防御と物理攻撃に効果を発揮する地魔法を付与した拳をデュールの腹部へと放つ。


「ぐっ……!」


 腹部への衝撃と痛みで顔を歪ませ、片膝を着いたデュールに、キソラは距離を取る。

 キソラ自身も、幼少期にノームを筆頭に地魔法を得意とする面々から何度か受けたことがあるため、そのダメージがどんなものなのかは想像できる。

 でも、ダメージを受けたであろうデュールは立ち上がろうとしていたーーいや、立ち上がった。


「かなり強く打ち込んだはずなんだけど……立てちゃうんだ」

「男と女での身体能力差を、お前が甘く見ていたんじゃないのか?」


 キソラは女、デュールは男であるために、身体能力等に差が出ることは理解していた。


「だからこそ、かなり強く打ち込んだつもりだったんだけどね」


 キソラは、拳を放った方の手を見ながら、開いたり閉じたりする。


(もう少し、強度を上げるべきだったか)


 どうやらデュールを殺さないようにと、強度を弱めたことが裏目に出たらしい。

 無意識で弱めたなら仕方ないが、今回は意識してでのミス。状況が状況なら、キソラは死んでいたのかもしれない。


「こっちは、この世界最強を相手にしている。それなりの対策もしているに決まっているだろうが」

「そりゃそーだ。けど私も、そちらの世界最強レベルと()りあってるわけだけど?」

「……」

「……」


 何度目かになる、しばしの睨み合い。


「こちらの人間としては、アークやあんたのいざこざ程度ならまだしも、これ以上の問題は勘弁願いたいからね」

「……」

「だからもう、これ食らって、諦めてくれない?」


 いつの間に背後に居たのだろう。背後から聞こえてきた声にデュールが振り向くが、そこにキソラは居らずーー


「ま、さか……」


 上空を見上げるデュールは目を見開く。


「さすがにあんたを殺したりしたら、あんたの契約者(パートナー)が可哀想だからね」


 ーー当たっても死なない、限界ギリギリのラインで戦闘不能にしてあげる。

 満面の笑みで、キソラはその手にしていた巨大な“火球”をデュールへと放つ。


「……本っ当、そういうのが()らねーんだよ」


 その呟きはキソラに聞こえなかったものの、巨大な“火球”を受けたデュールが地面の上に倒れているのを見て、キソラも地面へと降りる。


「あー、しまった。契約者(パートナー)が誰なのか、聞き忘れた」


 一度聞いておけば、迎えに来て連れて帰ってもらうか、部屋まで送り届けることは出来るのだが、キソラはデュールからその手のことを聞いていなかった。デュールの方は知っているというのに。


「後は自分の足で帰れよ、クソ烏」

「ーー……甘いな、小娘」


 軽く治癒魔法を掛けてやれば、あっさりと意識を取り戻したらしい。


「満身創痍気味なあんたを、このまま放置するわけにも行かないでしょうが。何、牢屋にでもぶち込まれて、契約者(パートナー)に迷惑でも掛けたいの?」

「お前には関係ない」


 そう話しつつ、一気に立ち上がったかと思えば、漆黒の翼を広げ、剣の切っ先をキソラへと向ける。


「第二ラウンドだ」


 そう言うデュールに、キソラは呆れた目を向けるが、当の本人はやる気らしい。


(マジか)


 デュールの行動は、せっかく回復した身体を再び傷だらけにすると言っているようなものだ。


「せっかく治したのに、恩を(あだ)で返すようなことをするなよ」

「治せなんて言ってないし、頼んでない」

「あっそ」


 それでも、キソラは一度納剣したホーリーロードを手にしただけで、抜剣はしなかった。

 正直、こちらに分があるのは明らかだ。

 それなのにーーそうまでして、そんな状態になってまで、デュールはアークの居場所を知りたいのだろうか、とキソラは思う。

 先程デュールの羽を拾った以上、彼がどうしてアークに執着しているのか、知ろうと思えば知ることは出来るーー空間魔導師としての能力で。


「つか、馬鹿? その状態でアークの居る場所まで移動できたとしても、怪我人であるあんたの移動速度を考えても、完全に入れ違いになるってのが分からないかな?」


 そうなれば、デュールの行動は無駄足になるし、体力を消耗するだけだ。


「黙れ」


 ひゅん、と音を立てて、キソラの髪数本が宙に舞う。


(あ、これ、完全に私を()ろうとしている目ですわ)


 キソラとて、あれだけ動きまくってた故に限界が近いから、先程バカみたいに大きい“火球”を放って終わらせようとしたのだ。


(こっちがやらなきゃ、()られるし……覚悟決めるか)


 懸念するのは魔法面ではなく体力面なのだが、その辺は“身体強化”の魔法等でどうにかするしか無いだろう。


「こっちは怪我人と戦うつもりも無いし、戦わせるつもりも無いから、速攻で終わらせてもらう」


 だが、それを言い終わり、キソラがホーリーロードではない剣を抜剣するのとデュールが突っ込んでくるのは、ほぼ同時だった。


「っ、」


 キソラに気配を感じさせないと言って、能力の解除をした時と比ではないぐらいの速度と重さ。

 現に剣同士が触れていることで、かたかたと音を立てている。しかも、キソラ側の剣には嫌な予感しかしない。

 ホーリーロードを休ませている間に、予備のもう一つの剣で応戦していたのだが、みしり、と音を立てて刃に(ひび)が入る。


「あー。やっぱり、体力の差は縮まらないか……」


 キソラは小さく呟く。

 分かっていたこととはいえ、どうしても男女による戦闘の場合、その体力差はネックになってくる。

 ただ、根底にアークが()かっている以上、キソラとしては、何が何でも満身創痍気味なデュールに負けるわけには行かないのだが。


「つか、また改めて予備を作ってもらわないと……ねっ!」


 それでも、完全に折れるまでは、強化をして使い続けなければならない。

 予備とはいえ、この剣を作ってくれたーーノームとドワーフのみんなには悪いが、キソラの仕事上よくここまで()ったのだと思う。

 デュールの剣を押し返すことで、彼の剣を上へと上げた間に距離を取る。


「もう()めない?」


 呼吸の荒いデュールに、キソラはそう促してみるがーー


「だま、れ」

「このままだと死ぬよ? アークに会うという目的も達成できなくなる」

「だ、まれって……」

「黙らないから。だから、大人しく手当てさせて。顔見知りが死ぬとか、夢見が悪い」


 こうして戦い、話したりした以上、彼が死ぬ光景は間違いなく、キソラは見ることになる。


「……っ、黙れぇぇぇぇええええ!!」


 策など何も無い、ただ単に突っ込んでくるデュールに、キソラは顔を顰め、今にも折れそうな剣を握りしめる。


「ーーいい加減にしろよ?」


 思わず、声が低くなる。

 デュールには何度も忠告した。だが、彼はそれを聞かず、キソラの方も本格的に限界に近い。

 もう、こうなればアーク云々の問題では無い。意志と矜持(プライド)の問題だ。

 けれど、デュールの剣は、キソラに届かなかった。


「キソラ!」


 聞き慣れた声で呼ばれた名前に、はっとしたキソラは軽く首をやや斜め後ろに回す。


「アー……ク……?」


 「何でここに?」や「何で抱きしめられてるん?」と内心はてなだらけで、キソラはアークの名前を呼ぶ。

 実際、アークの体勢は片手に持った剣でデュールの剣を受け止め、もう片方はキソラを背後から抱きしめるかのように腕を回している。

 強く抱きしめているわけではないので、脱出しようと思えば出来なくはないのだがーー


「あー、悪いけどここまでにしてやってくんないかな。これ以上、こいつ傷つけようとすると、あんた死ぬよ?」


 アークの反対側に立っていた男に、キソラは「何でこいつが一緒に居るんだよ」とか「『ゲーム』用の結界、張ったよな?」と言いたいことや聞きたいことは山ほどあるが、今はデュールを注視する。


「ようやく、姿を見せたな。アーク」

「……さすがに、仕事のパートナーを見殺しにするほど、冷たくないんで」


 アークにしてみれば、この展開は予想外だった。

 デュールの姿を認識したとき、一瞬足が止まり掛けたが、彼の側に居た自身の相棒(パートナー)を見つけたとき、足を止めるわけには行かなかったのだ。


「それと、手負いの状態であるお前と戦ったとしても、体力が余っている俺が勝つのは目に見えている」

「っ、」


 アークの言葉に、デュールが顔を顰める。

 だが、それは正論であり、そんな状態で勝敗をつけても意味がない。


「だから、大人しくキソラの治療を受けて、さっさと帰れ」


 アークがそう促す。

 この場には、キソラという治癒魔法の専門家(プロフェッショナル)が居るのだから。


「……」

「……」

「……」

「……」


 しばし、無言でその場が静まり返る。


「…………頼む」

「はいはい」


 アークの意見に従うのは癪だが、自分の状態を理解はしていたのだろう。剣を下ろし、かなりの()(もっ)て治癒の要請をしてきたデュールに、アークの手を外したキソラは苦笑いしながら、治癒魔法を掛け始める。


「怪我が治ったら、ちゃんと帰りなよ」

「……」


 だが、デュールからの返事は無く、キソラの肩に(ひたい)を当てる形で、(もた)れ掛かる。

 それに対し、キソラがぴくりと反応し、アークの表情が一瞬だけ変わる。


「限界近いなら、無理しなきゃいいのに」

「人のこと言えないだろうが」


 まるで何も無かったかのように、気を失ったのであろうデュールを見たキソラの言葉に、アークが呆れたように返す。


「私は、怪我人相手に手が出せるほど鬼じゃないし、なりきれないよ」


 そう話しながらも、魔法や切り傷を治していく。


「……大体、これぐらいかな」


 目立つような傷はほとんど治したはずだ、とざっと見で確認し、起きろとデュールの頭を軽く(はた)く。


「起きないし」

「そりゃ、気絶した相手を起こすなら、(たた)くだけじゃ駄目だろ」


 キソラに引っ付いていたデュールを、アークが容赦なく引き離す。


「っ、」


 だが、それでデュールは起きたらしい。少しばかり痛みが残っているのか、顔を歪めている。


「とりあえず、そのままだと目立つ部分やヤバそうな部分は治したけど、放っておいても大丈夫な所は治してないから。だから、小さい傷ぐらいは自然治癒に任せるか、自分で治しなよ」

「……ああ」


 手を閉じたり開いたりしながら状態を確認しているらしいデュールだが、その状態は彼が翼を広げるまでの状態とほとんど変わらない。


「ほら、立って」

「……」


 差し出されたキソラの手を、視線を彷徨(さまよ)わせながらも受け取り、デュールが立ち上がる。


「…………悪かった」

「もう良いよ」


 キソラとしては、面倒な連中は『奴ら』だけで十分だ。


「そういえば、お前の名前、聞いてなかったな」

「名乗ってなかったっけ?」

「名乗ってない」


 アークが散々呼んでいたから、もうすでに知っているのかと思っていたが、やはり本人から名乗った方が信憑性も増すと言うことだろう。


「ま、そういうことなら。空間魔導師が一人、キソラ・エターナルです」

「アークと同郷のデュールだ」


 部外者が一人居るからだろう、デュールの自己紹介が無難なものになった。

 握手はしなかったものの、空気が悪くなった様子はない。


「じゃあ、帰るわ」

「さっさと帰れ」

「変なことに巻き込まれないでよ。こっちに火の粉が飛んでくる恐れがあるからさ」


 しっし、と手で払うような仕草をしつつ、早よ行け、と示す。


「ああ、そうだーー」

「はぁぁぁぁああああっ!?」


 何かを思い出したかのように、デュールがキソラの耳元で何かを呟けば、それに対し、キソラは叫び、顔を引きつらせる。


「じゃあな」


 そのまま、校門の方へと向かっていくのを見送りつつ、キソラは「マジか」と呟く。


「キソラ?」

「告白でもされたか?」


 また何かされたんじゃないのかと心配そうなアークとは対照的に、何故かその場に残っていた男はからかい混じりにそう告げる。


「違うから」


 もし、本当に告白されたとしても、キソラの方から願い下げである。互いの性格からして、友人にはなれたとしても、恋人にはなれないタイプだ。


「二人が何の用で来たのかは、それぞれ想像できるから、さっさと移動するよ」


 二人をそう促して、キソラはその場を後にする。

 ただーー


『俺の契約者(パートナー)の名前は、ナツキ・ルーデンベルグ。この学院で生徒会会計なんてものをしているらしいぞ?』


 あれから生徒会と関わっていなかったとはいえ、まさかこんな所で繋がっているとは思わなかった。

 けれど、彼ーーナツキが本当にデュールのパートナーであるというのなら、少しばかり、それぞれの契約者同士として、話す必要がありそうだ。

 そんな新たな情報を脳内に刻みつつ、キソラはこれから聞くことになるであろうアークたちの話が、これ以上の厄介話でないことを祈ることしか出来なかった。




本編の第九十九話を差し替えたので、差し替え前の奴を、こっちに置きに来ました。


展開的に違和感が少ないのはこっちだけど、作者の確認ミスで第九十九話は書き直しになりました。


詳細は活動報告(2017.08.22)の方にありますので、どうしてこうなったのか知りたい人はそちらへどうぞ。



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